サラリーマン家庭で育った飼原氏は、農業大学校の卒業と同時に、土地なし、畜舎なし、資金なしであったが、熊野牛ブランド化推進協議会の会長に出会い、肉用牛繁殖経営に新規参入し経営基盤を築くに至った。現在は繁殖雌牛10頭を飼養し、和歌山県の肉用牛農家の一員となっている。一貫して飼原さんを支えたのは、地元の肉用牛農家の先輩たちであった。飼養場所の紹介、母牛導入の段取り、グループへの参入と仕事の寄与等、自分でできることは自分で、できないことは助け合うことを基本に一歩一歩進んできた。新規就農の素地には、①主体性を持って活動すること、②お互いに助言・情報提供すること、③収益を確保すること、④周りの組織の役割が簡素化されていることが必要である。また、新規就農者がいることが、先輩農家の希望・意欲をも膨らませる力につながっている。被災したその土地で畜産を営みたいという強い意志があり、意欲をもつ者は、既存農家であれ、新規就農者であれ周りの者にも良い影響を与えるものと思われる。