高泌乳牛の上手な飼い方(II)

── 泌乳最盛期の飼養管理 ──

吉 田 宮 雄

泌乳最盛期の飼料給与法

 分娩から最高泌乳期にかけての高泌乳時における飼料給与のポイントで最も重要なことは次のとおりです。

(1) 採食量(DMI)の向上

(2) 高エネルギー(TDN)飼養

(3) 蛋白質の適正給与

(4) 添加剤の適正給与

 高泌乳牛飼養のポイントは上に示した順で重要度が高くなっています。(1)、(2)がじゅうぶんでないのに(3)、(4)に熱心な農家では、高価なサプリメントに投資しても効果が得られないことが多く見られます。

採食量の向上

 乳牛の泌乳能力の向上により、乳量のピークは分娩後5週目程度であるのに対して、採食量は10週程度でようやくじゅうぶんなレベルに達します(図−1)。この時期には養分収支がマイナスバランスになり、これを改善するためには、なんとか工夫して早く食込ませることが重要です。このためには給与回数・順序はもちろんのこと、前号で述べたように第1胃馴致のための濃厚飼料増給法について、基本ができていることが必要です。その上で飼料給与診断を行って飼料構成の検討を行います。

図−1 分娩後週次に伴うDMI(DM体重比)と乳量の推移

 飼料構成の中で採食量と最も関係が深いものが総繊維(NDF)で、NDFの給与割合により、分娩後の採食量の伸びが異なることを図−2に示しました。ここではNDF含量が高い40%区で泌乳初期の採食量の伸びが遅く、そのために泌乳のピークが遅く、かつ低くなっています。乳脂率3.5%対応の反動として繊維偏重飼養になっている農家も多いようですが、繊維を多く含む配合飼料(ヘイキューブ、ビートパルプ等を混合してある)を用いながら、更に粗飼料を多給して採食量が伸びていないケースもありますので検討が必要です。

図−2 TMR中のNDF濃度の違いがDMIと乳量に及ぼす影響

 なお、給与飼料全体に含まれるべき繊維含量の指標としては、従来「粗繊維」がモノサシとして用いられ、高泌乳牛では17%(乾物中)が最適とされてきました。しかし、現在は上記のように「総繊維」を示す指標として中性デタージェント繊維(NDF)が新たに使われています。わが国では、イネ科牧草主体の粗飼料が中心であるため、高泌乳牛に最適なNDFは35%前後です(図−5)。ただし、NRC標準(米国アカデミー研究委員会が定めた標準)の推奨値は28%であり、高泌乳時には25%まで低下させています。この場合、NDFの75%は長モノからの供給という条件付きでの値です。わが国でも、もし早刈りのアルファルファなどNDF含量の低い自給粗飼料をじゅうぶん用意できる場合は、NDF水準を下げて採食量を向上させることも可能です。

高エネルギー(TDN)飼養

 今日の乳牛の飼料給与技術の中で、認識を新たにする必要のあるのが、高泌乳時におけるエネルギー(TDN)充足率とエネルギー濃度の関係です。つまり昔は飼養標準の養分要求量に対して、飼料のエネルギーが過不足なく補われることが最重点でした。そのための手段として、食込み量に限度がある高泌乳時には、エネルギー濃度を上げざるを得ないとする考え方でした。

ところが泌乳最盛期の最適エネルギー濃度が究明される中で、エネルギー濃度そのものにより泌乳効果が異なることが分ってきました(図−3)。この場合TDN濃度75%区(高エネルギー飼養区)では採食量がじゅうぶんであるにもかかわらず、結果的にエネルギー充足率は不足する状態が生じました。逆にエネルギー濃度が低い68%(ヘイキューブ)区ではじゅうぶんな泌乳効果が得られないために、数字の上では充足率が高くなってしまいました。

図−3 エネルギー水準と蛋白供給源の差異が泌乳前期の乳生産に及ぼす影響

(関東東海7都県共同研究各区20頭)

