生産技術セミナ−

雪国のふん尿処理技術

〜発酵乾燥ハウスの建設から稼働まで〜

秋 場 宏 之

はじめに

 筆者の住む山形県の内陸部は、内陸性気候特有の暑い夏と、雪と寒さに悩まされる厳冬期が約3カ月も続く、気象変化に富んだ地域であります。これらの気象条件下にあっても畜産農家の方々は、四季の変化に対応した飼養管理技術を駆使し、それぞれ経営に努力されています。
 この雪国山形県での、家畜のふん尿処理を考えた場合、地域条件に合った処理技術がなかなか見出せないまま現在にいたっており、これからの課題解決が畜産現場からの緊急要請と受けとめ、現在試験研究に取組んでいます。これまでの試験内容を紹介しながら雪国のふん尿処理について考えてみたいと思います。

1.試行錯誤の末のハウス乾燥

 堆肥化処理の実証試験を実施するにあたり、さまざまな施設機械を視察し、とくに冬の処理に重点をおいた処理方法を検討してきました。
 すでに、山形県農業研究研修センターには、長さ95mのロータリー式堆肥化施設が導入されておりますが、大型プラントでも冬のふん尿処理能力が低下し大変であることを身を持って体験しておりましたので、能力低下をうまく乗りきる方法を模索していました。
 我々が想定した規模は、成牛30頭前後の中小規模の酪農家が、個人で導入可能なプラントでした。その条件に適合するものとなると、多くのプラントは、建設コストで負担過剰となり導入困難でした。さらに、多くの堆肥プラントは共同利用か大型経営向けで、個人で導入可能な堆肥プラントが非常に少ないことを実感しました。
 また大型プラントでは、冬期にも良質堆肥を生産しようと思えば、施設や運転のコストは高くなり、さらに経費がかかります。
 そこで、発想を転換し個人経営でも導入可能にするために、冬期には良質堆肥の生産を断念し、良質堆肥にならなくても、ヘドロ状のふん尿が水分を調整し堆積することが可能になった時点でプラントでの処理を終了し、その後は、堆積場で切り返し処理する方式をとることで検討しました。
 このことがその後の作業計画を非常に楽にし、1〜3月の厳冬期に多くを望まなければ、施設も小さいものですみ、さらに加温や送風によるランニングコストを削減することができます。
 このような思考錯誤の結果、攪拌のための機械が安く、施工もさほど経費のかからないハウス乾燥方式を雪国山形で導入可能な技術として確立することにしました。当センターでは平成9年度より「積雪地帯における家畜ふん尿効率的処理技術の開発」の試験を開始し「ハウス型浅型発酵床堆肥化施設(以下発酵乾燥ハウス)」を設置(表−1,写真−1)し実証試験を行っています。なお試験の実施計画にあたっては、神奈川県畜産研究所、本多勝男氏が考案された改良型発酵乾燥ハウスを雪国型に応用させていただきました(畜産会情報 No 95 掲載)。
表−1 雪国型発酵乾燥ハウスの概要
1) 想定処理能力: 乳牛30頭
2) ハ ウ ス : 間口10.8m×奥行き29m
面積313.2g 峰高5.9m 軒高3.1m
3) 発酵乾燥床 : 間口3.97m×奥行き24m×2レーン
面積190.6g 深さ0.3m 容量57.18k
4) 貯 留 槽 : 3.97m×2m×0.75m×2カ所 容量12k
5) 攪拌移送機 : 攪拌幅4.15m 攪拌深0.3m 2機
株式会社オーテック社製 自然乾燥装置D300-4型
6) 略    図:


