家族経営から生まれた銘柄豚「観音池ポーク」
〜観音池ポーク出荷組合の取組み〜

河 野 俊 二


 はじめに
 宮崎県の養豚飼養農家戸数は、減少しつつも、飼養頭数については大規模飼養者層を中心に増頭傾向にあり、飼養頭数で全国第2位となっています。

 大消費地から離れた本県においては、枝肉価格等の市場性が非常に厳しいものになっており、このため、とくに家族経営の養豚農家では、生産性の向上や低コスト生産が収益性をあげる大きな課題となっています。

 この様な状況において、本県高城町の「高城町観音ポーク出荷組合」は、養豚農家6戸で結成され、将来の生き残りをかけた銘柄豚「観音池ポーク」の確立と経営の安定化をめざした取組みについて紹介します。


 1.活動の始まり
 昭和62年当時、すでに輸入自由化されていた豚肉は、外国からの輸入攻勢と国内生産の過剰で価格が低迷し、養豚農家は経営の先行き不安を抱いていました。

 その反面、輸入された豚肉からは、抗生物質等の残留がマスコミに取あげられ、消費者からは不安の声を聞くような状況でした。

 そこで、あふれている豚肉の中でも、消費者に本当に喜んで食べられる豚肉を生産することが、養豚農家の生き残りの道であると確信し、昭和63年に高城町肉豚部会(事務局:JA都城高城支所)が主体となって、大ヨークシャーをモト豚として導入したことが、銘柄づくりへの取組みの第1歩となっています。

 しかしながら、

 「そもそも銘柄豚とは一体何なのか?」

 「どういう肉を作れば消費者に喜んでもらえるのか?」

 「できた商品をどの様に販売すればよいのか?」まったく手探りの状態でありました。

 そこで、町が事務局となり、肉豚部会の若手後継者を中心にした銘柄豚の勉強会「観音池ポーク研究会」が平成2年に設立されています。

写真−1 観音池ポーク出荷組合のメンバー


 2.グループの構成
 グループの構成は表−1のとおり、メンバー全員が後継者で、平均年齢が36.2歳と非常に若いグループです。その6戸がそれぞれ役職に就き、その仕事に責任を持って活動されています。

表−1 グループの構成

氏 名 年 齢 常時頭数 N5200会 家族協定 認定農業者 備  考
A
a
44 112.0 代表
監事
B
b
46 95.0 商品開発部長
監事
C
c
36 54.6 総務部長
D
d
34 82.9 営業部長
E
e
30 126.5 広報部長
女性部長
F
f
27 107.9 販売促進部長
平 均 36.2 96.5        

 メンバーは、それぞれ「家族経営協定」を締結しています。このことで、経営の方針策定、労働報酬、農休日の確保などの条件整備を文書化し、経営を魅力あるものにしています。


 3.取り組み内容とその成果
(1)経営管理技術の構築

 銘柄づくりを進める中で、ブランドを確立、維持してゆくためには、個人の生産技術のレベルアップをはかり、個々の優れた技術をお互い情報交換しながらグループ全体のレベルアップをはかる必要があるということから「N5200会」を設立しています。この「N5200会」とは、地元農協管内のコンピュータを利用した経営記帳グループです。グループでは、設立と同時に各個人でパソコンを導入し、毎月個人で入力した結果を持ち寄って勉強会を行っています。

 勉強会では、技術分析結果をすべてオープンにし、普及センター、町、JA等の指導を受けながら、毎月特定の課題を設け目的意識を持った検討会を開催しています。

 最近では、畜産会の簡易診断事業に取組み、技術分析だけでなく財務分析も併せて行い、グループ内での生産コストの比較検討を行っています。

(2)生産性の高い養豚経営の確立

 普及センターが中心となり、県単の「新普及事業機能強化事業」に取組み、豚舎内で一番温度管理が重要視される分娩舎での断熱材の導入効果について、調査、検討を行っています。このことで、グループ全体に豚舎内環境コントロールの意識付けができ、各自コントロールを徹底して行った結果、離乳頭数の向上がはかられています。

 また、雌豚のヒートストレス緩和による生産性の向上をはかるため、人工授精技術の導入にも取組んでいます。(平成9年次のグループ全体での希釈精液購入本数950本)

(3)銘柄豚「観音池ポーク」の確立(=安全で美味しい豚肉の証明)

