生産技術セミナー

牧草・飼料作物の品種と今後の自給飼料生産

山田 敏彦

 

はじめに

 円高と自家労力の減少・家畜飼養の合理化を受けて自給飼料生産は、必ずしも有利とは受けとめられていないのが最近の情勢です。そのため、牧草・飼料作物の栽培面積は、横ばいかやや減少傾向にあり、飼料の自給率は低下しています。粗飼料の国内自給率も最近では3割台までに落ち込んでいます(図−1)。

 しかし、アメリカの穀物生産がここのところ不安定で、最近、飼料代も高騰しております。今後、中国などの大量な穀物の買い付けが起きれば、価格の高騰はさらに進むものと思われます。また、地球規模で増加を続ける人口や生態系の安定的維持を考えれば、安易に外国から飼料を輸入することは継続できるでしょう。やはり、自給飼料生産を見直すことが大切であると考えます。

 一方、中山間地では、耕作放棄地が増えているという現状があり、畜産における自給飼養生産の場としての活用が求められております。そのことは、中山間地域の活性にもつながる重要な点であると考えます。また、環境保全的な持続型農業のために、畑作地帯などへの牧草の輪作体系の組み込みも今後広がっていくかもしれません。さらに、米余り傾向が続く中での水田の活用としても飼料作物は重要な役割を果たすと思われます。畜産の長期見通しの中でも、牧草・飼料作物の栽培面積は現在の100万haから120万haへの拡大が提示されています。このように、自給飼料生産は今後とも重要であるということはいうまでもありません。

 筆者は山梨県酪農試験場の農林水産省牧草育種指定試験地において、牧草(ペレニアルライグラス)の育種を担当しています。そこで、わが国における牧草・飼料作物の栽培の現状を示すとともに公的機関における新品種の育成の概要を紹介したいと思います。さらに、今後の草地畜産の方向とそれに対応した牧草育種の報告についても触れたいと思います。


1.わが国における牧草・飼料作物の栽培の現状

 図−2に牧草類、青刈トウモロコシ等の栽培面積の推移を示しました。1980年代にかけて毎年作付面積が増加し、1980年には100万haの大台に達しました。その後、ほぼ横ばい状態が続きましたが、ここ最近になってやや減少傾向となり、昨年は98万haでありました。最近における栽培面積の減少は、転作田面積の減少が大きな要因として考えられております。図−3には水田転作への飼料作物の作付面積の推移を示しましたが、1980年には15万ha以上あったものが、昨年は9万ha台にまで落ち込んでいます。図−4には水田裏作への飼料作物作付面積の推移を示しましたが、水田裏作でも年々少しずつ減少傾向にあります。冒頭でも触れたように、最近の米余り状況等を考えますと、転作田への飼料作物の栽培は効果的であり、飼料基盤の拡大には転作田利用が近道であるように考えられます。さらに、水田裏作へのイタリアンライグラスなどの栽培による土地の有効利用も今後必要になってくると考えられます。水田転作や水田裏作を行う場合には、生産性が高く、しかも品質の良い飼料作物を低コストで栽培できることがポイントとなります。そのためには、優良品種の利用、適正な栽培管理技術が必要であることはいうまでもありません。

 図−5に牧草類、青刈トウモロコシの単収(単位面積当たり生草収量)の推移を示しました。全体的にみれば、少しずつ増加していますが、やや頭打ち状態であるのは否めない事実であります。試験場レベルでは毎年のように各草種で多収な新品種が育成されています。これは私たち育種を担当しているものからみれば頭の痛いことですが、その要因を考えなければと思っています。たとえば、牧草は、稲などとちがって栄養体を収穫しますが、収量は開花期ごろ以降に最大となります。そのような状態まで刈らずにおくと栄養価が著しく低下しますので、収量は少なくとも栄養価が高くなる穂ばらみ期前後の若刈りが最近では奨励されているとか、トウモロコシでは以前は収量性の高い晩生品種が主体でありましたが、最近では耐倒状性の早生品種が主に作付されていることなどが要因としてあげられています。

