活動・取り組み内容の調査報告書

 

山田堆肥生産組合

                  
 本事例は、「地域の耕畜連携から広がる安全安心の農産物づくり」というテーマで、平成16年度畜産大賞地域振興部門に出品された事例である。
 地域の肉用牛肥育農家が環境三法の施行に先駆けて堆肥処理施設を導入し良質堆肥の生産に努めるとともに、積極的な耕種農家への連携の働きかけを行い、地域内の資源の有効活用を図ってきた事例である。また、近年は耕畜連携を軸に、有機米、堆肥を利用して生産される稲ホールクロップサイレージ(以下、「稲WCS」とする。)を利用した牛肉等地域ブランドを研究し、育て上げ、発信している。


1.取り組みの概要   1)山田堆肥生産組合の設立と堆肥生産・供給対象の推移
(1)設立の背景
 当該組合は平成5年に3戸の肉用牛農家が集まって設立されている。従来はそれぞれがふん尿を処理して自らが所有する農地に還元したり、個々のルートで販売するなどしていた。しかし、自己有地への還元については、規模拡大の過程で所有農地面積とのアンバランスを生じていた。一方で、耕種農家への販売にも様々な課題があり、限界となっていた。地域の稲作農家は堆肥散布機を保有していないことから、結果として畑作農家中心の供給であったが、畑作農家は高齢化し自ら散布することが困難になりつつあるという事情、露地栽培からハウス園芸への転換が進み、高品質の肥料を一定量投入するという傾向が進んでいた。
 この対策として、良質の堆肥を作る施設を設置し、多様なニーズに対応するために成分調整した高品質な堆肥の生産、袋詰め商品化という方針をたてた。この方針が平成5年に代表の井上氏の牧場に設置された加圧混練式プラントの設置につながっている。

(2)堆肥製造販売の第一段階 −ハウス園芸用の商品作り−
 秋田県湯沢地域は畑地が比較的肥沃であったため、堆肥は完熟でなく、成分も不安定なものでも投入され、販売されていた。しかしながら、ハウスを中心に連作障害が起きるという事態が発生し、販売した堆肥を散布したことで逆に生産力が低下し、悪い堆肥は売れないという悪循環に陥っていた。
 このような事態を受けて、成分調整をした堆肥商品を作ることを行ってきたのが、堆肥組合設置以降の第1期である。軽トラック一杯で9,450円(袋詰め35Lに換算すると400円程度)、袋詰め商品(1袋35L)は850円と極めて高価格で販売している。

(3)堆肥製造販売の第二段階 −園芸不振と有機米需要への対応−
 ハウス農家等への堆肥販売が好調を極めたのは、あくまで園芸自体の需要が堅調なことを背景にしている。実際に園芸の需要が低迷し、園芸販売が落ち込んでくると、堆肥販売も落ち込んでいる。園芸用向け有機肥料の販売数量は平成11〜13年当時9,100〜9,200袋(35g)程度で推移していたが、平成14年は5,000袋に落ち込み、平成17年では4,513袋になっている。
 園芸向け堆肥需要が低迷するなか、それを補ったのが稲作農家からの堆肥投入の誘いであった。この地域は酒造業が盛んで、原料となる酒米の作付けが広く行われており、その転作作物として大豆栽培が取り組まれてきた。平成12年に「宮渕大豆生産組合」が宮渕地区の77戸で設立され、集団転作に取り組んでいたが、大豆作付け後3年目あたりから収量が低下し、土壌肥沃度を上げることを目的に堆肥を投入する必要性があった。また、宮渕地区内の4戸の稲作農家が有機米に取り組み、平成14年に「宮渕有機米研究会」を設立したことで水田への堆肥投入の需要がさらに拡大した。
 このように畑作園芸部門への堆肥需要が低迷する中で、水田への堆肥需要が平成11年の389.2立方メートルから平成17年では524.5立方メートルへと増えたことがこの堆肥生産組合の生産販売を支えているといえる。14年以降の園芸部門への販売額の落ち込みを稲作農家への販売で補っているのである。湯沢市には「湯沢市有機米研究会」が平成10年にJAこまち営農センター内に事務局をおいて設立されている。現在54名の会員がおり、宮淵有機米研究会もこの組織の中で活動して販売も行っている。
 なお、水田稲作用の堆肥は、園芸用の成分調整したボカシ肥料とは異なり、生堆肥に副資材を加えて切り返しを行って発酵を促進するという堆肥化過程のみの製品である。つまり、山田堆肥生産組合では、園芸用と水田用2タイプの製品を供給するという体系になっている。これは見方を変えれば地域農業の趨勢に合わせた堆肥生産販売が行われているということができる。有機米への需要が堅調なために派生需要としての堆肥需要が拡大してきたのである。単に家畜排泄物の処理というよりも堆肥の需要を踏まえたマーケティングが行われていると見ることが出来る。

