経営自慢

美味しいリサイクルPorkを目指して

−豚肉質向上研究会の紹介−

林  信一

 

は じ め に

 平成10年4月現在、大阪府下の養豚農家戸数は13戸で、内訳は一貫経営が3戸、残りは肥育専門経営となっています。統計を見ると、昭和40年当時 530戸を数えたのが、13戸にまで激減したわけで、まさに底を打ったというのが実態であります。
 13戸の中には企業養豚も含まれていますが、ほとんどは肥育豚 500頭前後のいわゆる家内規模の経営で、飼料には多かれ少なかれ食品残さ(いわゆるリサイクル飼料)を利用しています。リサイクル飼料にはさまざまなものがあり、学校給食や病院、弁当屋さんからの残飯やパン工場からのパン生地や菓子パン、食品工場からでるうどん、ラーメン、ちくわなどの練り製品、ケーキ生地、ギョーザの皮等バラエティに富んでいます。これらの食品残さをいかに有効に利用し、低コストで良質な豚肉を生産していくかが、今後、大阪の養豚が生き残っていくための道であると考えます。
 リサイクル飼料を使って良質な豚肉を生産していこうという取り組みが、関西新空港のある泉南地域の生産者3人が中心となって行っていますので、その活動の模様をここに紹介します。このグループは川上幸男さん(47歳)、北出茂昭さん(38歳)、田宮正徳さん(34歳)の3人です。川上さんは母豚95頭の一貫経営、北出さんと田宮さんは肥育豚 500頭前後の肥育専門経営です。川上さんは創業者、北出さんと田宮さんは後継者として育ってきた人です。
 

1.研究会への取り組みと経緯

 このグループのリーダー格である川上さんが、平成3年に仲間に呼びかけて「和泉食品残さ利用組合」を結成したのが、この研究会の取り組みの発端です。この組合の目的は食品残さの収集上の取り決めを作り、相手方に協力をお願いし、スムーズな収集体制を作り上げることでした。使用にあたっては、従来の「残飯養豚」の悪いイメージを払拭し、世間から歓迎される養豚を確立することにありました。食品残さの総称として「リサイクル飼料」と名づけたのも、この組合です。
 この組合では関係機関との勉強会の他に、仲間は定期的に居酒屋で会合を持ち、情報交換や将来の構想などを熱心に討論し合いました(ある会合に参加した関係者の話しによりますと、彼らは3時間余りの間、最初から最後まで豚の話ししかしなかったそうです)。当時の川上さんの話はこうでした。
 「長年付き合っているにも拘わらず、ブタ屋は、互いに手の内を明かさないところがある(自分も含めて)、ほんまに儲けているのか損をしているのか話だけでは全くわからない、こんな状態では世間に認められる産業へと脱皮することはできないのではないか、これからはブタ屋も酪農で取りいれている牛群検定のような中身を客観的に比較検討できるデータを作っていかなければいけないのではないか」というものです。
 こんな考えから川上さん自ら自分の肉質成績や経営のデータなどをオープンにして、経営改善に役立てていこうと、率先して実行に移し、食品残さ利用組合の北出さんと田宮さんに、肉質向上研究会の設置を呼びかけました。
 この呼びかけに、農業改良普及センター、農林技術センター、家畜保健衛生所、畜産会の4者が賛同して参加することとなりました。農業改良普及センターは事務局的立場で調整役を、ほかの各機関・団体はそれぞれ専門分野の業務を担当することにしました。メンバーが生産した豚肉を、肉質、経済性、安全性の3点に重点を置いて総合的に分析し、その結果を日常の飼養管理の改善に役立てていこうというものです。また、豚肉の美味しさの秘密を現行の格付け基準とは別に、理化学的分野や官能検査によって明らかにしていこうという試みもあります。平成7年に「豚肉質向上研究会」が誕生し、年2回の予定で開催されるようになりました。
 

2.研究会の内容

この研究会が具体的にどういう形で行われているのか、平成10年4月14日に本年度第1回目の肉質向上研究会がおこなわれたので、その内容を簡単に報告させていただきます。
 研究会に出された話題は大きく分けて、@脂肪の調査分析結果、A給与飼料の分析と抗体検査結果、B経営調査結果、の3項目です。今回は研究会に先立って、1カ月程度前に食肉市場(大阪南港市場)で全大阪養豚農業協同組合の豚肉品質向上技術・消費拡大研究会が開催され、生産者6人が参加、30頭が出荷され、豚の枝肉とそのロースの断面を審査した貴重なデータも得ています(写真−1)。牛の枝肉と違い、屠畜場に行っても、豚の場合はロースの断面まで見ることができないので、素人にはなかなか肉質の判定ができにくいものですが、ロース断面を見ると、生産者間の相違点がはっきりとわかり、興味深いものです。北出さんは脂肪交雑が良く入っており、おいしそうな肉質ですが、皮下脂肪がやや厚め(写真−2)、川上さんはまずまずの肉質ですが、ロース芯の外側の肉色が濃い(写真−3)、田宮さんは平均的にバランスのとれた肉質でした(写真−4)。この枝肉から皮下脂肪と腎臓周囲脂肪を採取し、農林技術センターで分析も行いました。また、家畜保健衛生所は事前に行った飼料分析の結果と抗体検査の結果を、畜産会は平成9年度(1〜12月)の経営調査をもとに出荷1頭当たりの生産原価を算出して話題提供しました。
 会議は生産者3人を含む12人の少人数でしたが、それぞれの立場で改善に向けた活発な意見交換がされました。
 