 これらのことから、高泌乳を支えるものはバランスのとれた「高エネルギー飼養」であり、乳量や乳成分が満足すべきものであれば、充足率は結果論だと考えるべきです。もし、充足率が不足であっても、単純に濃厚飼料のみを増量することなく、粗飼料も併せて増量して、DM採食量全体を増す努力こそ大切だといえます。

蛋白質の適正給与

 高泌乳時にはエネルギー濃度に次いで粗蛋白質(CP)濃度が重要で、これに関する試験成績を図−4に示しました。

図−4 TMRのCP濃度と泌乳効果

昭和5758年関東東山7都県共同研究)

 ここでは、エネルギー濃度を75%近くまで引上げた場合、粗蛋白質濃度は14%より17%としたほうが泌乳効果が高いが、20%にしても効果が無いことが判明しました。しかも20%の場合は、卵胞嚢腫の発生が多く見られ、繁殖にも悪影響を及ぼすと考えられました。ただし、適正CP濃度はその時のTDN濃度と比例しますので、TDN濃度が低い場合はCP濃度17%でも蛋白過剰になることを承知しておく必要があります。

 次にバイパス蛋白質(UIP)の泌乳効果について図−5に示しました。ここでは大豆を加熱処理し、UIPを増加させて効果を見たものです。分娩後9週次頃までは産乳性が勝りますが、それ以後さほど効果がないことが示されています。したがって、UIP濃度を高めた給与は泌乳初期では有効ですが、泌乳中期以後はメリットが少ないので、経済的に見て全頭へのUIPサプリメントの添加は無駄が多いといえます。

図−5 飼料中UIP濃度の差異が泌乳前期の乳生産に及ぼす影響

FCM量
(脂肪補正乳量)

関東東海7都県の共同研究)

 なお、UIPのみを重要視するあまり、第1胃内分解性蛋白(DIP)が不足すると、第1胃発酵工場の原料(アンモニア)不足により、産乳性が低下してしまいます。UIPの効果を得るためには、TDN、CPおよびDIP濃度が最適になっていることが前提になります。

添加剤等の適正給与

 添加剤は、カルシウムを中心としたミネラル剤からビタミン剤、整腸剤まで幅広くあり多種多様ですが、高泌乳牛における添加剤の意義は次のようになります。

 (1)絶対欠かせないもの…食塩、カルシウム・リン剤、ビタミンA、D、E剤

 (2)飼料構成によっては必要…ルーメン緩衝剤(重曹ペレット等)

 (3)季節的に必要(夏場)…脂肪酸カルシウム、ナイアシン

 (4)体調によりスポット的に必要…生菌製剤、整腸剤

 (5)その他…試験成績としては効果が認められるものの、個々の酪農家での必要性については、今後の検討が必要なものに微量ミネラル(セレン、亜鉛等)があります。

 これらの添加剤の生理的意義を理解しないで用いることは無駄になるばかりでなく、逆効果となることも少なくありません。主な添加剤の使用上の留意点は次のとおりです。

(1)カルシウム・リン剤

 最も主要な添加剤で、飼料全体に含まれるCa:P比率を是正するとともに、高泌乳に見合う要求量を補足するために用います。飼料構成のなかでCaが低い場合(トウモロコシサイレージ多給等)は炭酸カルシウムが良く、高泌乳時などでCa、Pとも不足する場合は、リン酸カルシウム(第2、3リンカルや骨粉)を用います。また飼料全体のCa:Pは1.5〜2:1が最適です。

(2)ビタミン剤

 牛は第1胃内でビタミンB群やKは合成しますが、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、Eなど)は合成できないため、必ず給与する必要があります。市販の乳配などには脂溶性ビタミンは配合されていますが、製造から給与までの間に低下することと、高泌乳時には不足しがちになることから別途添加する必要があります。

