フリーストール牛舎の排せつ物処理と諸問題(I)

加 茂 幹 男

 はじめに

 わが国の酪農は、これまで通年サイレージ方式の定着、飼養管理技術の向上、泌乳能力の向上などにより安定的に発展し、規模拡大が図られてきました。一方、家畜の生産とともに排せつされるふん尿は、有効な有機物資源として活用され、「土−草−家畜」による資源循環を基本とする良質自給飼料の生産と健全な牛乳生産に大きく貢献してきました。

 しかしながら、近年は規模拡大と専業化がいっそう進み、家畜ふん尿の集中化と偏在化が顕著となり、これらに起因する悪臭や水質汚染などの環境問題が大きな社会問題になっています。これらの問題の多くは、家畜ふん尿の適切な処理と循環利用が行われていないことが大きな原因といわれています。

 家畜ふん尿が適切に処理されていない大きな原因は、まず、規模拡大に伴い処理しなければならないふん尿量が急激に増加し、圃場面積とのバランスが崩れてしまったことです。「土−草−家畜」による資源循環が成立するためには、ふん尿量の増加に対応する飼料の生産基盤や処理施設が適正に整備されることが重要で、これまでは適切な対応がじゅうぶんに行われていないのが現状です。また、労働従事者の高齢化や担い手不足などにより労働力が不足し、適切な処理や利用が行われ難い状況になっていることも大きな原因になっています。更には、規模拡大とともに乳牛の飼養管理方式が繋飼い方式から放飼い方式(フリーストール方式)へと移行し、じゅうぶんな敷料を使用しないで牛を飼養することでふん尿の性状が固形(ソリッド)から液状(リキッド)へと変化したことが、適正な管理をより難しくしています。

 このような状況の中で、平成11年7月に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」などのいわゆる環境3法が公布され、家畜排せつ物の適正な管理と有効利用による持続的な農業生産方式の確立が今日的な課題になっています。

 持続的な酪農経営を確立するためには、家畜ふん尿の不適切な処理の改善と飼料生産基盤の拡大に努め、同時に生産力や生産環境および経営の持続を可能にするなど、資源循環を基本とする飼養管理技術を再構築する必要があります。

 1.フリーストール方式の特徴

 フリーストール方式は、放飼い方式の1つで、フリーバーン(ルーズバーン)方式の欠点を改良する飼養方式として考案されました。フリーストール方式に対応する牛舎はフリーストール式牛舎といわれ、広い区画の中に乳牛1頭1頭が個別に専有できる牛床(フリーストール)を有しており、乳牛は牛床で自由に休息することができます。フリーストール方式は、フリーバーン方式と同様に、休息場、通路(移動・採食)、給飼場、搾乳専用室(ミルキングパーラー)などから構成されており、通路を介して乳牛は休息場と給飼場を自由に往来することが許されています(図−1)。このため、乳牛は通路を自由に往来できるのでストレスが少なく、フリーバーン方式と同様に給飼、搾乳、ふん尿搬出などの主要な管理作業を省力的に行えることが大きな特徴で、わが国には昭和55年頃に一部導入され、平成2年頃から急激に導入されている方式です。

図−1 フリーストール方式の考え方

 フリーストール方式が急激に普及してきた理由は、広い区画の中に乳牛1頭1頭が専有できる牛床があり、乳牛の休息する位置や姿勢を制御して、ふん尿を通路側のみに排せつさせるのを可能にしたことです。これにより牛床や牛体の汚れが少なくなり、乳牛を清潔に管理することが可能となりました。フリーバーンの問題点を克服したといえます。

 フリーストールの牛床は、乳牛の快適性と牛体の汚れ防止の点から、牛舎の中で最も注意して設計する必要があります。なぜならば、この設計の是非によって、牛を清潔に管理するストールの機能が低下してしまうからです。ストール長が長すぎるとふん尿がストール内に落下し、短すぎると尻尾を通路に落とすこととなり、いずれの場合にも牛床や牛体を汚すことになってしまいます。

 また、フリーストールの構造やその寸法が適切でなければ乳牛の起立・横臥の位置や姿勢をうまく制御できず、ふん尿が牛床内に落下して乳牛を清潔に管理できなくなってしまいます。更に、牛床内での起立や横臥の動作がしにくいうえ、通路に横臥する乳牛が出現し、ふん尿で牛体が汚れ、乳房炎が発症しやすくなり、搾乳効率が低下するなどの問題が発生し、乳牛の合理的な管理や効率的な生産が実現できなくなってしまいます。このようなことから、ストールには牛の起立・横臥が楽にできるじゅうぶんな空間がありストール内で乳牛の姿勢や位置を制御して、尻尾を通路側に落とさせず、ふん尿を通路側に落下させる機能が求められます。

