養豚生産現場における衛生管理対策の
現状と対策(I)

 

酒 井 健 夫


 今日、多くの優れたワクチンの開発と改良、ワクチン接種を含む国家的予防対策の啓発と普及、科学的根拠に基づく飼養環境の改善など、豚の生産現場における衛生管理技術の向上によって、重篤な豚の伝染病は減少している。しかし、豚の飼養規模が拡大し、飼養地域が集約化されたことによって、ひとたび伝染病が発生すると被害は甚大となる状況にある。

 また、自発性感染症や症状が比較的軽微な慢性感染症は依然増加の傾向にあり、養豚の生産性や収益性に悪影響を与えている。さらに、2000年3月にわが国では92年ぶりに口蹄疫が発生し、それに伴うまん延防止措置の実施の中で、より効果的な防疫対策の確立が国家的に急務を要する課題となった。

 わが国の過去10年間の養豚環境を振り返ってみると、1990年代当初から豚繁殖呼吸障害症候群(PRRS)が常在するようになり、1990年代後半には子豚の消耗性疾病である離乳後全身性消耗症候群(PMWS)の発生が全国各地で確認されて今日に至っている。また、1996年前後には南九州を中心に豚流行性下痢(PED)が約10年ぶりに流行した。

 さらに、わが国の近隣の台湾と韓国に口蹄疫が大流行し、同国の養豚産業は潰滅的大打撃を受けた事実や、1999年にマレーシアで人畜共通感染症の新興感染症である豚ニパウイルス病が流行し、100人以上のヒトが死亡した事実も周知の通りである。

 このように種豚や豚肉の国際流通が拡大する現状の中で、わが国に監視伝染病や新疾病の侵入の危険性はますます高まっており、豚生産現場に新たな問題を提起することになった。

 一方、1997年には家畜伝染病予防法が改正され、疾病サーベイランスの強化が図られているが、関係者が科学的で正確な情報を共有し、モラルハザード(倫理の欠如)を取り入れた飼養管理技術を確立し、異常豚の摘発とその検査結果を迅速かつ適切に生産現場へフィードバックするシステムを構築するなどの諸対策を推進し、流行の拡大や社会混乱の防止に努める必要がある。

 特に疾病の診断や治療を迅速に対応するうえで、疾病の早期発見に必要な豚の感染症の特性、疾病のまん延防止や予防を図るためのワクチンの適切な接種と効果的な消毒方法の確立、動物の健康状態や健全な生産を図るうえでの適切な飼料給与、副作用や耐性菌の発現防止や豚肉中への抗生物質などの残留防止のための動物用医薬品の適正使用は、わが国の養豚の生産現場に求められている最も重要な課題である。

 これらの衛生管理技術は、食肉の安全性と品質性を確保しようとする新しい衛生管理方式であるHACCP(危害分析重要管理点)方式の導入を積極的に取り組むことに結びつく。

1 豚の感染症の特性

 近年、豚病発生は多様化、複雑化、国際化および定着化する傾向にあり、そのため伝染病の予防を積極的に図り、また近代的衛生管理方式を導入することが極めて重要である。

 特に食品に安全性と信頼性を強く求める現代社会の高まりの中で、疾病が発生しない環境の確保は国民の要請であるが、養豚施設は開放環境下にあるため、積極的にストレス負荷に結びつく環境要因を排除して疾病発生の軽減化に努めることが大切である。

 一方、わが国では、家畜伝染病の危険度を再評価し、発生状況を詳細に把握し、より効果的な防疫対策を確立するため、家畜伝染病予防法の一部を改正した法律が1997年4月に公布され、翌1998年4月に施行された。

