良質牛肉生産のポイント〔V〕

─ 肉用牛肥育(2) ─

宮 本 正 信

はじめに おさらい

産地形成・経営戦略の着眼点を再認識しよう!

 今回の執筆が最後となります。北海道内での黒毛和種の肥育経営は歴史が浅く、経営戦略の着眼点や肥育・飼養体系は種々雑多です。私は今までの経験から黒毛和種は、いかに高品質の「販売物」を、いかに効率よく生産し、いかに低コストで仕上げるか(生産するか)という点に着目して技術・経営指導を行ってきましたが、肉牛経営ほど効率の悪いものはないと実感しています。

 繁殖経営では繁殖成績が悪い、子牛が生まれても死んでしまう、生き残った子牛の発育が悪い(これを繁殖経営の3悪と呼んでいます)。また、肥育経営では増体の悪さ、事故率の高さ、出荷枝肉の品質の劣悪さ等々……の課題があります。

 「主産地形成」を念頭において地域農家を育成・指導する場合の着眼点は、それらを先導的にリードして行く関係機関の指導者のチームプレーと、個々の技術者の「姿勢」と「情熱」にかかっていると思います。近い将来、黒毛和種と言えどもA−4格付の枝肉単価が1kg当り1500円程度に下っても、国内外の競争に勝ち抜く「経営体」を産地(地域)に数多く育成しなければなりません。そのために産地として怠っていけないことは、

 (1)指導者、経営者の人作り、

 (2)母系群の育種価を早く把握する、

 (3)安全、安心、低コスト生産体制を地域全体として確立する、

 (4)経済的肥育・飼養体系を確立する、

 などであると確信しています。

 最後に、本論に入る前にぜひ紹介したいことは、北海道では昭和28年に白老町が黒毛和種振興を掲げ、先進県である島根県より優良繁殖基礎雌牛の導入を開始し、その後、各市町村が府県より導入していくなかで、その母方より生産した子牛(肥育モト牛)が道内各地で肥育され、北海道黒毛和種枝肉共励会(農林水産祭参加)に出品されました。そのなかで、特に優れた脂肪交雑がBMS No.10以上の成績(87頭)のものを表−1に示しています。また、国の事業(農林水産省)で社団法人家畜改良事業団が、昭和59年度より実施している平準化事業(黒毛和種・種雄牛選抜・間接検定)で、北海道内の母方群との交配で脂肪交雑BMS No.10以上が93頭(表−2)も出現しています。北海道でもこのような育種データに基づいて繁殖+肥育の一貫経営を経営戦略にした経営体(本誌No.119の「育種価を活用した改良・産地形成」→「華麗なる『ふくはた3の5』ファミリー」をご覧ください)を紹介していますが、このような取組み・活動を実践している経営体が次々と各地に生まれていることは力強い限りです。次に、モト牛導入で肥育経営に取組む場合の着眼点について述べます。

表−1 北海道枝肉共励会(農林水産祭参加・黒毛和種の部)

表−2 道内ウルトラスーパー雌牛のBMS No.別頭数

脂肪交雑BMS No.〜 頭  数
10
11
12
56頭
31〃
06〃
計93頭
◎平準化事業(黒毛和種・種雄牛・間接検定)により判
  明した北海道内ウルトラスーパー雌牛リスト(S59〜)
(出典:社団法人北海道家畜改良事業団)

モト牛導入による肥育経営の着眼点

導入前

 抵抗力の弱い子牛がやってきます。牛舎にはびこる病原菌(下痢等)の退治をするために牛舎の清掃・消毒を必ず行いましょう。また、その季節に応じた防暑・防寒対策も万全にしましょう。使用基準に基づいた良質粗飼料を計画的に確保することが絶対条件です。導入牛に関する記録帳の準備も怠らずに行いましょう。

 (1) 良質粗飼料の確保

 (2) 牛房の清掃・消毒

 (3) 台帳の準備

 
導入時

 子牛は短い期間でめまぐるしく環境が変わりヘトヘトに疲れています。細心の注意を払って安らぎを与えましょう。

  • 新鮮な水を与えましょう。
  • 急激な配合飼料の給与は禁物です。胃に負担の少ないフスマと良質粗飼料でならし運転しましょう。
  • 牛床は清潔に、特に冬場は腹が冷えないように敷料を厚く敷きましょう。また、夏場は送風、換気等の対策を万全にしましょう。
  • 個体の観察をしっかり行い、早く牛の特性をつかみましょう。
  • 予防注射等は獣医師とよく相談しましょう。

