生産技術セミナー

イノシシを利用したイノブタの生産とその経済性

 

西 森 光 孝

 

 は じ め に

 わが国では古くからイノシシなど野性獣類を肉質源として利用していたということが、縄文時代の遺跡から考えられています。その後、農業が営まれるようになってからはイノシシの肉資源としての利用は減りましたが、山間部の狩猟者にとっては格好の獲物で貴重な肉資源でもありました。そして、最近では食生活の向上や人々のグルメ志向などによって再びイノシシの肉資源として価値が認識されるようになり、イノシシが家畜と同じように飼育されるようになってきました。 しかし、イノシシは野性動物であることから神経質で人に慣れにくく、また、交配・分娩しても下痢にかかりやすく、育てにくいという問題点がありました。そこで、イノシシの肉資源としての利用方法の一つとして考え出された方法に、イノシシと豚とを交配した「イノブタ」があります。イノブタについては、戦後まもなくから飼育が始まったようですが、昭和40年代には和歌山県や群馬県で本格的に飼育がはじまりました。
 高知県においてもイノブタは飼育されていましたが、その育成技術については確立されておらず、経済性についても不透明でした。そこで、高知県畜産試験場では、平成7年度より銘柄豚の作出として取り組んでいるところですので、その概要についてご紹介します。  


 1.イノブタの作出方法

 豚の雌にイノシシの雄を自然交配します。この時に注意しなければならないのが豚の体の大きさです。豚の体高が高すぎると、イノシシの雄がペニスを挿入しにくく、交配が難しくなります。そこで、できるだけ体の小さい、体高の低い雌を使います。そして、交配時にはイノシシの雄は興奮し荒くなりますので、雄猪舎へ発情適期の雌豚を入れ、交尾が終わるまでそのままにしておいて、中へは入らないようにします。交配に使う豚の品種については、デュロック種、ハンプシャー種、バークシャー種など有色系統の品種が肉質の面から適しています。
 そして分娩が近づいた1週間前には、豚と同じ分娩舎へ入れて自然分娩させます。


 2.イノブタの繁殖性

   表−1のように、イノブタは妊娠期間が豚より少し長く平均116日で、離乳頭数が8.5頭、離乳時育成率が92.9%という成績が得られました。育成率が高いのは、イノブタの肢蹄が丈夫で瞬発力があるため、母豚による圧死などの事故が少ないためだと考えられます。また、母豚の品種として、純粋種とF1(バークシャー種×デュロック種)を比較してみると、離乳頭数で純粋種の8.2頭に対してF1が9.0頭と、F1の方が多い傾向が認められました(写真−1)。

表−1 繁殖成績及びほ育成績(7〜9年度)


表−1 繁殖成績及びほ育成績(7〜9年度) (26122 バイト)



写真−1 哺乳中のイノブタ (24394 バイト)


写真−1 哺乳中のイノブタ(イノシシ×バークシャー種)


 3.ブタの飼養管理

 表−2のようにイノブタは生後3ヵ月までは豚と同じ飼料を無制限で与えます。3ヵ月以降は豚用の育成飼料とフスマと麦を同割合で配合したものを日量2kgとして朝夕2回に分けて与えます。そして、7カ月以降はフスマと麦を2:1の割合で配合し若干のミネラル剤を添加したものを日量2kg与えます。なお、伝染病の予防や疾病時の治療は豚と同じように行います(写真−2)。

表−2 飼料給与設計


表−2 飼料給与設計 (29929 バイト)



写真−2 イノブタ (28692 バイト)


写真−2 イノブタ(イノシシ×デュロック種)3ヵ月齢


 4.イノブタの発育

 イノブタの発育については、図−1のように生後4ヵ月くらいまでは豚と同じような発育を示します。しかし、それ以降は発育速度はやや緩慢となり、8ヵ月齢で80kg程度になりますが、10ヵ月齢で体重が100kgに達したところで出荷します。なお、イノブタは豚に比べジャンプがあるので、豚より20kgくらい高めの柵が必要となります。また、出荷時には逃走防止のための檻が必要で、当場ではイノブタが1頭ずつ入る檻を製作しました(写真−3)。

図−1 イノブタの平均体重とランドレースの発育目標
図−1 イノブタの平均体重とランドレースの発育目標 (15437 バイト)



写真−3 イノブタ専用檻とイノブタ (35811 バイト)


写真−3 イノブタ専用檻とイノブタ(出荷時)


 5.イノブタの枝肉成績

 表−3のようにイノブタは豚よりも皮下脂肪が厚くなる傾向が認められました。また、枝肉歩留については平均で75.2%と湯剥ぎ処理のため、豚より10%程度高くなっています(写真−4)。