2)活動における地域との連携・貢献の内容
(1)堆肥販売調整・仲介組織としての役割
 現在の山田堆肥生産組合は、単に堆肥の製造供給をする組合の顔の他に、以下のような別の顔を持っている。
 a.当組合は構成員3戸の家畜排せつ物を原料とするほか、他の畜産農家の排せつ物を堆肥の原料として購入している。
 b.さらに稲作農家、園芸農家の堆肥需要を集約し、自らの堆肥製品と他の畜産農家の堆肥製品による供給量を調整して、その散布にも当たっている。なお、散布機はJAが所有している。
 c.結果として堆肥散布にまで参入することで稲作農家の稲わらを交換することができている。

(2)宮淵有機米研究会と連携したコントラクター活動
 堆肥散布活動については、山田生産組合独自の活動ではなく、宮淵有機米研究会のコントラクター活動の一環として捉えることができる。堆肥散布需要が高くても、高齢農家をはじめとして散布機も所有していないことから散布できないという実態を受けて、有機米研究会がJAの散布機を借り入れて散布し、井上さんら生産組合メンバーが一緒に行うというシステム体系をとっている。
 研究会のコントラクター活動は、堆肥散布から発展して転作対応としての稲WCS栽培にも及んでいる。平成14年度に補助事業で専用収穫機、ラッピングマシン等を購入、17年度現在約15.3ha(作付け農家60戸)の収穫作業に取り組んでいる。

(3)稲WCSの利用による影響
 稲WCSは水田農業推進協議会の中での協定によって契約が締結されており、有機米研究会メンバーは稲作農家であるため供給サイド、生産組合の井上さんらは需要サイドとなる。
 稲WCSの給餌は肥育ステージに関わらず4kg程度を制限給与しており、それによる肥育成績にとりたてて問題は出てない。
 また、稲WCSは専用品種ではなく、あきたこまちを使用している。稲WCSを利用する井上さんら4名の肉牛農家は、稲WCSを採食させた肉牛を出荷する「こまち肉牛研究会」を組織しており、横浜管内に出荷する場合に「こまち牛」ブランドで出荷することにしている。あきたこまちWCSを食べた肉牛での販売戦略での展開は今後いっそう注目される事項である。
 さらに、有機米は首都圏で展開しているパルシステム生活協同組合連合会の商品「ふーど米」として、安定供給が行われている。

3)代表(リーダー)あっての活動
 山田堆肥生産組合の代表である井上氏は、従来野菜+米+出稼ぎの経営をしており、昭和50年くらいから黒毛和種の肉用牛肥育経営開始し、50頭規模になったのを契機に出稼ぎをやめ、離農牧場を買い取った時点で250頭の規模になっている。
 組合が堆肥製造をするにあたって重要なポイントは、この井上氏が園芸経験があったという点を指摘できる。園芸農家としての経験が土作りに極めて敏感で需要者=園芸農家のニーズを大切にするという実践につながってきたといえる。
 また、当然、代表として勧めてきた稲WCSについても率先した利用を行った。特筆すべきは、従来はほぼ100%購入粗飼料を、いなわらと堆肥の交換、さらに稲WCSの利用によって粗飼料がほぼ100%の粗飼料自給率を実現したことである。まさしくモデル的に利用を行い、地域を引っ張っていっている。