 また、わが国でフリーストールを導入している酪農家の多くは、1群管理を行っている場合が多くみられます。これは、牛群を複数に群分けすると乳牛の入替え作業が頻繁に発生し、群ごとに搾乳作業を行わなければならないため、1群で管理した方が効率的で省力的な管理が可能になるためです。しかし、このことによって、乳牛を清潔に管理することが難しくなっている事例がみられます。1群管理を行うと、群を構成する乳牛は産次数が個体ごとに異なり、体形や体長も個体ごとに異なっています。したがって、牛床の構造や寸法が適切に設計されたとしても、すべての乳牛に対応できず、ふん尿がストール内に落下する場合が生じます。特に、初産の乳牛は体長が短く、ふん尿をストール内に落下する頻度が多くなっています。

 そのため、牛体がふん尿で汚れるのを防ぐにはストールの日常的な管理(ベッドメーキング)を行うとともに、乳牛の適正な群管理(グルーピング)を行うことが極めて重要になります。

 2.フリーストール方式の問題点

 フリーストール方式の欠点の1つは、運動場を有せず、通路を介して乳牛が休息場と給飼場を自由に往来し、通路が休息場から搾乳専用室に移動する重要な移動空間になっているため、通路にふん尿が排せつされ、通路上に水分の高いふん尿が常に貯留されることです。このため、通路上が軟らかく滑りやすい状態になるため、乳牛の肢蹄の事故が発生しやすく肢蹄病になりやすくなります。更に、通路に貯留しているふん尿を定期的に搬出したり、通路床面を乾燥させるなどの適切な管理が行われないと、乳牛の移動とともにストール内にふん尿が運び込まれ、乳房炎原因菌が増殖することになってしまいます。

 また、通路に貯留しているふん尿は水分が高く、そのままでは適切なふん尿処理を行うことができません。このため、ストール内は豊富な敷料を使用したり、適切な換気を行ってふん尿水分に蒸発させることが重要です。しかし、一般には、敷料の購入費が高く、安定して入手することができないため、敷料の豊富な利用が行われていません。近年は、敷料不足を解消し、経費節減のため、たい肥を敷料素材として再利用する技術が普及しています。これにより、敷料を多量に安定して利用することが可能となりますが、良質なたい肥は、乳牛の排尿によってヘドロ状になり、敷料の機能が低下します。したがって、ストール内にふん尿を排せつさせないストールの適切な設計と管理が重要となります。

 更に、自然換気のみでは、ふん尿水分を蒸発させるじゅうぶんな換気量を安定して得ることができないので、直下型送風機を通路床面上に45度に傾斜させて設置する方法が普及しています。これにより床面上に安定した空気の流れが発生し、ふん尿水分の安定した蒸発が可能になります。

 フリーストール方式の特徴を最大限に活用した乳牛の合理的な管理と持続的な生産を実現するためには、牛を清潔に管理し、適正な群管理を行うとともに、家畜ふん尿を適切に管理し、資源循環を基本とする生産システムを確立して環境との調和を図る必要があります。

 3.飼養管理方式とふん尿の性状

 牛舎から搬出されるふん尿の性状は、飼養管理方式と深く関わりがあり、牛舎構造や換気構造、使用できる敷料の種類と量などによって異なります。ふん尿の性状は、その水分によって、固形(ソリッド、水分84%未満)、半固形(セミソリッド、水分84〜87%)、液状(スラリー、水分87%以上)などに分類されています。

 排せつ直後のふん尿混合物の水分は、おおよそ90%程度ですが、ふんと尿を分離する牛舎構造、換気がじゅうぶんに行われる牛舎構造、あるいは、吸水性や保水性のある敷料を豊富に使用できる条件下では、ふん尿水分は低くなります(表−1)。

表−1 飼養条件とふん尿の性状

 図−2は、酪農家を対象に牛舎から搬出されるふん尿性状を調査した結果を示しています。繋飼い方式では、固形25%、半固形64%、液状11%、フリーストール方式では、固形26%、半固形59%、液状15%、フリーバーン方式では、固形50%、半固形50%を示しています。このように、ルーズバーン方式では豊富な敷料をじゅうぶんに使用し、広い区画の休息場に敷料を追加しながら牛を飼養することから、ふん尿は半固形から固形の性状になっています。一方、フリーストール方式では、繋飼い方式に比べ、半固形から固形の割合が少なく、液状の割合が多くなります。

図−2 飼養管理方式とふん尿の性状

 このように、フリーストール方式では、繋飼い方式に比べて水分調整に関する問題がより厳しい条件にあります。

 4.ふん尿混合物の性状とその処理方法

1)固形状(ソリッド)

 敷料を豊富に使用している場合や牛舎床面への強制送風を行っている場合などのふん尿性状は、垂直方向に高く積上げることができ(表−2)、水分が適正であれば、切返しによって容易にたい肥化できます。

表−2 ふん尿の性状と特徴

 しかし、ふん尿混合物の水分が高いと気相の割合が低下し、酸素供給に必要な拡散性や通気性が低下するため、好気性発酵が発現できなくなります(表−2)。このため、水分が高いふん尿混合物のたい肥化では、副資材を添加して水分調整を行うか、太陽熱を利用する予備的な乾燥を行う必要があります。