 その家畜伝染病予防法における監視伝染病としての豚の法定伝染病と届出伝染病は、表−1に示す通りであり、今日の豚病対策の重要性を反映しているといえる。

 そこで本稿では、予防対策や防疫対策の対象となるいくつかの豚感染症の特性について述べる。

表−1 届出を必要とする豚の監視伝染病

監視伝染病 疾病の種類
法定伝染病 牛疫・口蹄疫・流行性脳炎・狂犬病・水胞性口炎・炭疽・出血性敗血症・ブルセラ病・豚コレラ・アフリカ豚コレラ・豚水胞病
届出伝染病 類鼻疽・気腫疽・レプトスピラ症・サルモネラ症・ニパウイルス感染症・野兎病・トキソプラズマ病・オーエスキー病・伝染性胃腸炎・豚エンテロウイルス性脳脊髄炎・豚繁殖呼吸障害症候群・豚水疱疹・豚流行性下痢・萎縮性鼻炎・豚丹毒・豚赤痢

(1)オーエスキー病

 本症は、豚ヘルペスウイルス1の感染によって生じる感染症で、成豚の多くは不顕性感染で経過するが、妊娠豚では異常産を発現し、子豚では神経症状を呈して病態の進行が早く、死亡率が高い。一度感染した豚は、生涯にわたってウイルスゲノムを持続し、気候の急変や分娩などのストレスが加わると、ウイルスを体外に排泄するために感染源になる。従って、不顕性感染豚は感染源となる危険が大きく、清浄化を困難にする最大の原因である。

 感染の主体は、鼻汁中に含まれるウイルスが飛沫して気道感染することにあり、鼻腔衛生が大切である。また、病豚や潜伏感染豚との接触によって伝播が容易に起こる。さらに豚舎に出入りする犬や猫は、放置された感染豚の死体を摂取することによって感染することが多く、その場合は感染するとほとんどの犬や猫は発症し、掻痒症状を呈して死亡する。

 本症の主な症状として、妊娠中に初感染した母豚の多くは流産や死産を生じ、哺乳力のない虚弱な異常子豚を出産する。哺乳豚の感染では、4週齢以下の子豚は発症率や致死率が高く、その致死率は2週齢までの哺乳豚ではほぼ100%、3週齢では50%、4週齢では25%程度である。

 症状は下痢や発熱で、時に嘔吐を伴い、ついで全身の震えや痙攣、運動失調、旋回運動などの神経症状を示して死亡する。1〜2ヵ月齢の子豚では、軽度の発熱、元気消失、時に嘔吐、下痢、便秘などがみられるが、1週間以内でほとんど回復する。それ以上の月齢の豚では、無症状で経過することが多い。

 汚染地域の防除対策としては、弱毒化生ワクチンが用いられている。本ワクチンは、感染を防止する効果はないが、発症の阻止や感染豚からのウイルスの排泄を抑制する効果がある。従って、清浄地域ではワクチン接種は行わないが、汚染地域では発病阻止と汚染拡大の防止を期待して、ワクチン接種が用いられている。

 このワクチンには、野外感染によるか否かを区別するための遺伝子欠損であるマーカーが付与されているので、ワクチン接種豚であっても抗体検査によって、野外感染か否かが認識できる。高度の汚染地域では、抗体陽性豚の摘発と淘汰、およびワクチン接種との併用によって清浄化が進められている。

(2)豚繁殖呼吸障害症候群

 本症は、豚繁殖呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスの感染によって生じ、伝播が早く、発病率が高く、妊娠豚では異常産を、子豚では呼吸困難を生じる伝染病である。

 本ウイルスは、感染豚の鼻汁、胎子、ふん便および精液に排出され、それが接触、飛沫、交尾することによって感染が成立するが、近隣農場間では空気感染も認められている。発病要因としては、本症が周辺の農場で発生していること、あるいは発生地域から病豚を導入したことによる。

 また農場が一度汚染されると、離乳後の移行抗体が低下あるいは消失した子豚で感受性集団を構成するため、次々に感染を繰り返して持続的な汚染源となり、農場は本ウイルスを常在化する。

