活動・取り組み内容の調査報告書 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
山口県・西山マザーファーム
本事例の所在する山口県周東町(平成18年3月20日より周辺7市町村が合併し、新「岩国市」として誕生)は、肉用牛の生産額が12.5億円で、町の農業生産額の48%を占め、第1位となっている。しかしその大半は肥育牛であり、繁殖経営は現在17戸、110頭(育成を含む)に過ぎない。このうち本事例(西山マザーファーム)の利用者は、10戸である(構成員4戸、その他利用者6戸)。 表 周東町における肉用牛(黒毛和種)飼養の動向
参考:山口県畜産調査資料
西山マザーファームの整備は、平成5年に町とJAが実施主体となり補助事業を活用して取り組んだ前身の「西山牧場」の建設に遡る。当時、町有地8haの草地造成と牛舎2棟が建設され、これを地元の牧野組合(川越牧野組合)が借り受けて、粗飼料の確保ならびに繁殖牛50頭、肥育牛50頭による地域内一貫体制の確立に向けての取り組みが行われた。しかし、まもなく下流の住民から河川汚染等の理由で放牧に対する反対の声があがり、また、地域の高齢化に伴う労力・後継者不足による飼養規模縮小などで利用者が減少し、施設が遊休化した。 平成10年、農協合併を契機として町の和牛生産組合(周東町和牛生産組合)に運営が移管され、町、JA、農林事務所等で利用方法を協議した結果、宮崎県綾町のキャトルステーション方式をならって繁殖農家の支援活動拠点とすることが提案され、西山マザーファームが設立された。
実施体制は、運営母体である周東町和牛生産組合の下に「西山マザーファーム」と「周東町農業開発センター」の2つの組織があり、それぞれ「飼養管理」、「牧草地の粗飼料生産」を請け負っている。なお、草地と牛舎については、和牛生産組合がそれぞれ町とJAから借り受けて、上記2つの支援組織に運営を委託する形式をとっている。
(1)飼養管理業務⇒西山マザーファームが受託 表 西山マザーファームの受託業務の内容
平成18年3月時点の飼養頭数は繁殖牛42頭(経産牛40、育成牛2頭)、子牛(離乳後)25頭の計67頭となっている。なお、構成員A氏とB氏は後述する町の農業開発センターの職員でもあり、牛の管理を時間外に行うということで両立させている。 表 西山マザーファームの預託状況(平成18年3月現在)
(1)受託組織を利用することで、高齢者繁殖農家の労力負担が軽減された。 (2)牛飼いに対する意欲の向上が見られ、増頭に転じる農家も出てきた。 (3)下痢対策と腹づくりに重点をおいた受託管理により、斉一性のある子牛づくりが可能となり、子牛市場での評価も高くなった。とくに放牧することにより、群飼に慣れ、競り喰いの効果がみられ、日齢体重が改善されている。 (4)低受胎牛の受託飼育により受胎率が改善され、経済的メリットが出てきた。 以上は地元での説明であるが、いずれも成果を把握する計数的根拠は得られなかった。しかし平成3年当時、120頭であった繁殖牛が平成10年には80頭台にまで減少したが、平成10年以降にこの組織が活動を開始してからは増加に転じ、平成18年現在、110頭にまで回復したことから、間接的に活動の成果があったものと推察できる。
(2) 畜舎建設時の設計では、繁殖、肥育、各50頭の一貫経営を想定したものになっていたが、現在の飼養頭数は繁殖42頭、子牛25頭でゆとりがある。とくに繁殖牛の飼育密度が低く、ゆとりがあることは好成績に通じている。 (3) 繁殖農家にとって労力節減にはなっているが、委託料支出が生じるため、コスト節減、所得向上になっているかは微妙なところである。子牛1頭を5〜6ヵ月委託すると64,500〜77,400円の委託飼養費がかかる。受託料金は、実費(地代、賃借料、飼料費、敷料費、光熱水料)から算出された料金であり、利益が多く含まれているとは思われない。自家で育成した場合の労働費と飼料費より安くなっており、その意味で集団的管理によるコスト節減効果が認められるが、労賃部分を支払うことで農家の所得を減少させていることも否定できない。しかし、委託することで重労働から解放され、飼育を継続することが出来るとすれば、それは単にコストや経営所得の問題では整理されない価値を生んでいるともいえる。 (4) 現状は中核的農家を含む4戸(うち2戸はセンター職員が兼業し、うち1名のリーダーシップも大きい)のボランティア的活動に支えられたもので、経済的事業としては規模も小さく、未確立である。利用農家の繁殖牛頭数が増加し、委託希望者が増加した場合に、労力的な問題が出てくることも予想される。事業の発展・拡大には新しい担い手、新しい方法を考えなければならないであろう。なお、周東町は3月20日をもって合併し広域な市となる。これまでの周東町の単位では高齢農家が多いため頭数増加は現実的な話ではないと思われる一方で、今後市町村合併に影響されて予想される組織改変いかんによっては、その対応も十分な視野に入れる必要があり、存続のために不可欠な条件にもなりうる。
4.本事例の取り組みの意義〜活動内容に学ぶ他の地域への波及の可能性〜 3に掲げた問題点等はあるものの、この事例の取り組みの意義として、次の2点を指摘したい。 第1に、補助事業で設立した牧場の事業が頓挫し、それによって遊休化していた草地、畜舎を活用し、地域の畜産振興に活用していることである。放置されたかもしれない資源がこの事例の取り組みによって有効に活用されていることを評価したい。 第2に、後継者のいない高齢の飼育者にとってこの事例の取り組みが大きな支えになっていることである。高齢者の中に「マザーファームを後継者だと思っている」との声があるという。また「何かあったらまかせられる」とも言い、心強いバックアップになっていることである。これは単にコスト節減や所得増加と言った経済効果の問題ではなく、経営の存続そのものをこの活動が支えていることになる。産地規模、事業規模は小さいが、こうした地道な活動によってのみ地域産業が守られるのだと言えよう。
5.関連情報 ・高齢者でも「安心して牛が飼える」肉用牛受託組織による中山間地域での肉用牛振興(やまぐち畜産ひろば:山口県畜産振興協会)
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