フリーストール牛舎の排せつ物処理と諸問題(II)

加 茂 幹 男
 
 
6.ふん尿処理の実態と問題点

 平成9年から平成10年にふん尿処理の実態調査を行い、ふん尿処理の現状と問題点などについて明らかにしてきました。調査数は819件で、そのうち、繋飼い方式が679件、放飼い方式が130件、不明が10件でした。放飼い方式のうち、フリーストール方式は100件、フリーバーン方式が20件、不明が10件でした。
 
 1)敷料の使用状況

 敷料は、牛を清潔に管理するだけではなく、牛床に適度な軟らかさと弾力性を与えて快適な居住空間を牛に提供しています。また、牛から排せつされるふん尿の物性を改善し、ふん尿を適正にたい肥化処理する重要な役割を果たしています。したがって、敷料を豊富に利用することは、飼養管理上極めて重要なことですが、使用される敷料の種類や量は、家畜の飼養管理方式によって異なり、オガクズなどの販売価格が比較的高価で、安定して入手することが困難なことから、必ずしもじゅうぶんな敷料が使用されていないのが現状です。

 (1)敷料の種類 繋飼い方式の牛舎で使用されている敷料はオガクズが最も多く、次いで、モミ殻、ワラ類、カンナクズなどとなっており、戻したい肥を利用している事例も数%となっています。一方、敷料を全く使用していない事例が20%程度を示し、ふん尿を適正に処理し難い状況にあります(図−3)。 

図−3 乳牛の飼養管理方式と敷料の種類

 放飼い方式の牛舎で利用されている敷料は、繋飼い方式と同様にオガクズが最も多く、次いでモミ殻、戻したい肥、カンナクズ、砂となっており、繋飼い方式と異なり、戻したい肥を敷料として再利用している割合が多くみられます(図−3)。敷料を全く使用していない事例は、わずか5%程度で、敷料の使用を基本とする飼養管理が行われています。 

 (2)敷料の使用量 オガクズの1ヵ月当たりの平均使用量は、1頭で繋飼い方式が0.4m3、放飼い方式が0.76m3で、放飼い方式では繋飼い方式の2倍程度の使用量を示しています。 

 (3)敷料の交換方法 繋飼い方式では、一輪車を用いて人力で敷料をストールに投入している事例が最も多く、頭数規模が多くなると、敷料を投入する作業も多労になっています。 

 放飼い方式では、多くの酪農家がローダ類を用いて省力的に敷料をストール内に投入しています。近年では、麦ワラのロールベールを解体しながらストールに投入する機械やオガクズをストールに投入する作業機などを海外から導入している事例もあり、戻したい肥を自動的にストールへ投入する装置が開発されています。
 
 
 2)ふん尿処理施設の導入状況

 導入されているふん尿処理施設のうち、たい肥盤、たい肥舎およびスラリー貯留槽などは、繋飼い方式や放飼い方式に共通して設置割合が高いですが、放飼い方式において、これらの設置割合が高くなっています。また、放飼い方式では、開放型撹拌たい肥化施設、密閉型撹拌たい肥化施設および固液分離機などの設置割合が繋飼い方式より高い値を示しており、放飼い方式への移行とともに、これらの導入が積極的に行われています(図−4)。

図−4 ふん尿処理施設の導入状況

 (1)たい肥舎 主として、切返しによってふん尿をたい肥化する施設で、最も多くの酪農家に導入されており、設置割合は、繋飼い方式が42%、放飼い方式が56%を示しています。中でもフリーストール方式では61%がたい肥舎を設置しており、そのうち、2割程度が通気装置を有する施設になっています。

 たい肥舎の処理の高さは175〜200cmが最も多く採用されており、平均は183cm程度になっています。また、たい肥舎の成牛換算1頭当たりの処理容積は2〜3m3が最も多く、平均は5.2m3程度となっています。 

 (2)たい肥盤 たい肥舎に次いで設置割合が高い施設で設置割合は、繋飼い方式が26%、放飼い方式が32%となっています。たい肥盤に屋根がある割合は、繋飼い方式が42%、放飼い方式が45%となっており、およそ6割程度が屋根を有していません。フリーストール方式では27%がたい肥盤を設置し、屋根のある割合は48%となっています。たい肥盤の成牛換算1頭当たりの床面積は、2.5m2以下が多く、平均は15m2程度を示しています。 