 一方、異常産は初発農場では流行的に発生するが、本ウイルスの汚染度が高まると不顕性感染が多くなり、散発的に生じることになる。妊娠後期には流産や死産などの繁殖障害が生じるが、初発農場では初妊娠豚に早期流産が多発する。

 また、呼吸障害は離乳豚に好発して慢性的に経過し、間質性肺炎を生じるために発育不良となり、また複合感染を生じる個体が多く、死廃率も高くなる。

 本症の主な臨床症状は、繁殖雌豚では食欲減退、発熱、異常産を呈するが、発症状況を類似疾病のワクチン接種歴や疫学所見から判断して、日本脳炎やパルボウイルス疾患と鑑別する。異常産では、黒子や白子の胎子などの死産子や虚弱な子豚も認められる。生産子豚は、開脚姿勢、頭部や眼瞼の浮腫、震えなどを呈し、哺乳力が弱く死亡例も多くみられる。また、母豚の泌乳停止も子豚の死亡率を高める結果となる。

 離乳豚と肥育豚では、発熱、呼吸促迫または困難と腹式呼吸などの重度の呼吸障害がみられ、眼瞼浮腫、結膜炎、下痢、嘔吐なども認められる。

 この呼吸障害の症状は、細菌やマイコプラズマとの2次感染や複合感染によって悪化することが多く、病豚は発育不良でひね豚になる。

 本症の衛生対策として、適切な換気や飼育密度の確保などの飼育環境の改善、オールイン・オールアウトの実施、細菌性肺炎の積極的発症防止は、本症の症状を軽減するのに有効である。またワクチン接種は、PRRSウイルスに対する抗体検査により豚集団の免疫状態を把握した上で、適切かつ計画的に実施すべきである。

(3)離乳後全身性消耗症候群

 離乳後全身性消耗症候群(PMWS)は、豚サーコウイルス2(PCV−2)の感染によって2〜3ヵ月齢の離乳子豚に、発育停滞あるいは削痩が生じる消耗性疾病であり、ひね豚の原因になる。

 本症は、1990年代に発見された新しい感染症で、わが国を含む主な生産国で発生している。しかし、本症の原因であるPCV−2を人為的に接種した豚で必ずしも臨床症状を示さないこと、本ウイルスが感染しても症状を示さない豚が多数存在すること、また多くの養豚施設に本ウイルスが侵入していることなど、病原性について不明な点が多い。

 すなわち、本症の発生には他のウイルス感染の関与やワクチン接種による免疫刺激、ストレスの負荷が必要であると推測されている。また、本症は、飼育規模や飼育形態に無関係に発生している。

 本症は、主に5〜12週齢の育成豚に認められ、離乳後の死亡率の上昇によって発見される場合が多く、離乳後の死亡率が30%前後に上昇する場合や死亡率の上昇が数ヵ月から1年以上に及ぶこともある。

 臨床症状としては、発育停滞、増体重の減少、削痩、呼吸困難などが認められ、時には下痢や黄疸が認められることがある。多くの発病豚は、細菌やウイルスによって混合感染や2次感染を生じるために、症状が複雑かつ重篤になる。

 本症を予防するワクチンは現在市販されていない。発病豚は、グレーサー病やレンサ球菌症を併発することが多いため、抗生物質の投与や他の呼吸器病対策は、本症の症状の軽減に有効である。

 現在、垂直感染の可能性は否定できないが、発生農場でのウイルス抗体の推移が生後2〜3ヵ月齢より上昇すること、発病豚は鼻汁、ふん、尿中にPCV−2を排出することなどから、主に水平感染によって離乳前後に感染する可能性があるため、病豚を早期発見して、正常豚群から隔離することは予防衛生上重要である。