 なお、ビタミンAの前駆物質であるβカロチンについては、これ自体が繁殖や乳房炎予防に及ぼす影響が大きいことが報告されています(図−6)。近ごろは輸入粗飼料を主体とする農家において、カロチン濃度が低下している例を見かけます。本来主要なカロチン供給源である粗飼料が、輸入の過程でかなりのカロチンを失っているとも考えられます。したがって、栄養バランスは良いのに繁殖成績が悪い場合などは、家畜保健衛生所等で血液中のカロチン濃度を検査してみる必要があります。

図−6 泌乳開始2週目から8週目までの平均体細胞数の変化


(産後週数)
Chew. B.P.: Nutrition Institute1990)臨床獣医 Vol.10 No.111992)より)

 またビタミンB群の1つであるナイアシン(ニコチン酸アミド)については、ルーメン内で合成されるため、その補給は不要と考えられてきました。しかし、薬用量として用いた場合、分娩後の泌乳初期に起き易いケトーシスの予防、治療効果があることが知られています。この場合の添加量は予防でおおむね6g/日、治療ではその倍量とします。

(3)重曹製剤

 牛の唾液中には重曹が多く含まれ、第1胃内のpHが酸性に片寄りすぎ、ルーメンアシドーシスになるのを防止しています(バッファー効果)。しかし粗飼料の量や物理性が不足し、反芻時間が短くなることにより唾液分泌量が減少したり、濃厚飼料比率が増すことにより、第1胃液pHの低下度合いが大きすぎる場合は、通常のバッファーでは間に合わなくなり、別途飼料中に添加する必要があります。この場合、重曹単味では嗜好性が悪いため、アルファルファミールやビール酵母などと混合ペレット化したものが市販されています。泌乳初期や夏場など第1胃の恒常性が保たれにくい時期に、重曹量として200g/日あるいは濃厚飼料の1〜1.5%程度を添加すると良いでしょう。

(4)脂肪酸カルシウム

 飼料中の油脂はエネルギー価が高く、その一部は乳脂肪に移行します。しかし、油脂をそのまま給与すると、第1胃内で繊維を被覆してその消化率を下げる結果、期待とは逆に乳脂率を下げる結果になります。それを避けるため、カルシウムと結合させた脂肪酸Ca(バイパス油脂)の形で給与するのが良く、通常はこの形で出回っています。実際の泌乳前期牛への給与試験では、400g/日前後の添加量で増乳効果が認められる反面、乳脂率は変化せず、乳蛋白率と無脂固形分が低下しました。

 農家現場における飼料給与設計でも、粗飼料優先型の飼養で使用すると、見かけのエネルギー濃度が向上するため、計算上は乳成分維持にもじゅうぶんだと思われがちです。しかし、本来のエネルギー源であるデンプン濃度が低いために第1胃内微生物活性が低下し、無脂固形分率が低下している事例も見受けられます。脂肪酸Caは泌乳初期の採食量不足を補完するための緊急避難的手段であると考え、基本となる飼料構成自体を再検討する必要があります。

 以上、高泌乳牛飼養の要点を解説してきましたが、泌乳最盛期では混合飼料(TMR)給与法がベストです。飼料給与量を最大限に引上げた場合、濃厚・粗飼料分離給与では、選択採食が起こり第1胃pHが低下しやすくなります。そこで、1回当たりの濃厚飼料給与量を減らし、回数を増すことでTMRに近い効果をねらいます。近年濃厚飼料の自動給餌装置が普及し、省力的に多回給餌することも可能となっています。しかし、この場合も粗飼料の給与回数を併せて増やさないとじゅうぶんな効果が発揮されません。また、TMRの場合でも、飼料が飼槽から押し出されている状況では不断給餌にはなりません。TMR給餌回数は2回でも、その間に数回の掃込み作業を行うなど飼槽管理(バンクマネージメント)が重要です。

(筆者:長野県農政部農業技術課・副主任専門技術員)