放牧養豚・そして加工・販売
安く作って高く売る
―山梨県韮崎市・ぶぅふぅうぅ農園―


 「基準価格割れ、調整保管発動」といった言葉をよく目にするこのところの豚肉市況。低迷する枝肉価格のあおりは、どうしても小規模経営に大きな影響を及ぼし、収益性の低下は最悪の場合、離農を招く。何か打開策はないのだろうか。やり方や工夫によりこれを克服できないものだろうか。

 こんな疑問に対して、一つの答をだしてくれた経営者がいる。山梨県韮崎市富士見ケ丘で養豚経営を営む中嶋千里さん(47歳)だ。

 中嶋さんは現在、雇い人の加藤さんと2人で繁殖母豚16頭と種雄豚2頭、育成・肥育豚120頭を飼養し、年間出荷豚230頭を生産。さらに、奥さんと2人で肉の処理・販売までも行っている。そして養豚と豚肉加工販売を併せた経営で42%という高所得率を実現している。

 どうしてこのような高所得率をあげることができるのか、「それは安く生産して、加工も自分で行い高く販売しているからです」と中嶋さん。早速、経営方針や経営内容をうかがった。

 中嶋さんと豚との係りは、学生時代から食料や環境、自然の生態系等に関心があり消費者運動に係ってきたことから、昭和52年に仲間10人と農地2haを借りて共働生産鰍設立し、放牧養豚を始めたときからだそうだ。しかし、全員が都会出身の素人のためもあって経営不振に陥り、共働生産鰍ヘ昭和60年に解散。その後、中嶋さんが建物、機械、種豚を買取り、現在の個人経営「ぶぅふぅうぅ農園」を設立した。

 さて、ぶぅふぅうぅ農園の最大の特徴は放牧主体の飼養管理にある。放牧の内容は、「@繁殖母豚は分娩5日前に分娩豚舎に収容し、分娩・授乳期間の40日および離乳後種付けまでの7日間の約52日間舎飼いする。A40日で離乳した子豚は、運動場付きの開放豚舎で60日間群飼され、その後放牧場に移動し90日間肥育する」とのことで、およそ繁殖豚は3分の2、肥育豚は2分の1の期間放牧飼養される。また、放牧施設としては電気牧柵、簡易コロニー舎、給餌器および飲水施設が設置されている程度で施設投資は極めて少なく、低コストと省力化が両立されている。

 放牧養豚への取組みは、共働生産且梠繧ノ島根県畜産試験場の「中国山地の利用と開発」のレポートを研究して当地にあうように改良したことに始まる。一区画1000uに電柵を張り、飲水場と給餌施設・コロニー舎を設け、20頭ぐらいを放飼いする方法で施設費がかからず、また、ふん尿処理の手間がかからない。

 「とにかく、低コスト・省力化に努めています。放牧管理で1年中気にしていることと言えば、電牧の漏電です。毎朝草木や地面に接触していないか確認しています」と話される中嶋さん。

 放牧地は毎年輪牧させ泥濘化と汚染防止を図っている。具体的には繁殖豚は放牧地を4牧区に区切り2牧区を、肥育豚は8牧区に区切り4牧区を、放牧区の半分は空地として翌年使用する。そして休牧区は自家菜園としている。

 「建物・施設はすべて廃材を利用した手作りです。廃車になったトラックのコンテナを流用するなどして投資資金を極力抑えています」と言われるように徹底した低コスト化が図られている。

 また、繁殖から肥育までの放牧養豚により、豚が強健となって薬品も必要最小限の使用ですみ、安全性の高い豚肉生産ができている。特に繁殖母豚の平均産次は7.5産と供用年数は極めて長い。そしてもちろん、飼料についても安全で安い原料の入手に努力している。ラーメン製造や清酒醸造ででてくる副産物やトウフ粕等に単味飼料のトウモロコシ、大豆粕、魚粉、フスマを加え自家配合して発酵飼料とし給与している。この他、市内6ヵ所の学校より集めた給食残飯を使い飼料費を削減している。ただし、残飯は繁殖豚には給与するが、肥育豚には成分にばらつきがあることから給与していない。

 次に加工・販売。肥育豚は山梨食肉流通センターで屠畜・解体し、その枝肉のほとんどを自分の加工場でカットして正肉に加工、パッケージしたものを東京都下の3多摩地域の消費者グループに直販している。「昭和56年から消費者グループへの直売を始めましたが、民間の食味テストで入賞し、安全で美味しい豚肉という高い評価を得ましたから需要も拡大しています」と評判もなかなかの様子。

 中嶋さんの豚肉解体処理の腕前を拝見すると、さすがに年季のはいったベテラン。半丸の枝肉から腹部の脂、骨などを手際良く取り、ロースとバラに分け、あっという間に注文の部位別スライス、ブロックに仕上がる。計量、パック詰めして冷凍保存。セット販売で全部位を販売しているそうだ。価格については話しあいで決めているそうだが、ここ数年来変えていないという。

 低迷する豚枝肉価格を横目に、小規模でも生産は低コスト・省力化を極め、さらに自分で加工して高価格で販売する。

 こんな工夫や努力により収益性の高い経営が実現されていた。



本記事は、畜産コンサルタント2000年4月号にも掲載されています。
※情報は掲載当時のものです。