シリーズ
─ たい肥利用の耕種農家を訪ねて(3)─

ナスのハウス栽培にはたい肥の腐植が必要

── 岡山県児島郡灘崎町 大塚公祐さん ──

 

大 村 昌 治 郎


 たい肥利用の耕種農家を訪ねての3回目は、岡山県児島郡灘崎町で千両ナスのハウス栽培もしている大塚公祐さんにお話を伺いました。

 灘崎町の千両ナスといえば、全国的にも有名で、関東・京阪神地方を中心に出荷され、好評を博しています。千両ナスの果実は長卵形であり、果皮は軟らかく、色は濃紫色、光沢は優れています。品質の良い品種で、分枝が多く、生育が旺盛であるため、その特性を十分発揮するには、ハウスでの加温栽培に適しています。ハウスの中はいつでも、紫色に実った、つやがよく張りのあるナスが鈴なりになっています。

写真−1 ハウスで栽培されている千両ナス

写真−2 大塚公祐さん

 千両ナスは一般に栽培が難しいといわれていますが、灘崎町の温暖多照な気象条件に加え、苦土分の多い粘土質の干拓地の土壌がナスの生育に適しているようです。

 
1.栽培作目と面積
 

 大塚さんの経営では、ナス(千両)と水稲(ヒノヒカリ)を栽培しています。水稲にはたい肥をほとんど使わず、ナスにはたい肥を施用しています。大塚さんがナスを栽培しはじめたのは昭和54年からです。収穫されたナスは全量、備南農協に出荷しています。その後、岡山、大阪、東京の市場に出荷されるそうです。

 ナスの栽培面積はハウス面積で17aになり、ハウス2棟でナスの栽培を行っています。ナスの品種は千両ナスで、ハウス栽培は露地栽培とは異なり、10月から翌年6月までの約9カ月間続けて収穫します。ナス1本の木より約250〜300個とれるそうです。

表−1 栽培作目および施用について

栽培作目  ナス(千両)、水稲(ヒノヒカリ)
栽培面積 ナス:17a(ハウス面積)
水稲:175a
栽培時期 9月から翌年6月まで
栽培体系 苗の植付けを9月に行い、10月ぐらいからナスの出荷を行う。花が咲いて2週間経ってから収穫開始して、翌年6月まで。
単  収 17t/10a
施用時期 7月(鋤き込み)と9月(表面散布)の2回
たい肥施用量 7月(2.3t/10a)、9月(2.3t/10a)
1年間の10a当たり施用量は4.6t
施用方法 7月にハウス1棟当たり(85m2)に40l(15kg)の袋詰めたい肥を120〜130袋施用し(3.9t/17a)、鋤き込む。施用後、連作障害防止のため土の水洗い(水を張ってから排水する)をする。
さらに、9月の植付け後、表面に施用する。このときも、ハウス1棟当たり(85m2)に40l(15kg)の袋詰めたい肥を120〜130袋施用する(3.9t/17a)。

 苗の植付けは9月に行います。収穫は花が咲いて2週間経ったぐらいからで、10月ぐらいから6月までナスの出荷を行います。ナスの収穫量は10a当たり17tになります。

 ナスの生育は旺盛で、ハウスで栽培されている様子を見ると、葉っぱなどは非常に大きくて驚いてしまいます。高さは人の身長くらいまで生長します。もっと高くなるようですが、収穫する人のことを考えて人の身長ぐらいにしているそうです。

 備南農協でのナスの大きさの規格はS(62g以下)〜LLL(142gまで)まであるとのことで、小さいほど単価は高くなるそうですが、1本の木からなる実の数が決まっているので、収入を良くしようと思えばM(62〜82g)かL(82〜102g)ぐらいが良いそうです。

 
2.たい肥の施肥状況
 

 大塚さんは、たい肥の施用を、7月(鋤き込み)と9月(表面散布)の2回行っています。

 7月には、ハウス1棟(85m2)当たりに40l(15kg)の袋詰めたい肥(奈義町有機センターの高原有機)を120〜130袋(3.9t/17a)鋤き込んで施用します。10a当たりの施用量は2.3tになります。施用した後、連作障害を防止のために、水を張ってから排水し、土壌を水洗いします。

 さらに、9月にナスの苗を植付けした後に、たい肥を盛り土の表面に施用します。このときも、ハウス1棟当たり(85m2)に40l(15kg)の袋詰めたい肥を120〜130袋施用します。ハウス面積17aに合計で3.9t。この時10a当たりの施用量は2.3tになり、7月と9月の10a当たりの施用量の合計は4.6tになります。備南農協の指導では、たい肥を10a当たり5〜6t投入するよう指導しているそうです。

