農場再生 こうして経営困難を打開する(2)
─農家指導にあたって─

村 上 明 弘
1…農場への通い方

1.集中的かつ定期的に通う
 中途半端な通い方では、通常、何も変わらないでしょう。集中することがたいせつです。当初は最小でも月に2〜3回くらいは行きます。それを1〜2カ月行い、その後は最小月1回は通います。軽症なら3〜4カ月、たいていは半年、重傷なら一年前後通い続けねばなりません。
 たいせつなことは、次回の予定日を必ず決めてくることです。つらく面倒な仕事は普通回避したくなります。経営の再建は通常そんなにうれしい仕事ではありません。どちらかの事情で次の予定がキャンセルになっても、その場ですぐ次の予定を決めておく、これが肝要です。

2.長時間いる
 1〜2時間チョコチョコいるくらいではだめです。始めはなるべく長く、できれば午前も午後もできるだけ長く滞在することです。少なくとも午前か午後どちらか半日、少なくとも3時間以上はいるべきです。

3.時々特別な時間帯に行く
 朝の搾乳時間帯とか、休日とか、普通は来そうもないと思われるときに行きます。とくに朝の搾乳時間帯とその前後はたいせつです。酪農技術や作業および農場内における人間関係の多くは、この時間帯でとくにみられます。技術や家族協調の骨格をなす部分であるこの朝の搾乳時間帯を、関係機関のおおかたの担当者や幹部は知らな過ぎます。もちろん、ただ何となく仕方なく行った朝の訪問では得るものはありません。目的を持ってつぶさに観察する意識がたいせつです。いずれにしろ、作業の根幹部分の特質を体験と共に認識しないで、事を論じるのは論外といえます。

4.不定期にも極力寄る
 飼料の変わり目、分娩の重なるとき、圃場作業のはじまるとき……等、あるいは近所に出向いたおり、関係機関から異常の知らせがあったとき……等、できるだけ寄ることがたいせつです。その場合、相手が不在でも気のついたことをメモなどで残して来ましょう。

5.きっかけと理由
 農協職員が通うときは相手農場の事情をじゅうぶん理解したうえなので、経営再建のために通わせてもらう、と明言して当然でしょう。しかし、普及員やコンサルタントや地元外の系統職員などが通うときは、何かきっかけが必要です。
 その気で行くか、偶然を装うか。大抵は農協か行政の主導のもと、そのむねを明確に説明し納得のうえの方がやり易いものです。しかし、相手の事情や性質によってはそれを嫌う人もいます。その場合は、知っていても偶然を試みるべきでしょう。技術的な巡回の折、何かを感じて話を深め、技術検討のための訪問日を決めてくるとか、あるいは、牛のある病気が多いとの報告を受けたのでとか……で。

6.大勢で行くか、限られた人で行くか
 チームが力不足で一貫性のある説明をできないなら、事情に精通している農協担当者と農場に相性の合いそうな技術員2〜3人の少数がよいでしょう。大勢でビックリさせても成果はわずかです。同一人物が単独で通う方が良い場合も多々あります。最初がたいせつなことなので、農場の特徴にあわせて決めたいものです。理想は多くの専門家が係わることですが、それはたぶん容易ではありません。余程のリーダーと支える組織力が必要だからです。

2…事情を知る

 地元に永い住む職員でない限り、対象農場の事情は分かりません。そんな事情にうとい職員が通う場合、農場の事情を事前に知っておかねばなりません。
 とはいってもあまりにも細かいことを過去の長期に渡り知ってみても…致し方ありません。何故なら、経営再生のための方向や手法に、過去の内容が事細かに影響することはないからです。たいせつなのは、通う人が信用を得るため、農場が再生するための原点的な情報を理解しておくことです。
 経営困難にいたった特殊事情はないだろうか。農場内の人間関係はどうだろうか。資産の名義は誰だろうか。経営主に、あるいは奥さんなどに変わったところはないだろうか。どこかの業者や人がべったり張付いていないだろうか。表面化してない借入れの可能性は…。大きく傾き始めたキッカケは…。金のかかる人的な事情はないだろうか。家族、とくに奥さんは負債の実状を理解しているのだろうか、知らせてよいのだろうか。…ともかくみえにくい、聞き難い、伝えにくい、しかし知っておかねばならないことをあらかじめ得ておくのはたいせつなことです。
 もっとも、通う人の人間性が相当に豊かなら、白紙状態からスタートする方がうまくいくこともあり得るでしょう。しかし、単なる自信過剰では…ダメでしょう!
 残りの基本的なことは、先に知っておいてもいいし、通いながら、なるべく早い時点で聞き取るのもよいでしょう。相手に直接聞くのは、反応も確認できるし、隠れた事情も出るかも知れません。生産実績、支出内訳、土地条件、作付け内容、収穫調整事情、労働力、取引事情…等です。
 施設・機械・乾乳牛・搾乳牛・育成牛・作業方法・給与中の飼料…等はほとんどみれば分かるので聞き取る必要はあまりありません。確認程度でよいでしょう。もちろん自信がなければ、じゅうぶん聞き取るか調査を要します。とくに、繁殖や疾病状況、自給・購入飼料の品質はたいせつです。
3…特長探し

