生産技術セミナー

堆肥の共励会を開催してみませんか

伊藤  元

 

はじめに

 畜産農家では、毎日排泄されるふん尿の処理には大変苦労されていることと思います。これらは主に堆肥化施設において発酵処理され、自家圃場や耕種農家の耕地へ土壌還元されています。しかし、堆肥の品質によっては還元先の耕地で臭気の発生等につながるため、良質な堆肥の生産が望まれます。
 家畜ふん尿堆肥(畜産農家と耕種農家では、そのイメージが相当異なっています)も利用されなくては、単なる廃棄物になってしまいます。
 実際、農家によっては、製品(?)がなかなか利用されずに困っているところもあります。この原因は、堆肥の熟度としての品質もありますし、堆肥の流通にあたってのPR不足もあります。
 これら2点を解決し、堆肥を有効に利用するため、岐阜県では平成7年度から堆肥の品質を競う堆肥共励会を開催してきましたので、紹介します。
 
 

堆肥を利用するにあたって注意する点

 @窒素・リン酸・カリ等の肥料成分の総含量、同じく水溶性の肥料成分、A堆肥の腐熟度、B堆肥のハンドリングの3点があげられ、それぞれの項目について科学的な定量法、また、これに関連する迅速な測定法が検討されています。当県では、主にこのうちの腐熟度について評価しました。
 
 

品質判定基準の作成

 まず最初に検討したことは、品質の判定基準づくりでした。畜産試験場・農業改良普及センター・県事務所・農業協同組合からそれぞれ担当者が集まり、原田が提案した「現地における腐熟度判定基準」(表−1)を参考に、堆肥を作る側、使う側の双方から意見を出し合い、表−2のような基準を作成しました。
 環境対策上、臭気についての配点を多くしました。また、色合いにつきましては、大日本インキ化学のカラーガイド第15版から標準となる色を選定しました(表−3)。

 

表−1 現地における腐熟度判定基準(原田)

 

黄〜黄褐色(2)、褐色(5)、黒褐色〜黒色(10)
形     状
現物の形状をとどめる(2)、かなり崩れる(5)、ほとんど認めない(10)
臭     気
ふん尿臭強い(2)、ふん尿臭弱い(5)、堆肥臭(10)
水     分
 
強くにぎると指の間からしたたる…70%以上(2)、強くにぎると手のひらにかなりつく…60%前後(5)、 

強くにぎっても手のひらにあまりつかない…50%前後(10)

堆積中の最高温度
50℃以下(2)、50〜60℃(10)、60〜70℃(15)、70℃以上(20)
堆 積 期間
 
 
家畜ふんのみ・・・・・・・・・・・・・・・・・・20日以内(2)、20日〜 2ヵ月(10)、2ヵ月以上(20) 

作物収穫残渣との混合物・・・・・・・・・20日以内(2)、20日〜 3ヵ月(10)、3ヵ月以上(20) 

木質物との混合物・・・・・・・・・・・・・・・20日以内(2)、20日〜 6ヵ月(10)、6ヵ月以上(20)

切 返 し 回 数
2回以下(2)、3〜6回(5)、7回以上(10)
通     気
なし(0)、あり(10)
 
注:( )内は点数を示す。これらの点数を合計し、未熟(30点以下)、中熟(31〜80点)、完熟(81点以上)とする。

 

表−2 堆きゅう肥の品質判定基準(岐阜県)
 
区分
配  点
臭 気
 
 
30
堆 肥 臭
 
30〜20
アンモニア臭
カ  ビ  臭
19〜6
生ふん臭
腐 敗 臭
5〜0
手触り
 
 
 
 
20
サラサラとしている。手で握ると固まるが、放すとパラッと割れる。 
 
20〜15
手で握っても固まらない。
(パサパサ)
放しても割れない。
(水分過多)
14〜6
ベトベトした感じ。
 
 
 
8〜0
pH
 
 
10
6.0〜 7.0     10点
7.1〜 7.5      9
7.6〜 8.0      8
8.0〜 8.5     6
8.6〜 9.0     4
9.1〜       2
7.5未満       0
(良質なものをのぞく)
 
色合い
 
20
黒色〜黒褐色
20〜15
黒褐色〜褐色
14〜9
褐色〜黄色
8〜0
堆積期間
 
 
 
 
 
