生産技術セミナー

繁殖和牛の飼育管理

−子牛の育成−

中 野 恭 治

 

 和牛子牛の育成で一番大切なことは、子牛がもって生まれた能力を、最大限に発揮できるような飼い方をすることです。
 繁殖和牛農家の目的は、自分の家で生まれ育てた子牛を高く売るということです。しかも牛飼いを1年で終わるのであればそれでよいのですが、長く続けるためには、市場で買われて行った子牛がよくなる(出世する)ような子牛の育成をしなければなりません。
 そこで今回は、子牛を育成するうえで重要な三点について考えてみます。

 ◎ 重い病気をさせない
 日頃から子牛の観察を怠らず、特に下痢については早期発見、早期治療を行う。

 ◎ 運動を十分にする
 四肢のしっかりした、伸び伸びとゆとりのある子牛づくりを行う。

 ◎ 体幅のある腹の大きな子牛づくり
 早くから良質の粗飼料を飽食させ、早期に濃厚飼料を多給しないこと。


1.子牛の病気

 子牛は、初乳をいくら早くたくさん飲んでも、環境の変化や感染に対して抵抗力は弱いものです。そこで、子牛の病気の大部分を占める下痢とかぜについて考えてみます。

1)下 痢

 生まれて間もない子牛は、下痢にかかりやすく治りにくいものです。原因は、細菌・ウイルス・寄生虫などの感染によるものと、食べ物によるものとに分けることができます。最近の研究では、細菌やウイルスによる下痢よりも飼養管理不良による下痢が多くなりつつあるといわれております。

 ○ 細菌やウイルスによる感染
 細菌やウイルスによる下痢対策としては敷わら等をできるだけたくさん入れ、乾燥し清潔にした子牛だけが休める温かい場所(専用室)を用意し、予防することも必要です。
 ○ 線虫やコクシジュウムによる感染
 最近、敷わら不足からおが屑を使う牛舎が増えてきました。気温の高い6〜10月にかけては、乳頭糞線虫等の増殖と感染による下痢につながります。10日以内に敷料を交換して感染予防をします。
 また、コクシジュウムの原虫は、生後1ヵ月から3ヵ月までの子牛に感染・発症して、血便などの激しい下痢をおこします。素人療法を行わず、診療所で検便を行い早期発見・早期治療につとめるとともに、母牛を含めた牛群の寄生虫駆虫による清浄化が大事なことです。
 ○ 消化不良
 生後3ヵ月までの子牛の胃腸は未発達であり完成されておりません。この時期に親の餌や不潔な物を食べると消化不良をおこすとともに、胃腸に潰瘍を形成したり下痢をします。必ず親の餌や不潔な物を食べない工夫をして、餌や水は別々において盗食させない工夫をしてください。
 最近の多頭省力化飼育はこれらの下痢を常在化させたり、また、その原因が単独でなく混合しておこることもあります。予防・治療には診療所の先生によく相談してください。

2)か ぜ

 子牛のかかりやすい病気のもう一つにかぜ等の呼吸器病があります。原因は空気伝染などによる流行性のものと、鼻や気管の粘膜に付着した細菌やウイルスに侵されるものとがあります。対策は下痢とほぼ同じですが、子牛は床に近いところで呼吸していますので、ほこりやアンモニア等の刺激を受けやすく、舎内換気の気配りが必要です。
 下痢にしてもかぜにしても、早くその原因を取り除くことが大切です。病気の牛を隔離することにより、他への感染を防ぐことも対策の一つです。


2.子牛の運動と調教

 子牛は10日もすると、母牛とともに舎外に出たがります。舎外の清潔な空気を胸一杯吸って走り回ります。子牛は成長とともに、母牛からも離れて仲間とともに運動し、学習もするようになります。この時期の運動は、将来を左右する大事なものです。出来る限り同月齢の子牛を同時に放牧しす。また、放牧場がないときには、子牛だけでも舎外に出られるような牛舎の構造を工夫してください。この時期は何にでも興味を持ち、汚い物でも食べようとするので、放牧場は清潔にして子牛専用の飲み水と良質の乾草を用意して、飽食させましょう。

