良い堆肥生産のポイント(5)

─ これからの家畜ふん堆肥の使い方 ─

藤原 俊 六 郎

1. 堆肥の使い方は両極化

 家畜ふんを処理した物を販売するのではなく、使用者である耕種農家がどのような堆肥を望んでいるかを的確に把握して、それに応じた堆肥を生産することが必要です。耕種農家では同じ使い方をするわけではなく、堆肥の用途は多様化しています。

 堆肥の用途は大きく2極化しています。ひとつは、どんな用途にでも使える万能型のもので、これは有機物を補給するだけの目的で使われますので肥料成分が少ないものが好まれます。他のひとつは、堆肥に含まれる肥料成分を利用する方法で、これからの環境保全型農法では重要な使い方です。

 ここでは、このふたつの用途に加え、これからの新しい堆肥の使い方を考えてみましょう。

 
2. 万能型の低養分堆肥

(1)土づくりのための低養分堆肥

 鉢物生産者や施設栽培農家では、堆肥を純粋に土づくり資材として使うことがあります。堆肥を土づくりだけの目的で施用する場合には、有機物(炭素)の補給だけを考えて、肥料成分を考慮しないことになります。極言すれば、この時に堆肥に含まれる養分は、有機物が微生物により分解するときに必要とする養分だけを含んでいればよいことになります。

(2)低養分堆肥は牛ふんで

 できるだけ低養分の堆肥をつくるためには、牛ふんが適しています。肥料成分の高い鶏ふんや豚ぷんは適しません。牛ふんにワラなどの植物質の資材を混合して堆積発酵してつくります。このとき、尿を混合しないようにすることと、戻し(返送)堆肥を多量に混合しないでつくることです。尿を混合すると、窒素だけでなくカリやナトリウムの濃度が高くなるので、尿を分離したふんを使います。また、完成した堆肥を水分調節材として使用する返送法では、養分濃度が濃縮されていきますので、低養分堆肥にはむきません。

 水分調節材には植物質資材を使用し、とくにイネ科植物の茎葉をよく乾燥させて使用するとよいでしょう。植物は若いうちは窒素が多く炭素率が低いのですが、成熟して乾燥したものは炭素率が高くなります。しかし、成熟して乾燥させたものは分解に長い期間を必要とするので、3ヵ月以上の堆肥化する期間が必要です。水分調節材として木屑を混合してもよいのですが、木屑を混合したときは、6ヵ月以上かけてゆっくりと熟成させることが必要です。

(3)品質評価のめやす

 低養分型家畜ふん堆肥は養分が少ないほどよいのですが、おおまかな品質の目安は、全窒素が1%(現物)以下、炭素率が15〜20で、EC(電気伝導率)が2mS/cm以下です。養分が少ない堆肥では、堆積が不十分で未熟な場合、有機物分解のために土壌中の窒素が使われ、作物が窒素飢餓をおこすことがあります。このようなことがないよう、じゅうぶんに腐熟されることがたいせつです。

 また、家畜ふんの養分を減少させるために、堆積中に雨水に打たせて流亡させることも考えられますが、これは周辺環境や地下水を汚染するため、やってはいけません。
 

3. 堆肥の養分の積極的活用方法

(1)堆肥の有効成分量の推定

 堆肥は、微生物により分解されて肥料効果を発現するため、含まれる成分の100%が供給されるわけではありません。とくに窒素は、微生物の体に取込まれやすいため、炭素率の高い堆肥では窒素の供給力が低下します。堆肥に含まれる肥料成分のうち、作物に吸収される割合を、その成分の有効化率といいます。

 有効化率の例を表−1に示しましたが、原料の種類や堆肥化の条件により異なります。有効化率は、窒素30〜70%、リン酸60〜70%、カリ90%ですが、木質混合堆肥化物は家畜ふんの種類にかかわらず窒素の有効化率を30%としました。これは、木質が多量に入ると炭素率が高くなるために有効化率が低下するためです。

表−1 畜種別肥料成分有効化率
畜 種 窒素 リン酸 カリ 石灰 苦土
牛ふん 30 60 90 100 100
豚ぷん 50 60 90 100 100
鶏ふん 70 70 90 100 100
(注)神奈川県の試験事例および草地試資料より作成

 この数字を用いて家畜ふんとその処理物の有効成分量を表−2に示しました。ただし、副資材の混合割合や堆積期間の違いによって肥料成分量や有効化率は異なります。その結果、条件により有効成分量は違ってきますので、この表はあくまで参考程度として下さい。

表ー2 家畜ふんおよび家畜ふん堆肥の有効成分量(現物kg/t)

