大家畜部門 最優秀賞・農林水産大臣賞

循環型酪農をめざして
千葉県館山市 川名正幸さん(酪農部門)

 川名さんの経営は、千葉県の房総という非常に耕地条件に恵まれないところにあり、農地の購入、あるいは借地によって10haの飼料作面積をもつまでに土地基盤を整備している。 そこで、年2作の体系で、延べ25haという飼料生産を行っている。しかも、計算上、1頭当り10,000kg以上の高能力牛を夫婦二人とパート二人で、経産牛88頭を含め140頭の乳牛を飼養されている。まさに循環型酪農を絵にかいたような経営である。

 川名さんの経営で特徴的な点を幾つかあげると、酪農の基本である、まさに教科書に書いてあるように、土、草、乳牛の結びつきを忠実に守って、乳牛と飼料生産のバランスをとり、しかも、ふん尿処理については、共同たい肥舎を利用して、そのうちの70%は自分の畑に還元するというように、今日問題になっている環境負荷が全くない経営である。

 また、発表にあったように、牛群改良についても非常に力を入れており、平成4年以降、10,000kg以上の高乳量をあげている。そのうち、自家産牛の2頭が平成7年には17,000kgという都府県乳量生産量新記録を樹立するというすばらしい牛群をそろえている。

 一方、飼料生産基盤の拡充だが、通常では都府県の場合には、この飼料基盤の拡充をやる場合に借地対応というのが多いが、川名さんは昭和56年以降、2.5haの耕地を購入によって増やしている。非常に特異な土地基盤の拡大対応をやっている。借入金が若干あるが、これはすべて土地購入のための借入金で問題はない。

 次に、投資については非常に慎重である。旧施設を活用しながら改造を行っている。ちなみに、現在の飼養方式をみると、スタンチョンとフリーストールで飼っており、搾乳はパイプラインで行う。ちょっと変則的なやり方だが、これも新規投資による経営の圧迫を避けるということの表われだろうと思う。飼料給与については、自給飼料の通年サイレージの体系をきちっと守り、しかもTMRで調整をしている。

 これは川名さんに限ったことではないが、発表者の皆さんは非常に計数管理に熱心である。川名さんの経営も計数管理を正確にやっており、昭和49年以降、簿記記帳をし、平成元年からパソコンで記帳をし、しかも経営収支、単年度収支だけではなく資産負債状況も正確に把握し、これを経営改善に結びつけている。

 それから、川名さんは搾乳だけではなく、自家産のF1牛の自家肥育もあわせて行っている。これによって年間850万円の売上げがあり、また、たい肥の30%は販売しているが、この販売収入430万円を合わせ、かなり経営の収益の底上げに寄与している。

 以上、川名さんの努力の結果、少し計数的にみると、酪農所得で2210万円、経産牛1頭当り所得で26.6万円、所得率が23%とやや低いきらいがあるが、立派な成績をあげている。そして生乳1kg当りの生産原価が60円という、都府県ではすばらしい低コスト生産を行っている。

 なお、川名さんは現在、長男が畜産関係の大学に在学中であるが、卒業を待って、将来はフリーストールとパーラーの体系に変更し、経産牛100頭以上の規模まで拡大する計画をもっている。将来が非常に楽しみな経営といえる。