未利用資源を活用した肉用牛の 低コスト経営

  

島 川 健 次


はじめに
 大分県玖珠町大字日出生の吉村忠也さんは、肉用牛繁殖経営には決して恵まれた基盤ではないが、標高約600mの高原で、成牛46頭、水田71a、畑30aなどから所得約649万9000円の成果を得ています。 

 このような条件を克服した第一の解決策は、集落に隣接する広大な国有地(自衛隊日出生台演習場)への放牧と、秋には野乾草を収穫して冬場の粗飼料を確保したことです。

 第二の解決策は後継者が草地管理組合を組織し、他の地域の牧場の草地管理を受託して、その牧草乾草の一部を確保できたことです。

 また、畜舎の建設は県と町の補助を得て手造りで行い、低コスト生産に向けた特色のある経営に取組んでいます。 


1. 経営の概況
(1)労働力 

 表−1のように労働力は、夫婦と平成3年に大分県草地畜産開発センターで1年間の研修を終えて就農した長男の3人です。 

表−1 労働力

(2)家畜の飼養頭数と出荷の状況

 表−2に示すように平成10年度は着実に増頭しています。

表−2 家畜の飼養頭数、出荷状況(平成10年) 


2. 経営の歩み
 長男の就農と同時に飼養規模は着実に拡大しています。
 
畜舎の風景   平成10年度建設中の畜舎
 

 その状況は表−3に示すとおりですが、拡大のために畜舎などの施設整備も計画的に実施しています。特に父と長男は大工仕事が得意で、電柱の廃材等を利用して手造りで建設した施設です。

表−3 経営の推移

 平成10年度に建設した畜舎(360m2・成牛50頭収容可能)は、県単補助1/3、町単補助1/6併せて1/2の補助金を受けて建設資材費を賄い、そして自家労働力のみで建設したので極めて低コストなものとなりました。

 昭和56年に建設した畜舎は、平成3年と4年に襲来した大型台風にも耐え得た頑丈なものです。


3. 経営の特徴
(1)自衛隊演習地への放牧 

 地元14戸の農家が古くから特別に許されていることですが、4月末から11月末までの期間一杯放牧し、秋には野乾草をヘイベーラーにより約2000梱包を収穫し、冬場の粗飼料の一部にしています。

 放牧技術で最も重要なことは、放牧馴致(事故防止対策)と放牧衛生管理技術(ピロプラズマ対策)です。そのいづれも看視が重要な要件ですが、演習地のため実弾射撃の都合で管理者の入牧時間が制限されることがありますので、ほぼ毎朝6時までに給塩することにより、牛群の確認と健康状態を把握しています。

 演習地には当然のことながら区画する牧柵はないので、ほぼ一定の安全な地域に牛群を誘導する技術も会得しています。

 また、ピロプラズマ対策(ダニ熱)としては月1回フルメトリン製剤を、牛体に70〜80cc塗布することにより、発症を防止できるようになりました。

(2)草地管理組合を結成し、牧乾草を確保

 長男(進さん)は大型装置管理用機械のオペレーターの能力を生かして、2つの組合を組織化して牧乾草を確保する道筋をつけました。

 隣接する湯布院町の5名で組織したO牧野組合の改良草地約20haと、また別の3名で組織したA牧野組合の改良草地約18haの管理を受託し、地元牧野組合には収穫した牧乾草の20%を無料で還元し、残り80%を受託組合が受取り、それを人数で分配する契約としました。

 契約は肥料、燃料等の費用は受託組合が持ち、草地管理用機械は地元牧野組合の機械の提供を受けるというたいへんユニークなものです。

 11年度には新たにJ牧野組合からの依頼を受け計3牧野組合との契約となっています。

 このような管理方式は本県では初めてで、先駆的な事例として注目されています。 

広大な放牧場での牛群の確認と給塩をしているところ


4. 経営の成果
 平成10年(1月1日〜12月31日)の経常所得は649万9515円、子牛出荷1頭当りの所得は20万9662円です。所得率は54.1%で県平均値の37.0%をかなり上回った良好な成績となりました。 

 生産技術については、

(1)子牛の出荷時日齢は雌で303日で県平均の299日とほぼ同じ、去勢牛は265日で県平均の282日より若齢で出荷しています。

(2)子牛出荷時体重と日齢増体量については、雌の日齢増体量が0.848kgで県平均の0.840kgよりやや上回っています。 去勢牛についても0.989kgで県平均の0.950kgを上回った成績で、出荷時体重も雌で257kg(県平均252kg)、去勢は262kgと県平均値270kgに少し劣る程度です。
 
  表−4 損益計算書 (単位:円)
 
  ※経常所得には家族労働費が含まれる。

(3)子牛販売価格については、雌は平均33万2400円で県平均の31万2933円を少し上回っています。

 去勢牛については43万2353円で、県平均の41万5539円をかなり上回っています。

 なお、雌・去勢子牛とも発育のバラツキが少なく、したがって販売価格のバラツキが少なく良好です。 その他、損益計算書は表−4のとおりです。 


5. 経営の目標

 平成11年度は受託管理する牧場を新たに追加できたため、牧乾草の配分が増加します。また、平成10年度にスタンチョン方式の50頭収容の管理しやすい畜舎(写真)が完成したことから、成牛70頭体制に向けて自家保有牛を中心として、準備をととのえているところです。 

広大な放牧地で吉村忠也さんと本会の 畜産相談員木原貞雄さん


おわりに
 野乾草の確保を演習場内の緩傾斜地で収穫していますが、その面積は比較的少ないため、入牧者間の暗黙の了解のもとに区分がされています。したがって、新たに拡大することは困難な状況になっています。 

 そこで、受託管理する牧場からの乾草の量が、飼養頭数の制約要因となるため、そのあたりをじゅうぶんに注意しながら目標頭数とすることを後継者は認識しています。

 今後は一層の地域農業や地域社会との協調、融和のなかで大きな目標を達成されていくことを信じています。 

(筆者:大分県畜産会・事務局長)