 (3)開放型撹拌たい肥化施設 発酵槽と専用の切返し装置から構成され、発酵槽の上面が解放されており、通気装置を有している施設と通気装置のない施設があります。繋飼い方式では8%、放飼い方式では17%の設置割合となっており、放飼い方式において積極的に導入されています。フリーストール方式での設置割合は18%となっています。 

 開放型撹拌たい肥化施設の処理の高さは30cm以下が最も多く採用されており、次に110cm以下の事例も多く、平均では93cm程度になっています。また、成牛換算1頭当たりの処理容積は2〜3m3が最も多く、平均では4.8m3程度となっています。 

 (4)密閉型撹拌たい肥化施設 密封円形状の発酵槽に原料と水分調整資材を投入し、専用の撹拌装置の回転によって撹拌・混合を行い、通気を行って3〜10日程度で発酵・乾燥処理する施設で、フリーストール方式では8%程度が設置しています。 

 (5)固液分離機 スラリーを固形分と液分に分離し、固形分をたい肥化処理し、液分を液肥化処理する装置で、繋飼い方式では8.5%、放飼い方式では17.7%の設置割合となっており、放飼い方式での導入が多くみられます。フリーストール方式での設置割合は21.1%となっています。導入されている分離機は、ローラー式が77%、スクリュー式が20%、濾布式が3%となっています。 

 (6)スラリー発酵槽 スラリーを撹拌・曝気処理して好気的な発酵処理を行う施設で、圃場散布時の悪臭を防止するのに有効な施設ですが、設置割合は、繋飼い方式が2%、フリーストール方式が7%と極めて少なくなっています。 

 (7)スラリー貯留槽 液状のふん尿混合物や固液分離された液分を単に貯留するだけの施設で、設置割合は、繋飼い方式が18%、フリーストール方式が23%となっており、たい肥舎やたい肥盤に次いで導入が多くなっています。しかし、単に貯留するだけでは、嫌気的な発酵となり、硫化水素などの悪臭成分を発生するため、圃場散布時の悪臭が大きな問題となります。 

 (8)ふん尿乾燥施設 ビニールハウス内でふん尿混合物を撹拌・混合しながら太陽熱を利用して乾燥する施設で、たい肥化処理の予備乾燥やたい肥の乾燥に用いられており、繋飼い方式では8%、放飼い方式では9%の設置割合となっています。フリーストール方式での設置割合は10%となっています。 

 乾燥処理の深さは10〜20cmが最も多く、平均は21cm程度になっています。 
 3)ふん尿処理の実施状況

 フリーストール方式でのふん尿処理状況は、切返しによるたい肥化処理が56%、生ふん処理が38%、撹拌によるたい肥化処理が27%、固液分離処理が22%、スラリー処理が21%、乾燥処理が10%となっています。切返しによるたい肥化処理と撹拌によるたい肥化処理を併せると83%となり、およそ8割がなんらかの方式でたい肥化処理を行っています(図−5)。

図−5 フリーストール方式でのふん尿処理方法

 たい肥化処理を行っている事例において、全量たい肥化処理を行っている割合はおよそ5割程度で、たい肥化処理施設の処理能力が不足し、処理しきれないふん尿については生ふん処理が行われています。一方、生ふん処理を行っている事例のうち、全量生ふん処理している割合は、2割程度となっています。また、スラリー処理を行っている事例のうち、全量スラリー処理している割合は、2割程度を示しています。 

 (1)生ふん処理 生ふん処理を行っている事例のうち、直接圃場散布が53%、野積みが37%、廃棄・その他が18%となっており(複数回答)、およそ4割が野積みを行っています(図−6)。 

図−6 生ふんの処理内容別実施割合(フリーストール方式)

 (2)切返したい肥化処理 たい肥化処理における水分調整は、副資材による水分調整が54%、太陽熱による予備乾燥が9%、野積みによる水分調整が16%となっており、水分調整を行っていない割合は27%となっています(複数回答)。副資材としてはオガクズが最も多く用いられており、次いで、戻したい肥やモミ殻が用いられ、戻したい肥の利用が多いのが特徴になっています。切返し間隔としては、28〜35日が最も多く、次いで、7日、7〜14日となっています。処理期間としては、90日、180日が多く、次いで60日、120日となっています。 