 (1) 牛の個体観察をしっかり

 (2) 導入時ストレスの解消

肥 育
前 期
  9〜15ヵ月齢
270〜417kg

 産肉生理・生産で述べましたように、この時期は骨や内臓を健全に成長させるためのならし運転になります。これから長くてハードな肥育に耐えられるだけの基礎作りをする期間です。したがって蛋白質やエネルギー、ビタミン、ミネラルなどをバランスよく与えるとともに繊維質を豊富に含み、嗜好性の良い良質粗飼料をじゅうぶんに与えることが必要です。

(1) 骨作り、腹作り期

(2) 飼料給与

 ○エサならしは徐々に

 ○良質粗飼料を

 ○配合飼料は規定量を

■チェック・ポイント

 一頭一頭の性格、健康状態、くせ、食込み等、個体差を把握します。

 (3) 肥育前期の目標を達成しましたか?

肥 育
中 期
  16〜21ヵ月齢
450〜594kg

 肥育中期は赤肉が勢いよく盛んに発育する増体期であるとともに、体脂肪が蓄積する時期でもあります。すなわち、この時期の配合飼料の食込みが増体の「カギ」を握るとともに、枝肉にサシが入る時期になります。しかし、配合飼料だけでは採食量が落ちてしまいますので、粗飼料とのバランスを考えて給与して下さい。また、肥育中期は配合飼料の給与量が増えるにつれて、肥育特有の病気が発生する時期でもあります。特に尿結石症や胃腸障害(鼓脹症)などに気を付け、予防、早期発見、早期治療に心掛けましょう。

 (1) 増体期(筋肉作り)

 (2) 飼料給与

   ポイント

  ○バランスを考えて


   ポイント

  ○規定量以上摂取

   させる


   ポイント

 ○前期

   後期

飼料の切替え

■チェック・ポイント

 病気に注意

 (3) 肥育中期の目標を達成しましたか?

肥 育
仕上期
  9〜15ヵ月齢
270〜417kg

 仕上期は「サシ」の蓄積をより高め、肉質の向上を図るたいせつな時期です。肥育中期に比べ生理的に増体や食込みは落ちてきますが、中期と同様「10kgでもよいから多く食べさせる」努力をして下さい。また、高度な肥育により健康状態が限界に達していますので、中期と同様に細やかな個体管理が必要です。急に食欲がなくなったり、肢がはれてきたら早期対応がたいせつです。

 (1) 肉質改善期

  (サシを増やす)

  (肉質を向上させる)

 (2) 飼料給与

 ○足りない時はフンの状態を

  見て配合飼料を増量

 ○異常牛の早期発見、

  早期治療

■チェック・ポイント

(3) 肥育仕上期の目標を達成しましたか?

出荷
  28ヵ月齢
700kg〜

 枝肉の価格は「サシ」だけでなく、肉色、きめ・しまり、脂肪の質、ロース芯の面積、脂肪のつき具合、バラの厚み等々、いろいろな要素によって決定されます。枝肉重量の多さも農家経済(価格決定)には重要な課題です。また、力を注いだ18〜20ヵ月間の努力のすべてが枝肉に集約されます。枝肉成績は自分の目で確認し、今後さらにレベルアップするための検討材料にしましょう。

出荷だ さあ枝肉を見に行こう!!

 (1) 厚脂

○アドバイス→肥育前期は粗飼料が足りなくて胃袋が発達できず、中期には食込みが不足し、後期になって食欲の出た牛は皮下脂肪が厚くなります。

 (2) バラ厚

○アドバイス→バラの厚みは、肥育ステージの筋肉増加期にたくさん食べさせることと、エネルギーの消耗を少なくするために敷料を清潔にしてやることがたいせつです。

 (3) ロース芯面積

○アドバイス→ロース芯は遺伝的な問題といわれていますが、肥育前期の粗飼料がたいせつです。無駄な脂肪を付けずに、筋肉を順調に発育させることが重要です。

 (4) 肉色

○アドバイス

 肉色はミオグロビンという色素で決まります。肉色の発色には環境要因によって左右される場合が多く、その他に特に肉色を悪くする要因としてストレスがあります。良い色を出すためには筋肉中にグリコーゲン(エネルギーのもと)が必要ですが、ストレスによりグリコーゲンを使ってしまうため、肉色が悪くなるのです。

