低蛋白質飼料とリンゴジュース粕の添加によって
豚からの窒素排せつ量を減らす

山 本 朱 美


 わが国における家畜ふん尿の排せつ量は、すでに農地の受容能力に達したと推定されています。生雲(2000)によれば、家畜からの窒素排せつ量は年間77万tにも及びますが、これから浄化処理やアンモニアとして揮散する部分を除いても、耕地等へ還元されるべき窒素の量は50万tを超えるとされています。一方、作物生産におけるふん尿の窒素の受入れ可能量は、志賀(1994)によれば58〜71万tとされています。これらの値は全国の平均値であって、家畜の飼育密度には地域的な偏りがあるため、地域によっては耕地への受入れ可能量の3〜4倍にもなっているといわれています。このような状況下で、1999年にいわゆる環境三法が施行され、わが国の畜産が今後持続的に発展するためには、ふん尿問題への現場での対応が緊急に求められることとなりました。したがって、排せつされたふん尿の処理や利用といった従来型の研究に加えて、ふん尿の排せつ量やそこに含まれる窒素やリンの排せつ量を低減させるための新たな技術開発への取組みがますます重要になるものと考えられます。

 最近、豚の生産性は損なわずに、環境負荷物質である窒素やリンの排せつ量を減らす多くの試みがみられるようになりました。このうち、窒素の排せつ量については、低蛋白質飼料に不足するアミノ酸を添加して給与することによって、窒素の排せつ量を30〜45%減らす、環境に優しい家畜の飼い方、いわゆるエコフレンドリー・フィーディングが注目されるようになりました。

 ここでは、低蛋白質飼料給与による窒素排せつ量の低減について解説するとともに、最近、筆者らは一般的な市販飼料にリンゴジュース粕を添加して豚に給与すると、尿中の窒素排せつ量が著しく低減される現象を見出しましたので紹介します。

1.ふん尿中窒素排せつ量を減らす飼料設計

1)アミノ酸添加の低蛋白質飼料

(1)日本飼養標準・豚のアミノ酸要求量を理解する

 豚は産肉を目的とする家畜ですが、その食肉を構成する蛋白質(CP)は20種類のアミノ酸からできています。摂取した蛋白質は消化管内でアミノ酸にまで分解され、吸収されますので、実際に豚に必要なのは蛋白質ではなく、リジン、メチオニン、トレオニン、トリプトファンなどの個々の必須アミノ酸(10種類)および非必須アミノ酸の総量です。アミノ酸要求量に合致したアミノ酸パターンをもった蛋白質ほど良質であり、飼料への配合量も少なくてよいことになります(図−1)。したがって、従来のようにCPやDCP(可消化粗蛋白質)で要求量を決めることには無理があり、現行の『日本飼養標準・豚』では、飼料の配合設計はアミノ酸要求量に基づくのが合理的であるとしています。極端にいえば、飼料中のCPやDCP含量はどうでもよいのです。いまだに「蛋白質信仰」が根強くみられ、蛋白質含量が高いほどよいとの誤解がありますが、早く改めたいものです。飼料設計をアミノ酸要求量に基づいて行うことにより、飼料の蛋白質含量を低くすることができ、ふん尿の窒素排せつ量を減らすことができます。

図−1 粗蛋白質(CP)含量が16および11%飼料における主な必須アミノ酸の
要求量に対する充足度(体重30〜70kg)

(2)尿中窒素(尿素)は体内でどのようにして作られるのか

 体内の蛋白質の合成にアミノ酸が必要なことはすでに述べましたが、1日に合成できる蛋白質の量は豚の能力によって決まっていますので、必要となるアミノ酸の量も自ずと決まってきます。1日に必要な量以上のアミノ酸を摂取しても、豚(動物)はアミノ酸を体内に貯蔵することができませんので、過剰のアミノ酸は肝臓で尿素となり、尿として体外に排せつされます。ちなみに、尿中の窒素のうち、90%以上が尿素ですが、この尿素は過剰のアミノ酸から合成されます。したがって、尿中の窒素(尿素)の排せつ量を減らすには、各必須アミノ酸を豚の要求量に合致するように与えることが極めて大切です。

