日本の畜産業を守る!

家畜防疫の最前線で

強い使命感を持って

与えられた任務を遂行する

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家畜防疫官

石倉いしくら莉奈りなさん 農林水産省 動物検疫所

羽田空港支所検疫第1課 家畜防疫官

水際検疫を担う
やりがいある仕事

 海外から家畜の病気を持ち込ませないために、また、日本から海外に病気を持ち出さないために、全国の主要な国際空港や貿易港には動物検疫所が設置されています。家畜防疫官の石倉莉奈さんが勤務するのは、羽田空港の動物検疫所。動物検疫カウンターでの旅客の手荷物検査や、犬や猫などペットの輸出入についての問い合わせ対応、ペットの輸出入に必要な書類の確認や輸出入検疫証明書の発行が主な仕事です。
 「手荷物検査では、多様な国籍の方々とやりとりするので、日本語も英語も通じない場合は、翻訳機を活用しつつ、ジェスチャーを交えてコミュニケーションを取るようにしています。ペットの輸出入に関するメール対応では、どうしたら分かりやすい文章になるのか、常に頭を悩ませています」と石倉さん。伝えることの難しさを感じながらも、自分なりの工夫を凝らしています。
 外国から輸入される動物や畜産物を介して家畜伝染病が侵入してしまったら、日本の畜産業は大きな打撃を受けます。その逆も同様で、諸外国へ家畜伝染病を拡げる恐れのないものを輸出することにより、国際的な家畜衛生の向上にも貢献しています。「水際検疫を担うのが、我々の役割です。使命感を持って職務に当たっています」と、この仕事のやりがいを語ります。

インターンシップを機に
家畜防疫官を志望

 大学進学の際、「将来的に考えて、畜産は生きていく上で大事なもの。畜産業に関わることで、社会の役に立ちたい」との理由から、農学部畜産学科を選択した石倉さん。動物検疫業務について初めて知ったのは、2年生の時でした。「教授が授業の中で触れ、そんな職業があるのかと思いました。そして、促されるまま夏休みに羽田空港支所でのインターンシップに参加しました」。
 家畜防疫官の仕事は、石倉さんの目には全てが新鮮に映りました。「空港で働くということ。かわいらしいビーグル犬が検疫探知犬として活躍していること。東京港で輸出入される畜産物の検疫を行う東京出張所では、英文がびっしり書かれた証明書を職員がペンでチェックしながら読んでいました。見たことのない光景ばかりでなんだか面白そうだと思いましたし、畜産系の仕事であり、国家公務員です。どんな職業に就くかなど、それまで全く考えてこなかったので、『これしかない!』と思いました」。
 当時、石倉さんの大学では家畜防疫官を志望する学生がしばらく現れていなかったので、キャリアセンターでも採用試験に関する情報を把握していませんでした。情報収集から採用試験の勉強まで一人でコツコツと進め、難関を突破することができました。

情報量を蓄積して
感性を高めたい

 手荷物検査では、不合格となった畜産物は廃棄(焼却)します。輸入禁止品を持ち込む人は、動物検疫についてよく知らなかったり、うっかりしていたりという理由がほとんどなので、丁寧に説明して理解を得るよう心がけています。なかには、お土産としてせっかく買ってきた品物が日本に持ち込めないと知り、激昂する人も。インターンシップで感じた「楽しそう」というイメージとは異なり、新人時代は「揉めたらどうしよう」と、恐怖心を抱いていました。しかし、半年ほど経った頃には対処法が身について、1人でも充分に対応できるようになりました。
 ただ、感染症に関する最新情報を確認したり、専門知識を活用して検査の精度を上げたり、会話力や語学力を養ったりと、常に勉強が必要です。
 「ベテランの先輩になると、荷物の微妙な特徴から輸入禁止品の所持に気づくことがあり、見習わなければと思うことばかりです。自分も情報量を蓄積して、そのセンスを磨いていきたいです」と、目標を語ります。

家畜防疫官の理想像を
胸に掲げて邁進する

 動物検疫所は北海道から沖縄まで全国に配置されていることから、概ね2年から3年ごとに全国規模の異動があります。石倉さんの初任地は、北海道の新千歳空港でした。中国、台湾、韓国を中心とするアジア圏の観光客が主流でしたが、2019年10月に羽田空港に異動すると、客層や仕事内容は一変。ビジネス客が多く、ペットの輸出入検疫業務も増えました。動物検疫所は空港だけでなく港にも設置されているので、勤務地によって仕事は大きく変わります。比較的短期間でいろいろな仕事が経験でき、着実にステップアップできるところも、この仕事の魅力であると石倉さんは考えています。
 一方で、女性が働きやすいよう、産休や育休を取りやすく、時短勤務にも対応するなど仕事と育児の両立を支援する制度が整っていることも特色です。こうした制度を活用しながらキャリアを重ね、管理職として実力を発揮する女性職員も少なくありません。「女性が多い職場で、理想とする先輩方も身近にたくさんいます。業務をしっかりこなすのはもちろんのことですが、先輩方がそうであるように、仲間にも細やかな気配りのできる職員を目指します」と石倉さん。自らが掲げる家畜検疫官像に近づくため、勉強を続ける毎日です。

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