 しかしながら、草地において未だに品種という概念が少なく、また、必ずしも適切な栽培利用が行われていないのも事実であると思います。適正な栽培管理を行っている試験場レベルでは収量性がかなり高くなっていますので、基本的な栽培技術の励行に努めることは必要であると思います。

 また、最近では、飼養頭数が多頭化して労力不足のため、飼料作物栽培に専念できないという農家が増えているのも事実であります。そのための対策として共同作業、さらにはコントラクターによる農作業の外部委託などがあげられます。これらは飼料生産の低コストということから今後急速に広がっていくのではないかと思います。

 一方、これまでは最適な栽培管理条件で最も収量性の高い個体を選抜してきましたが、試験場ではオーチャードグラスなどの選抜試験においては通常6回程度の刈取りを行い調査をしています。しかし、年に2〜3回程度の刈取り条件で収量性が高いものを選抜することなどといった粗放的な管理も育種を担当しているものとしては今後検討していかなければならないのかと思っています。


2.牧草育種の体制

 わが国における牧草の育種は公的機関と一部の種苗会社で行われています。公的機関では基本的には農林水産省の試験研究機関と道県立試験研究機関の牧草育種指定試験地で各種の牧草・飼料作物について新品種の開発が行われています(図−6)。なお、指定試験地とは農林水産省の委託試験を実施する単位として公立場所に設置されているものです。余談ではありますが、稲のコシヒカリ、ササニシキ、ひとめぼれ、ヒノヒカリなど日本を代表する品種の多くはこの指定試験事業で育成されています。牧草・飼料作物分野においても全国に10単位の育種指定試験地が配置され、これまでに数多くの品種が育成されています。

 育成地で育成された系統(新品種予備群)は、全国各地にある道県立試験研究機関の系統適応性検定試験地と特性検定試験地においてその特性が検定されます。系統適応性検定試験地では、各地域における適応性の検定(収量性などの調査をし、各地域で安定して生産できるのかを検定する)が行われます。特性検定試験地では重要な特性、たとえば、耐寒性、耐病性、放牧適性、耐雪性などの検定が行われます。各試験地の試験結果に基づいた系統に認められると、農林登録品種として新品種の登録が行われます。

 その後、農林水産省家畜改良センターで原種の増殖が行われた後、アメリカのオレゴン州等での海外採種を経て、市販種子として販売される仕組みになっています(図−7)。稲などでは原種の増殖が国内で行われておりますが、牧草ではちょうど採種する時期が梅雨時期と重なるなどの理由から海外での採種が一般的です。このことが、また、公的機関で育成される品種の普及を遅らせる要因ともなっております。新品種の海外での採種を円滑に実施することが、優良な新品種育成につながりますので、育成者を始め、関係者の迅速な対応が必要であると思います。


3.育種のこれまでの成果

 わが国における牧草の育種は1960年ごろから農林水産省の試験研究機関で本格的に開始されました。それ以前は明治以降に導入された草種から自然淘汰と自家採種を繰り返して成立した在来種や海外から導入された普通種が品種として流通していました。本来、牧草は原産地がヨーロッパなどであることから、日本の夏季の高温・多湿、とうきの低温・多雪の厳しい気象条件適応しない品種が多く、生産性が不安定でありました。このような背景があり、畜産振興とともに牧草の育種が強化された次第であります。

 育種の初期段階では、在来種や生態型(導入された品種が野生化して、国内各地で長年にわたってその風土に順応したもの)を主たる育種母材として集団選抜法などにより選抜が行われ、1970年ごろから各草種で新品種が育成されました。その後、海外導入品種や既に育成された品種を母材として、集団選抜法よりも育種効果の高い合成品種法や母系選抜法といった選抜法が採用され、また、染色体を倍加させる倍数性育種法や各種病害抵抗性や環境ストレス耐性を幼苗等検定する育種技術の開発などにより、1980年以降もさらに多くの新品種が育成されています。

