活動・取組み内容の調査報告

 

宮崎県・久留雅博、美樹経営(肉用牛繁殖)

 

 

 久留さんの経営は、「粗飼料多給型『マニュアル子牛』をベースとした低コスト・高
収益肉用牛経営」というタイトルで平成16年度全国優良畜産経営管理技術発表会に出
品された優良事例である。

 

1 経営の概要

 久留さんの経営は、繁殖牛78頭を飼養する肉用牛繁殖経営である(平成19年2月現在)。

大規模経営ながら、自給飼料の確保に努め、現在は自己所有地と借地を合わせ、約9.ha

の採草地でイタリアンライグラスやエン麦、トウモロコシの作付けを行うとともに、稲ワ

ラも積極に活用している。

 経営主の雅博氏は、鹿児島大学卒業後に都城農業協同組合に就職。農協勤務の傍ら実家

の経営(肉用牛繁殖経営と水稲の複合経営)を手伝っており、平成7年に父から経営移譲

を受けた。平成10年には農協を退職し、専業となっている。

 特筆すべき特徴は、以下のとおりである。

○泌乳量の多い優良雌牛群の整備と合わせ、粗飼料多給(後述する「マニュアル子牛づく

り」)によって、しっかりと「腹づくり」のできた子牛が購買者に高く評価され、市場平

均よりも高く販売していること。

○大規模経営でありながら、自己資本100%で借入金ゼロという非常に健全な経営状況で

あること。

○廃材を利用した低コスト牛舎を自己資金で建設(1u当りの牛舎建築費5,504円)、その

後も規模拡大に伴い増築を行ったが、すべて自己資金で行っていること。

○農協勤務時代の貯蓄等を繁殖モト牛導入資金に当て、相場の安いときにまとめてモト牛

を導入するなど、常に相場をにらみながら増頭を行い、非常に堅実な経営を実践している

こと

    地区内の水田転作ブロックローテーションに積極的に取り組み、効率的な粗飼料確保

  を

    行っていること。

2 特色ある取り組み1〜マニュアル子牛による商品性の高い子牛づくり

1)取り組みの概要

 久留さんの所属する都城農業協同組合では、以前より「粗飼料多給運動(粗飼料を多給

し、肋張がよくフレームのしっかりした商品性の高い子牛づくり)」をプロジェクト化して

取り組み、「粗飼料多給型子牛育成管理基準」を作成してきており、この基準に基づき飼養

管理された子牛が平成14年度より同農協の運営する都城地域家畜市場で高値で取り引き

されている。

 久留さんは、粗飼料の食い込みが悪いなど、特段の理由がない限り、すべて「マニュア

ル子牛」候補牛として出荷するように心がけている。現在、この管理基準に準じて育成さ

れた子牛は、上場の際、「マニュアル子牛」の額章を頭に付けてセリにかけられている。

⇒詳細は、都城農業協同組合の取り組みを参照(リンク)

2)取り組んだ背景

 雅博氏は、自身の農協勤務時代に「粗飼料多給運動」を目的とした「粗飼料多給型子牛

育成管理基準」づくりのプロジェクトメンバーに配属され、基準づくりに貢献してきた。

 この基準に沿って飼養管理された子牛が、同農協が運営する都城地域家畜市場で平成14

年から「マニュアル子牛」として高値で取り引きされるようになっている。

 平成10年、指導している農家よりも飼養頭数が多くなったことと、父が60歳近くにな

り、体力的に衰えが見えてきたこと、また、指導者として進めてきた、「粗飼料多給型子牛

育成」管理基準を自分で実践し、これまで指導してきた農家と一緒に、健全で優良なもと

牛生産の産地育成ができればと考え、農協を退職して、肉用繁殖牛専業経営の道を踏み出

した。それ以来、粗飼料多給型子牛の育成を実践している。

 なお、専業化してからは、稲わらやトウモロコシサイレージなどの粗飼料を確実に食い

込ませる給与方法の工夫を重ねながら、その効果を実証するなど、その定着に全力をあげ

ている。なお、効果としては、育成経費の低減や肥育期の稲わら食い込みをも考慮した育

成につながっている。

 

3 特色ある取り組み2〜飼養管理

 繁殖率の向上などの理由により近年推奨されている早期離乳については、以前、実験的

に取り入れてみたが、手間とコストがかかることを理由に、現在は行っておらず、繁殖モ

ト牛は、乳量や乳質が優れている「気高系」を導入するなど、哺乳期の飼養管理を重視し

ている。

 

4 特色ある取り組み3〜自給飼料生産

 当経営では、トラクターやコーンハーベスタ、ショベルローダーなど、自給飼料用の機

械を数台自家保有している。

 平成11年に粗飼料生産・稲の刈り取りなどを地元の畜産農家・園芸農家7戸と共同で行

う「横市機械利用組合」を設立し、大型トラクター、ロールベーラ、ロールラッピングマ

シーンなどを共同保有して、自給飼料の確保に努めている。

 この地区内の水田転作ブロックローテーションに積極的に取り組むことで、効率的な粗

飼料確保が進められ、TDN自給率約55%を達成している。

 なお、同氏はこの機械利用組合において中心的な役割を担っており、地域との共存をま

さに実現している。

5 今後の課題

 久留さんの経営は、牛舎が住宅地にあり、パドックだった敷地を利用して増築を図るな

ど制約も多いなか、とくに環境美化に努めながら発展してきた。また、現在は子牛の相場

が高いため、肥育仕向けは行っていないが、以前は繁殖経営を主体としながら、肥育もと

牛振り向けの分岐点価格を設定し、子牛価格の低下時には自家保留して肥育を行うなど柔

軟性に富む経営手法をとって、高収益を実現してきた。

 今後の課題としては、現在は家族経営を行っているが、規模拡大に伴い、法人化も視野

に入れて、さらに安定した経営を維持していくことが求められると思われる。また、雅博

さんはもともと肥育経営に主眼を置きたいと考えており、現在肥育仕向けを行わず繁殖専

門になっているが、今後は肥育牛の割合を増やし、繁殖・肥育一貫経営を目指した取り組

みが期待される。

 

6 関連情報

都城農業協同組合 都城地域家畜市場(中央畜産会 事後調査)

 

【粗飼料多給型 「マニュアル子牛」をベースとした低コスト・高収益肉用牛経営】

宮崎の畜産ひろば