 グループ全員で所得向上につなげるために、表−2のような厳しい基準を設けブランド確立に取組んでいます。

表−2 観音池ポーク出荷農家基準

  1. 品種:ハマユウ系三元交雑種
  2. 統一飼養管理マニュアルの厳守…豚肉、肉質の斉一化
    飼料に木酢酸、微生物資材添加
  3. 定期的な薬物残留検査の実施……安全性の確認
    動物用医薬品等適正使用体制確立事業の参加(平成5年〜平成7年)
    事業終了よりグループ全戸で年1回実施:全例陰性
  4. 波動分析(人間の健康に対する好影響度測定)を定期的に実施
  5. 飼料添加剤経費の回収……………販売リスクの回避
  6. 経営記録、記帳の実施……………グループ内チェック機能の確立(夫婦同伴)

 とくに、“安全性を如何に証明するか”ということを考え、全農場で定期的な薬物残留検査を行っています。最近では、波動分析という、人間の健康に対する好影響度測定を行っています。

(4)流通体制の確立

 「観音池ポーク」として平成4年より関西を中心に販売を行い、徐々に地元にも販路を拡張してきています。表−3のとおり、当初380頭であった出荷頭数は、年々着実に増加し、平成9年には約6500頭を上回り、累計で2万頭に到達しています。

表−3 観音池ポーク出荷頭数の推移  (単位:頭、%)

商品化 一般出荷分 合計 商品率
関西出荷分 地元出荷分
平成4年 54 0 326 380 14.2
平成5年 985 0 1,944 2,929 33.6
平成6年 3,340 0 1,512 4,852 68.8
平成7年 3,441 198 2,840 6,479 56.2
平成8年 4,682 663 4,391 9,736 54.9
平成9年 5,814 887 3,997 10,698 62.6

ゆうパック販売実績(お中元、お歳暮用)累計1,795セット
H8/12月 510セット、H9/3月 54セット、8月 244セット、12月 728セット、H10/8月 259セット

 これは、バイヤーとの意見交換をじゅうぶんに行い、強い信頼関係を築いて、スーパー内での試食販売やPRを積極的に行い“生産者の顔”のみえる販売を行ってきた結果だといえます。

写真−2 婦人部との豚肉料理の試食会 写真−3 焼酎メーカーCMへの参加風景

 販売契約においても安全性の証明やバイヤーとの意見交換により、次のような安定的な販売を行っています。

 基本契約:取引価格=肉豚相場+(銘柄化に伴う経費)+α

 また、肉豚相場が下がったときは、コンサルの生産費を提示し最低保証を受けています。このことで、相場に左右されず、生産費を下回らない安定した経営の継続が可能となっています。

 平成9年次の販売実績は、表−4のとおりです。

区   分 1頭当り販売価格 1kg当り単価 備考
県 平 均 29,867円 413円 県経済連調べ
グループ平均 32,269円 430円 一般出荷分含む
銘柄出荷分:現在、精肉1kgに対し、28円のプレミアム。
      流通経費は販売店負担。
∴経営全体でみた場合:プレミアム17.5円/kg、添加剤費用10.3/kg
1kg当り7.2円のメリット

 銘柄豚出荷を単純に計算すると、グループ内1戸当り平均出荷頭数1783頭、平均枝肉重量72kgで、一戸当り約92万円と銘柄化による出荷のメリットがでています。

(5)荷対策

 銘柄確立には、定時定量出荷が必要となることから、年間の販売をスムーズに進めるため、年始めに、肉豚出荷シミュレーションによる年間販売計画の作成を行い、月2回の適正出荷調整会議を開催しています。

 また、屠畜前日出荷に取組み、肉豚のストレス回避、ふけ肉・むれ肉の防止に努めています。

(6)環境保全の取組み

 高城町は農業粗生産額約110億円のうち、畜産部門が約80%を占める畜産の町です。この町においても、ふん尿の地下浸透、悪臭問題など、畜産への風当たりは年々厳しいものになってきており、とくに養豚経営は、畜産公害の一因として問題視されています。

 そこで、悪臭緩和、病原菌抑制、疾病発生軽減、推肥の高品質化をはかるために、町が先頭に立ち有効微生物等を活用する自然農法を研究し、その施用方法等を確立・推進しています。グループでも公害や疾病のない明るい農業経営(ユートピア)をめざし、微生物資材や木酢酸の利用しています。

 生産した推きゅう肥は、地元園芸農家等に販売され、また、見た目でも“よい環境”を作るため、豚舎周辺には花を植えるよいにしています。その成果として全農主催の花いっぱい運動で2年連続で優秀賞をいただいています。