 草地の利用別に採草型・放牧型・兼用型、草地の利用適期幅の拡大を目標に早〜晩生、イタリアンライグラスでは利用期間別に極端〜極長期という各メニューに違って育種が行われ、主要な草種では現在ほぼこのメニューが埋められてきています。また、現在では既存品種をさらに上回る新品種の育成やこれまでの収量性を主体としたものから、各種病害抵抗性、環境ストレス耐性(耐寒性・耐暑性など)、高品質、混播適性、耐倒状性など新しい特性をつけた新品種の育成をめざして育種が進められています。

 最高までに最近育成された牧草・飼料作物の品種を表−1に示します。


4.育成品種の普及

 すでに触れましたように、育成された品種はアメリカなど海外で種子増殖が行われた後に、種子が市販され農家の手に届きます。図−8に種子の供給量と国内育成品種の割合を示しました。牧草類では年々国内育成品種の占める割合が増えてきましたが、最近では頭打ちになっております。また、トウモロコシでは以前は国内育成品種が高い割合を示していましたが、その後急激に低下し、現在ではその占める割合は極めて少なくなってきました。トウモロコシの国内育成品種が著しく低下したのは、以前の国内育成品種はF1ではなかったため、海外のF1品種に比較して倒れやすいとか揃いが悪いという欠点があったためです。しかし、最近育成されたトウモロコシの品種はF1であり、外国品種に対して遜色がなくなっています。飼料作物では生育が環境の影響を受けやすいため、選抜のすべての過程を日本で行っている国内育成品種の方が外国種と比較すれば、日本という特有な環境下に適応しています。今後、国内育成品種の巻き返しを期待したいと思います。

 県の試験研究機関等では、各草種について品種の比較試験を行い、その中から当該地域に適応した品種を県の奨励品種として選定しています。奨励品種はその地域では安定して栽培できますので、利用にあたっては奨励品種を用いるように心がけていただきたいと思います。よくわからないときは県の試験研究機関や農業改良普及センターに問い合わせをしてください。公的機関育成品種は民間品種に比較してとかく宣伝が経たでありましたが、最近では分かりやすいパンフレットなども作成しておりますので、利用にあたり参考にしていただければと思います。また、農家の方からも今後、どんな品種を作ってほしいか育種を担当するものにどんどん注文をつけていただければ幸いと思います。


5.今後の草地の方向
     草地の2極分化

 比較的平坦で条件がよい場所では、機械を使った収穫体系による多収・効率化が求められています。最近では、ロールベール・ラップ方式の作業体系が各地で増えています。生産費用のうち、大型機械の償却費負担の比重が大きいので、低コスト飼料生産にはこちらがポイントとなり、共同利用や共同作業、さらにはコンストラクター制度の導入等が必要となります。また、借地等を有効に利用して栽培面積を拡大させることも重要なポイントであります。転作田の利用も飼料生産基盤の拡大にはなくてはならないものであります。このような草地では安定・多収な優良品種の栽培が重要となります。

 一方、山間部の急傾斜地等条件の悪いところでは機械を導入することはできないので、やはり放牧利用をすすめていかなければならないでしょう。現在、放牧は公共育成牧場でみられる程度でほとんど行われていませんが、土地の制約とともに放牧管理が比較的単純でないということがその普及を妨げている要因であると思われます。

 最近、ペレニアルライグラスを主体とした草地へ電気牧柵を用いた短期輸換放牧が注目されています。今後、急傾斜地域などの放牧利用などでは必ずしも多収性品種ではなく、低投入で持続が可能な品種が求められるかもしれません。また、ノシバ等の在来野草の利用についても再評価することが大切であると思います。