写真─1 試作した「雪国型発酵乾燥ハウス」

2.雪国型発酵乾燥ハウスの概要

 雪国型の特徴は、ハウスの構造にあります。
 豪雪地帯の当地山形県新庄市では、一月の累積積雪量が3.5mに達するため積雪によるハウスの倒壊を最も恐れています。
 ハウス倒壊の目安は軒高まで雪が積もり、屋根にかかった時点で倒壊する例が多いため、なるべく高い軒高が望まれます。その対策として、ハウスの軒高を通常2m前後のものを3mにし、ハウス内部には10本のパイプの柱を立て強度を増しています。また、屋根の傾斜を約50%勾配にし屋根にほとんど雪が積もらないよう配慮しました。さらに、ハウス内の気温低下防止と雪の吹き込み防止のため、密閉できる構造にしました。
 最大の難問であったコスト対策では、補強しながらコストを安く抑えるため、一般的に流通している直径42.7aのパイプを使いコストを下げています。
 その結果、平成10年の1〜3月は、予想以上に軒下に雪が堆積しましたが、週2回の除雪が3週間続いた程度で、他には大きなトラブルはありませんでした。
 積雪対策のためのハウス構造は、地元で実績のあるハウス業者と相談されることが最良の方法であると思います。
 生ふんを投入する発酵乾燥床は、幅4mのものを2レーン設置し、攪拌移送機を2台導入しました。ハウスの中央に柱がある関係で発酵乾燥床の幅は、同じ幅にしなければ効率が悪くなってしまいます。長さは26mとし、逆対称に2%勾配をつけました。幅や長さは、施設用地として用意できる土地の長さや幅、家畜の頭数により計算できますが、簡易な目安は、乾燥発酵床の面積が、乳牛1頭当り7g以上必要であると試算しています。販売されている攪拌移送機が3〜6mまで1m単位に4機種ありますので、幅が決まれば長さが決まってくると思います。
 厳冬期の低温対策として、温風ボイラーや送風機の導入を検討しましたが、攪拌機以上に運転経費がかかるため今回は導入をみあわせました。

3.建設コスト

 建設にあたっては、実証展示を主たる目的としているため、業者への全面請負工事にはせず、資材調達や特殊作業員の一部雇いあげで独自に自力施工で行い、建設コストを調査しながら建設しました。また、攪拌移送機については競争入札での購入となっています。詳しい内容は表−2に示しました。その結果、総額703万7000円で建設し、乳牛1頭当り23万4000円です。また、建設期間は約1カ月で雇いあげ作業員はコンクリート工事がのべ42.5人、ハウス工事でのべ18人です。このことから、地元の左官屋さんにコンクリート工事をお願いし、ハウス工事は地元の農家仲間に協力を依頼できれば、畜産農家の方が自分で建設できるのではないでしょうか。とくに本県では、サクランボの雨よけテント等でハウスには馴染みの深い農家が多く、現実的にじゅうぶん可能であると思います。また、構造が簡易なことで、老朽化や腐食による部材交換、ビニール張り替えなどを農家が自ら行うことで、かなりのコスト低減につながります。
表−2 供試プラントの工事費内訳
工事内容 項  目 金額(千円) 内     容
コンクリート工事 材  料  費
機械リース料
賃    金
小    計
951
86
732
1,769
生コン、砕石、型枠材、他
バックホー、プレートランマー他
型枠工21人 普通作業員20.5人
面積367g 1g当4,820円
ハウス工事 材  料  費
賃    金
小    計
1,620
271
1,891
パイプ、ビニール他
普通作業員18人
面積313g 1g当6,042円
電気工事 請 負 工 事
材  料  費
小    計
347
90
437
電気引き込み工事
電線、投光機、電熱線、サーモスタット
機械購入 攪拌機一式 2,940 攪拌機2台(レール据付け工事含み)
  合    計 7,037 乳牛1頭当り234千円