(7)その他

 地域でのふるさと祭りやイベント時にはグループ全員が参加し、豚肉の試食販売、PRを行っています。その中で、豚肉を地元の特産品として推進するために、「わんこしゃぶ大会」を開催し、評判を得ています。

(注)「わんこしゃぶ大会」:制限時間内に何皿食べられるかを競うゲーム。そばの代わりに豚肉のしゃぶしゃぶを食べる。

表−5 高城町観音池ポーク出荷組合の取組みの要約(参考)

経営技術
向上対策
  • パソコン利用による技術分析、経営管理(毎月1回グループで実施)
  • 飼育管理技術研修会の実施
  • 夏場の繁殖率低下防止のための人工授精を実施
  • 畜産会の簡易診断事業を実施(グループ指導)
  • 中央畜産会の改善計画システム利用による経営シミュレーションを作成、検討(全戸)
  • 畜産会主催によるデータベース利用研修会の実施(インターネットおよび表計算ソフト利用研修)
  • 安全性
    向上対策
  • 食肉衛生検査結果に基づく慢性疾病対策研修会の実施(食肉検査所、家畜保健所)
  • 巡回による豚舎衛生研修の実施
  • 肉豚仕上期における休薬厳守
  • 動物用医薬品等適正使用体制確立事業(指定助成事業)により、毎月1回薬品残留検査実施(平成5年〜平成7年)。以後年1回各自自主検査
  • 波動分析(人間の健康に対する好影響度測定)を定期的に実施
  • 肉質・食味
    向上対策
  • 三元交雑肉豚の統一、改良(斉一性、肉質重視)
  • 飼料に木酢酸、微生物資材添加
  • 地元精肉店において各自出荷した肉豚の肉質、資質調査、検討
  • 出荷対策
  • 肉豚出荷シミュレーションによる年間販売計画作成
  • 出荷者どうしの適正出荷調整会議(月2回)
  • 前日出荷
  • 流通・販売
    強化対策
  • 卸問屋と提携し、初めて取引きするスーパーからの視察および試食
  • スーパー訪問によるバイヤーとの意見要望交換および店内での試食PR
  • 町内会でのイベント時試食PR
  • 郵便局チルドゆうパックにて全国通信販売
  • 農畜産業振興事業団インターネットホームページへの情報掲載
  • 環境対策
  • 推肥の高品質化(リサイクル促進)
  • 畜舎内外の悪臭緩和
  • 畜舎周辺の花いっぱい運動の実施
  • 排泄物処理施設の設置、更新

  •  4.グループ女性部の活動
     女性部は商品開発部長と連携をとり、商品開発に取組んでいます。最近では、豚肉のもも、肩、くず肉等を利用して料理の開発を行い好評を得ており、開発した料理は、ゆうパックや試食販売・PR等でレシピ紹介を行っています。

    また、女性部も経営者の1人として、四半期に1回の総合検討会に出席し、わが家の経営状況、生産技術、グループの状況等の把握を行っています。


    消費者向けに制作されたチラシ


     5.今後経営のめざす方向・課題

    1. 販売の地元シェアーの拡大
    2. 地元に根ざした経営・販売
    3. インターネット等の通信網を利用した販売
    4. 地元・消費者に支援される完全リサイクル農法の確立
    5. ふれあい・体験・加工・販売等イメージづくりの拠点施設の設置
    6. 医食同源となる豚肉づくり
    7. グループ全体での法人化(出荷組合としての法人化)

     真の一貫経営という意味からも直営の販売所、レストランの設置、ハム、ソーセージの加工部門も含め、養豚に対する理解を深めるためにもテーマパーク的な拠点施設の設置にも取組みたいと考えており、幸いにして、銘柄豚の名前としても利用している町の「観音池公園」で温泉開発がされ、町が主体となって温泉施設の建設に関する検討がされており、この事業への参加について相談をいただいています。


     おわりに
     当グループは、「メンバー全員の所得向上」あっての銘柄豚を基本に、自ら厳しい銘柄基準を設け、その確立に向けて多くのことに取組まれています。

     毎月行う勉強会では、地元関係機関と一体となり、技術の平準化、高品質低コスト生産を目標に、お互いのデータを出し合って技術の研鑚を行っています。そして、この勉強会は、毎回深夜まで及んでいます。

     本会は、多くのグループ・集団の指導を行っていますが、その中でも経営に対する熱意が強く感じられるグループの1つであり、当グループの一助となる支援指導を今後とも行って行きたいと思います。

    (報告者:宮崎県畜産会畜産コンサルタント)