活動・取り組み内容の調査報告書

 

JA遠州中央稲わら供給組合

                  
 本事例は、「耕畜連携による粗飼料自給率の向上 −水田の高度利用を耕種農家と共に−」というテーマで、平成17年度畜産大賞地域畜産振興部門に出品された事例である。
 地域の畜産農家16戸(酪農:15戸、肉用牛一貫:1戸)で構成されるコントラクター組織で、稲わらの収集を約80ha、稲発酵粗飼料の生産・調製を約40ha行っており、耕畜連携によって稲わらと転作田を地域内で有効に利用している取り組みである。




1.取り組みの概要   1)活動の背景
 JA遠州中央は、3市(袋井市、磐田市、浜松市)1町(森町)の行政区を管内にもつ。このうち森町を中心に周辺の袋井市、磐田市の地域では水田での稲作とレタス栽培の二毛作が盛んであり、とくにレタスは指定産地となっており、作付け者は「表作」として捉えている認識が強い。
 レタス栽培は水稲収穫後まもなく取り掛かることになる。水稲収穫後の稲わらは地中でレタス栽培を阻害するため、従来、耕種農家においてほ場に鋤きこまないように野焼き等で処理されていた。野焼きが問題視されるようになってからは畜産農家やお茶農家に持ち込むなどしていたため、耕種農家にとってかなりの負担となっていた。
 一方で、畜産農家(主に肉用牛農家)にとっては地域で生産される稲わらを供給してほしいとの要望が強くあがっていた。
 このように地域における耕種側と畜産側双方の利害関係が一致し、農協の呼びかけに応じる形で本事例の取り組みが誕生することとなった。

2)組合長のリーダーとしての活躍
(1)はじめに
 一概に農協が呼びかける形で誕生といっても、組合員に対する調整役となるケースが多く、その後の運営まですべて引き受ける形での運営は少ない。この事例のケースも、農協とともに立ち上げに尽力し、その後の運営について積極的に牽引するリーダー的生産者がいた。
 そのリーダーとは、供給組合の組合長を設立当初から務める太田氏であり、同氏は組織の立ち上げに尽力するとともに、現在においても全体の連絡調整から作業に係る技術の確立、組合員への技術供与に至るまで組合運営の中心役割を担っている。

(2)太田氏の個人的取り組みからの発展
 太田氏は「牛を飼う以上、ふん尿の処理をし、エサがなければ頭数は増やさない」という経営理念の下、供給組合発足以前から自給飼料生産の拡大と稲WCS生産に取り組んできた。
 とくに稲WCSについては、組合で取り組んだ平成13年よりもはるか昔(昭和56年)から全国に先駆けて取り組みを開始している。減反の実現と自給飼料の確保を目的とし、水田での飼料作物の栽培をいろいろと試したがうまく生育せず、着目したのが水稲自体を育て給与するということであった。実験的に自走式ハーベスターを利用しての稲の青刈りし、飼料化を試行錯誤してきた。この取り組みは、結果として、飼料として十分な品質が得られなかったことから数年で中止することになったが、その後の取り組みにあたって確実に経験・技術として生きている。
 平成11年、実証試験を行う事業を活用し、稲WCSの生産に取り組み、牽引式のロールベーラーを導入して飼料稲の栽培を再開した。水田のぬかるみに機械が埋まるなどの不具合があり、成功とは言いがたい結果であったとのことである。
 翌12年からは、作業の効率化を図るため、汎用コンバインのロールベーラーの導入を検討していたが、大田氏の取り組みを聞きつけた機械メーカーから自走式ロールベーラーの試作機を提供され、導入することができた。この試作機を使用し、メーカーと共同で刈り幅の調整をできるようにするなど作業性の改善に取り組み、使用に耐えられる機械の開発に成功した。なお、この共同開発によって製品化された機械は平成17年度に組合でも新たに購入している。このようにして良質な稲WCSの生産を実現するための技術を確立するにいたった。
 また、稲わら収集についても、組合設立以前から太田氏が行っていた稲わら収集がレタス生産農家から好評であったことが、JA全体の取り組みとして位置づけられるきっかけとなったのである。

(3)組合長としての役割
 組合設立のきっかけと地域における稲WCSの生産技術を確立しただけではなく、組合長として全体の連絡調整、各作業の指示なども行っている。
 稲WCS用の飼料稲の栽培については、耕種農家が田植えを行い、その後の水と生育管理については組合員が共同で管理している。刈り取りの適期は太田氏が判断し、組合員を集めて作業を行っている。