4.戻し堆肥利用による処理方法

 「戻し堆肥」として発酵・乾燥した堆肥をリサイクルする方法は、本県でもすでにフリーストール牛舎の敷き料に利用している例がみられます。この他に、ふん尿溝に投入したりする方法も考えられますが、堆肥の水分調整材として使用する方法では、発酵乾燥ハウス内で混合する方法が最も簡単な方法ではないでしょうか。今回の実証展示施設では、具体的には、投入口に乾燥した堆肥を敷き詰め、その上に生ふん尿をダンプからあけ、あとはタイマーをセットした攪拌移送機により混合しながら移送させる方法をとっています。その後、このプラントでは約8日で一次レーンの貯留槽に送られ、2日に一度2次レーンに小型ローダーで移動させ、さらに約8日で2次レーンの貯留槽に送られます。投入する前の生ふん尿の水分は85%であり、約16日間で発酵熱と太陽熱による乾燥で水分が蒸散し、処理終了後には水分が夏期で30%、冬期で65%まで低下します。この乾燥した堆肥をまた水分調整材として再度使用します。戻し堆肥の目安は生ふん尿1tに対し約1kを戻していますが、発酵乾燥床の状態を観察し、なるべく多くの堆肥を戻すようにしています。経験から判断すると、戻せば戻すほど処理がうまくいくようです。堆肥の取り出しは、2次貯留槽がいっぱいになった時点で、約1カ月に一度ダンプ2台分程度を取り出しています(写真−2〜7)。
写真−2 1次レーン投入口に乾燥した堆肥を
     敷いた状態
写真−5 一次レーン貯留槽
写真−3 乾燥した堆肥の上に生ふん尿を投入 写真−6 一次レーンから二次レーンへ移動
写真−4 生ふん尿投入後の状況、
     その後攪拌移送機で1日3回攪拌する
写真−7 二次レーン貯留槽 乾燥した堆肥
     を再度、水分調整材として使用する

5.季節別処理方法

 視察にこられる農家の方々には、「発酵乾燥床は1レーンでは処理できないのですか?」とよく質問されます。たしかに関東以南で普及している乾燥ハウスには、1レーンでかなり簡易な施設が多く見受けられます。しかし、季節による処理能力の違いや乾燥した堆肥を水分調整材として使うことを考慮し、2レーンを上手に使いうまく処理する方法を提案しています。図−1に示したものが1例です。


図−1 季節別処理方式の違い

 はじめに述べましたが、本県の夏は非常に暑く、冬は寒く、通常の処理方式では、夏には堆肥が乾燥しすぎ、堆肥中の水分が30%以下になります。これを、水分調整材として使用する場合は非常に良いのですが、有機物の分解がされないまま乾燥してしまい、堆肥としては未熟なものとなってしまうため、田畑に施用する場合は問題があると思われます。そのため、水分調整材として戻すものだけを2次レーンで乾燥し、残りは堆積処理を行うことで発酵温度が約70℃まで上昇し、完熟堆肥に近いものができると考えています(図−2)。
 発酵乾燥床の発酵温度を1mメッシュで計測した結果を図−3に示しましたが、投入して1〜2日たった投入口から6mのところで60℃まで温度が上昇し、先に進むにつれ、発酵温度も徐々に低下しています。フリーストール牛舎の敷き料として使用するには、大腸菌などの有害微生物の死滅をある程度考慮しなければなりませんので、発酵乾燥ハウスで処理した後、堆積処理でじゅうぶん温度をあげることが重要であると思います。堆肥の敷料利用については現在試験計画中です。
 これまでの試験結果では、図−2に示したとおり水分65%程度で取り出された堆肥は、数回の切り返し処理を行った後、約45日程度で発酵温度があがらなくなっています。このことから、取り出し水分は夏と冬のいずれも65%を目安にし、その後堆積処理を行う方法で現在の試験は実施しています。
 

図−2 プラント処理後の体積温度推移 5.28〜7.8
 

図−3 発酵乾燥床の場所別温度 1998.7.29調査 


 
 