表−3 枝肉成績
表−3 枝肉成績 (31560 バイト)



写真−4 イノブタの枝肉 (20741 バイト)


写真−4 イノブタの枝肉


 6.イノブタの肉質

 イノブタの肉色は表−4のように、肉の赤色度を肉眼で測るポークカラースタンダードで、豚肉2.0に対して4.8、色差計の赤色度を示す数値「a」で豚肉5.8に対して16.4と高い値が得られ(数値が大きいほど赤い)、豚肉よりも肉色がより赤いことがわかりました。皮下脂肪については、その白さを肉眼で測るポークファットスタンダードで、豚肉が3.0に対してイノブタが1.5(値が小さい方が脂肪がより白い)、色差計の明るさを示す数値「L」で、豚肉が78.3に対して81.1(数値が大きいほど白い)と脂肪が豚よりも白いということがわかりました。 また、屠殺月齢による肉色の違いについてみると、生後8ヵ月齢でポークカラースタンダードで3.3、色差計の数値「a」で10.3に対して、10ヵ月齢ではそれぞれが5.5と19.5と、8ヵ月齢よりも10ヵ月齢で屠殺した方が肉の色がより鮮やかであることがわかりました。

表−4 イノブタと豚のロース部における肉色の比較


表−4 イノブタと豚のロース部における肉色の比較 (37681 バイト)


(注)*は8ヵ月齢に対して1%の危険率で有意であることを示す。


 7.イノブタ肉の栄養価

 イノブタ肉の栄養価は表−5のように、蛋白質が精肉100g中で、豚肉が14.1gに対して17.3gと豚肉の1.2倍程度の蛋白質が含まれていることがわかりました。脂質については豚肉が32.5gに対してイノブタが14.9gと豚肉の約半分程度でした。そして、灰分、鉄分、リン、ナトリウムについてはそれぞれが豚肉の1.2〜1.5倍程度多く含まれていることがわかりました。また、カルシウム、カリウムについては豚肉と比べての差はありませんでした。 このような結果からイノブタ肉は栄養価に富んだ健康的な食品だといえます。  

表−5 イノブタ肉と豚肉のロース部の栄養価
(精肉100g当たり)


表−5 イノブタ肉と豚肉のロース部の栄養価 (27815 バイト)


(注)イノブタ肉の分析 社団法人高知県食品衛生協会(平成9年4月7日)
高食検第8−261号試験成績書分析値より。
豚肉の値 日本食品標準成分表より。


 8.イノブタ肥育の経済性

 現在、高知県内でイノブタは、表―6のように生体1kg当たり消費税込みの800円で取引されており、生体100kgで出荷した場合1頭8万円となります。それに対して出荷までにかかる経費として飼料費が2万3,098円、素畜費が1,666円、施設の償却費が4,939円、その他の経費が1,985円、販売経費が1万円で費用の合計が4万1,688円となり、差引所得が3万8,312円となって、イノブタには高い経済性があることが明らかとなりました。 

表−6 イノブタ肥育の経済性(1頭100kg当たり)
H21.jpg (66624 バイト)


 9.イノブタ肉を利用した加工品

 イノブタを生産しても精肉だけでは流通ルート及び需要がある時期が冬季に限られていますので、販路の拡大及び年間を通した販売をめざして、ハム・ソーセージ等の加工試験を行い、そして、食味アンケートを行いました。その結果ですが、表―7のようにロースハムが皮下脂肪が厚かったことで豚と比較しての評価がやや低かったです。ソーセージについては、表−8のように豚と比較しての風味がやや劣る、または劣ると答えた人が28人中6人、普通と答えた人が12人、そして、やや良いまたは良いと答えた人が10人と、イノブタのソーセージは風味が良いことが評価されました。

表−7 イノブタ加工品(ロースハム)アンケート結果(豚肉を原料としたものと比較して)
表−7 イノブタ加工品(ロースハム)アンケート結果 (27677 バイト)


表−8 イノブタ加工品(ソーセージ)アンケート結果(豚肉を原料としたものと比較して)

表−8 イノブタ加工品(ソーセージ)アンケート結果 (25580 バイト)


 お わ り に

 イノブタ肉といっても知らない人が多く、その宣伝が必要だと思われます。そして多くの人にイノブタ肉の美味しさを知ってもらい、需要を掘り起こすことができれば、イノブタが中山間地域における有望作目の一つになり、中山間地域の活性化につながっていくものと考えらます。 これからイノブタを普及させていくためには、先に述べた単価を維持していく必要があり、そのためにはイノブタ肉のさらなる高品質化及び均質化をめざしていく必要があるものと考えられます。

 

(筆者:高知県畜産試験場環境養豚科技師)


生産技術セミナー【総目次】に戻る