(4)豚流行性下痢

 豚流行性下痢(PED)は、伝染性胃腸炎(TGE)とは異なるコロナウイルスであるPEDウイルスの感染によって生じる伝染病であり、症状はTGEに酷似している。

 本症は豚の年齢に関係なく食欲不振、嘔吐、黄色水様性下痢を生じるが、若齢哺乳豚では脱水症状が進行すると削痩して衰弱死する。PEDウイルスは、TGウイルスと同様の形態を示すが、TGウイルスとは抗原的に区別される。

 わが国では1980年代の初めに全国で子豚の日齢に関係なく嘔吐と水様性下痢が集団発生し、PEDウイルスの関与が疑われた。これらの病豚の腸内容物あるいは下痢便、または発症が耐過した豚の血清を検査した結果、TGEウイルス、ロタウイルス、大腸菌が否定され、電子顕微鏡でコロナウイルス様粒子を示すPEDウイルスが分離された。

 その後、1994年には鹿児島を中心とする南九州や東北、北海道に集団発生した。PEDの発生時期は冬に集中するが、年間を通して散発的に発生する場合もあり、豚の年齢に関係なく発生する。しかし哺乳豚、特に0〜7日齢の新生子豚では、授乳母豚が泌乳量低下を併発すると死亡率が100%に達することもある。

 本症の主な臨床症状は、哺乳豚では嘔吐に続いて下痢の発現である。通常は、未消化物を含む黄色水様性下痢がみられ、細菌や原虫の2次感染によって種々の色調の水様性下痢を呈する。症状は0〜7日齢の若齢哺乳豚ほど重篤であり、脱水が著しく、削痩や衰弱によって数日の経過で死亡する場合もある。

 また、本症は加齢と共に死亡率は低下するが、発育遅延がみられ、まれに無症状で経過することもある。育成子豚や肥育豚でも嘔吐や水様性下痢がみられ、一般に3〜7日で回復するが、その間は食欲減退と体重減少が著しく、時に死亡例もみられる。母豚では嘔吐、水様性下痢、食欲減退が個別にみられることがある。約1週間の経過で回復に向うが、感染発症が分娩前後の場合は泌乳量の低下や泌乳停止が生じ、哺乳子豚の症状はさらに悪化する。

 本症は一度発生すると常在化の傾向にあるため、未発生地域では農場内へ本ウイルスの侵入を予防することが重要である。すなわち、一般衛生管理の徹底、感染歴のある農場からの豚の導入禁止、導入豚の隔離観察などが重要である。

 発生した場合は、発生豚舎に専任作業者を配置し、使用する器具器材も専用とし、早期離乳と分娩誘発によって分娩のない期間を設け、豚舎内に間仕切りと空室の豚舎や豚房を設け、水洗や消毒、乾燥を繰り返して、本ウイルスの常在化を防止する。また、導入豚および分娩前の母豚にPEDワクチンを接種して、防御することが主な予防対策である。

 一方、治療は対症療法であり、細菌の2次感染が生じた場合は抗生剤を用い、脱水に対しては経口補液と腹腔内補液を応用する。母豚および哺乳子豚への生菌剤の投与も効果がある。

(5)豚コレラ

 本症は、豚コレラウイルスの感染によって生じる熱性急性伝染病であり、後躯麻痺や四肢の痙攣などの神経症状を示し、経過が早く、致死率が高い。本ウイルスは鼻腔や口腔から侵入し、まず偏桃で増殖し、ついで血液を介して全身のリンパ系組織でさらに増殖し、最終的にはウイルス血症を引き起こす。

 本症の発生は周年であり、豚の年齢に関係なく、発生地域からの病豚の導入、人の出入り、汚染肉などの厨芥の処理不十分な給餌、汚染精子による人工授精などが発病要因として挙げられる。

 また、本ウイルスはイノシシにも感染するので、野生イノシシに本症がまん延しているとこれらの動物との接触が感染源になる。

 本症の初期症状としては、41〜42℃の高熱と食欲減退や元気消失などの一般症状の悪化がみられ、ついで結膜や眼瞼の分泌物不着や便秘後の下痢、さらに後躯麻痺や四肢痙攣などの神経症状がみられる。末期には下腹部、耳介、頚部、四肢など体表に紫斑や赤紫色のうっ血および出血斑がみられ、死亡する。また妊娠豚では流産がみられることがある。

