酪農婦人部の収入アップ作戦
─「ビワの葉エキスで体細胞数が下がったよ」─

清 武  真


●乳房炎対策の現状
 乳房炎は、乳牛の乳質に大きな影響を与えるため、酪農家にとって最も関心のある疾病です。このため乳房炎対策は、家畜保健衛生所(以下、家保)においても、重要な業務のひとつとなっています。実際、この乳房炎対策の成果は、毎年、いくつかの都道府県で業務発表会という形で明らかにされていますが、それらは細菌検査や抗生物質の感受性成績に基づいたものが多いようです。しかし、これらは家保にしかできない対策です。また、診療獣医師による抗生物質を使った治療は、体薬期間の関係から生乳の出荷制限を受けるほか、ときに薬剤耐性菌が出現することがあるので、獣医師、農家ともに注意が必要です。


●乳房炎と体細胞数
 酪農家が出荷する生乳は、体細胞数、脂肪分率、無脂固形分率、細菌数などの品質によって基準乳価に対し格差金の上乗せや差引きが行われています。このうち、体細胞数は表−1のとおり、その数によって5つのランクに分けられていますが、体細胞数30万以上の生乳は、その増加の大部分を白血球で占めているため、体細胞数が乳房炎の指標となっています。この基準は、平成10年10月1日から良質生乳の生産者を優遇する形に改正されました。

表−1 生乳の品質基準のうち体細胞数による乳格差
ランク
A
B(基準)
C
D
E
体細胞数
20万未満
20〜30万未満
30〜50万未満
50〜100万未満
100万以上
加減(kg当り)円
+1(+2)
+0
−1
−3
−10(−20)

平成10年10月1日から( )内の格差金


●身近な民間療法
 私たちはけがをするとすぐに救急箱のふたを開いて消毒薬や傷薬をつけます。ところが、乳房炎ではこういうわけにいきません。目の前に乳房炎の牛がいるのに手をこまねいているのは、農家にとって実に忍びないことですし、なんとか良い手だてがないものかと思うのは当然のことと思います。

 ところで、読者の皆さんはビワの葉を使った民間療法のことを見たり聞いたりしたことがあると思います。ビワの木は、中国原産で西日本に自生するほか、果樹としても栽培されています。このビワの葉の加熱あるいはアルコール抽出エキス(以下、ビワエキス)が乳房炎治療に有効で、生乳の色や風味などにもまったく影響を与えないということをご存じでしょうか?

 このことは、平成元年のある新聞ですでに報じられていて、当時は西日本各地および県内の酪農家で試されたようです。

 そこで、筆者も実際にビワエキスを作製し1戸の酪農家で試してもらったところ、記載された効果があることを確認しましたが、ある酪農家にビワエキスのことを話したら「以前に使ってみたが効果があるのか、ないのか、わからなかったので、今はやめている」という答えが返ってきました。


●そこで考えた! ビワエキスの普及
 ビワエキスを使った乳房炎治療は、農家で手軽にできるのになぜ普及しないのでしょうか。農家の話から察すると、どうも作り方や使い方および効果の判定方法がよくなかったのではないかと思うようになりました。

 それならば、ビワエキスの作り方や使い方、効果の確認法を教えれば、農家が抗生物質に頼らず手軽にかつ低コストでできる乳房炎対策ができるのではないか。

 さらに、ビワエキス作製には、鍋釜が必要なこと、乳房炎の経験は女性しかわからないことなどから、酪農婦人部を対象に講習会を行えば、ビワエキスによる乳房炎対策を普及させることができるのではないかと考えました。


●乳牛は家族だ! 酪農婦人部との出会い
 ちょうどそのような折り、当所管内にある県酪連事業所が、乳房炎対策をテーマとして開催した酪農婦人部の研修会に、私は講師として招かれました。ちなみにT事業所管内には120戸の酪農家がありますが、婦人部の皆さんはいづれも実に元気で、家計を一手に引き受けながら乳牛の世話をしておられます。

 さて、その研修会の席上で早速ビワエキスの作製法と乳房炎治療の成績を紹介し、ついでに表−2のようなアンケート調査も行ってみました。

 「ビワエキスを使ったことがありますか?」の問いに対し、「ある」と答えた酪農家は22名でしたが、現在使用しているという人は数名で、ほとんどの酪農家は使っていませんでした。「ない」と答えた酪農家の中には、知らなかったという農家以外に、煎じ方がわからないという農家がありました。