処理形態 畜 種 含水率 窒素 リン酸 カリ 石灰 苦土
生ふん 牛ふん 80.1 1.3 2.1 3.2 3.4 1.6
豚ぷん 69.4 5.5 10.2 4.1 12.6 4.8
鶏ふん 63.7 15.7 13.2 10.1 39.9 5.3
乾燥ふん 牛ふん 28.0 5.0 11.0 15.7 16.1 7.6
豚ぷん 24.3 13.0 27.4 13.6 33.0 12.0
鶏ふん 18.9 20.7 36.4 22.0 91.6 11.5
堆肥化物 牛ふん 66.0 2.1 4.2 6.7 7.9 3.4
(厩肥) 豚ぷん 52.7 6.8 11.6 9.5 18.7 6.4
鶏ふん 38.5 12.5 22.1 14.9 69.6 8.4
木質混合 牛ふん 65.4 1.7 3.3 5.3 6.6 2.6
堆肥化物 豚ぷん 55.7 2.8 8.9 7.4 14.8 4.8
鶏ふん 52.4 2.8 13.7 9.2 43.4 4.6

(注)成分は草地試1983、農産課資料1982を参考にし、表−1の係数を利用して算出。

(2)堆肥を使った施肥設計の方法

 堆肥を多量に使ってもと肥にする場合、表−2を参考にして施肥設計を行います。例をあげると、もと肥窒素15kgを家畜ふんで代替しようとすると、牛生ふん(水分80%)では12t、牛ふん堆肥(水分66%)では7t、乾燥鶏ふん(水分19%)では0.7tが必要ということになります。

 牛ふん堆肥7tが入った場合、全窒素は50kg含まれており、その30%にあたる15kgが有効化すると、35kgが土壌中に残ることになります。残存量のかなりの部分が次の年に有効化するわけですから、翌年以降は堆肥を減らす必要があります。

 鶏ふんでは初年目70%であったものが、連年施用すると4年目には100%の窒素が有効化することになり、豚ぷんでは初年目50%であったものが7年目に、牛ふんでは初年目70%であったものが12年目に、それぞれ100%の窒素が有効化することになります。

 このように、連年施用により年をおって肥料成分が多量に溶出するようになるため、土壌診断等により、土壌中に含まれる養分量を正確に把握することがたいせつです。化学肥料にたよらない栽培をする場合でも、もと肥のすべてを家畜ふんでまかなうのではなく、堆肥由来の窒素をもと肥窒素量の2/3程度までに抑え、残りは化学肥料で補うべきです。

(3)作物の養分吸収特性に適した堆肥

 農作物は種類により養分の吸収量だけでなく吸収時期も異なります。野菜の例3)図−1に示しましたが、ここでは栄養特性を、尻上がり型、コンスタント型、先行逃切り型の3つの型に分けて説明します。

図−1 野菜の栄養特性と施肥のポイント

 尻上がり型は、初期にゆっくり育て、根や果実の肥大期から収穫期までに養分を必要とする野菜で、ダイコン、ニンジン、スイカ、カボチャなどがこれに属します。

 コンスタント型は、生育全期間にわたって養分を必要とする野菜で、トマト、キュウリ、ナス、ネギなど、生育期間の長いものがこれに属します。

 先行逃切り型は、生育初期から生育させることが大切な野菜で、ホウレンソウ、コカブ、サツマイモ、ジャガイモなど、生育期間の短いものがこれに属します。

 家畜ふんの肥料効果をみると、鶏ふんは速効性で牛ふんは遅効性です。この特性を組合わせれば、養分吸収の3パターンをつくることができます。すなわち、尻上がり型は牛ふん主体、コンスタント型は鶏ふんと牛ふんの組合わせ、先行逃げ切り型は鶏ふん主体というようにあてはめることができます。このような野菜の栄養吸収特性に合った堆肥を作れば、野菜栽培が楽になります。

(4)これからは異種類を混合した堆肥を

 現在、家畜ふんで作る堆肥は、単一の畜種に水分調節材を混合するだけで作られることが多いのですが、家畜ふん同士を組合わせることによって、肥料成分の発現性だけでなく、成分バランスに優れた堆肥を製造することも可能になります。さらに、家畜ふん以外の堆肥原料(食品粕など)を組合わせれば、もっと特性を持った堆肥が製造できます。

 また、土壌の面からみても、堆肥は同じ種類のものを何年にもわたって連用することが多いので、単一資材の連用により土壌中の化学成分や微生物相が固定化する可能性が考えられます。その改善のためにも、多種類の資材の混合や時期によって異なる資材を施用することもあってよいと思います。これからは、家畜ふんと他の資材を組合わせた堆肥作りが重要な技術になると考えられます。
 

4. これからの堆肥の使い方

(1)ぼかし肥としての利用

 有機肥料と土を混合してつくる「ぼかし肥」というものがあります。これは昔から肥料を有効に利用するために使われていたものですが、近年、有機農業実践家の間でひろまってきています。