1.農場全体をつぶさに見る
 整理整頓の状態、さらには場所ごとの差異もみます。
 たとえば、車とくに作業機や運搬車がよく通る道路面の整備状況は…。そこがあまりにも凹凸のままでは…生産効率をあまり考えない農場かも知れません。とくに二次的三次的な損失を過小評価するタイプかも知れません。さらには定期的あるいは必要が生じる度に、コツコツと地味な仕事をするのが苦手なのかも知れません。どちらかといえば、いよいよどうにもならなくなってから一気に仕事をするタイプかも知れません。
 筆者自身を考えると、とても書きにくいのですが…。何故こんなにしつこいかというと、そのような方法では一発でする作業前に相当な損をし、さらに作業後にも早々に損が始まるからです。
 たとえば、ドロドロになるまでほっておいて、牛を傷めたパドックをどうしようもなくて、一気に土の入れ替えをするの類です。畑の取付け道路で作業機がはまってから整備するの類だからです。多分、牛にも機械・施設にも同じことがいえます。
 また、牛舎内、処理室内、物置、出入口、牛舎周辺、機械庫、哺育施設…、さらには住宅内、住宅周辺、野菜や花畑…をしっかりみます。何処を誰が中心になって管理しているかを何となく察知します。その整理状態により、経営主やそれぞれの人の特徴を判断します。とくに処理室内外や牛舎出入口、牛の接するところ、機械工具場などはたいせつです。何故なら、人の衛生とか作業者の動き、牛の健康とか機械の機能などに直結するところだからです。また、住宅の一部や庭や畑などは見事なのに牛舎の方は…どうも!というようなときは若夫婦の方が…。という具合に理解します。

 これらは一例ですが、必ずしもあたるとは限りません。整理整頓は苦手だが、何が大事かは分かる人がいるからです。作業や牛の関わるところだけはきちんとし、儲けている農場もあります。要はポイントをはずさなければいいからです。

2.建物・施設や機械の配置や状態を把握する
 寸法・距離・形を含めた建物の配置、さらにはタイプ・規模を含めた機械や施設の配置や状態、これらを1回目の訪問でほぼ掌握しておきます。それを農場の人のいる前で図面落とししたりして説明します。
 これはできそうでなかなかできません。意識的な訓練が必要です。何処が傷んでいるか、どれがどのような価値を持っているか、技術や経営法の可能性を何時も考えてみていれば、自然にできるようになります。
 酪農場ほど建物・施設・機械等がいっぱいある農家はありません。それを少しの出っ張りや出入口の位置や扉の種類まで、尿溝や換気扇のタイプ・方向まで、さらには、屋根の形や方位まで…細部も含め把握するのは容易ではありません。しかしそれができれば、早々のうちに農場の信頼を得られます。また、早いうちから、対象農場における基本的な再生方向を示唆できます。
 技術や経営法の可能性に関し、理解が深まれば、建物・施設・機械がまだまだたくさんの利用価値を持っていることに気付くでしょう。多くの人は既存資産の持つこの潜在力を見逃しています。

3.家畜をみる
 乳牛個体の持つ資産価値の引出し方、そしてその集積としての牛群化、さらには価値が具体化するタイミングの時系列化。このことが酪農経営のコアです。そのような目で牛を分類的にみます。
 低能力、老齢、遅い受胎、慢性の乳房炎、乳頭乳区の損壊、肢蹄の変質変形…はきわめて低い資産価値を意味します。その逆は希望が膨らみます。
 育成牛の数と分類を確認します。幼齢牛が多く、初妊の中〜近腹が少なかったら、時系列的な生産拡大は望めません。その逆は希望が膨らみます。
 最善は、初産〜2産次牛と初妊の中〜近腹牛が健全に多頭数いれば、資産価値、牛群規模、時系列の三者揃い踏みとなります。この理想とどのくらいずれているかで対策を考えます。
 育成牛は、育成牧場などにいることもあるので注意します。
 大半の経営困難な農場においては収支に苦慮し、価値の高い中〜近腹牛が毎年売られます。先の理想と大きくズレています。単年度決算と後始末的な経営チェックの矛盾が露呈している部分です。
 酪農に投入した今の経費は、翌日から4〜5年後まで短中長期的に渡ってさまざまな利益の出し方をします。飼料給与などはその典型です。
 もし、本気で再建を意図するのなら、再建チームを信頼するなら、少なくとも2〜3年間は、単年度や資産比の上限枠に固執した決算は…調子を狂わせます。しかし、あてもなく長い目でみるのも度胸がいります。難しいところです。

