HOME畜産大賞の概要平成16年度選賞事例一覧

研究開発部門・優秀賞



グループ代表の神部正路氏
  体外受精卵利用システム 開発研究チーム
(グループ代表:神部 正路)
体外受精卵生産グループ(神部 正路)
流通グループ(寺内 正光、森 治良)
生産グループ(海老澤 清)
牛体外受精技術を利用した肉用牛生産の循環システムの確立

家畜の改良増殖の一手法として受精卵移植技術が利用されているが、生体内から採取する体内受精卵の生産コストは高く、安価で豊富な受精卵の供給が望まれてきた。そこで、黒毛和種受精卵の量産によるコスト低減と、酪農家の後継牛生産の対象から外れる乳牛に移植して価値の高い子牛を生産し、農家経営の安定に寄与することが計画された。

東京及び神戸の食肉市場の協力で、廃棄処理されていた卵巣内の卵子を採取し、体外受精技術による受精卵の効率的生産を図るとともに、体外受精卵移植の全国的な普及を目指し、凍結卵に加えて新鮮卵による遠距離輸送システムの開発に着手した。これまで、新鮮卵の長距離輸送は技術的に困難とされ、移植が可能な地域は研究施設等の近隣の農家に限定されていた。そこで、遠距離輸送に焦点を当て、受精卵を生きたままで輸送できるように一定の温度環境を24時間維持する機器と培養液の開発を行った。前者については既存の物流システム網で輸送可能な簡便かつ温度制御可能な輸送器を、後者については抗酸化物質の細胞に対する作用に着目した培養液を開発した。これらの新技術を軸に、凍結卵に加えて新鮮卵を全国で利用できるシステムを構築して子牛生産に取り組み、肥育された肉牛が再びと畜場で処理される肉用牛生産の循環システムを確立した。

体外受精卵産子は、一般的に生後2ヶ月齢前後で販売される事例が多く、生産・購入農家の双方に経営的なメリットをもたらしているとみられる。このことは、家畜市場の販売価格が交雑種を上回る価格で安定して販売されていること、(財)興農会が主催する枝肉共励会(年2回)と研究会(年1回)に上場された年間130余頭の体外受精卵産子の枝肉成績で、A4以上が70%と優れた結果が得られていることから推測できる。

このように、当グループの普及活動により、体外受精卵を利用した和牛生産は広く普及し、酪農家を中心とした優良肉牛の増産に大きく寄与している。さらに、受精卵の性判別を行い、上述の諸技術を利用して全国へ供給を開始し、家畜市場でより有利に販売できる雄の受精卵の利用による、より市場価値の高い子牛生産を進めている。