 
写真−3  成育中のナスと表面散布されたたい肥
 
写真−4  たい肥の表面散布を上から見たところ

 
3.現在利用しているたい肥について
 

 利用しているたい肥は、鋤き込み用に袋詰めたい肥として奈義有機センターから高原有機を購入しています。奈義有機センターの高原有機の価格は1袋(40l)300円です。奈義有機センターの高原有機以外にも、樹皮を主成分としたバークたい肥であるアースファットンなどを使われることもあるそうです。

表−2 家畜ふん尿と副資材の調達

入手先  奈義有機センターほか
種 類 高原有機など
副資材  バーク、オガクズ、コーヒー粕等
受入単価 300円/袋

 大塚さんは、ナスの栽培に、たい肥からの栄養分はあまり欲しくないそうで、腐植としての価値が大切だと考えています。そのため、大塚さんの求めるたい肥は、腐植が進んで窒素成分が少ないたい肥だそうです。

 たい肥の施用目的は土壌中の腐植を増やし、土壌を改良することを第一に考えています。

 
4.たい肥の施用効果について
 

 大塚さんにとって、たい肥に求める施用効果は、第一に腐植としての役割です。施用目的は、肥料成分の適正供給である化学性の改良ではなく、根のまわりの環境改善効果・養分保持力が増大するなどの物理性の改良です。たい肥を施用することで、土壌の物理性が改良され、土を健康的に維持できるし、その結果、ナスの根の張りはよくなるそうです。物理性の改良された土壌は、団粒構造が発達しているため、土が軟らかくなり、保水性や排水性にも優れ、作物の根が良く発達し、養分や水分の吸収が高まるといわれています。

表−3 たい肥の施用効果

たい肥の連年施用 している。
たい肥を施用することで、
土壌はどう変わるか?
たい肥は腐植として入れるため、土壌は良くなる。土は良い状態に維持され、作物の根の張りがよくなる。
野菜の生育は? 根の張りが良くなり、生育もよくなる。
病害虫の発生は? たい肥の施用による病害虫の発生はない。ただし、たい肥の保管が悪いと、ナメクジがたい肥に入り込み、施用したときにハウスの中に入り、ナスをかじる被害がある。
連作障害の発生は? 連作障害は発生していない。
作物の根張りは? 作物の根の張りは良くなる。
作物の収量は? たい肥の施用で収量が多くなるかどうか分からない。

 連作障害について伺ったところ、たい肥を入れた効果かどうかわからないそうですが、ナスの品種の改良もあって連作障害は起きないようです。土が良い状態で維持されているため、連作障害が防止されていると思われます。

 たい肥の施用による病害虫による被害はないそうです。しかし、バラたい肥を買ってから土の上に直接積んでいると、たい肥の中にナメクジが入るそうです。知らずにそのまま施用すると、ナスの実ができたとき、ナメクジが這いずりナスの実を食べてしまうため、商品価値がなくなり出荷できなくなるそうです。ナメクジは1回かじったナスはかじらず、別のものをかじるため、被害が大きくなるようです。そのため、バラたい肥を買ってきたときには、ビニールシートを敷いてからたい肥を積むようにしているとのことでした。

 
5.最後に
 

 大塚さんに入ってくるたい肥の情報は、業者からの情報が多いそうです。いろんな業者がセールスにくるそうです。

 一方、畜産からのたい肥の情報はほとんど入ってこないそうです。現在使っている奈義有機センターの高原有機は知り合いの農家の紹介で買うようになったそうで、畜産関係からの直接の売込みではないとのことでした。

 もし、たい肥を売込むのであれば、農協へ売込むよりは個別に農家へセールスする必要があるだろうと大塚さんは言われます。サンプルを農家に置いていくのも効果的で、まずは使ってもらうことが大切だそうです。

 畜産から耕種に向けて、よりいっそうの積極的なたい肥の売り込みが必要だと思われます。

 特に、畜産農家がそれほど多くない地域であれば、畜産農家と耕種農家の接触もないため、畜産関係からのたい肥の情報を流していくべきだと考えられます。

(筆者:(社)岡山県畜産会・畜産コンサルタント)

本稿は、岡山県畜産会発行『岡山畜産便り』2002年1月号に掲載されたものです。