表−2 宮崎中央地域酪農婦人部研修会アンケート
(問)ビワの葉エキスを使ったことがありますか?
(回答) ある
ない
無回答
22名/52名(42.3%)
26名/52名(50.0%)
4名/52名(7.7%)
(問)ビワの葉エキスを使ってみたいと思いますか?
(回答) 使ってみたい 
不必要
無回答
40名/52名(77.0%)
26名/52名(11.5%)
26名/52名(11.5%)

(心のつぶやき)
 あれ、これはどこかの農家で聞いたような答えだな。どれどれ、次の質問…。

 次に、「ビワエキスを使ってみたいと思いますか?」の問いに対し、「使ってみたい」と答えた酪農家は40名であったことから、それなら、みんなでやってみようということになりました。こういうときの婦人部の団結はすごいものがありますね。裏を返せば、農家がいかに乳房炎で困っているかがよくわかります。それに乳牛をわが子のように思う母の気持ち、やさしいですね!!

 感動してばかりもいられません。とりあえずビワエキスの作り方について、農協単位ごとに講習会を実施することになりました。

 とくに、“安全性を如何に証明するか”ということを考え、全農場で定期的な薬物残留検査を行っています。最近では、波動分析という、人間の健康に対する好影響度測定を行っています。


●にぎやかなビワエキス作製講習会
 講習会は、鍋釜、煎じるためのコンロなどがある加工センター調理室で行いました。余談ですが、こういう施設には大広間がありますので煎じ液が冷えるまでの間、昼食タイムになります。婦人部の集まりということでお弁当のほかに、手作りのおつけものや牛乳を使った料理など、たくさんのごちそうがテーブルの上に並びました。今になって、よく考えてみるとこれが楽しみでこの講習会を続けているような気がします。これが事務所の面々に漏れると希望者続出ということにもなりかねません。そこで事務所に帰った筆者は、もちろん口をぬぐってだまっていたことはいうまでもありません…。

(心のつぶやき)
 この原稿、事務所のみんなに回覧するんだよな、しまった!!

 閑話休題。講習会は、平成10年6月から平成11年2月にかけて、7回の講習会を開催し、103戸中62戸の参加がありました。講習会には今の若奥さんから昔の若奥さんまで集まりますので、実ににぎやかなものとなったことはいうまでもありません。


●これです。ビワエキスの作り方!
 実は、畜産コンサルタント平成10年3月号に紹介してあるのですが、経営情報の読者にさらに詳しく紹介します。

 図−1は、ビワエキスの作り方で、講習会では、真ん中の煎じて作る方法を教えました。

 緑の濃い古い葉を採取後、3日間陰干しにし、150g程度の葉を砕切して、2の水に入れ、1時間煎じます。落としぶたをして、途中で沸騰したら、火を弱火にします。煎じると1程度になります。保存には、発酵防止のため1当り25gのクエン酸を添加し、冷蔵庫に保管します。

〈講習会でのQ&A〉

質問[1]:いつの時期の葉っぱがいいのですか?

回 答:ビワは常緑樹なのでいつの時期の葉っぱでもかまいません。

質問[2]:煎じた液とアルコール抽出液ではどちらが効果がありますか。

回 答:どちらも同じくらいの効果があるようです。

 講習会では、少量のエキスしかできないため「集まって楽しく作ろう」をスローガンに掲げて、後日、近所どうし集まって作るようお勧めしました。

図−1 ビワの葉エキス・ビワの葉煎汁のつくり方


●ビワエキスの使用法
 ビワエキスを乳房炎に試すのに先立ち、農家が効果を実際に体験するためには、統一した試験方法が必要です。

 そこで、表−3のように、1戸当り2〜3頭の潜在性乳房炎や、臨床型乳房炎を呈している牛の乳房(分房)に1日2回、治癒するまでの1週間から1ヵ月間スプレーするようにしました。

表−3 ビワエキスの使用法
1戸当り2〜3頭
潜在性乳房炎や臨床型乳房炎の牛
乳房に1日2回(搾乳後)
1週間から1ヵ月間(治療まで)
乳房炎分房にスプレー


●ビワエキスの効果判定法
 効果の判定は、表−4のように、体細胞数について、ビワエキス使用前と使用後の牛群検定成績。または農家が任意で実施する委託検査成績を比較することにより客観的に行いました。

