SPF豚が生んだ高位生産・高所得の養豚経営

−中村清貴さんの養豚経営−

井 上  寛


はじめに
 今回紹介する中村清貴さんは、愛媛県の県都松山市から南に約50km、車で約1時間の中山間地帯にある内子町大瀬でSPF農場を経営しています。内子町大瀬といえば、ノーベル文学賞を受賞した大江健三郎氏の出身地でもあり、内子町の歴史的街並みとともに有名な観光スポットの1つです。 

中村さん夫妻

 内子町の農業は、果樹、工芸農作物の栽培が盛んで、特に梨・ぶどう・りんご等の観光地農園が定着しており、農業粗生産額のシェアでみると果実34%、工芸農作物31%に次いで畜産が12%となっています。 

 平成12年7月には、四国縦貫自動車道の一部である伊予〜大洲間が開通し、内子町にもインターチェンジが出来て、物流・商流の発展はもとより、人々の交流や観光地として期待が高まっています。


経営概要
 経営者の中村さんは現在50歳で、奥さんと長女、長男、次男の5人家族です。養豚の経験年数は22年になります。現在の農業収入は、養豚部門が98%を占めており、残りの2%は山林の間伐等による木材売上となっています。飼養頭数は、種雌豚58頭、種雄豚4頭、種雌育成豚8頭、子豚190頭、肥育豚450頭となっています。 

畜舎全景右から、事務所、肉豚舎、子豚舎、左へ分娩舎、
ストール舎と続き、周囲はフェンスで区切られている。

 養豚経営は、中村さん夫婦2人が従事しており、休日には社会人の長男も手伝ってくれます。2人の作業分担は、本人が種付けと肥育管理とたい肥処理、そしてパソコンによる生産および経営管理を担当し、奥さんが主に分娩管理と豚舎清掃、そして管理台帳への記録・記帳を担当しています。


経営の歩み
 中村さんの経営は表−1のとおり推移しています。

表−1 経営の推移

 中村さんは山間地帯で生活していくためには、従来の米作と林業の複合経営から所得の向上を目指して、何か新しいことに取組まなければならないと考えていました。当時、旧内子町農協(現愛媛たいき農協)が事業主体となり養豚団地造成の話が持上がり、中村さんの意向と一致したことから養豚経営を決意しました。 

 養豚団地は、同年代の若手3人が参加しそれぞれ70頭規模のSPF豚一貫経営としてスタートしました。当時、旧愛媛経済連(現県農えひめ)がSPF豚の銘柄化確立に向けた本格的な取組みの中で、中村さんの徹底した飼育管理はもちろんのこと、旧農協・旧経済連が一体となって経営管理指導を継続したことが現在の経営安定にもつながっているといえます。 

 種雌豚頭数の規模は、労働力4名が従事していた平成9年までは、70頭程度の規模で林業との複合経営でしたが、平成9年に両親を事故で亡くしてからは55頭前後まで頭数を縮小し、現在は夫婦2名の労働力に見合った規模にしています。 

 特徴的な経過というと、約20年前の養豚経営立上げ当初からSPF豚を導入し、銘柄豚の有利販売を確立化している点と、平成5年に養豚診断システム「養豚物語・トントンアップ」をいち早く導入し、自らパソコンに向かって技術分析・経営分析に取組んでいる点です。 

 現在は、子供3名とも成人し、長男は自宅から通勤、長女、次男は県外で活躍しています。休日には、長男が手伝ってくれるものの、大部分が夫婦2名での作業なので、無理のないよう、少数精鋭の考えで種雌豚1頭当たりの肉豚出荷頭数増加、最終的には種雌豚1頭当たりの所得増大に向けてがんばりたいということです。


経営の特徴
 中村さんの経営の特徴をまとめると、以下のようなポイントがあげられます。
 
 

1.技術成績は県下一

 表−1のとおり、種雌豚1頭当たり肉豚出荷頭数が過去11年間の平均で22.2頭となっており、平成11年の成績は23.5頭で、県下の経営診断農家の平均値19.0頭を大きく上回っています。また、表−2のように肥育成績を見ると1日当たり増体重が603g、トータル飼料要求率は3.18となっており、県下の平均値を上回るトップクラスの成績で、非常に安定した高位の技術レベルといえます。そして、経営内容も固定負債が0円で健全経営となっています。
 
 

表−2 経営の実績・技術等の概要

2.SPF豚飼育による有利販売

 SPF豚の飼育により、飼料費・衛生費等の節減と増体向上および事故率の低減を図り、更に“味と質の向上”をねらって、混合飼料の「地養素」、「グローリッチ」を肉豚段階に添加することにより銘柄豚『新風味豚』として、有利販売しています。
 