 経過は一般に5〜10日である。病原性の弱いウイルス株の感染では、急性経過の場合と同様な初期症状を示すが、やがて一時的に軽減し、経過は1〜数ヵ月におよび、感染豚は削痩が著しく、ひね豚になることが多い。母豚の感染では、異常産の増加が認められることもある。

 予防対策として、清浄国ではワクチンは用いずに、摘発や淘汰を基本としたまん延防止措置がとられている。原則としてわが国でも2000年10月からワクチン接種を禁止し、摘発・淘汰方式による防疫に転換した。

(6)サルモネラ症

 豚サルモネラ症は、主にSalmonella Choleraesuis および S. Typhimurium の感染によって、黄灰白色の下痢便を生ずる急性あるいは慢性の疾病であり、人畜共通感染症である。

 S. Typhimurium による感染例は、哺乳子豚から肥育豚まで幅広い日齢でみられ、黄灰白色の下痢便を呈した後、病態の進行は早い。致死率が高く、数日以内に死亡する敗血症型を呈する場合が多い。

 S. Choleraesuis による感染例は、離乳後の幼若豚に多くみられ、呼吸器と消化器に異常を呈しながら衰弱する慢性型である。

 敗血症型では、40〜42℃の高熱を示し、元気消失、食欲不振、立毛を呈し、黄灰白色水様性の悪臭便、粘血便を排出し、脱水症状を生じる。一部の症例では耳翼や下腹部にチアノーゼを起こして2〜3日以内に死亡する。

 慢性型では、軽度の発熱がみられ、元気消失、食欲不振を呈し、数日〜数週間にわたり悪臭のある黄褐色泥状下痢便を示し、脱水状態、削痩、発育不良となる。一部の豚は肺炎を併発し、顕著な腹式呼吸を呈する。

 なお、発症が持続する豚は保菌動物になるので淘汰することが望まれる。

 感染経路は不明であるが、カラスなどの野鳥の侵入後に発症する場合が多いことから、防鳥対策は重要である。消毒には塩素系薬剤が有効であり、施設内、豚舎内、豚房内および踏込槽の消毒に用いられている。また、予防の目的で飼料添加剤の投与が有効である。発生農場では、病原体による畜舎の汚染が常在化するので、オールイン・オールアウト方式を用いて本症の根絶を図ることが重要である。

(7)豚大腸菌症

 本症は、大腸菌 Escherichia coli を原因とした下痢や敗血症を示し、発生率が高く、経済的に被害の大きい伝染病であり、新生期から離乳後3週間までの時期に多発し、周年を通してみられる。特に、生後5日以内の敗血症を伴う子豚では致死率が非常に高く、それ以降の日齢の子豚では下痢による致死率は低いが、著しい脱水症状のため発育不良となる。

 原因菌である主な病原性大腸菌は、毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管接着微絨毛消耗性大腸菌(AEEC)、ベロ毒素産生大腸菌(VTEC)である。

 本症は常在化して、哺乳中の子豚での発生は1腹単位で生じることが多く、ほとんどの症例が母豚からの垂直感染によって生じる。すなわち、母豚が飼育環境中の病原性大腸菌に対して、抗体を保有していない場合、子豚に移行抗体が賦与されず、易感染状態となる。

 このため、本症の発生は初産豚の子豚に多く、母豚更新率の高い農場で多発する傾向にある。また、離乳がストレスを誘因し、さらに給与飼料の変更に伴う腸管内微生物叢の変化が下痢の発現を助長するため、離乳後4〜10日間に多発する。