2.今後の課題   家畜排せつ物法の施行にともなって合併前の町村に堆肥センターが3ヵ所設置されたことにより市内に3箇所、羽後町に1箇所の堆肥センターが出来ている。当組合はこれまで集団の堆肥センターとして先駆者利益を享受していたといえるが、このように、堆肥センターがJA館内にも数多く設立されたことにより、今後競合が生じることも十分に考えられ、新たな需要開拓が課題である。実際に山田生産組合の堆肥販売額は漸減傾向にある。ただし、園芸用のボカシ堆肥は他のセンターとは差別化された商品でもあり、その意味では競争力はある商品である。

 現在、山田堆肥生産組合と宮淵大豆生産組合、宮淵有機米研究会の3つの組織があるが、大豆生産組合は地域の集落営農的な組織と位置づけられる。大豆栽培における交換耕作は、貸借関係を結ばない農家相対による取り決めでは進んでいるが、正規の貸借権利関係は忌避する傾向にある。一方では、新たな経営安定対策によって担い手組織への転換を図るには、経理の一元化ないし法人化が求められており、組織再編が求められることになる。一方、有機米研究会の所有する機械を使用した稲WCSの収穫、堆肥散布、稲わら収集は地域資源の循環に欠かせないコントラクター活動である。コントラクター組織としての再編を進め、現在の3つの組織の関わりを整理する必要が出てくるものと思われる。

 JAの営農センターが市の有機米研究会の事務局を担当しているが、コントラクター活動と集落営農的な活動をどのように当該地域の中に位置づけるかという点を一層明確にした上で、組織再編を図るべきであると思われる。

 

 

3.本事例の取り組みの意義〜活動内容に学ぶ他の地域への波及の可能性〜 山田堆肥生産組合はその名称から一般的に堆肥を生産・販売するための組織としてとらえられがちだが、上述のように地域内の資源(堆肥、稲ワラ、稲WCS)に関わって中枢の機能を果たしてきており、地域内での評価も変わってきている。同時に、堆肥生産組合や有機米研究会の活動が相互にリンクすることで、肥育農家の粗飼料自給率が0から100%へと飛躍的に高まるという成果も出ており、資源循環型畜産、資源循環型農業を実践しているモデル事例としてきわめて高く評価できる。

 なお、事例の普及の際に活用できると思われる、事例の取り組んだポイントを以下のとおり記す。

・家畜排せつ物を単に処理するという発想ではなく、資源として地域にどのように有効に活用するか(還元するか)の発想を第一に考えていること

・耕種のニーズを大切にするという理念を経験をもとに持つ者が運営に積極的に関与したこと(代表の複合経営時代の園芸農家としての土づくり経験がニーズの反映につながってきた)
の反映に当たっては、過去に園芸にも取り組んだ代表の知識等

・耕種の作付別にニーズに応じた成分調整等を行い販売するという活動を平成5年から取り組み、その後も供給対象の主力を畑作→園芸→転作大豆と有機米へと変化させ、複数の供給体系・製品づくりを行うなど、地域農業の趨勢に合わせた堆肥生産販売を実施したこと(家畜排せつ物の処理というよりも堆肥の需要を踏まえたマーケティングが行われている)

・堆肥生産組合や有機米研究会の活動が相互にリンクしていること(双方の利害が一致し、基本となるコントラクター作業が共同化でき、堆肥還元→稲WCSや稲わら供給→付加価値化(牛肉、有機米)につながっている)

 

 

(調査・報告者:九州大学大学院農学研究院 助教授 福田 晋)