20
家畜ふんのみ 

2ヵ月以上    20〜18 

作物収穫残渣との混合物 

3ヵ月以上    20〜18 

木質物との混合物 

6ヵ月以上    20〜18

家畜ふんのみ 

20日〜 2ヵ月未満 17〜 5 

作物収穫残渣との混合物 

20日〜 3ヵ月未満 17〜 5 

木質物との混合物 

20日〜 6ヵ月未満 17〜.5

家畜ふんのみ 

20日未満     4〜 0 

作物収穫残渣との混合物 

20日未満     4〜 0 

木質物との混合物 

20日未満     4〜 0

1. サンプルの採取場所:その処理施設での最終処理を終了した製品。堆きゅう肥の表面から30cmの深さの位置。

2. 手触り:サンプルを手で握る。

3. pH:堆きゅう肥(現物)1に、蒸留水10をよく混合し、静置した後、pHメーターで測定。測定できないときは、

   この配点を手触りと色合いに振り分ける(手触り配点20点を25点にし、色合い配点20点を25点にする)。

4. 色合い:色調表で判定。

5. 堆積期間:一番新しい堆積年月日から調査日までの月数とする。

<得点と堆きゅう肥の品質>

80点以上 良質堆きゅう肥:ランクA/施設栽培への利用も可能と考えられる。

79〜40点 やや未熟堆きゅう肥:ランクB/露地栽培への利用。

40点未満 未熟堆きゅう肥:ランクC/施用作物、施用時期、施用量をよく検討。

 
表−3 標準となる色合い
 
ランク(配点)
DIC カラーガイド
得点
A  20〜15
 
 
No.582
647
333
20
20
16
B  14〜 9
329
326
12
9
C   8〜 0
313
87
6
0
  
 

堆肥共励会の準備

 堆肥共励会の準備にあたり一番大切なことは、サンプルの収集です。これには、市町村や農協の担当者が苦労されたかと思います。堆肥は同一農家から同じサンプルを2袋に分けて採取しました。1袋は、共励会の審査に必要な水分・pH・EC(電気伝導度)の測定と肥料成分の分析用に、他の1袋は共励会出品用としました。
 ただ、残念なことに、この時点で共励会には不向きな堆肥(?)や、乾燥されたのみのふんが見られましたので、出品をお断りしたこともありました。
 また、サンプルと同時に申し込み書を添えてもらい、これをまとめますと表−4のような審査票となります。

 

表−4 堆肥共励会審査票             第1部 大家畜の部
 
出品
 
番号
出品者
住 所
氏 名
畜 種
処理方法
発 酵
処 理
期 間
副資材
審    査    得    点
備 考
臭気
手触り
(水分%)
pH
(pH)
色合い
堆 積
期 間
11
可児市
肉用牛
乳用牛
養豚・養鶏
開放式スクープ
堆肥舎
一次 30
二次 90
計 120
もみ殻
.
 
 
(22.1)
 
 
(9.29)
. . . .
12
坂祝町
乳用牛
(酪農)
開放式ロータリー
一次 10
二次 80
計 90
もみ殻
.
 
(54.2)
 
(9.10)
. . . .
13
坂祝町
乳用牛
(酪農)
通気型堆肥舎
一次 30
二次 90
計 120
もみ殻
.
 
(38.8)
 
(9.41)
. . . .
14
八百津町
乳用牛
堆肥舎
一次 25
二次 160
計 185
わ ら
.
 
 
(38.1)
.
. . . .
15
. . .  一次 
二次 160
おがくず
. . . . . . .
 
 

堆肥共励会の開催

 共励会は、写真−1、2のように堆肥を展示する容器の選定や、花を飾るなど、できるかぎりイメージを良くしようと仕組みましたが、堆肥の中には、やや(相当)臭気の強い物もあり、審査に際しその順番に気をつける必要があります。
 堆肥は畜種によって異なっているため、大家畜・養豚・養鶏の3つの部門に分けました(地域の畜産情勢によっては、分ける必要がない場合もあります)。
 審査員5〜6名(畜産試験場・農業総合研究センター・地域の普及センター・県事務所・農家の代表者等)が、審査基準にのっとり審査しますが、中には一目で品質が劣ると判断できる物もあり、これらについては始めから審査対象から外すこともありました。
 各部門別に1位、2位を決めた後、この中から最も良かった堆肥を総合優勝としました。畜種によってニーズの異なる堆肥をひとまとめにして審査することの意義について、色々と意見があろうとは思いますが、農家の励み、共励会としての順位付けのためにも必要なことと思います。
 審査終了後、地元の代表者や来賓の挨拶を受けます(写真−3)。また、審査員の代表から審査講評され、優秀な堆肥の生産者に褒賞(写真−4)が授与されます。
 共励会に合わせふん尿処理関連の講習会の開催や、現地の見学会等も計画され、農家、指導者の勉強の機会となります。この時、審査結果について、農家から色々な意見(生産した堆肥に自信を持っている農家もみえます)が聞かれます。
写真−1 可茂堆きゅう肥共励会審査
写真−2 岐阜地域堆きゅう肥共励会審査
写真−3 地元の町長あいさつ
写真−4 褒章(知事賞)授与
 