(3)窒素排せつ量の低減効果を予測する

 低蛋白質飼料に、不足するアミノ酸を添加給与することにより、アミノ酸バランスは改善され、発育や肉質を落とすことなく、ふん尿を合わせた総窒素排せつ量は30〜45%低減されます〔『日本飼養標準・豚(1998)』〕。ただし、厳密にいえば、この低減割合は、対照とする飼料および低蛋白質飼料のCPをいくらに設定するかによって異なり、これまでの成績を総合しますと、飼料中のCP含量を1%低下させるごとに、ふん尿からの窒素排せつ量は約10%低減されると考えられます。

2)高繊維質原料としてのリンゴジュース粕の利用

(1)養豚飼料への添加によって尿中窒素の排せつ量が36%減った

 市販飼料に乾燥したリンゴジュース粕を30%添加して給与したところ、尿中への窒素の排せつ量が著しく減ることがわかりました。窒素の1日当たりの摂取量は、リンゴジュース粕を添加した場合にやや多くなりましたが、尿中への窒素排せつ量は市販飼料を給与した場合に比べ64%にまで減少しました。逆にふん中への窒素排せつ量は約2倍に増えました。つまり、尿中に排せつされるべき窒素がふん中に移行し、ふん尿を合わせた窒素排せつ量はほとんど変わらないことになります。ふん尿処理の現場では、固分(ふん)の処理よりも液分(尿)の処理の方が大変ですから、尿の窒素が減ることは大きなメリットがあります。

(2)リンゴジュース粕がなぜ効くのか

 リンゴジュース粕の成分の主体は繊維性の非澱粉多糖類(NSP)です。NSPとは有機物から粗蛋白質、粗脂肪、でんぷんおよび糖を差引いたものを指します。養豚飼料に多く配合されているトウモロコシの9.8%、大豆粕の25.8%と比べ、リンゴジュース粕は68.7%ですから、いかに高い数値であるかがお分かりになるでしょう。その他の成分組成は表−1を参照して下さい。

表−1 乾燥リンゴジュース粕の成分組成(%)

水分 粗蛋白質 粗脂肪 可溶性無窒素物 粗繊維 粗灰分
9.6 8.5 11.9 49.2 18.9 1.9

 リンゴジュース粕は胃や小腸ではほとんど消化を受けずに大腸に流入します。大腸では、NSPをエネルギー源として腸内細菌の増殖が活発になりますが、その際に菌体蛋白質合成に必要な窒素源がリンゴジュース粕にはじゅうぶん含まれていません。そこで、肝臓で合成され、本来腎臓を経て尿中に排せつされるべき尿素が、血流の尿素循環により消化管から分泌され、菌体蛋白質の合成に使われます。そのため、尿中への窒素排せつ量が減ることになります。図−2には、リンゴジュース粕の添加で尿中窒素排せつ量が減るメカニズムを模式的に示しました。

図−2 市販飼料あるいはリンゴジュース粕添加飼料を給与した場合の窒素の摂取量
およびふんと尿への排出量(g/日)

(3)尿素循環される窒素の腸内微生物の利用

 反芻家畜では、尿素循環により尿素が唾液やルーメンに分泌され、ルーメン微生物の増殖に使われることは古くから知られていますが、豚での尿素循環の役割が明らかにされたのはごく最近のことです。反芻家畜の場合は、ルーメンで合成された微生物蛋白質を生体が下部消化管で利用します。豚では腸内微生物が生成する揮発性脂肪酸(VFA)をエネルギー源として使いますが、菌体そのものは栄養的に利用されることはなく、ふんとして排せつされます。

2.尿中への窒素排せつ量が減るとアンモニア発生量が減る

 低蛋白質飼料の給与によって尿中への窒素排せつ量が著しく減るため、この尿素から発生するアンモニアも減ります。これは、尿中の尿素とふんに含まれる尿素分解酵素(ウレアーゼ)が反応した結果であり、ふんと尿をできるだけ速やかに分離することがアンモニア発生を抑えるのに重要であることを示しています。豚舎で発生するアンモニアの大部分はふんと尿が混合した結果生じます。低蛋白質飼料の給与により、尿中への窒素(尿素)の排せつ量が低減し、豚舎からのアンモニア発生量が減ります。

