5.まとめにかえて
 収益性向上のためには当然のことながら、売上高の増大(単位当たりの利益拡大と規模拡大の両面)という生産性の向上と費用節減の両者を並行的に推進することである。売上増大の視点からは、経産牛1頭当たりの産乳量水準の向上が何といっても最大の要素であり、たゆまぬ飼養管理技術の向上とそれらのシステム化によって、牛群の能力を最大限に発揮させることが重要である。
 ところで、子牛・育成牛・肥育牛等の販売収入は平成元年度をピークとして、その後は牛肉輸入自由化のなかで、それらの販売価格水準が大幅な下落を示した。その影響を受けて酪農家の収益水準は低位にとどまっている。
 農林水産省の農村物価統計でみると、乳オス子牛の農家販売価格は、ピーク時の平成元年度には1頭当たり約12.6万円の価格であったが、平成2年度以降は急速に低下している。8年度で4.2万円、9年度3.8万円の価格水準に止まっている(10年度は1万円台で推移している)。乳廃牛の価格も同様の傾向を示し、平成9年度は生体10s当たり1,785円となった。
 しかしこれらの生産・販売対応も経営の1つの柱として重視したい。この面の巧拙が、経営の収益力に影響を及ぼすことに変わりはない。酪農の結合生産物として生み出される乳雄やF1子牛あるいはETによる和子牛生産などの肉資源を有機的に経営内に取り込むことは、酪農経営の保有する経営資源(牛舎等の施設、家族労働力、技術等)を有効利用する経営行動の1つである。大規模酪農経営ほどその取り組みの成果が発揮される。
 また、乳価水準は低下傾向にあるが、昨今の状況からみれば今後とももそうした状況が続く可能性が強い。だとすれば収益確保のためには、一方でコスト低減の努力も不断に推進しなければならない。費用構成の大きな割合を占めるものは飼料費、労働費、減価償却費が3大費目であるが、そのなかでも最もウエイトが高いのが飼料費である。
 農林水産省の農村物価統計によると、乳牛飼育用飼料の農家購入価格は1トン(ばら)当たり、平成2年度で53,390円であったが、平成3年度から7年度までの5年間は、毎年若干の低下傾向を示し、平成7年度は47,370円となっている。その後、為替レートが円安基調に反転したことや穀物相場の変動などから、8年度で52,670円、9年度で53,570円となっている。
しかし飼料価格の動向は何分にも酪農経営としてみれば与件としての要素が強く、国際的な諸要因が価格動向に大きな影響を及ぼす。個別経営の経営努力だけでは価格そのものはどうすることもできない部分が大きい。しかし、その効率的な利用方法には経営努力の余地が大いにある。例えば、地域の酪農家集団による飼料配合所やTMRセンターなどの施設によって飼料調達の低減化に努めている事例もある。飼料費は変動費としての性格が強いので、短期的視点からも生産コストの低減に直結するし、飼料生産・配合といった家族労働費の節約という観点からは固定費部分の節約にもつながる。さらには減価償却費のような固定費についても、より一層低減化するための創意工夫が短期的視点のみならず中・長期的視点からも重要である。機械や施設等への過剰投資を回避するためにも自己完結を前提とせずに、協業化・共同化あるいは外部化対応などの検討をも含めて、経営管理システム全般にわたる改善・見直しを常に心がけたい。先に述べた3大費目が費用節減の柱として中心的なものであるが、これら以外の費用も含めて全般的な費用低減化の方策を探ることが重要である。もちろん地域条件や個々の経営の実情に応じて、その方策は多様な形態なものとなる。
 いずれにしても経営に投入している資本や労働力などの経営資源の利用効率の良否が収益水準を規定するのであり、こうした対応をも含めた総合力の発揮できる条件を個別経営レベル、あるいは地域酪農レベルで整えることが重要である。乳量向上や省力化、あるいは近年特に重視されつつある糞尿処理などの環境適応技術を積極的に活用するための創意工夫が、個別経営のみならず地域の生産体制を強化し、WTO体制下の国際化時代に生き残る酪農経営を構築するといえる。


  

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