共励会の問題点

 共励会の問題点や農家からの苦言の主なものは、次の4点でした。

その1:堆肥のハンドリングについては、評価していない。

 規模拡大した農家では、堆肥の流通を促進するため、堆肥をペレットや粒状に成型した物を出品されます。これらの堆肥は、取り扱い易いので利用者の評価は高くなりますが、今回は熟度を基準としましたので、ニーズとは違った結果となったこともありました。
 畜産農家には、できるだけ成型前の堆肥を出品していただき、参考として現在流通に乗っている成型加工した堆肥も展示されるようにお願いしています。
 また、将来的には特別賞として、ハンドリングの部を設ければ、さらに有意義な共励会となると思います。

その2:堆積期間が自己申告のため確実さに欠ける。

 出品された堆肥と堆積期間が不釣り合いの場合もみられるため、この配点を低くしたこともありました。できるだけ正確な記載をお願いしています。

その3:水分調整資材が多いほど、手触りが良い。

 水分調整資材として、オガクズ、モミガラ等が利用されていますが、この量が多いほどサラサラ・フワフワした感じとなり、得点が高くなります。しかし、堆肥を利用する農家には、オガクズに対し少なからぬ誤解もあり、畜産側の技術者としては、できる限り少なくしたい意向があります。このため判断に迷うこともありますが、審査員で十分調整していただき、適切な評価をすることが必要です。

その4:臭気の判定は臭覚疲労により的確な判断が難しい。

 堆肥の臭気を点数化する場合、いちど強い臭気を嗅いでしまうと次の堆肥の臭いが分かりずらくなり、評価が良くなってしまうことがあります。対策としては、品評会の会場の換気を良くするか、前にも述べたように審査の順番を考慮する(牛、豚、鶏の順)とかがあります。
 しかし、人間の鼻のみでの臭気の判定では満足しないと思われている出品者に対して、多少科学的な数値化の方法を検討しました。
 この方法は、やや手間が掛かりますが、数値がデジタル表示されますので、農家に納得してもらうには良い方法と考えます。その方法は、図−1、写真−5のとおりです。
 ニオイセンサーは、標準型(St型)とアンモニア型(N型)の2種類を使用しました。その結果を図−2、3、4に示しました。
 堆肥の総合評価得点(堆きゅう肥の品質判定基準による得点の合計)が高いほどニオイセンサー(St型)の指示値が低くなりました。つまり臭気が少なくなりました(図−2)。
 堆肥から発生するアンモニア濃度と総合評価得点には、関連がみられませんでしたが、アンモニア濃度が6ppmのあたりにピークがあり、これよりも濃度が濃くなっても薄くなっても得点が下がる傾向がありました(図−3)。このことは、堆肥がまったく無臭ということはあり得ず、堆肥の臭いとして多少のアンモニアの発生は容認されているといえます。
 ニオイセンサー(N型)の指示値と検知管で測定したアンモニア濃度には、高い正の相関がありましたので、堆肥から発生するアンモニア臭に限定すれば、ニオイセンサーは利用できると考えます(図−4)。
 また、堆肥の生産現場において、臭気の強い堆肥の出荷を防ぐためにもこの機器は、応用できます。

 
図−1 堆肥臭気の採取方法
図−3 アンモニア濃度と総合評価得点の関係
図−2 ニオイセンサー(St型)と総合評価得点の関係
図−4 ニオイセンサー(N型)とアンモニア濃度の関係

 
写真−5 ニオイセンサーによる臭気測定
 

まとめ

 堆肥共励会への堆肥の出品や参加により、農家が色々な堆肥を見ることができますし、また、堆肥の肥料成分を他の堆肥と比較することもできます。これにより自分の生産した堆肥の特徴がわかります。さらに良い品質の堆肥の作り方等を参考にすることもできます。
 悪い堆肥の原因は、牛では水分過多が多く、鶏では乾燥による発酵不足がありました。豚は水分に関しては良好なものが多くありました。
 農協・市町村・県の機関は、どの地域にどのような品質の堆肥がどれだけの量があるかを認識し、堆肥の利用者へ情報を提供するとともに、PRにつとめ、新規需要者の開拓等やるべき課題は多くあります。
 なお、掲載した堆肥共励会の写真は、可茂と本巣の両県事務所の畜産課から提供していただきましたので、ここにお礼申し上げます。

 

(筆者:岐阜県畜産試験場養豚部主任専門研究員)

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