経営技術セミナー 

搾乳作業マニュアル (1)

福岡県搾乳作業マニュアル作成委員会

 福岡県畜産会では福岡県畜産課、福岡県酪連の協力を得て、平成7年3月に「搾乳作業 マニュアル」を発行しました。  この「搾乳作業マニュアル」は福岡県下の酪農家向けに刊行されたものですが、搾乳作 業についてわかりやすく記述されていることと、全国の酪農家にとって自分の経営の搾乳 作業の再点検の機会となると考え、ここに同畜産会の許可を得て再録するものです。  なお、再録にあたっては分量の関係で、今月号から2回にわたって掲載します。


 はじめに

 搾乳作業の良否は乳質に直接影響するため、定められた手順を遵守し、清潔な牛乳を生 産することが基本的に最も大事です。  特に搾乳衛生に関連した作業は、注意深く、丁寧に行う必要があるため、手抜きをしが ちですが、毎日の作業スケジュールに組み込んで行うことにより、楽に作業できます。  毎日、搾乳作業に従事しておられる皆さんは、搾乳作業に関して誰にも負けないプロ意 識を持っておられると思います。しかし、現実に牛乳中の乳成分率の不足や細菌数、体細 胞数が基準を超えたためペナルティを支払われている方が多いのも事実です。  私たちは毎日同一作業に従事すると、馴れが生じ、基本的な問題を忘れてしまうことが しばしばあります。今一度、搾乳作業の基本を考え、自分の経営に適した搾乳作業を取り 入れる必要があるのではないでしょうか。 本県で生産された牛乳は殆どが飲用牛乳として 消費される生鮮食品であり、清潔な環境 でおいしい牛乳を生産することは、酪農家の皆さ んの当然の義務とも言えるものです。基本に忠実な搾乳作業を行うことが、結果と して、 皆さんの収益の向上にも貢献するということを理解しておくべきでしょう。


 I.搾乳準備

1.始業時の点検・準備

@ 畜舎内の清掃等  搾乳前に清潔な環境で搾乳を行うため、牛床の清掃作業を行います。  搾乳のときにほこりが出ないようにすることがポイントです。

A ミルカー等の点検  真空圧力計のゲージ、調圧器の音、パルセータの摶動、ライナーゴムの点検等を行い、 搾乳に備えます。

B バルククーラーの点検  バルククーラーの作動、バルクタンク貯留乳の温度をよく確認します。  また、アルコール検査を実施し、貯留乳が正常であることを確認します。  アルコール検査の方法は、生乳に同量のエチルアルコール70%溶液を加えて、凝固の 有無を検査します。凝固した生乳は出荷できません。バルクタンク内の生乳に異常があり 、その上に新しく搾乳した生乳が追加されると、全体として出荷できず大きな損失になる 危険がありますので、注意して下さい。

C 搾乳器具の準備  搾乳を効率的に行うため、必要器具、器材を準備します。  台車(搾乳カート)を準備すると便利です。

以下の器具・器材を準備します。  ・乳房の荒拭き用タオル(ペーパ)を頭数分  ・乳頭の水分と汚れをとるためのタオル(頭数分)  ・前搾り用の容器(ストリップカップ)  ・乳頭消毒用ディッピング器具  ・消毒液 乳房消毒液:温湯15lに25mlティートカップ消毒液:温湯15l に50ml  ・バケツ(最低4個)

2.搾乳前の消毒

@清潔な服装と手指の消毒  極めて常識的ですが、清潔な服装で搾乳することは当然です。手や指については生鮮食 品を扱うという前提で、搾乳前に石鹸で良く洗い、消毒液(両性または逆性石鹸500〜 1000倍)で消毒します。

A ミルカー等搾乳機器の消毒・洗浄  パイプライン、ミルカー、出荷した後のバルククーラーについて、搾乳にかかる前に、 40℃以下の温湯に200ppmの次亜塩素酸ナトリウム液で3分間以上接触させ消毒を行 い、その後、すすぎ洗いを行い、残った水は全て捨てます。


 II.前搾り

1.前搾りは絶対必要(ストリッピング)

 搾乳に際して、前搾りを先にするか、乳房の清拭を先にするかで個人によって、違いが あるようです。原則は前搾りを先に行います。  乳房の清拭を先にしますと、乳頭槽内の汚れた乳が乳房内に広がり、好ましくありませ ん。  この前搾り作業はされていない方もおられるようです。この作業は清潔な牛乳生産のた め絶対に取り入れる必要があります。  搾乳時の残乳は乳頭槽内に貯留しますと、この乳汁は次回の搾乳までの間に細菌が増殖 しており、この牛乳を乳房内に拡散させないためにも、前搾りを行い、搾り捨てる必要が あります。

  前搾りの効果
       @ 乳房炎の発見と予防
       A 細菌数の多い乳汁を捨てる
       B 適切な泌乳刺激となる

2.前搾りはストリップカップに

 前搾りする場合、注意すべきことは搾った乳汁を牛床に捨てないことです。ストリップ カップに必ず受け、ブツや水様性等の異常乳を検出します。  前搾りの回数は4〜5回が適当です。

3.異常乳の検出にPLテスト

 前搾り時の牛乳にブツが僅かでも混入するか、あるいは乳質に異常があればPLテストを 行い、異常乳の検出を行います。  また、定期的にPLテストを行い、乳房炎の症状が軽い内に治療することを心がけます。 この作業は清潔な生乳生産に欠かせないものですから、習慣付けるようにします。