6.牧草品種の評価

 牧草品種の評価はこれまでもっぱら単位面積当たりの乾物収量を中心として評価されてきました。しかし、牧草は家畜が利用するものであり、最終的には家畜の生産性を高めることができる品種がよい品種ということになります。そのためには家畜による牧草の品質評価が重要になります。たとえば、ベレニアルライグラス品種「フランセス」は品種「オーロラ」より乾物収量が高いが、逆に、羊の生産性は低いことが英国で報告されています。今後は家畜による品種・系統の評価は重要になってくると考えられ、そのための評価システムを作成することが必要です。わが国でも組織的に家畜を用いた品種の評価が近い将来実施されなければならないと思います。

 ところで、山梨酪試でも育成したペレニアルライグラス品種ごとに試験区を造成してそれぞれの試験区で放牧牛を飼養して家畜の生産性を検討する試験を平成7年度から開始したところです。それぞれの品種における家畜の生産性を評価できるものとして期待しているところです。これまでのところ民間育成品種より山梨酪試育成品種の方が、放牧機関を通じて乾物消化率が高く、家畜の生産性に優れている傾向にあることが明らかになりました。さらに、調査を継続してから公表したいと考えています。


7.今後の育種目標

 寒地型イネ科牧草における育種を行う目標を表−2に示しました。それまでの育種目標は第1に多収であり、今後とも安定多収生産できる品種の育成は基本であることには代わりがありません。そのためには環境ストレス耐性(耐寒性、耐暑性など)や各種病害抵抗性等を付与させることはいうまでもありません。また、牧草の成分を改変する品種の改善や嗜好性の向上といった改良も今後ますます必要になってくると思われます。

 しかし、今後それらに加えて、手をかけなくても栽培しやすいなどという形質も必要であると考えます。手間をかけないで自給飼料生産ができるということは農家が最も求めていることであります。それには雑草との競合に強い、刈遅れによる過繁茂になってもダメージを受けないなど、これまで育種の目標としていないことも考慮しなければならないであろうと思います。

 一方、草地は水田や畑地とは違い、どちらかというと半野生的側面があり、今後この点について考慮することが大切であると思います。すでに触れましたように、草地の利用において、平坦な条件のよい場所では集約的な利用が、一方、条件の悪い中山間地等では低投入持続的利用の2極分化が起きることが予想されます。後者の利用目的のために、草丈が短いなど収量性の必ずしも高くないが永続性に優れ、低投入な栽培管理で長期間維持できるものなどの選抜は今後重要になってくると考えられます。また、低投入型の草地ではシンクローバなどのマメ科牧草の果たす役割は一層重要であり、根粒菌との共生関係の改良についてはさらに研究を続けなければならないでしょう。

 さらに、ノシバ、ススキ、ヤハズソウ等のわが国に自生している野草についてももう一度見直すことも必要でしょう。これらの野草については家畜への栄養供給が追いつかないことから1960年代以降、大部分が耕起され改良草地へと更新されましたが、これらの草種はわが国の環境に適応していることから栽培管理が容易です。そのため、低投入型草地利用には重要な役割を担うと考えられますが、利用にあたりある程度の生産性の向上も必要であるため、野草については育種を再開することも必要と思われます。


まとめ

 環境保全の立場からも現在の草地を荒廃することなく維持していくことが大切なことです。そのためには購入飼料依存型ではなく、自給飼料を活用した低コスト畜産経営を今後とも展開していくことが重要であります。また、草地は畜産だけに関係するだけでなく国土を保全するとともに優れた景観を形成して人々にやすらぎの場も提供します。今後安定した草地を維持するには、永続性等に優れ、栽培管理等の容易である安定な優良品種が求められます。従来からの育種法に加えて、最近のハイテク育種技術などを利用して、優良品種を育成することが今後のわが国における草地の存続の鍵を握っていると思います。そのため、育種を担当するものに課せられた責任も大きいと考えています。

 

(筆者:山梨県酪農試験場 研究管理幹)


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