 

3.生産管理技術へのこだわり

 種豚管理においては、5年前からAI(人工授精)に取組み、種雄豚飼育頭数の減少と夏期における受胎率の向上を目指した結果、産子数の増加と分娩の平準化が図られました。また、種豚の飼料には、リンカル、ブリードオイル、トンヘルシー等の栄養添加剤を欠かさず投与しています。 

 子豚育成段階においては、下痢対策・増体効果を目指して、飼料にセラミック炭を添加しており、子豚が赤みを帯びて育成率アップにつながっています。 

 肉豚肥育段階では、雌雄別飼いによる飼料要求率の改善と上物率の向上に努めており、雌肥育豚はウェットフィーダーによる不断給餌で、去勢肥育豚はドライ給餌器による制限給餌を実施しています。 

 一方、経営管理においては、県農えひめが開発した養豚経営診断システム「養豚物語・トントンアップ」を早期導入し、四半期ごとの経営分析や毎月の技術分析を基に、関係団体との定期的な経営検討会を開催したり、週間管理表の活用等によりローテーション養豚の励行に心掛けています。
 
 

4.臭気対策と環境美化

 ふん尿処理については、分娩舎は高床式、種豚舎はストール式、子豚舎は平飼い、肉豚舎は斜面蹴落とし豚舎で、分娩舎、種豚舎以外はオガクズ吸着によるふん尿混合処理となっています。SPF豚指定農場のため豚舎敷地内への出入りをなくし、たい肥は斜面乾燥たい肥舎を通して敷地外へ運び出し、農協たい肥センターへ定期的に運搬しているため、ふん尿処理問題の軽減にもなっています。 

分娩舎の徹底した衛生管理

 また、増体効果目的で給与している添加剤には、“木酢”や“炭”、あるいは天然ミネラル等が含まれているため、臭気対策としても役立っており、たい積日数が少なくてハエの発生も少ないようです。 

 豚舎は、山間部に位置するとはいえ周辺には四季折々の花を植え、花いっぱい運動に取組みながら環境美化に日々努力しています。
 
 

5.県下養豚農家のリーダー

 平成4年から9年までの3期6年にわたり、JA愛媛SPF豚経営者協議会の会長を歴任し、地域はもとより県下養豚農家のリーダーとして、養豚の生産振興に努力しています。また、平成12年には、愛媛県畜産会主催の第2回愛媛県優良畜産経営発表会にて最優秀賞を受賞され、収益性、発展性、安定性の高い経営として評価されています。


経営成果の概要
 中村さんの経営成績は表−2のとおりとなっています。 

 1腹当たり子豚哺乳開始頭数10.6頭、子豚育成率92.5%、種雌豚1頭当たり年間肉豚出荷頭数23.5頭、出荷肉豚1頭1日当たり増体重660g、トータル飼料要求率3.18、上物率63.2%と、どの実績値をみても畜産会指標と同レベルかあるいはそれ以上の成績となっており、県内の養豚経営診断農家の中でもトップクラスの生産性を収めています。また、借入金もなく、安全性においても問題のない経営といえます。


今後の課題
 豚舎や施設が老朽化する中で、一部改築の時期を迎えており、特に環境3法完全施行を前に、現状の斜面乾燥たい肥舎を整備する必要があります。 

 また、労働力が2名ということもあり、先祖代々受継がれている山林の管理もせざるを得ないことから、種雌豚規模は60頭前後を目安とし、1頭当たり年間肉豚出荷頭数25頭を目標とし、今後とも種雌豚1頭当たりの収益増大を目指していきたいということです。


おわりに
 豚舎へ行くと、中村さんと奥さんがいつも揃って出て来て、朗らかに対応していただきます。2人の人柄を感じるとともに、常に2人が研究熱心で、人一倍意欲的に養豚に取組む姿勢がうかがえます。「現在50歳。養豚経営も一生懸命やるが、遊びも一生懸命やりたい」と、中村さんはいいます。生き物を飼っている以上、なかなか手を空けることが出来ず、趣味のカラオケや魚釣りに行く暇は少ないかもしれませんが、無理をせず楽しみのある養豚経営に取組んでいただきたいと願っています。 

 今後も「高位生産・高所得」が継続されますよう、また県内養豚経営者のリーダーとしても活躍されることを祈念しています。
 
 

(筆者:(社)愛媛県畜産会・畜産コンサルタント)