 一方、哺乳中の子豚は、他の病原体と混合感染する場合があり、その際の症状は重篤化するので注意を要する。

 本症の予防として重要なことは、母豚からの垂直感染の機会を減らすことにある。そのため、分娩豚房の消毒と乾燥を徹底し、分娩舎のオールイン・オールアウト方式の実施は不可欠である。また、初乳の摂取も十分であることに心がけることも大切であり、さらに、母豚群の免疫状態の均一化を図ることも重要である。

 従って、母豚更新率が著しく高くならないように計画的に導入する必要がある。発症歴のある豚群に対しては、分娩舎での母豚用飼料に抗菌剤を添加する場合があるが、その際、大腸菌の薬剤感受性は、菌株ごとに異なるので原因大腸菌の薬剤感受性を確認してから抗菌剤を選択する。また、ワクチンは定着因子と菌体抗原の含まれた不活化ワクチンが市販されているので、本ワクチンを母豚に接種し、移行抗体により子豚の発症を防御する。

 しかし、本ワクチンは農場の原因菌となっている大腸菌と同一の定着因子を保有していなければ効果は期待できないので、接種前に調べておく必要がある。

(8)豚赤痢

 本症は、豚赤痢菌 Brachyspira hyodysenteriae の感染によって粘血下痢便や削痩を呈し、主に2〜5ヵ月齢の肥育豚に多発する急性および慢性の伝染病である。本症は発生地からの病豚の導入によって発生する場合が多く、潜伏期間は1〜2週間程度である。一度本菌に汚染された農場では、菌量が一定以上増殖した豚で散発的に発生し、常在化しやすい。連続飼養方式の農場では、隣接豚房から飛散した下痢便が感染源になる場合や、洗浄や消毒が不十分な床からの感染が推測される。

 本症は、60〜90日齢豚では、感染するが発症率は低く、主として120日齢以上の肥育後期の豚における集団発生が多い。冬は胸膜肺炎等の呼吸器疾患との併発が増加するので、死亡率は高くなる。また、発病豚は症状回復後も発育遅延がみられ、経済的被害は大きい。

 病態の進行に伴って、灰黄色軟便から緑褐色の粘血を混じた泥状便、さらに重症例では黒褐色の水様血便まで多様な下痢を呈する。また、40〜41℃の発熱、食欲不振、脱水症状がみられるが、飲水欲は高進し、被毛の光沢は失い、削痩して発育遅延に陥る。本症単独による死亡率は低いが、まれに妊娠末期の母豚は貧血によって死亡する。

 予防対策として、発生地域から病豚の導入が感染源になる場合が多いので、導入豚の隔離検査は不可欠である。また、感染の拡大は罹患豚のふん便の飛散によって生じるため、オールイン・オールアウト方式の衛生管理が有効である。B. hyodysenteriae は乾燥や消毒に著しく弱いので、空舎期間を設けて洗浄および消毒を行った後に十分乾燥させる必要がある。治療にはリンコマイシン製剤やチアムリン製剤を筋肉内注射し、また病豚では飲水欲が高進するのでこれらの製剤を飲水投与する。

(9)萎縮性鼻炎

 本症は、Bordetella bronchiseptica (Bb) および毒素産生 Pasteurella multocida (tPm) の混合感染またはいずれかの感染によって呼吸器系の異常を示し、鼻甲介の萎縮または変形を主徴とする慢性疾病であり、罹患率が高く、著しい経済的損失をもたらす。

 Bb および tPm は、鼻粘膜に定着して発病するが、Bb の産生する皮膚壊死毒素は主に骨芽細胞に作用して骨形成を阻害し、tPm の産生毒素は主に破骨細胞に作用して骨吸収を異常高進する。

 Bb 単独感染による場合は比較的軽度に経過し、2ヵ月齢以降の感染ではほとんど発症しない。一方、tPm の単独感染または Bb との混合感染の場合は、いずれの時期でも重度の発症がみられる。

