やって得する畜産経営の青色申告(III)

森  剛 一

決算整理と決算書の作成

1 費用・収益の見越・繰延

 未払費用を期中に計上していない場合には、決算整理で計上します。電話料金や水道料金などは翌年の1月請求分となっていても、12月の使用分の場合、未払費用として計上することができます。

 前払費用のうち1年以内に費用となる短期前払費用は、資産計上しないで個々の原価または経費の勘定科目により必要経費とします。

 未収収益、前受収益がある場合には、それぞれ、資産、負債に計上し、収入金額に加算、減算します。

 なお、ヘルパーの利用料金等の割戻しがある場合は、次のように未収計上します。

 (未収入金)×××(作業委託料)×××

2 家事消費・事業消費の計上

 野菜などの家事消費について、家事消費の都度計上していない場合は、年間の家事消費金額を独自に見積もるか、または、税務署が定めている「基準金額」によって年末に一括して計上します。

 (事業主貸)×××(家事消費高)×××

 この取引は消費税の課税売上げとなります。

 ただし、野菜の生産が自家消費のみで販売金額がない場合で、種苗費等を家計費から支出し、必要経費としていないときは、自家消費金額を計上する必要はありません。

 自給飼料の事業消費について、収穫の際に計上していない場合には、その価額を見積もって次のように事業消費金額を計上します。(飼料費)×××(事業消費高)×××

 なお、この取引は消費税の課税対象となりません。

3 減価償却費の計算

 減価償却費はあらかじめ届出た償却方法により計算します。届出をしなかった場合には、定額法により償却します。なお、生物の償却方法は定額法のみとなっています。

 本年中に取得した資産は、減価償却費を月割計算します。取得した月は1ヵ月として月数を計算します。本年中に譲渡、除却した資産についても、同様にその月を1ヵ月として月割計算します。

 定額法の場合、償却の基礎になる金額は、取得価額から残存価額を控除した金額です。これに耐用年数に応じた償却率を乗じて年償却額を計算します。残存価額は、一般的には取得価額の10%ですが、搾乳牛は20%、繁殖肉牛は50%、豚は30%となっており、牛の場合、取得価額と残存割合により計算した額が10万円以上となるときは、10万円とします。

 一括償却資産として計上した資産は、取得した年ごとに一括して取得価額の1/3を償却費として計上し、月割計算は行いません。

 なお、普通償却費とは別に、特別償却費を計上できる場合があります。具体的には表−1のとおりですが、所得が多い場合には特別償却費を計上することにより節税になります。

表−1 特別償却の種類

制度の名称 対  象  設  備 特別償却
限度額
特別
控除
添付書類
中小企業者等が機械等を取得した場合等の特別償却
(措法10の7)
1台230万円以上の機械装置
合計額100万円以上の電子計算機、デジタル複写機、冷暖房機器等の器具備品
取得価額
×30%
 
電子機器利用設備の特別償却(措法10の3) 1台160万円以上の電子機器利用設備 取得価額
×30%
 
公害防止用設備の特別償却
(措法11)
家畜排せつ物処理・保管用施設
表−2参照)
取得価額
×16%
 
認定農業者の割増償却
(措法13の3)
農業用の建物・建物付属設備・構築物・機械装置・生物の全部
農業用の車両運搬具のうち運搬機具、一定の器具備品
普通償却費
×20%
(新規就農
者は30%)
規模拡大者の要件を満たした旨の農業委員会の証明書を添付
特定情報通信設備の即時償却
(措法12の4)
100万円未満のパソコン、デジタル複写機、ファクシミリ等の器具備品 取得価額−
普通償却費
 

表−2 家畜排せつ物処理・保管用施設

畜 産 業 用 の 減 価 償 却 資 産
家畜排せつ物処理・保管用施設(次の各号の1に該当するものに限るものとし、これと同時に設置する固液分離装置、供給装置又は脱臭装置を含む。)
たい肥化施設(床面がコンクリートその他の不浸透性材料により築造されたもののうち屋根及び側壁〔高さが0.6メートル以上のものに限る。〕を有するものに限るものとし、これと同時に設置する固定式の攪拌装置又は送風装置を含む。)
液肥化施設(槽〔コンクリートその他の不浸透性材料により築造されたものに限る。〕及び攪拌装置又は送風装置を同時に設置する場合のこれらのものに限る。)
乾燥施設(火力又は太陽熱により家畜排せつ物の乾燥を行うものに限る。)