 ぼかし肥の作り方はいろいろありますが、一般的には、土に鶏ふん、米ぬか、油粕、魚粕などを混合して、比較的小さな規模で1〜2ヵ月間、50℃以下の低温で発酵させたものです。(図−2)発酵がすすんでいるので、無機態窒素含量が多く肥料効果は高いのですが、土となじませてあるため施用後の農作物の植えいたみが少なく、安心して使えます。

図−2 ぼかし肥のつくり方の例

(藤原:1990)

 ぼかし肥の窒素成分の大部分は微生物に取込まれ有機態となっているか、または混合された土や有機物に吸着されているため、肥料成分はゆっくりと溶け出し、雨などで流亡することも少なく、作物が肥料を利用するので適しているのです。

 また、ぼかし肥は局所施用されるのが基本であり、肥料成分が土壌中に部分的に分布します。ぼかし肥の周囲は有機物や養分に富むため、各種の微生物が生育しやすい環境ができるといえ、このことが根の発達を促すことが考えられます。

 ぼかし肥には作り方があってないようなものです。新たなぼかし肥の原料として家畜ふんを使用すれば、家畜ふんの新たな用途が拡大されます。

(2)土壌微生物の活性化

 土壌中には、多種類の微生物が、数多く存在しています。それら、土壌微生物を活性化することができるのが堆肥等の有機物です。これは堆肥が土壌微生物の餌となるとともに、堆肥の中には多量の微生物が生存しており、それが土壌中に投入されることになるからです。

 また、土壌中の有用な働きをする微生物の活動を促進するための資材として、微生物資材が販売されていますが、その使用効果には賛否両論があります。多くの場合、微生物資材は米ぬかや堆肥等の有機物と一緒に混合して使用します。

 これら微生物資材をあらかじめ家畜ふんと混合して有用な微生物を増加させたり、微生物資材施用時に一緒に家畜ふん堆肥を施用することによって、土壌微生物活性を高めることができれば、農作物の持続的な安定に結びつくことになります。
 

5. 堆肥の利用促進のために

 家畜ふん堆肥が有効活用されないのは、流通上の問題がおおきいのですが、技術的にも問題があります。今後家畜ふん堆肥を有効に活用し、用途を拡大するためには、次の事項に注意することが必要といえるでしょう。

(1)品質の安定化と養分の保証

(1) 品質の安定

 耕種農家が畜産農家から堆肥を購入するとき、時期によって品質にばらつきがあっては正しい使用ができません。耕種農家の需要には時期によりかたよりがあるので、いつも一定した製品を出すことは困難なのですが、できるだけ一定した堆肥が生産できるよう品質管理を行うことが必要です。

(2) 成分の表示

 堆肥は特殊肥料に区分されますが、平成11年7月に改正され、平成12年10月より施行される肥料取締法では、図−3のような表示が義務づけられ、成分には許容範囲が設定されるなど、生産者にとってはかなり厳しい内容になっています。しかし、堆肥を利用する耕種農家にとっては、これだけの項目の成分が保証されていれば、安心して使うことができます。

図−3 堆肥、家畜および家きんのふんについての品質表示

(2)堆肥生産の効率化

(1) 大規模堆肥センターの設置

 堆肥を効率的に生産するためには、地域でまとまりをもった大規模堆肥センターの設置により、いつも一定した製品を耕種農家に供給できる体制が望まれます。大規模堆肥センターにして、さまざまな畜種の家畜ふんを集め配合すれば、養分バランスのすぐれた堆肥を製造することができます。

 大規模堆肥センター化すれば、機械化しやすく、臭気対策などさまざまな環境対策がとりやすくなります。しかし、広大な用地と多額の初期投資や運転資金が必要になります。

(2) 小規模堆肥センターの設置

 個別畜産農家や小規模集団による小規模堆肥センターは、限定された畜種による堆肥生産のため、養分や品質に偏りがでやすいのですが、耕種農家がさまざまな小規模堆肥センターから堆肥を入手し、自分の必要とする特性をもった堆肥を製造することができる利点があります。

 堆肥化の計画を策定するとき、ややもすると装置化による大規模な堆肥生産が主流になりがちですが、小規模堆肥センターは耕種農家の要望も取入れやすく、小回りが利く利点があります。

(3)堆肥施用の省力化

 耕種農家は労働力の面から、堆肥施用の必要性を感じていても施用しないことが多くみられます。このため、堆肥散布の機械化や、ペレット化など取扱いやすい性状にして散布しやすくすることが、堆肥の消費拡大に結びつきます。

参考文献

1)農林水産省農業研究センター・畜産試験場・草地試験場:平成8年度 家畜ふん尿処理利用研究会報告書(1997)

2)神奈川県農政部農業技術課:作物別肥料施用基準(1998)

3)伊達 昇監修:野菜つくりと施肥、農文協(1983)

(筆者:神奈川県農政部農業技術課専門技術員・課長代理)