活動・取り組み内容の調査報告書 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
埼玉県・飼料イネの集団的生産と利用による耕畜連携
受賞者は埼玉県熊谷農業改良普及センター(現 大里農林振興センター)で、同センターが管内で組織した集団及び個人による飼料イネの生産・利用に関する支援指導の実績が評価されたものである。 当事例は活動歴が古く、広くその業績が紹介され文献も多いので、内容説明は概略にとどめたい。 同県における飼料イネの取り組みは昭和60年代に遡るが、本格的、組織的には平成元年、旧妻沼町善ヶ島地区で圃場整備が完成したのを機に開始された3年1サイクルのブロックローテーションによる飼料イネ集団栽培の導入から始まる。その後の作付面積等の推移は次の通りである。面積、単収とも大幅に改善され、17年産では10.5ha、単収1.18tに達している。 表1 飼料イネの面積と反収の推移(熊谷市善ヶ島地区)
(注)埼玉県大里農林振興センター資料(平成18年3月)による
善ヶ島地区の作付面積は近年ほぼ10haで横ばいとなっており、18年度は9.0haが予定されている。普及センターによると、この地区の飼料イネは、以前は雑草が多く、平均単収は750kg程度であったが、液肥の導入や最近市内に設置された有機センターの良質堆肥の施肥と飼料イネ専用品種「はまさり」の種子供給により、最近は1,100kgを越えるようになった。さらに3年サイクルの転作ブロックローテーションを隔年1巡へ転換したため、安定した作付面積が維持されるようになった。一方、畜産農家においては飼料自給率の向上効果は見られないものの、栄養価の低い稲ワラからイネ発酵粗飼料へ置き換わることによって給与飼料の質が大幅に改善された、という。 この地区は生産者数が37戸と普及センター管内で最も生産者が多いが、他に2組織、3個人があり、総栽培面積は約33haとなっている(表2)。 表2 普及センター管内における飼料イネの栽培と利用(平成17年度)
(注)出所表1に同じ 最も面積の大きい善ヶ島地区を例にとると、その事業方式は、次のようになっている。 [1]耕種側は水田所有者全戸から成る「水田集団転作協議会」を、酪農側は「酪農振興会」を作り、両組織間で栽培利用協定を締結している(戸数は表2の通り)。 [2]それにより耕種農家側が播種から落水期までの栽培管理、すなわち播種、元肥施肥、代掻き、移植、追肥、水管理を実施し、酪農家側がそれを立毛で受け取って、収穫、反転(予乾)、集草、梱包、運搬、調整の各作業を共同して行う。 [3]両組織はそれぞれのコストを負担し、酪農家側が耕種農家側に対し立毛の価格として一定額(4,000円/10a)を支払う。酪農家はこれを均等に配分し、ロールベーラで梱包し、ラップサイレージにして利用する、というものである。 [4]普及センターを中心に試験場、行政が参加した「飼料イネ研究プロジェクトチーム」が組織され、研究開発と普及活動を担っている。
なお、関係農家に対する交付金、補助金の内訳は次のようになっているが、現状では飼料イネの生産、利用に不可欠となっている。 【水田飼料作物作付拡大事業(町単):8,000円】 【給与実証事業 10,000円/10a】
稲作農家に対しては年度によってその額に変化があるものの、転作作物としての助成金収入があり、そこから飼料イネの生産費を控除しても、地権者として一定の収入が得られること、しかも播種以降の作業はすべて転作協議会または酪農家が行うため、播種前のわずかな作業を除いては稲作からほとんど手を抜くことができる。高齢の野菜作農家としてはこうして稲作を切り離すことが出来ることは大きなメリットとなる。 一方、酪農側にとっては10a当たり4,000円の対価は乾物1kg当たり25円で入手できることになる。また、通年給与することで飼料平衡が得られるといった利点もある。 こうした経済的支援の他に、この事業を成立させた大きな要因は、地元試験研究機関、行政、普及組織等の支援活動である。主なものとして、専用品種(はまさり)の開発と配布、収量判定・品質評価方法の数値化、アンモンニア処理の技術開発と普及などがある。とりわけ、耕種、畜産の両グループを組織化し、協定を締結して、事業運営のシステムを構築したことが重要な成立要因となっている。
[1]飼料イネは、つねに輸入粗飼料との価格競争にさらされてきた。経済的に対抗するため、転作奨励金など各種の助成金を活用して地権者、利用者が共に許容できるぎりぎりの価格条件を設定してきたが、その助成措置が地元自治体の助成も含めて減額の方向にあり、成立条件を脅かしかねない状況にある。しかし、飼料イネによって、同地域の農業が一定の持続をしていることも事実である。今後は、飼料イネの有用性を各方面に認知させるためにも、一層の「耕畜連携」の有用性を地域全体で実証していく必要がある。 [2]飼料イネの生産構造についても、増収・省力化・品質改善などにより、これからも対抗力を高めなければならない。これまでも一定の改善をしてきたが、さらに追求していく技術として、多収穫専用品種、液肥の利用、アルカリ処理技術、直播等が考えられる。特に直播による栽培体系の実証とさらに大型機械の導入を進めることで労働力を軽減し、生産量の維持・増産を図る必要がある。ただし、直播による飼料イネの品質低下のおそれと機械導入による投資額の増加などの課題もあり、将来的には解決していかなければならない。 [3]現在、飼料イネの利用者はほぼ酪農家に限定されているが、肉牛生産へ普及する可能性も視野に入れたい。そのためには、給与効果の実証を進める必要がある。畜産農家での利用拡大を進めるためには、実証試験への協力農家を増やす必要がある。畜産農家は土地とのつながりがないとやっていけない。その点からも決して畜産農家は否定的ではない。ちなみに、同地区では褐毛和種に飼料イネ「はまさり」を与えて肥育し「はまさり牛」と名付けて売り出す生産者も出てきた。 [4]耕種農家の生産意欲を上げることが必要。そのため、取引価格をロール単位に変更することで、生産性の高い耕種農家の生産意欲は向上すると思われる。ただし、生産性の低い耕種農家にとっては減収となるため、取り組みから抜ける可能性もある。
4.写真等
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