4 貸倒引当金の計算

 貸倒引当金の繰入額の計算方法には、個別評価による方法と一括評価による方法とがあります。一括評価による場合、売掛金など期末貸金の残高の5.5%を限度として、貸倒引当金を繰入れることができます。なお、前年に繰入れた貸倒引当金は全額を繰戻します。

5 棚卸

(1)農産物

 畜産以外の耕種農業のうち、米や果物などの期末在庫がある場合には、時価で評価して計上します。畜産物は、仕掛品(販売用動物)として原価で評価します。

(2)未収穫農産物(立毛)

 飼料作物などの未収穫農産物は、原価で棚卸します。未収穫農産物や販売用動物については、(1)栽培等のために要した原材料費、労務費及び経費の額、(2)消費・販売の用に供するために直接要した費用の額―の合計額により評価するのが原則です。しかし、未収穫農産物については、おおむね種苗費、肥料費および薬剤費に限定して差支えないことになっています。

(3)販売用動物(家畜・胎子)

 販売用動物も原価で評価します。肥育用の牛・豚・鶏の評価は、その年中に支出した種付料・モト畜費、飼料費、労務費等の育成費に前年から引続き飼育しているものについては前年末の棚卸金額を加算して計算します。原則として、畜舎の減価償却費などの製造経費についても、販売に係る分と棚卸に係る分にあん分して配賦する必要があります。

 なお、胎子の場合には、種付費、妊娠のための経費(増加経費)、家畜共済掛金(受精後240日を経過した牛の胎子で共済加入している場合)の合計額により計算します。

(4)原材料(飼料等)

 購入した飼料等の原材料については、最終仕入単価に期末の棚卸数量を乗じて計算します。サイレージなど自給飼料については牧草の収穫時の時価に加工経費を加算して評価します。

 消費税の免税事業者が課税事業者になる場合には、課税事業者となった年の期首の棚卸の金額のうち課税仕入れに該当する金額を控除対象仕入税額に加算して控除することができます。販売用動物などの仕掛品については、全額が控除対象となるのではなく、労務費や減価償却費などの課税対象外の金額を除きます。課税事業者が免税事業者となった場合には、これとは反対に、課税事業者の最後の年において仕入税額控除から棚卸に係る税額を減算することになります。

 なお、毎年同程度の数量を翌年へ繰越す場合には、棚卸を省略しても良いことになっていますが、規模拡大や法人化を目指す経営の場合には、棚卸を省略しない方が良いでしょう。

6 育成費用の計算

 自己育成の搾乳牛や繁殖用の牛・豚については、購入代価又は種付費・出産費の額と生育のために要した飼料費・労務費・経費の額により計算するのが原則です。ただし、育成費用は、種付費等の取得費と飼料費に限定しても良いことになっています。したがって、畜舎の減価償却費などの製造経費は、育成費用に配賦しなくても構いません。また、飼料費については国税局又は税務署が開示した、年齢別の(1)1頭当たりの標準的な基準金額又は(2)生育した牛馬等に要する費用の額に対する一定比率によって計算することもできます。

 なお、生育が終了したものは、減価償却資産(生物)に振替えて、月割計算により減価償却を行います。

7 家事費の除外

 作業所兼住宅について支払った火災保険料、固定資産税、修繕費、水道代や電気料金など、家事関連費については、家事分と事業分をあん分して家事分を必要経費から除外します。

 (事業主貸)×××(動力光熱費)×××

 家事分については、消費税の仕入税額控除となりませんので、課税仕入れのマイナスとして仕訳を行います。

 あん分については、使用面積割合などの適切な基準によります。

8 消費税の会計処理

 消費税の課税事業者で経理処理を税抜経理方式によっている場合は、納付税額を未払消費税等として計上し、仮受消費税等、仮払消費税等の勘定残高を清算します。

 (仮受消費税等)×× (仮払消費税等)××

(未払消費税等)××

(雑収入)××

 簡易課税による益税や端数処理により貸方に差額が生じた場合には、雑収入で処理します。なお、この雑収入は消費税の課税対象外です。簡易課税を選択している場合において、貸方に差額が生ずるときは雑損失となりますが、この場合、簡易課税の適用が不利になっていますので、見直しが必要です。