 (3)撹拌たい肥化処理 放飼い方式でみると、たい肥化処理における水分調整は、副資材による水分調整が67%、太陽熱による予備乾燥が11%となっており、水分調整を行っていない割合は22%となっています(図−7)。副資材としてはオガクズが最も多く利用されており、次いで戻したい肥やモミ殻が用いられ、戻したい肥利用が切返したい肥化処理と同様に多くなっています。処理期間は、42〜63日が最も多く、次いで28〜35日、126日以上となっています。 

図−7 たい肥の水分調整方法(フリーストール方式)

 (4)スラリー処理 スラリー処理を行っているうち、およそ5割程度が曝気処理を行っています。曝気処理の方法は、およそ7割が連続曝気で、3割が間欠曝気となっています。 

 (5)固液分離処理 ふん尿混合物の固液分離はほとんどが固液分離機によって行われていますが、副尿溝を用いて分離している事例も見られます。
 
 
 4)ふん尿処理上の問題点

 ふん尿処理実態調査から、(1)生ふん処理において野積みが行われている、(2)たい肥化処理における水分調整に野積みが行われている、(3)たい肥化処理施設の規模が不足しているために生ふん処理を行っている、(4)じゅうぶんな圃場面積が確保されていない、(5)草地・飼料作物の生産が放棄されているなどの問題点が明らかにされています。

 これらの問題点は、(1)頭数規模の増大に対応したじゅうぶんな圃場整備が行われていないこと、(2)適正な処理能力を有する処理施設が整備されていないこと、(3)ふん尿を適正に処理する時間が不足していることなどが大きな原因になっていると考えられます。特に、処理施設の整備が遅れているのは、施設費や維持費の高いことなどが大きな原因になっています。 

 また、草地・飼料作物の生産を放棄している事例では、輸入粗飼料を安価に購入でき、T M R(混合飼料)の調製を安定して行えることなどが大きな原因になっています。 

 ふん尿の利用形態の比較では、生ふん処理やスラリー処理を行っている経営では、家畜ふん尿のほとんどを経営内で処理せざるを得ない状況にありますが、たい肥化処理を行っている事例では、全量を経営内の自己利用に仕向けているのはわずか4割弱程度で、6割強の経営では、たい肥の販売や稲ワラとの外部交換を行い、経営外での利用促進を図っています。 

 したがって、草地・自給飼料基盤の脆弱な経営では、家畜ふん尿を適正に管理してたい肥化し、経営外でのたい肥利用を促進することが、過剰施用や野積み、あるいは廃棄などを解決する重要な手段になります。 

 フリーストール方式を導入している酪農家の多くは、フリーストール方式の導入時にたい肥化処理施設や固液分離施設の整備に努めています。しかし、これらの施設を整備した酪農家の多くは、施設費が高い、処理能力が不足している、販売が困難であるなどの問題点を指摘しており、処理コストが高い、維持費が高いなどの指摘も多くみられます。(図−8)。 

図−8 フリーストール方式での問題点(複数回答)


(単位:件)

 また、適切なたい肥化処理を行うには、水分調整を行うことが最も重要ですが、水分調整資材が不足している、水分調整が困難であるとの指摘が多くあります。 

 したがって、フリーストール牛舎から搬出される家畜ふん尿をたい肥化し、その有効利用を促進するには、(1)施設費、維持費、処理費などの低コスト化、(2)たい肥化処理施設の適切な設計を可能にする技術指針、(3)安価で容易に利用できる水分調整資材の確保、(4)家畜ふん尿処理に要する時間の短縮、(5)家畜ふん尿の地域内および地域外利用を可能にする流通化技術などが極めて重要になっています。
 
 
おわりに

 家畜ふん尿のたい肥化を促進するには、好気性微生物が活動できる環境条件を確保する適切な管理が基本です。 

 好気性微生物に必要な酸素を供給するためには、水分調整や切返しを行ってふん尿の物性を改善し、通気性や酸素の拡散性を維持する必要があります。 

 また、吸水性や保水性に富むだけではなく、通気性や拡散性を改善できる副資材を確保しなければなりません。 

 近年、戻したい肥を水分調整に用いる方法が広く普及していますが、水分が高く、副資材の混合が少ない戻したい肥では、通気性や拡散性の改善があまり期待できません。更に、副資材の使用量を低減させるには、畜舎内でふん尿水分を蒸発させることが極めて重要です。 

 資源循環を基本とする持続的な酪農生産を目指すには、好気性微生物を最大に活用できる基本原則をしっかり守ることが大切です。 

(筆者:独立行政法人農業技術研究機構
畜産草地研究所家畜生産管理部・上席研究官)