 ○ つなぎ運動
 子牛の日常管理で一番大切なことは、子牛にストレスを与えずある程度の規律生活(調教)をすることです。牛の強制運動には、引き運動、追い運動等がありますが、あまり知られていないのが「つなぎ運動」です。立ち棒等に鼻輪(頭絡)を動けないほどきつく結び1〜2時間(最初は10分から始める)そのままにつないでおく方法です。これは人にたとえれば「きをつけ」の姿勢です。肩(体高を測るところ)と耳の高さを水平になるよう鼻を持ち上げ固定した格好です。この間牛体にブラシかけをして、どの部分を触ってもいやがらない、飼育者になついた子牛にしておくことが今後の管理を用意にします。


3.腹の大きな牛づくりのポイント

 子牛は毎日発育しています。しかもその発育は一定ではなくて、体高が急に伸びたり、体重が急激に増加したりします。つまり子牛の体型は発育状態に合わせて変化するわけですが、将来食い込みのよい、胃腸の強い子牛に育てるための上手な飼い方を紹介します。

 ◎ 生後3ヵ月までに将来が決まる
 ◎ 性別・月齢に応じた飼い方
 ◎ 飼料の給与法

1)子牛の発育と餌

 元気に生まれた子牛が最大の能力を発揮することは、早い時期に決まります。市場出荷が近づき、急に飼養管理を変えても小さな時から素地を作っておかなければ、良い子牛にはなりません。
 体重の増加は、生後60日まではほとんど母乳によるものです。母乳のたくさん出る親の子牛の体重は、生後1ヵ月で2倍以上になるものもあります。子牛の栄養は母乳で十分なのですが、生まれて7日もすると、敷わらや母牛の餌を食べるようになります。これは未発達の第1胃を大きくしようとしているからです。第1胃は生後約3ヵ月で完成します。 その後は採食料も月齢とともに増加し、第1胃が大きくなっていきます。第1胃が大きくなる様子は腹囲でみます。胸囲と腹囲(最後肋骨の上)の差が15cm以上あれば十分です。乾草ならば1日1kg以上は食べるようになり、胃腸障害をおこさない強い胃ができていると思われます。

2)雌雄・月齢による餌給与

 生後3ヵ月を過ぎると、雌雄・系統等による強弱の差が出始めます。雌雄を同居して餌を給与すると、濃厚飼料は最初に雌が多く食べ、残りを雄が食べるようになります。そうすると雄は餌が不足してやせ気味となり、雌は肥え過ぎて体高が伸びなくなり、両方ともによくない状態になります。これらの問題を解決するには雌雄の分離が最良ですが、せまい場合には飼料給与時だけでも、子牛をつないで月齢に合った飼料給与をしてほしいものです。

3)離乳時期

 離乳は通常生後5〜6ヵ月にかけて行います。このとき重要なことは、胃腸が十分発達していることです。その目安は、胸囲と腹囲の差15cm以上です。むりな離乳は胃腸障害で下痢をおこしやすくなります。徐々に食欲や便の状態を観察しながら、むりのない離乳をしてください。

4)尾 枕

 子牛の餌のやり方で、なおも見やすいのは尾根にできる「尾枕」です。これが付き始めると、体型は良く見えますが、体の伸びはおさえられます。家畜市場へ出荷する時、最高の状態にするには、ある程度の体重が必要なので、多少の尾枕がつくような飼い方をすることは必要ですが、多少の余裕を残した「活力のある子牛」を出荷してください。
 繁殖和牛、特に分娩時と子牛の育成について常日頃考えていることを書きましたが、私たち牛に携わる者にとって一番大切なことは「牛を知る」ことだと思います。牛を知るためには飼育者が牛の情報を「記録する」ことです。
 飼養管理の失敗は、繰り返してはなりません。それを生かして事故防止に役立てましょう。

 

繁殖和牛の飼育管理 −分娩時の事故防止−もどうぞ!

 

(筆者:兵庫県農業共済組合連合会家畜臨床総合研修所 所長)


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