@ 用意するもの

上図のようにシャーレはそれぞれ上半分が黒く、下の透明部分に線が入れてある。

A サンプルはシャーレを傾け、透明な部分に引いた線まで落とす。これが2mlである。
B 検査液を2ml加える。
C 約30秒シャーレをゆっくり回す。
D 黒い部分に一度溜め、下に向かって流し、流れで判定する。


 III.乳頭清拭

1.乳頭のみを清拭

 清拭には、1頭当たり2枚のタオルを準備します。1枚は清拭洗浄用、もう1枚はふき とり乾燥用に使用します。

@ 清拭洗浄用のタオルは消毒液(約600倍の塩素系殺菌剤)に浸して乳頭のみ を約30秒かけて清拭します。乳頭を拭くときは乳頭口とその周辺を徹底的に拭きます。 乳房が多少汚れていても、乳房まで一緒に拭かない方が衛生的です。極端に乳房が汚れて いる場合のみ、荒拭きしますが、その際は水気が落ちないようにします。

A 1枚のタオルで多数の牛を清拭することは、絶対に避ける必要があります。下 図はタオル使用と消毒効果を示したものです。  1枚のタオルを連続使用すると、消毒効果の低下のみでなく、疾病感染の原因にもな るので、1頭ごとにタオルを交換します。

2.乳頭の拭き取り乾燥

@ 清拭洗浄後、もう1枚の乾いたタオルか、または使い捨てペーパータオルで乳 頭を拭き、完全に水気を切ることが大事です。  表−2は乳頭の水分拭き取りの効果を示したものです。

 表−2で、乳房・乳頭のみの洗浄・乾燥が生乳中の細菌数は5,227mlと乳頭のみを 洗浄した場合に比べて多いのですが、これは、乳房洗浄の際の水気をとおしてミルカー内 に細菌が吸い込まれた結果です。これが、乳房の洗浄をしない理由です。

A 乳房は通常管理の中で、常に清潔にしておくことが大切です。ときどき乳房の 毛刈を行って清潔にしておきましょう。


 IV.搾 乳

1.ティートカップの装着

@ 前搾り後、60秒程度でティートカップを装着します。これ以上でも、これ以 下でも泌乳生理の面から好ましくありません。

A ティートカップを装着するとき、汚れた空気の流入を防ぐことが大事です。こ のため、ライナーを曲げて真空を遮断して、装着します。

B 装着する場合、ミルカーのティートカップが乳頭の真下に来るようにしてから 装着します。

C ティートカップを装着するのは搾乳者の位置からみて、奥の分房から装着しま す。

D 搾乳に際しては送乳パイプの流れからみて、牛乳処理室に近い牛から搾ります。

2.過搾乳に注意

 過搾乳は乳頭粘膜の損傷や、乳房炎発生の大きな要因ですのでよく注意します。

@ ミルクチューブ(クロー)内の乳の流入程度、乳房に触れたときの感じ、乳頭 とカップの間の隙間から入る空気の音等により、搾乳終了時を判断します。

A ミルカーの機種により乳の流入速度から搾乳終了の表示があるのでよく注意し ます。

B 乳が少なくなると乳房がしぼみ、ティートカップが乳頭をはい上がり、乳頭の 付け根が締め付けられ、乳が出なくなることがあります。これをクリーピングアップとい います。

C 乳が出なくなっても機械を外さないことが最も悪く、乳房衛生上避けるべきで す。

D 一般に後搾りは牛に癖をつけ搾乳時間が長くなったり、特定の乳頭では過搾乳 になることもあり、しない方が良いです。むしろ、搾乳のし過ぎが問題です。  1人当たりのミルカー台数が多いと、どうしても過搾乳になり、乳房に大きな負担を与 えますから注意して下さい。

3.ティートカップの離脱

@ 泌乳停止の段階で、ミルカーユニットを外す前に真空圧を遮断します。

A 牛乳が出なくなると、ティートカップ4本が自然に落下しますから、その時点 でまとめて除去します。


 V.搾乳後の乳頭消毒

1.ディッピングの励行

@ 搾乳終了後、速やかに乳頭をディッピングします。乳頭孔が閉まる前に行うの がポイントです。

A ディッピングの方法として浸積式とスプレー式がありますが、一般にヨード系 薬剤を用いた浸積式が多く利用されています。

B 浸積式の場合、毎日1回新しい液に取り替えます。前日の使い残しに継ぎ足し て使用しないようにします。

C スプレー式の場合、乳頭の裏表に万遍なく散布することが大切です。

D ディッピングの効果はすぐに出るわけではありませんが、長期的に見て乳房炎 防止に大きな効果があります。

ディッピング液は毎朝新しく1日分を取る

 

2.ディッピングの効果

 図−2、3はディッピングの効果を示したもので、潜在性、臨床型乳房炎の減少効果を 示したものです。 一般の酪農家の方が年齢によって、管理の方法にやや違いがみられ、 概して高年齢の方は前搾り、ディッピング等を実行しない方が多くなる傾向があり、その 結果、乳房炎陽性率も高くなる傾向があります。いずれにしろ、これらの作業をしなけれ ば乳房炎発生率が高くなることを理解してください。

 

 



搾乳作業マニュアル(2)へつづく


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