6.水分蒸発量とハウス内温度

 この処理方法は、太陽熱と発酵熱で水分を蒸散させますが、日照や気温に大きく影響されます。現在までの調査結果から、夏期では処理期間の16日の平均で、最大1日1g当り3.8kg水分蒸散がありました。16日間に最大5kgまで蒸散しましたが、天候により大きくばらつきます。冬期は今後の調査待ちですが、おそらく1kg以下になると思われます。
 また、冬期に自記温度計でハウス内外の気温を継続調査したところ、ハウス内部の最高気温が約40℃に達する日がありました。また内部と外部の気温差では最高で約30℃まで開く日がありました。ハウス内は、日射量が多くなれば気温も高く、外との気温差も大きくなっています(図−4)。
 冬期の処理は、ハウス内の気温をなるべく下げないようハウスを密閉に近い状態にし、昼夜の気温差を利用して湿気をビニール内部に結露させ、両サイドにしたたり落とす方式で効果を発揮するよう工夫しています。
 

図−4 ハウス内外の最高温度と日射量


 

7.発酵乾燥ハウスの利点と欠点

 この施設の導入にあたっての利点と欠点を整理すると次のようになります。

(1)利点

 @ ヘドロ状のふん尿混合物が処理できる(尿溜、尿散布が必要なくなる)。

 A 購入する水分調整材が少ない量ですむ。

 B 市販の発酵菌等はとくに必要としない。

 C 建設コスト、ランニングコストが安い。

 D 部材交換、ビニール張り替え等の補修や維持管理が容易にできる。

 E 水分の少ない軽い堆肥が製造可能である(水分30〜60%、比重0.3〜0.5)。

 F 水分蒸散と分解により目減りし製品の量が非常に少なくなる(重量で投入した生ふ

 ん尿の約10%に減少)。

(2)欠点

 @ 広い施設用地が必要である(乳牛1頭当り約10g以上)。

 A 夏と冬の能力差が大きい。

 B 頻繁な除雪が必要。

8.今後の検討課題

 ハウスプラントを稼働し、実際の作業経過の中でさまざまな課題もみえてきました。大きな課題がハウス骨材の腐食対策です。攪拌移送機は、どこのメーカーでも腐食対策がなされ問題ありませんが、ハウス骨材は腐食防止加工がなされていてもかなりの腐食が確認されています。冬期は気密性を保つためなるべく密封しますので結露が生じ、この結露水や湿度が腐食の原因と思われます。対策としては、より強い腐食防止加工が施された骨材の調達が必要と思われます。
 もう一つの課題は、堆肥中のK、Mg、Naなどの塩基類濃度の問題であります。戻し堆肥として何回も生ふん尿と混合されるため、水分だけがぬけ当然濃度が高まります。堆肥の耕種的利用または販売を主な目的とした場合、戻す回数の限界を知る必要があります。これらの課題については、今後の試験のなかで取組んで行く予定です。

おわりに

 雪国の発酵乾燥ハウスは、冬期間は確かに能力が非常に低下し、ハウスだけでの良質堆肥生産はできませんが、その後の堆積処理と併用することでじゅうぶんな処理が可能となり、この方法で約3カ月を乗りきれば、あとの9カ月は良好に処理ができる技術です。また、利益を生まない堆肥処理部門のコストを下げられることが、この方式の何よりの魅力であると思います。
 試験を始め、うれしいことに多数の視察者があり、中には、試験終了前から、この施設の有利性を肌で感じ、導入を決められた方もおられます。
 このように、毎日ふん尿処理で苦労されている農家の方々に「雪国型発酵乾燥ハウス」を肌で感じてもらうことで、この試験の目的の半分くらいは達成できたと思っています。ふん尿処理でたいせなのは技術そのものより環境に適応したシステムをうまく作ることだと思います。農家の皆様は、自分の生産システムや地域の環境を良く理解し、ふん尿処理システムを構築して下さい。
 最後に、この研究を進めるにあたり、ご助言いただきました神奈川県畜産研究所の本多勝男氏に紙面をお借りしてお礼を申しあげます。

(筆者:山形県農業研究研修センター畜産研究部専門研究員)