1)アミノ酸添加の低CP飼料を給与した場合

 筆者らは、標準的なCP含量16.4%の飼料とアミノ酸を添加した10.9%の飼料で比較し、尿中への窒素の排せつ量が約50%にまで減るのに伴ない、ふん尿混合物からのアンモニア発生量が約3分の1に減少することを明らかにしました。ふんあるいは尿単独からのアンモニア発生量は微量であり、ふんと尿を混合するとアンモニアの発生がみられました(表−2表−3)。低蛋白質飼料の給与でふん尿混合物からのアンモニア発生量が低減することは、阿部ら(2000)も妊娠豚で観察しています。

表−2 飼料のCP水準がふんおよび尿への窒素排せつ量に及ぼす影響

  標準CP飼料 低CP飼料
飼料摂取量(g/日) 2018.0 2070.1(103)**
窒素摂取量(g/日) 0053.0 36.1(68)**
ふん中窒素排せつ量(g/日) 0010.0 8.2(82)**
尿中窒素排せつ量(g/日) 0018.1 9.1(50)**
総窒素排せつ量(g/日) 0028.1 17.4(62)**
窒素蓄積量(g/日) 0024.9 18.7(76)**
( )は標準CP飼料区に対する相対値
**P <0.01

表−3 飼料のCP水準がふん、尿およびふん尿混合物からのアンモニア発生量に及ぼす影響

  標準CP飼料 低CP飼料
アンモニア発生量(mg)
ふん <0.1 <0.1
尿 <0.1 <0.1
ふん尿混合物 21.2 7.7(36)**
( )は標準CP飼料区に対する相対値
**P <0.01

2)リンゴジュース粕を添加した場合

 筆者らは、アミノ酸添加の低CP飼料にリンゴジュース粕を30%添加して給与したところ、低CP飼料に比較して尿中への窒素排せつ量が低CP飼料給与時の更に約50%に減少し、ふん尿混合物からのアンモニア発生量は約20%に減少しました(表−4)。尿中への窒素排せつ量に比べ、アンモニア発生量の方が減少率が大きかった理由として、リンゴジュース粕の添加によりふん中のVFA含量が多くなり、そのためにふんのpHが低下し、ふん尿混合物(スラリー)中のアンモニアが発生しにくくなったと考えられました。スラリーのpHが低いとアンモニアの揮散量が低くなることはよく知られています。

表−4 窒素排せつ量およびスラリーからのアンモニア揮散量におよぼす
低CP飼料へのリンゴジュース粕添加の影響

  低CP飼料 低CPリンゴ粕飼料
飼料摂取量(kg/d) 000.98 001.23(126)**
窒素摂取量(g/d) 017.76 018.64(105)**
総窒素排せつ量(g/d) 009.58 009.97(104)**
ふん中窒素排せつ量(g/d) 003.63 006.86(189)**
尿中窒素排せつ量(g/d) 005.95 003.11(52)**
窒素蓄積量(g/d) 008.18 008.67(106)**
アンモニア揮散量(mg/d) 603.98 120.67(20)
( )は低CP飼料区に対する相対値
P<0.01;**P<0.001

3.窒素排せつ量の低減を巡るいくつかの問題点と課題

1)厚脂の問題と発育能力に応じたアミノ酸要求量の正確な把握

 アミノ酸添加の低蛋白質飼料の給与で厚脂傾向が認められる場合があり、特に脂肪が付きやすい素質をもつ豚では注意が必要です。

 低蛋白質化で厚脂になる理由については明確ではありませんが、1つには、いずれかのアミノ酸の不足が考えられます。最近では、日増体量が1,000gを超える豚がごく普通にみられます。このように発育能力の高い豚に、飼養標準で示された標準的な要求量の飼料を給与すると、アミノ酸、特に多くの場合はリジンが欠乏して脂肪の厚い豚が生産されることになります。発育能力に応じたアミノ酸要求量の正確な把握が必要です。算出方法については『日本飼養標準・豚(1998)』を参照して下さい。一方では、給与飼料のアミノ酸含量を正確につかむ必要のあることはいうまでもありません。