図1 稲発酵粗飼料作業分担

 
3)稲わら収集、WCSに取り組みやすい耕種農業の栽培体系

 本事例の特徴としては、耕種農家の栽培体系が以下のとおり稲わら収集と稲WCSを取り組みやすい条件にあったことが挙げられる。
ポイント1:水田に稲わらを圃場にすきこまないという点
 この地域では稲作とレタスの二毛作が盛んであり、とくにレタスは野菜の指定産地となるなど表作と位置づけられている。このため、地中の稲わらがレタスの生育を阻害することの無いよう、水稲収穫後に圃場から稲わらを取り除くことが通常となっていた。
 このため、稲わらはコンバインによって破砕されないまま、水田から収集することができた。
 また、水田から稲作を取り除き、さらに処分することが耕種農家にとって負担となっており、畜産農家による利用で双方の利害関係が一致したのである。
ポイント2:水田を十分に乾燥させる点
 水稲収穫後にレタスの植え付けを行うことから、夏期に水分をできるだけ切り、乾土化することが必要である。水田が乾土化していることで、ロールベーラー等の大型機械などの利用も容易であり、稲WCSの収穫が行いやすい状況にあった。
ポイント3:飼料稲栽培とレタス栽培の栽培時期が適していたこと
 稲WCSは稲穂の登熟を待たずに青刈りされるため、通常の稲作よりも早く水田が開放される。これにより、レタス栽培に向けて早期に準備が始められ、圃場の乾燥も良くなることから耕種農家の減反作目として比較的容易に受け入れられた。


図2 森町の稲発酵粗飼料作付体系

 


 

 

2.今後の課題 当該事例では、森町のレタス農家と畜産農家との耕畜連携が、[1]稲わら利用約80ha、[2]稲WCS約40haである。JA管内では耕畜連携の対象となるレタス農家の栽培面積が200haにも上るので、まだまだ利用面積が伸びる可能性がある。
 しかし、近隣の袋井市や磐田市では、稲WCSを進めているが伸びていない状況にある。要因としては、耕種農家と畜産農家の両者が、耕畜連携に対する必要性を見いだされていないからである。同じJA管内であっても、レタスに対する歴史性や地域性(表作がレタスで、米が裏作ということ)の違いで困難な状況にあることがわかった。
 今後の重点課題としては、何よりもこれまで国等の助成を活用することにより比較的安価に価格設定できていたが、今後の施策の変更による助成の減少、機械の更新等に対していかに組合運営を安定して行っていくかである。方策としては、例えば供給組合が所有する農業機械は2台の自走式ロールベーラーの更新のための資本蓄積を容易にするためにも、まずは法人化することが挙げられると思われた。

3.本事例の取り組みの意義〜活動内容に学ぶ他の地域への波及の可能性〜(1)当該事例では、森町を中心にレタス農家と畜産農家との耕畜連携が、@稲わら利用、A稲WCSによる水田の活用、Bたい肥の活用と実質的に行われている。その面積は平成17年で、@が約80ha、Aが約40haの計約120haに上る。稲わら及び稲WCSと二毛作かつ水田機能を最大限に活用、さらにもっとも労働効率の高い自給飼料生産であり、とくに評価できる内容である。

(2)(1)は森町におけるレタスの歴史性、表作がレタスで、米が裏作という森町の地域性、進んだほ場整備が、耕畜連携を容易にしたといえる。米を所得の中心としている地域では、なかなか生まれない耕畜連携の発想といえる。切り口は違うものの、九州でクリーニングクロップとして飼料稲が利用されていることと似ており、米よりも他の作物にシフトしている地域等で発想の切替で参考になるものと思われた。

(3)リーダー的な者(当該事例の場合、組合長の太田氏)の存在とJAのサポートが事業を伸ばした要因であるといえる。代表は立ち上げ時には自身が取り組んできた飼料稲作付けの経験を十分に提供し、組合運営には率先してオペレーター作業に従事するほか、収穫物のストックヤードを準備して、作業適期の労働ピークの解消や利用農家の引き取り時期の余裕をもたせるなど利用者の配慮にも心がけている。JAは、煩雑な会計を一手に引き受け、単年度で赤字を出さないように、オペレーター料金を調整するなど様々な工夫が随所に見られる。

(4)さらに良質の稲発酵粗飼料を生産するための技術的な支援、制度の上手な活用の面では、県の役割も極めて大きく機能している。


4.関連情報

「耕畜連携による粗飼料自給率の向上−水田の高度利用を耕種農家と共に−」しずおかの畜産ひろば:静岡県畜産協会)

JA遠州中央ホームページ

・水田農業経営確立対策」の取り組み事例(農林水産省)(PDF形式)

 

(調査・報告者:岡山大学大学院 教授 横溝功)