 また、乳房内のしこり、乳汁中の凝乳塊(ブツ)の消長など体験的効果は、聞き取り調査を実施しました。

表−4 ビワエキスの効果判定法
1 体細胞数(ビワエキス使用前と使用後)
毎月1回の牛 検定成績
一定期間後、任意で行う委託検査成績
2 乳房内のしこりの消長
3 乳汁中の凝乳塊(ブツ)の消長


●ビワエキスの体験的効果
 ビワエキスの体験的効果は、表−5のように、データがとれた24戸の酪農家のうち17戸から回答があり、乳房のしこりが早く消失した。ブツが出なくなった。飛節周囲炎が治った。そのほか分娩後の乳房の張りが早く消失した。後産停滞の牛に200驍ルど飲ませたら後産がすぐに出た。獣医師が乳房炎治療でさじを投げた牛に根気強くつけたら治って、現在搾乳しているという報告がありました。(この牛、あわや廃用となるところを命拾いしました。まさに強運の牛です)

表−5 ビワエキスの効果・体験的効果
1 乳房内のしこりがとれた11戸
2 凝乳塊(ブツ)が出なくなった 3戸
3 飛節周囲炎が治った2戸
4 後産停滞が治った1戸

 ※ 24戸中17戸が回答


●ビワエキスの体細胞数低減効果
 客観的効果の判断となる体細胞数の増減は、表−6のように、16戸34頭で比較することができました。

表−6 ビワエキスの効果・体細胞数の推移
体細胞数頭数割合(%)

減少27頭/34頭(79.4%)
増加・不変    7頭/34頭(20.6%)

 体細胞数が減少した牛は34頭中27頭、増加あるいは不変の牛は34頭中7頭で、かなりの牛で体細胞数の減少が認められました。

 体細胞数が減少した27頭について、図−2のように、減少率の分布をみてみると、40%以上50%未満が7頭、30%以上40%未満が6頭で、平均減少率は43.3%でした。

図−2 ビワエキスの効果

 このことから、生乳の品質基準で格差金の差し引きをされない体細胞数30万未満を治療目標とすれば、ビワエキスは体細胞数60万前後の潜在性乳房炎に効果があると推察されました。

 これらの成績は、「試した結果は教えあおう」のスローガンに基づいて農家に通知しました。後日、ビワエキスの効果を管内の農家だけに留めるのはもったいないと思い、県酪連の機関紙(記念すべき新年号)に酪農家の実名入りで紹介したところ、あちこちで反響があったようです。


●ところでビワエキスの有効成分は?
 ビワエキスの薬用成分については、アミグタリンやサポニンが関与しているのではないかと考えられていますが、まだはっきりしたことはわかっていません。

 また、ビワエキス自体には殺菌効果や細菌の活動を押さえる静菌作用はないようです。

 薬効のメカニズムは今後の課題というところです。


●指導の効果
 今回の指導は、酪農婦人部を対象に、疾病対策として農家でもできる抗生物質を使わない乳房炎治療、並びに生乳の品質改善対策として体細胞数低減を目的としたほか、農家がエキスの作製・使用を継続することも重要と考えて実施しました。

 エキスの効果は期待されたとおり、ビワの葉を煎じることは容易であること、エキスの効果を実際に体験し得たこと、効果をお互いに話し合えたことなどから、現在、いくつかの農家が個人あるいはグループでエキスを作製し、乳房炎対策に使用するようになりました。

 また、ビワの木の苗を畑に植えたという農家もでてきました。


●おわりに
 ビワエキスによる乳房炎治療(体細胞数低減対策)は、あくまでも治療の一手段です。乳牛が乳房炎を起こすからにはそれなりの原因があるはずです。最近、酪農指導を行っていると、この原因のほとんどは乳牛よりも搾乳を行う酪農家の側にあるように思えてなりません。酪農家がもっと搾乳の基本を踏まえて搾乳をすれば牛がおのずから良い成績をだしてくれるのではないでしょうか。

 最後にビワエキス作製講習会の開催に労をとってくださいました県酪連および農協担当者の方々にこの紙面をお借りしまして心から感謝いたします。ありがとうございました。

(筆者:宮崎県宮崎家畜保健衛生所・主査)