4.牛以外をみる
 肉牛、馬、鳥、犬…などお金を喰っていそうな動物はいないか、庭の石や花木や置物…などは。住宅内には何か道楽的なものではないだろうか知っておきます。併せて、経営の一部なのか家族の誰かの趣味なのかも掴んでおきます。
 酪農以外の経営部分や、家族の趣味的な経営部分に経費が大きく流れていないか、家計費の切り詰めにどのくらい可能性があるか、処分による価値は…、具体的に判断します。
 しかし、現実の対応時は、趣味的な分野に関して、家族個々人の気持ちが強く関わるので、不用意な言動はさけるべきでしょう。チャンスをとらえて説明し、売るか抑制するかしていただく…そして家族全体の協調を作りだしてゆきたいものです。

5.人を知る
 酪農作業は家族全体の協調を要します。再建の場合はことさらそうです。経営が困難になると、あるいは困難になった理由に、往々にして家族の不協和音があります。家族ごとの性格、家族の力関係、経営権や土地の所有名義、健康状態…などをみます。
 もっとも強い?人が舅か姑だったりする場合は、若夫婦が機嫌よく仕事ができるようにうまく立ち回らねばなりません。この担当者は、うちの息子を何とかしてくれるかもしれない、との信用を得ねばなりません。
 年を重ねて性格がよい方に変わることは…多分滅多にありません。いうべきはいいながらも、総体的には決して逆らわないで協力してもらうやり方をします。再建の時ほど、和と労力がたいせつです。可能なら、若夫婦や息子にあらかじめ、父母の長所を、若い方の短所を、敢えて強調するときもある旨伝えておく、そんなやり方も駆使します。
 一方、再建には通う人と農場との相性も深く関わります。なるべく早めに中心人物をとらえ、その性格を知るのはたいせつです。多くの場合、信用を得るまで相手に合わす割合を多くします。あまりにも合わなきゃ、合いそうな人に役目を変わるべきです。
 これは家族経営のみでなく、人の多い共同・法人経営にもあてはまります。
 何でこんなに細かいことを…と感じるでしょうが、それは農場再生の成功と持続はすべて人とその強調にかかっているからです。何時までも通いきれない以上、農場における人的能力の向上、および作業協調の強化を再建業務の基本命題にせねばならぬからです。すなわち、経営の自立的な持続性が肝要だからです。一過性の経営成果なら、通わない方がましかもしれません。
 しかし、このことは相当に難しい。書いている本人も少しうつむいています。だが、ここのところは一番大事なので敢えて強調します。人的能力の変化、何時もこのことを意識して農場に接したいものです。

4…各種の留意事項

1.最初に関係機関と一緒に回るべきか?
 本気で取組む合意ができたいくつかの機関が、まず始めに対象農場を巡回するのは、通う方には都合がよいものです。それぞれの専門の目で可能性がみられるし、中に高い総合力を持った人がいれば、多くの人の気付かないやり方と理由を具体的に説明できるからです。また金融や行政など、技術的な素人にも現場的な理解を深められるからです。要するに、係わる方に共通のイメージができるわけです。後からの話がきわめて進めやすくなります。
 しかし、予告しているとはいえ、大勢がバタバタと押し寄せるのは、農場側にとって辛い限りです。相手の性格にじゅうぶんな配慮がいります。無理は禁物です。余程日常的に知り合っている者、たとえばJA職員、普及員、獣医師、授精師の中の組み合わせ程度にするか、止すかです。
 相手の心の負担を思うところから、多くの場合よい関係が生まれます。