写真−1 枝肉の審査の模様(大阪市食肉市場)
写真−2 枝肉断面(北出さん)
写真−3 枝肉断面(川上さん)
写真−4 枝肉断面(田宮さん)

 

@脂肪の質について

 脂肪の質は、硬度、融点、屈折率、脂肪酸組成から判断します。リサイクル養豚の欠点は軟脂が発生しやすいことです。軟脂はリサイクル飼料中の残飯類に含まれる不飽和脂肪酸(リノール酸やリノレン酸など)が原因で起こるとされています。ご承知のように不飽和脂肪酸が多いと、酸化も早まります。また、いい脂肪はバターのような香りがしますが、給与する飼料によっては魚臭がするものもあります。
 今回は各人1頭だけの分析であったため、各農家の肥育豚全体の状況をつかむまでにはいきませんでしたが、北出さんの豚が硬度及び融点からやや軟脂の傾向にあるので、不飽和脂肪酸の割合からみてカポックを給与すれば改善される可能性があるとの指摘がされました。川上さんから次回は5頭ずつ分析してほしいとの要望も出ました。この脂肪の話のときに、北出さんから、「うちの豚は、南港では軟脂になることが多いけど、うちの冷蔵庫では脂が良く締まるのに、おかしいなあ」(北出さんの実家は肉の小売店です)と発言があると、「あんたんとこの冷蔵庫何度や?」「0℃くらいかなあ」「それ凍ってんねんで」と一同大笑いした一幕もありました。

A抗体検査と飼料分析

 次に、抗体検査ですが、家畜保健衛生所が各養豚場で毎月月齢ごとに、採血を行い、TP、AR、APP 、PRRSの抗体価を検査しています。川上さんは約10年前から、北出養豚場では平成8年からそれぞれ検査を受けています。
 北出養豚場では、平成8年にARやPRRSの抗体価が高かったのですが、9年は落ちついてきました(図−1、2、3)。9年度は衛生費がほとんどゼロということで、豚舎の洗浄にかなり力を入れられた結果かと思われます。川上養豚場では3カ月齢から4カ月齢にかけて、ARとAPP が高くなっていますが(図−4、5、6)、これはその時期に子豚をほかの豚舎に移動させるためかと思われます。川上養豚では平成6年から定期的にサンプリングを行っており、豚舎の清浄度の経過が良く分かります。
 飼料内容は生産者によってまちまちで、川上さんはリサイクル飼料を乾燥や発酵処理して給与、北出さんはボイルしてパイプラインで給与、田宮さんはボイルしてふすまや大麦と混合して給与しています。分析の結果からは、川上さんは豚肉後期のDCPがやや高め、北出さんは全般にDCPがやや低めなので、蛋白の高い飼料給与が望まれます。田宮さんはバランスがとれている内容でした。@の脂肪分析とあわせて、リサイクル飼料の給与に際しては、品質の劣化したもの、油脂の多いものは避け、肥育後期には大麦や大豆粕などで、カロリーや蛋白質のバランスを保ってやることが必要との見解でした。

 

 

B経営調査結果など

 売上げは3人とも昨年より増えていました。衛生費についていえば、田宮さんは昨年より増えており、これが事故率の低減につながったようですが、根本的な対応策として、今後は素豚の質を上げて、衛生費を少なくする方向にもっていかなければいけないのではないかとの助言がありました。川上さんは昨年と変わらず、北出さんは衛生費の出費がほとんどゼロでした。生産性では北出さんが密飼いを徐々に是正したため、常時飼養頭数が少なくなりましたが、回転率が大きく伸び、収益向上につながりました。田宮さんは子豚の栄養強化を心掛けたことで事故率が半分になりました。
 総括的にみると、@質のいい素豚の安定的確保、Aリサイクル飼料の適切な給与、Bきめ細かな飼養管理による格落ちの減少、この3点が課題として出されました。
 以上のような内容で会議が進められましたが、人数が少ないこともあり、意見や質問が出やすい雰囲気となっています。今回、試食はありませんでしたが、この取り組みは豚肉の生産から消費まで生産者自身が研究していこうという画期的な試みといえます。このように抗体検査の結果や収益性などをお互いに開陳し合うのはなかなか勇気のいることだと思いますが、いざやってみると、かえって刺激となって、ライバル意識が出て切磋琢磨の精神が高揚されてきているようです。

 

写真−5 豚肉質向上研究会の様子
写真−6 左から北出さん、田宮さん、
     川上さんの生産者の3名

お わ り に

 川上さんは平成8年から生産した豚肉を「ブートン」の商標名で、販売を始めました。食品残さを引き取っている学校給食センターへの販路が実現し、文字通りリサイクル養豚を進めておられます。北出さん、田宮さんには今のところ販売の構想はありませんが、安全で美味しい豚肉作りに励んでおられます。このような研究会を行っているという姿勢が出荷先である大阪市場の関係者に評価され売参人の中で支持者がついてきたと聞きます。リサイクル飼料を使っているからこそ美味しいと消費者に思われるような豚肉作りを目指して、この研究会はまだまだ続きます。

 

(報告者:大阪府畜産会畜産コンサルタント)

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