 酸素供給に必要な拡散性や通気性が発現される水分は、混合する副資材の種類によって異なり、初期水分が高いほど水分調整に多量の副資材や広い乾燥面積が必要になります。

 生ふん尿混合物の取扱い性は、たい肥化処理によって改善され、マニュアスプレッダで省力的に圃場散布できます。また、汚物感がなく、取扱い性に優れているので、有機質肥料として販売できます。

 このように、固形状のふん尿混合物は、適正な水分調整と切返しによって容易にたい肥化ができますが、適時切返し作業を行って好気性発酵を促進・維持する必要があります。また、切返しのみによるたい肥化処理では、処理期間が長くなるので、強制通気を行って発酵を促進する必要があります。

2)半固形状(セミソリッド)

 敷料を使用しているが、じゅうぶんな敷料を確保できない場合や牛舎床面への送風が行われていない場合などのふん尿性状は、流動性があるので(表−2)、バーンスクレーパやローダなどで地下ピットなどに容易に搬出できます。

 しかし、水分が高く気相の割合が少ないので、単に貯留しているだけでは好気的環境が確保されません(表−2)。このため、単に貯留しているだけでは嫌気性発酵となり、アンモニア以外に、硫化水素やメチルメルカプタンなどの悪臭成分が生成され、圃場散布時に悪臭が発生することになってしまいます。

 これらの問題を解決するには、(1)水分調整を行い全量たい肥化処理をするか、(2)固液分離して処理する方法が行われます。

 水分調整して全量たい肥化する方法では、初期水分が高く、水分調整に多量の副資材や広い乾燥面積が必要になります。このため、豊富な副資材が安定して利用できる、あるいは、ふん尿乾燥施設を設置するのにじゅうぶんな敷地があるなどの条件を確保する必要があります。したがって、できるだけ水分が低い半固形状のふん尿を対象にすると条件の確保が容易になります。

 固液分離して処理する方法では、分離後の固形分はたい肥化処理され、液分はスラリー処理されます。この処理方式を採用する場合には、たい肥を経営外に販売し、液肥を経営内で利用するのが基本になるので、液肥全量を適正施用量の範囲で還元できる圃場面積を確保しなければなりません。

 固液分離機には、スクリュープレス式、ローラプレス式などが用いられます。半固形状のふん尿混合物は流動性はありますが、粘性が高いために分離機の処理能力を低下させます。このため、処理能力を改善するにはふん尿混合物を水などで1:0.5〜1などの割合で希釈する必要があります。

 分離された固形物の水分は74〜78%の範囲にあり、水分調整を行わなくても容易にたい肥化できます。このため、水分調整のための副資材が不要で乾燥施設も整備する必要がありません。

 分離される液分の分離割合は、スクリュープレス式が30%程度、ローラプレス式が20%程度で、分離液の水分は95%程度です。分離液をそのまま貯留した場合には圃場散布時に悪臭が発生するので、撹拌・曝気によるスラリー処理を行う必要があります。曝気処理を行ったスラリーは悪臭もなく、スラリースプレッダで省力的に散布できます。

 このように、半固形状のふん尿混合物では、その水分程度により、水分調整して全量たい肥化処理する方式か固液分離処理する方式が選択できます。前者では、水分調整するためのじゅうぶんな副資材や乾燥施設の確保が必要条件になります。後者では、分離液を曝気処理する施設の整備と液肥全量を適正還元できる圃場面積の確保が条件になります。

3)液状(スラリー)

 敷料を使用していない場合および敷料を使用しているが極めて少ない場合、あるいはふんと尿が分離されていない場合のふん尿性状は、流動性に富み(表−2)、ローダ類やバーンスクレーパによる搬出が容易で、ポンプによる搬送が可能になります。また、半固形状のふん尿混合物を加水した液、固液分離した液分、尿汚水などもこれらに分類されます。

 液状のふん尿混合物を単に貯留するだけのスラリー処理では、嫌気性発酵となり(表−2)、硫化水素やメチルメルカプタンなどの悪臭成分が生成され、圃場散布時に悪臭が発生します。この問題を解決するには、スラリーを撹拌・曝気処理して、好気性発酵を行うことが基本となります。

 撹拌・曝気処理を行ったスラリーは流動性に優れ、悪臭もなく、スラリースプレッダなどで省力的に圃場散布できます。近年は、アンモニアの揮散や地下浸透をできるだけ抑制するために、浅層型インジェクタによる土壌注入機や帯状施用機の開発が進められています。

 このように、液状(スラリー)のふん尿混合物は、ポンプによる機械的取扱いが容易で、作業性に優れています。しかし、曝気処理する施設の整備と液肥全量を適正還元できる圃場面積の確保が条件になります。(次号につづく)

(筆者:独立行政法人農業技術研究機構
畜産草地研究所家畜生産管理部・上席研究官)