生産技術セミナー

地球にやさしい養豚経営のために

〜豚からの窒素排泄量の低減技術〜

古閑護博



はじめに

 養豚経営の規模拡大に伴い、糞尿処理が大きな問題となっており環境への影響が懸念されています。
 西尾らの試算では、耕地1ha当たりの窒素負荷量は全国平均で110kgに達し、すでに限界に達しているとされています。いわゆる畜産地帯においては、この状況はさらに危機的なものとなっていると推察されます。
 このような畜産環境問題に対して、従来から排泄された家畜糞尿の堆肥化や、地域の耕種農家との連携を強化するといった対策と、尿汚水の浄化といった方法が取られてきました。しかし、養豚経営の大規模化、専業化が進む中、従来からのこのような方法だけでは養豚経営を将来にわたり安定的に持続することは困難な状況になりつつあります。
 特に尿処理の問題は深刻で、大型の企業養豚などでは浄化処理にかかるコストが、肉豚生産費の大きなウエイトを占めるようになってきました。
 このようなことから、従来の糞尿処理だけでなく、飼料中の栄養価を調節したり、飼養管理方法を改善することにより、生産性は維持しつつ、豚からの窒素の排泄量そのものを減少させ、自然環境に与える負荷を減少させる技術が全国の試験研究機関で開発研究されるようになりました。
 熊本県畜産研究所においても西南団地における温暖な環境の中で、飼養技術による豚からの窒素排泄量低減技術の実用化のための試験が実施され、低蛋白質飼料を給与した場合の体脂肪蓄積量の制御方法など、多くの課題が検討されています。
 今回は、飼養技術による豚からの窒素排泄量低減技術の概要と、熊本県畜産研究所で得られた試験成績について紹介致します。


1.糞尿を低減させるための基本的な考え方(図−1)

 この技術は、アミノ酸レベルでの理想飼料を豚に給与することによって、養豚における最も大きな問題である尿中の窒素排泄量を低減させようというものです。
 蛋白質は家畜の筋肉、血液など体の主成分であり、畜産物の生産に必須の栄養素でありますが、箇条に摂取した場合には尿中に窒素として無駄に排泄されてしまいます。
 従来の配合飼料では、粗蛋白質(CP)や可消化粗蛋白質(DCP)の要求量が、可消化養分総量(TDN)とともに重視されてきました。蛋白質は20種ほどのアミノ酸が多数結合したものであり、消化管内でアミノ酸に分解されて吸収されるため、アミノ酸の要求量に応じた飼料給与を行うことが合理的で、豚に蛋白質を効率的に利用されることによって、結果として生産性を低下させることなく窒素排泄量を低減することができると考えられます。
 飼料中の蛋白質は、消化されて血液中にアミノ酸として吸収されますが、吸収されなかった蛋白質は糞中に排泄されてしまいます。また、吸収されたアミノ酸は、蛋白質として蓄積されますが、蓄積されなかったアミノ酸は窒素として尿中に排泄されます。
 豚の蛋白質の蓄積量には遺伝的な上限があり、この能力を超えて蛋白質を蓄積することはできませんので、必要以上のアミノ酸の給与は、蛋白質の蓄積増加につながらず、余分の窒素はオーバーフローして糞尿中への窒素の排泄量が増えるということになります。


2.糞尿を低減させるための配合飼料の考え方(図−2)

 市販されている一般的なCP16%の配合飼料の場合は、アミノ酸バランスが悪く、リジン以外のアミノ酸は要求量の100%を上回っており、豚が必要とする蛋白質蓄積量の上限を超えてしまいました。
 そこで、配合飼料中のCPを11%に下げて無駄に排泄させるアミノ酸を少なくしようとすると、リジン、メチオニン及びトレオニンの三つのアミノ酸が不足してしまいます。
 この不足するアミノ酸を添加して要求量を100%にすればアミノ酸バランスの良い飼料となり、結果として無駄に排泄されてしまう窒素の量が少なくなることになります。

図−2 飼料中アミノ酸充足率の変化


3.熊本県農業研究センター

 熊本県畜産研究所で昨年、豚からの窒素排泄量の低減技術の試験を実施し、期待したとおりの結果が推計されましたので、その概要について報告します。

1)試験の実施計画

(1) 試験区分(各区5頭)
@ 試験区−1は、低蛋白質飼料に不足するアミノ酸を添加して、要求量を満たした区
A 試験区−2は、低蛋白質飼料で不足したアミノ酸を添加しなかった区
B 対照区は、一般の配合飼料と同程度の区

(2) 飼養条件:不断給与、自由飲水、単飼

(3) 試験期間:5〜7月(56日間)

(4) 体  重:40kgから初め110kgを終了の目安としました。

(5) 測定項目:@ 体 重 A 飼料摂取量 B 屠体成績

  これらの項目から窒素の蓄積量や、排泄量を推計しました。

(6) 給与飼料の概要(表−1)

表−1 給与飼料の内容

  試験区−1には、結晶のリジン0.2%、トレオニン0.03%、メチオニン0.02%を添加して、日本飼養標準に示されたアミノ酸要求量を満たした飼料としました。

2)結 果

(1) 発育成績(表−2)
 @ 1日平均増体重においてはアミノ酸添加区が1.2kgと高くなりました。
 A 1日平均飼料摂取量においては低蛋白区が3.3kgと多くなりました。

表−2 発育と飼料摂取量

(2)屠体成績(表−3)
 @ 背脂肪の厚さはアミノ酸添加区が2.84cm、低蛋白区3.02cm、対照区2.29cmとなり、低蛋白飼料を給与した両試験区が厚くなりました。

表−3 屠体成績

(3) 蛋白質の蓄積量(表−4)
 @ 飼料摂取1kg当たりの蛋白質の蓄積の推定値は低蛋白区が82.7kgと、他の2区に比べて低くなりました。

表−4 蛋白質の蓄積量の推定値

(4) 窒素排泄量の低減量の試算(表−5)
 @ 窒素排泄量の試算は、対照区に比較して、両試験区が50%以上の低減効果が期待されました。

表−5 窒素排泄量の低減効果の試算

3)まとめ


 今回のこの試験で、低蛋白質飼料にアミノ酸添を添加して要求量を満たした試験区が、一般の配合飼料と同程度の対照区に比べて、窒素の排泄量の低減効果が48%にもなったことから、この考え方による窒素の排泄量の低減への応用は有効であると考えられます。
 しかし、アミノ酸を添加した試験区の脂肪の蓄積量がかなり増加したことから、蛋白質要求量の個体及び系統間差や、試験配合飼料の栄養比等に関して、さらに検討することが必要であると思われます。

【参考文献】

1)古谷 修.1192.窒素およびリン排泄量の栄養低減技術.畜産技術:16−20

2)農林水産省畜産試験場.1994.平成6年度.豚・鶏の問題別研究会資料
 斎藤 守「豚からの窒素、リン排泄量の低減」
 大門 博之「豚からの窒素排泄量低減試験」

3)農林水産省九州農場試験場.1995.平成7年度.豚からの環境負荷物質の排泄量低減化技術の開発のための研究会資料
 梶 雄次「豚からの環境負荷物質排泄量低減化技術の開発」

(筆者:熊本県農業研究センター畜産研究所研究主幹)


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