生産技術セミナー

豚舎の消毒

−白い豚舎で健全経営−

溝上  崇

 

 豚価低迷、飼料価格の高騰、飼養環境の規制強化と、養豚経営は厳しくなる経営環境にさらされています。
 また、伝染性胃腸炎(TGE)、萎縮性鼻炎(AR)、流行性肺炎(マイコ)、ヘモなどが蔓延する中で、オーエスキー病の恐怖や子豚の豚流行性下痢(FED)など経営を震撼させる病原のニュースが聞かれたことは、記憶に新しいところです。これら病原の予防、病気の発生を抑えることが経営の重要な課題となっています。
 常日頃から畜舎や飼養管理に使う機械、器具などを清潔に保つことが大切で、これらの基本的作業を怠り、ワクチンや消毒薬に頼る危険性です。それに湿った床は、さまざまな微生物の温床となりやすく、できるだけ水はけを良くし、乾燥させましょう。また、暑熱対策や冬場の乾燥対策の散水は、消毒薬(逆性石鹸の1000倍液など)を撒くなどは、すでにご承知のとおりです。
 豚の場合は、他の畜種と異なり、畜舎ごとオールアウト方式の消毒は難しく、豚の移動や出荷で、豚房などが空いた時期に、豚房単位に行われる消毒が主体となります。
 すでに試み、効果を上げておられる経営者も多いと思いますが、当場で実施している石灰乳塗布による消毒方法について内容などを整理しながら紹介してみたいと思います。


1.当場における豚舎の消毒手順

 当場で行っている豚舎などの消毒手順は、次の通りです。

@ 豚移動後の消毒
原則として、豚の移動や出荷をすれば、糞や汚物などさまざまな病原体の保護的役割をもつ、有機物の付着物をでるだけ物理的に除去するため、直ちに除糞、清掃を行う。
A 水洗(ハイウオッシャー)
糞や汚物の膨軟化、除去(害虫なども含む。)を容易にするため水で洗浄する。
水圧を掛ければ効果が上がる。
B 熱湯洗浄(スチームクリーナー)
糞や汚物の膨軟化、除去、並びに水洗で動き出した細菌や衛生害虫の殺菌、殺虫のため熱湯で洗浄する。
C 自然乾燥
D 逆性石鹸(500倍)液などによる消毒
殺菌、殺虫を中心に、汚物などを再度膨軟化し、除去する。
E 自然乾燥
F 石灰乳塗布
G 自然乾燥
豚の移動や出荷後、約7〜10日で、消毒後の豚房に豚を導入する

 


2.石灰乳塗布に用意する機械、器具

 当場で使用する機械、器具は次の通りです。

@ コンプレッサー
空気を圧縮するために用います。
A エアホース
圧縮空気をスプレーガンに送るために用います。
B スプレーガン
石灰乳を塗布するために用います。
石灰乳は、高い熱と強い消毒力を有していますので、適切な準備と細心の注意を払って下さい。
C 配電器
コンプレッサーを気軽に移動し電源につなげるために用います。
D 小輪車
ポリやFRPなど飼料用の底の深い小輪車を用います。
消毒したい場所に気軽に移動でき、乳剤を混ぜる容器にします。
E スコップ
乳剤をスコップでよく攪拌します。
F バケツ
スプレーガンにバケツで乳剤を入れます。
G 労力2〜4人
人数は、最低2人は必要です。乳剤をつくる人、バケツで運ぶ人、塗布する人、塗布される器具類を準備したり、かたずける人と組み合わせをつくれば効率よく作業ができます。


3.石灰乳の組成

 石灰乳の組成や課程は次の通りです。

  生石灰 水   消石灰
  CaO+H2O→Ca(OH)2
 生石灰は水と化合し、高熱を発生し、強アルカリ性の消石灰になり、強力な消毒効果を示します。

  消石灰   炭酸ガス 炭酸石灰  水
  Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O
 その後、空気中の炭酸ガスを吸収炭酸石灰となります。
 炭酸石灰は炭酸カルシウムであり、炭カルともいわれ消毒効果を失い、毒性が無くなります。


4.飽和石灰乳の温度によるpHの変化

 石灰乳のpHは、20℃で約12.4ですが、温度によって変化し、高くなるにつれ直線的に右の方に下がります。
 関係式は、次の通りです。

  Y=−0.07×X+14

  Y:pH  X:pH測定時の温度℃

図−1 飽和石灰乳の温度によるpHの変化

5.石灰乳塗布効果

 石灰乳の塗布効果は高い熱を発生し、強アルカリとなり、強力な消毒効果を発揮することです。
 しかし、この強力な消毒薬も時が経つと空気中の炭酸ガスと化合し、消毒効果を失います。豚にとって毒性が無くなる理想的な消毒方法です。
 また、豚房のコンクリート床や金属製の仕切柵、分娩房、給餌器など古くなると表面がでこぼこしていて、水洗しても完全に除去できない有機物等が付着していますが、それらを塗り込めて石灰乳の層をつくることで豚と隔離できるというメリットがあります。
 準備さえ十分であれば、比較的安価で、手軽に簡単な作業ですみます。作業の割に高い消毒効果が期待できる方法です。


6.石灰乳の調整法

 石灰乳の調整は生石灰1分に水9分で飽和乳液ができますが、サラサラとして粘性が低いようです。そのため小さな穴、狭い所に良く浸透します。また、乾いた後、塗布を数回重ねると、作業性は悪くなりますが、効果は高くなります。
 生石灰に5倍程度の水を加えると粘性が高くなり、付着しやすく作業性は向上し、細菌や汚物などを封じ込めて消毒しますが、小さい所や狭い所まで隙間無く行き渡らない面があります。しかし、高温の時は粘性が低いので手早く実施すればその効果を損なうことはないようです。
 古くなった施設や機械、器具ほど、粘性の低い乳液の重ね塗りをすると効果が高くなるので、年に数回余裕のあるときに実施されたらと思います。なお、粘性の低い乳液と高い乳液の2度塗りをすると効果、作業性ともに向上します。


7.最後に

 病気の発生を抑えるには下記のような基本に気をつかった忠実な日常の衛生管理につきると思います。

1)固体よりも集団衛生
病気の治療よりも予防に重点をおく。
2)病原体の防止
人車の出入りの制限、消毒槽の設置・消毒の励行、ハエ・蚊などの衛生害虫の駆除や導入豚対策を行う。
3)発病の未然防止
日常の衛生管理、ワクチン接種の励行
4)異常豚の早期発見、早期隔離、治療

(筆者:佐賀県畜産試験場中小家畜部長)


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