2.いずれ再投資が『必ず』必要になる
 少なからぬ投資を要しない経営再建は、滅多にありません。
 農場に健康や繁殖、さらには作業などに関して決して損をしない基本技術が定着したら、たとえ赤字状態であっても、相応に最小最善の投資がいることを、関係機関とくに農協に認識しておいてもらうことが大事です。できれば、事前に幹部からその約束を得ておくべきでしょう。
 妊娠近腹牛の購入、搾乳システムや日常的に使う機械施設の修理更新、牛舎の改造増築などです。
 多くの組織や担当者は、まず、投資はさせない、家計費はつめる、育成牛は売る、乳検に入れ、簿記はつけろ…となります。軽症時はよいかもしれませんが…そうでない場合、希望は失い負担は増す…ことになりかねません。
 そうではなく、可能性を説明し、いましっかり辛抱して光がみえたら、投資によるグレードアップもあることを感じてもらうことが必要です。それまでは乳検や簿記は他の簡易な方法で間に合わせてもかまわない…、そんなやり方もあります。
 もちろん相手の性格にもよりますが、何でも一律というのが最悪です。無難な手法だけでうまく行くのなら楽なのですが…。

3.報告しあう
 関わる機関が時々報告検討しあうのは価値があります。とくに農協には状況と要望を高密度に伝えます。そしてその要点が幹部にしっかり理解されていることです。必要なら直接幹部に伝えます。

4.担当者能力を育てる
 乳牛管理の技術には、最低限の利益は保証できる(決して損はしない)基本というものがあります。高い技術力を有しているものは、できるだけ成長可能な人材を農場に同伴させ、その技術を意味を含め修得させるべきです。丸一日を10から20回くらいついてくれば何とかなるでしょう。その中身の概略はいずれ説明します。
 少しでも間違いの少ない技術を持っている者が多く活動する、そのことが、仕事を加速できるからです。

5.体を使う、邪魔をしない
 農場の人は朝から夕まで暇はほとんどありません。しかし、担当者はなるべく長時間かけ農場にいるようにします。特に初期はそうします。
 そして相手の空き時間をとらえて仕事をします。それまでの間、農場の様子を観察したり、相手があまりしない(できない、気付かない)仕事をしたりします。牛床・飼槽・水槽の掃除、寝ワラ入れ、粗飼料タップリ給与、長草ほぐし、牛体掻き、出入口の環境整備、換気強化…等々です。それによって何が大事かを何となく伝えます。嫌みったらしくしないこと、自分の勉強としてやる気持ちが優先です。
 また、農場の規則的な仕事の邪魔をしないことも大切です。

6.決まった仕事をする
 定期的に農場に行ったときは、必ず確認検討する仕事をします。農場の実態を流れとして捉えておきます。飼料の質・量、乳牛のコンディション、頭数、旬別出荷実績、乳質、個体別の繁殖状況、個体あたり産乳量、一日における作業や飼料給与の手順、クローズアップ期〜産褥期の給与方法、1日分としての乳飼比…などです。
 何時もみられ、質問されると常に意識するようになってきます。それを通じて、さまざまな情報や考え方を提供します。
 また、牛やふんやえさなどに厭わず触ります。きれいなやり方だけでは信頼は得られませんし、真の情報も得られません。

7.出来る方法を次々に言う
 困難農場の経営主や奥さんは、往々にして否定的あるいは自己主張的な人になっています。
 何か新しい提案をしても、できない理由と自分のやり方を次々にいわれてしまいます。ここで折れたらうまく行かないことが、強制すると気まずくなる。そんな時、相手のいい分も理解しながら、しつこくコチラの方法を、その長所と短所、その伸ばし方と抑え方を含め、何とか説明し続けるエネルギーが必要です。こういう理由でそれはできない…と反論されても分かるが、しかし、ならばこうすればできる、と次々とできる理由を説明し続ける努力がたいせつです。

8.異常があったらすぐ連絡を
 とくに牛の異常があったらそうするようにします。もちろん作物や飼料など緊急手当を要する場合は連絡してもらいます。飼料の変わり目、分娩前後のトラブルなどはとくにたいせつです。あんがい軽く考えてしまい、連絡不足が起こります。要注意です。

9.朝の搾乳前に一仕事
 農場内で一番若い者が、搾乳開始の30〜40分前に作業にでるようになればしめたものです。家族の志気もあがります。
 朝の搾乳前は利益の宝庫です。トラブルの早い発見、発情確認、汚染空気の入れ換え、ふん落とし、飼槽掃除、唾液の出る飼料の給与、搾乳準備…など価値の高い仕事がいっぱいです。
 牛も人も、一日の始め良ければすべて良しです。

10.始めはシンプルな技術で…
 科学的な根拠のある単純明快な技術や作業法でスタートします。心と作業にゆとりがでてから、価値ある複雑化をはかりましょう。しかし基本はあくまでもシンプルです。

(筆者:北海道十勝北部地区農業改良普及センター主査)