 2つ目として、吸収される蛋白質の体内でのエネルギー利用性が炭水化物や脂質に比較して低いことがあげられます。炭水化物や脂質が体内で無駄なく使われるのに対して、蛋白質の多くの部分は尿素として排せつされますが、これにはまだエネルギーが多く残っています。また、蛋白質が体内で代謝を受ける際には特異動的作用による熱増加がみられます。したがって、同量の可消化エネルギー(DE)を与えた場合には、低蛋白質飼料の方がエネルギーの利用効率がよいため、余分のエネルギーは脂肪として蓄積されることとなります。

 低蛋白質飼料給与時の厚脂については不明な点が多いのですが、現場ではあまり大きな問題にはなっておらず、特に厚脂になりやすい豚でなければ、あまり気にすることはないと思います。

2)リンゴジュース粕の飼料利用の今後の課題

 養豚飼料原料へのリンゴジュース粕の添加により、尿中への窒素排せつ量が低減することが分かりました。その結果として、汚水処理の負担の軽減とともに、豚舎からのアンモニア発生量の低減が期待されますが、現場での実証は今後の課題です。

(1)発育、肉質への影響

 この種の飼料原料の添加では、家畜の発育や肉質に悪影響のないことが前提です。山形県の鈴木ら(1992)はリンゴジュース粕を10%添加した飼料で肥育試験を行い、発育および飼料の利用性はやや劣りましたが、養豚飼料原料としてじゅうぶんに利用できると報告しています。また、福島県の山田ら(2001)は、同じくリンゴジュース粕10%添加で、発育と肉質を調べていますが、発育には差がなく、脂肪酸組成の分析から体脂肪の軟化を防ぐ可能性を示唆しています。

(2)リンゴジュース粕以外の高繊維質飼料の検索

尿中への窒素排せつ量低減では、リンゴジュース粕に限らず、繊維物質(NSP)が主体で、CP含量の低い飼料原料であればその添加効果が期待できます。現在までに、NSPがリンゴジュース粕と同等のビートパルプについて検討しましたが、同様の尿中窒素排せつ量とアンモニア発生量の低減が認められました。

3)飼料中の蛋白質含量の低減には限界がある

前述したように、動物(豚)は必須アミノ酸以外に、約50%の非必須アミノ酸の総量が必要です。ですから、必須アミノ酸要求量を満たせば蛋白質含量はいくら低くしてもよいというわけにはいきません。限度はどの程度かといえば、安全率をみれば、肥育前期(30〜70kg)でCPとして12%、肥育後期で10%が無難です。それにしても、これらの値は、飼養標準よりもはるかに低くなっています。

4)環境に優しい飼い方のコストの問題

 養豚では、飼料費が大きな部分を占めますから、これがどうかを考えてみましょう。飼料中の蛋白質含量を下げますと、蛋白質飼料原料は比較的高いため、コストは安くなる方向に働きます。ところが、低蛋白質化した場合にはいくつかの必須アミノ酸を添加する必要があるため、これは飼料コストを高めます。したがって、両者の兼合いということになりますが、先程述べた、肥育前期で12%、後期で10%程度の低蛋白質化であれば、比較的安価なリジンおよびトレオニンの添加だけですみますから、飼料コストが高くなることはありません。今後、これらのアミノ酸が安く生産されるようになれば、むしろ安い飼料コストで、窒素の排せつ量やアンモニア発生量の低減が可能になると思われます。

 窒素やリンの排せつ量が減れば、それらの処理コストも低減されるはずですが、今のところ具体的に示すデータはありません。これも今後の課題です。

あとがき

 最近の農水省の調査によりますと、環境に優しい飼料、いわゆるエコ・フィードは、豚や鶏では飼料全体の約20%を占めるとされています。これらの飼料をじょうずに使うには、何よりもそれらの原理を理解することが重要です。ここでは、窒素の排せつ量の低減について、その基本的な考えを述べました。特に、いまだに根強くある「蛋白質信仰」を取払い、CPやDCPではなくアミノ酸要求量に基づいた飼料設計を力説したつもりです。また、筆者らの研究所で、最近、リンゴジュース粕やビートパルプを飼料に添加すると、尿中の窒素排せつ量が著しく減少する現象を見出し、これについてもやや詳しく紹介しました。現場での実証が必要ですが、環境に優しい飼い方に寄与できるものと思っています。

筆者:(財)畜産環境整備機構 畜産環境技術研究所・研究員