 (5) 肉じまり

○アドバイス

 品質の良い脂肪ほど、また、その脂肪が筋肉中まで良くはいり込むほど、締まりが良くなります。理化学的には筋肉中の水分と脂肪分を入替えさせることです。

 (6) 出荷時の注意とポイント

 屠場での係留中のストレスは極めて大きく、黒毛和種の上級肉生産を目指す場合、前日搬入・翌日屠畜は肉色や締まり、きめなどに影響すると言われていますので注意が必要です。また、なれた牛舎で絶食させ当日搬入する方法が、枝肉歩留および正肉歩留(枝肉に対する正肉の割合)が高いという試験成績(表−3)もあり、食肉センターとの話合いが必要となります。以下、出荷時の注意とポイントを示します。

表−3 屠畜の前日または当日搬入が枝肉および正肉歩留に及ぼす影響

    前日搬入1) 当日搬入2)
処理前の平均体重
枝肉重量
正肉量
枝肉歩留
正肉歩留
(kg)
(kg)
(kg)
(%)
(%)
609
338
249
55.8
73.7
611
352
265
57.6
75.3
1)係留場で一昼夜絶食後屠畜
2)牛舎で24時間絶食後搬入し当日屠畜 (出典:新得畜試1988)

 ア.出荷時の事故やストレスが枝肉の格落ちの原因になる。

 イ.出荷前日は夕方の給餌から中止して絶食とする。ただし、水は従来どおり給与する。

 ウ.屠畜は搬入当日に行う。

 エ.積込み・輸送時のストレスを可能な限り少なくする。

 オ.出荷体重を測定する。

 カ.出荷1ヵ月前から敷料をじゅうぶん投入して牛体の汚れを落とし清潔にする。

 18〜20ヵ月間の肥育結果が、すべて枝肉に出ます。肥育技術とは枝肉を見て、初めて完成するものです。結果を反芻しながらいつも問題意識を持ちましょう。

おわりに

その他の課題と今後の取組み

 北海道型の黒毛和種の繁殖・肥育の技術指針が、北海道立新得畜産試験場で研究され、一部は現場で技術が普及されていますが、まだ完全な技術指針ではないと思います。今後の研究に期待されるところが多々あり、現場では多様な形で先進県の技術が導入され、道内各産地・農家で取組まれています。現場の普及員として、農家経営の改善や産地としての向上のために、いま何を、どのようにしなければならないかを反省し、述べたいと思います。

1. モト牛能力の向上のために!

 良質で安定した肥育成績を得るためには、まず、モト牛能力の向上が基本になります。現在、道では30ヵ所の和牛改良組合(社団法人全国和牛登録協会の認定)の協力を得て優良種雄牛の造成と繁殖雌牛群の「育種価」で評価を進めています。道内の繁殖基礎雌牛は、昭和28年に島根県より白老町が導入して以来、道内各産地が先進府県より多種多様な「系統」の基礎雌牛を導入して、約半世紀(50年)にわたり改良・増殖(淘汰・更新)をしてきています。現在の道内30ヵ所の改良組合が、肥育モト牛の生産基地を確立して本州の肥育産地へ送込むにしても、また、道内で繁殖+肥育の一貫経営の産地を構築するにしても、今後「育種価」に基づく次世代「優秀牛」の作出・改良・増殖のためには、育種的方法を進める「育種組合」への発展・移行が不可欠ではないかと思われます。

2. モト牛の斉一性の向上(飼養技術確立)

 モト牛能力の向上と併せて、モト牛の斉一性は育種改良の重要な項目ですが、もう一つの道内の課題は子牛の育成技術です。実際、モト牛の育成条件によって肥育方法や肥育成績が違っており、その結果が道内で肥育されている「枝肉成績」に如実に現れています。最近は生後1ヵ月齢、3ヵ月齢までの飼い方(哺育技術)が一番重要であるとも言われています。今後は、各生産者、産地、試験場、指導機関のいっそうの連繋の基に、効率的な肥育を行うための哺育・育成技術の開発が望まれます。

 以上、本稿で終了することといたします。

(筆者:渡島南部地区農業改良普及センター・所長)