 経理処理を税込経理方式によっている場合は、消費税の納付額を申告時に必要経費に計上するのが原則です。ただし、本年分の消費税額を未払金に計上して必要経費に算入することもできます。

 (租税公課) ×××(未払金)×××

 消費税の本則課税により納税している課税事業者が、畜舎の建設など多額の設備投資をした場合には、消費税の還付を受けることがあります。税込経理方式の場合、申告時の総収入金額に算入するのが原則ですが、未収入金に計上して申告の対象となった年の総収入金額に算入することもできます。設備の更新などによって多額の除却損が出る場合には、前倒しで雑収入として未収入金に計上し、費用収益の対応を図ることも一つの方法です。

 なお、期中の取引の都度は税込経理方式によっている場合であっても、年末に一括して税抜きに経理する「年末一括税抜経理方式」も認められています。したがって、還付金額が多額となるため、所得に大きく影響を与える場合には、税抜経理方式により申告することが考えられます。この場合、固定資産の取得価額から消費税等相当額が控除され、年々の減価償却費はその分だけ減少しますが、還付金が雑収入として収入に計上されません。したがって、還付金を一括してある年に計上しなければいけない税込経理方式に比べて、毎年の所得金額が平準化されます。

9 各種所得の農業所得からの除外

 預金利息を期中に「受取利息」勘定で経理している場合には、期末に収入金額から除外します。

 (受取利息)××× (事業主借)×××

 預金利息は、利子所得として源泉分離課税により課税関係が終了しているため、農業所得から除外する必要があるからです。JAの出資配当などに対する受取配当金についても同様に処理します。

10 青色申告特別控除額の計算

 複式簿記により記帳して貸借対照表を添付した場合は最高55万円、簡易簿記による場合は最高45万円となります。貸借対照表を添付しない場合には、最高10万円しか認められません。ただし、青色申告特別控除前の所得金額が上記55万円などの金額に満たないときは、控除前の所得金額が青色申告特別控除額の限度となります。

 なお、不動産所得の金額がある場合には、不動産所得からまず、青色申告特別控除額を差引きます。不動産所得から10万円が差引かれた場合は、農業所得からは青色申告特別控除額として、複式簿記の場合、55万円マイナス10万円の45万円を差引くことができます。

11 免税所得の計算

 肉用牛の繁殖・肥育経営や酪農経営の場合、免税対象飼育牛を売却した所得は免税となります(表−3)。免税対象飼育牛とは、一定の家畜市場で売却した肉用牛、農協(連合会)に委託して売却した肉用子牛で(1)売却金額が100万円未満のもの、(2)一定の登録のあるもの─をいいます。一方、売却価額が100万円以上の肉用牛は、一定の登録のあるものを除き、免税対象飼育牛になりません。

表−3 肉用牛の課税関係

  売却方法 売却価額
(注1)
登録
(注2)
課税方法
(下記のいずれかを選択)
下記以外 (1)家畜市場などの特定の市場における売却

(2)一定の農業協同組合等に委託売却(生後1年未満に限る)。

100万円未満   免税(注3)






100万円以上 あり
なし 売却価額×6.5
(5+1.5)%分離課税
上記以外(家畜商への売却など)   通常の所得税課税
種雄牛・
乳用経産牛
牛の胎子
 
注.
1) 肉用牛の売却価額が100万円未満であるかどうかは、通常の場合には市場等における売却価額(消費税相当額を上乗せする前の売却価額=税抜き価格)によって判定しますが、肉用牛の売却に伴い、価格安定基金からの生産者補給金や生産奨励金など実質的に売却価額を補てんすると認められるものの支払を受けている場合は、これらの補給金等を売却価額に含めたところにより判定します。
2) 次に掲げる登録をいいます。
 (1) 社団法人全国和牛登録協会の登録規程に基づく高等登録及び育種登録
 (2) 社団法人日本あか牛登録協会の登録規程に基づく高等登録
 (3) 社団法人日本短角種登録協会の登録規程に基づく高等登録
 (4) 社団法人日本アンガス・ヘレフォード登録協会の登録規程に基づく高等登録
3) 譲渡所得となるものを除きます(昭56直所5−6)。