 主な感染は、病豚および保菌豚との接触あるいはくしゃみ、発咳時の飛沫を介して成立する。気候不順などの環境要因や移動などのストレスも発病あるいは病態の進行を促す結果となる。病豚は増体重の減少に伴い発育遅延や飼料効率の低下をきたし、また、本症は他の呼吸器疾患を誘発する要因となり、その結果さらに重篤な被害を与えることになる。

 主な症状として、初期には鼻汁漏出、鼻づまり、くしゃみ、アイパッチなどがみられ、病態の進行に伴い上顎の短縮による不整交合、狆面、鼻萎縮、鼻湾曲などの症状を呈する。本症を適切に予防するためには、農場単位で一斉に各月齢の豚の鼻腔および扁桃からぬぐい液を採取して菌検査することが望ましい。

 予防対策として、Bb の不活化菌体、コンポーネントおよびトキソイド、あるいは tPmトキソイドやこれらの混合ワクチンを用いている。また、幼若豚の鼻内接種用としてBb 生ワクチンがある。不活化菌体、コンポーネント、生菌ワクチンは Bb の定着を、トキソイドワクチンはそれぞれの毒素による病変形成を抑制または阻止する。

 治療には、サルファ剤の飼料添加、サルファ剤およびオキシテトラサイクリンの注射、オキシテトラサイクリンおよびカナマイシンの鼻腔内噴霧がある。

(10)豚胸膜肺炎

 本症は、Actinobacillus pleuropneumoniae の感染によって生じ、繊維素性胸膜肺炎を特徴とする豚の細菌性感染症であり、多大の経済的被害をもたらしている。本菌は発育にV因子を要求する生物型1と要求しない生物型2に分離されるが、病変部からはほとんど生物型1が分離される。この生物型1は、さらに1〜12の血清型に分類され、わが国では2型、5型、1型の順に多く発生している。

 本菌の感染は、感染豚の鼻汁や分泌物の飛沫の吸引および豚相互の直接接触によって成立するが、飼育者の衣服や長靴を介しても汚染は拡大する。本症は一般に冬に多発するが、気温の変動が大きい晩秋や早春にも多発する。

 発症要因としては、密飼い、換気不良、気温の変動、群の再編成あるいは輸送などのストレスの負荷、他の病原体との混合感染などが挙げられる。

 本症は、通常4〜5ヵ月齢の肥育期に群単位で多発するが、離乳期や出荷直前にも発症するので、すべての月齢の豚が本菌に対して感受性がある。

 本症の主な症状は、呼吸器系の異常であり、甚急性や急性の症例では経過が早く、致死率が高い。甚急性では、突然の元気消失および食欲廃絶して、病豚は横臥し、下痢と嘔吐、発咳がみられた後に、呼吸促迫と困難、開口および腹式呼吸を示し、鼻腔と口腔に血液を混じた泡沫状分泌物を付着し、全身のチアノーゼを呈して24時間以内に死亡する。また、敗血症を生じた症例は、顕著な臨床症状を示すことなく急死する。急性型はこれらの症状を2〜3日経過して死亡する。慢性型は、急性型の耐過症例で認められ、時々発咳を生ずる程度で顕著な呼吸器症状はみられないが、食欲は減退し、発育は遅延する。

 また慢性感染豚は、外見上異常がなくても長期間にわたり排菌するので、このような豚を清浄豚群に導入することは、本症を発生させる危険性が大きい。

 本症の予防には各種のワクチンが開発されていて、広く応用されているが、これらのワクチンは本菌の感染を予防するのではなく、発症を軽減あるいは抑制する役割なのでこの点を十分認識しておくことが大切である。飼養管理では、一般的な呼吸器病対策と同様に、密飼いの禁止、適切な温湿度と換気の管理、オールイン・オールアウト方式の徹底、空舎の消毒である。治療用薬剤は、薬剤感受性を調べた上で用いるべきである。

(筆者:日本大学生物資源科学部教授)