 ただし、青色申告決算書(農業所得用)1ページの損益計算書の「48のうち、肉用牛について特例の適用を受ける金額」欄には、免税対象飼育牛に該当しないものも含め、一定の家畜市場等で売却したすべての肉用牛(特定の肉用牛の売却)の所得金額を記入します。なお、家畜商に売却した肉用牛についての所得金額はこれに含めません。

 そのうえで、「肉用牛の売却による所得の税額計算書」(表−4)により、免税対象飼育牛以外の特定の肉用牛の売却による収入金額(千円未満切捨て)に5%を乗じた金額を計算します。この税額を、特定の肉用牛の売却による所得以外について通常の課税により計算した金額に加算して申告します。

表−4 肉用牛の売却による所得の税額計算書

 100万円以上の売却価額の肉用牛の占める割合が多いことなどにより、肉用牛についての特例の適用を受けることが不利な場合には、特定の肉用牛の売却のすべてについて通常の課税の方法により所得税を計算することもできます。なお、このようなケースでは、農業生産法人とした方が税金面で有利ですので、経営を法人化することをお勧めします。

 確定申告書には、2面の「(1)所得金額」欄の最下行「特例適用条文」欄に「措法第25条」と記入するほか、「肉用牛の売却による所得の税額計算書」及び一頭ごとの「肉用牛売却証明書」または「肉用子牛売却証明書」を添付します。

12 確定申告書の作成

 確定申告では、畜産をはじめとする農業所得のほか、所得者本人の各種所得を申告します。(表−5

表−5 各種所得の確定申告

所得の種類 収入金額の例 必要経費の例
営業所得 農畜産物の加工事業など
農業所得 耕種農業と一体として営む場合の畜産業
その他の事業所得 耕種農業を全く営まない場合の畜産業
不動産所得 アパート経営、電柱の敷地料など
利子所得 (該当するものはありません。)
配当所得 JA等の出資配当金(源泉所得税控除前)  
給与所得 サラリーマン収入、出役労賃など 給与所得控除額

所得
公的年金 国民年金、農業者年金等収入 公的年金控除額
その他 国税・地方税の還付加算金など  
総合
譲渡
短期 小規模酪農家の搾乳牛の譲渡収入 未償却残高
長期    
一時所得 満期受取共済金 保険積立金残高

 預貯金の利子は源泉分離課税により課税関係が終了しているため確定申告しません。

 年の受取額が5万円以下の少額配当については、申告してもしなくても良いことになっていますが、課税所得金額900万円以上の高額所得者でない限り、申告したほうが有利です。この場合、源泉所得税控除前の配当の額を収入金額に計上するとともに、その10%の額を配当控除として税金から差引きます。

 給与所得は、収入金額年65万円までは給与所得控除により課税されませんが、申告書に記載しておいた方が良いでしょう。

 なお、分離課税の譲渡所得、山林所得、退職所得がある場合には、一般用ではなく、分離課税用の確定申告書の用紙に記入します。

 一方、所得控除としては、社会保険料控除に注意してください。国民健康保険料(税)、国民年金の保険料だけでなく、農業者年金、介護保険の保険料、労災の特別加入保険料も社会保険料控除の対象となります。

 小規模企業共済も掛金の全額が所得控除の対象となりますので、一定以上の所得水準の方には加入をお勧めします。

 電子機器利用設備を取得した場合、中小企業者が機械等を取得した場合には、特別償却に代えて、税額控除限度額(事業に係る所得税額の20%)を限度として、所得税額の特別控除(取得価額の7%)を所得税額から差引くことができます。なお、これらの設備・機械等を賃借した場合も同様です。

(筆者:森税務会計事務所 税理士・行政書士)