愛知県・吉浜養鶏農業協同組合
本事例は、養鶏専門農協として組合員の減少などで運営の危機に立たされるとともに組合自体の意義が問われていたなか、組織運営の合理化と活性化を図り、組合としての利潤拡大とそれを通じた組合員の経営安定をこうじてきた事例であり、「協同のある力で伝統ある産地のさらなる発展をめざして −たまごの里 吉浜養鶏農業協同組合−」というテーマで、平成13年度畜産大賞指導支援部門優秀賞を受賞した事例である。
1.取り組みの概要(平成13年当時)
当時の取り組みの概要をまとめると、以下のとおりである。
(1)都市近郊の中小規模養鶏農家で組織される組合活動として、地域に点在する生産集団を一本化。
(2)GPセンター、共同配合飼料施設、食鳥処理施設の整備により組合員の利便を図る取組み。また、それによる均一なブランド「よっちゃん卵」をつくり、周辺量販店中心の販売展開。
(3)経営努力が反映できる規格別の卵価設定、効率化のための老鶏の一括スケジュールでの集荷・処理等、組合員の抱える問題を事業化し、経営意欲向上策を実施。結果、経営離脱の減少。
(4)鶏病対策を徹底し、地域自体が一農場であるという考え方。
2.最近の取り組み
1)ハーブ飼料の開発とハーブ卵の生産・販売の取組み
・付加価値をつけた特殊卵生産の取り組みを検討し、県試験場等の協力や関係方面からの情報をもとに試行錯誤した結果、平成15年、ハーブを入れた新たな飼料を開発した。
・使用するハーブはマリーゴールド、ローズマリー、タイム、オレガノの4種。
・この飼料給与で生産される卵は「ハーブのささやき」という銘柄で販売している(商標登録済み)。生産羽数は4千5百羽。販売価格は1パック約160円(年間固定・組合からの出し値)。
・ハーブ飼料は、特殊卵生産という目的以外にも鶏舎の消臭面で効果があがっている。
・ハーブ卵に対する消費者の評価としては、当初期待したハーブの匂いが卵に付加されるということはないが、卵臭さ(生臭さ)がなくなっている等の意見が主に聞かれる。本来的にはハーブ給与による健康な鶏による卵生産・販売という点で、妊婦や年配者での評判も上々とのことであった。
・ハーブ使用による飼料生産コストは1t当たり3500円程度(10%)上昇であるという。
写真 ブランド卵「ハーブのささやき」
・当初、付加価値化を検討する中で、Non-GMOへの取り組みも検討したが、全ての飼料を変更しなければならないというリスクがあるため実現せず、ハーブ飼料の実施になった。
・組合としての課題としては、a.販売手法が下手であること、b.生産量が限定されることからスーパー取扱いの小売販売価格が不安定である点、c.これらに関連し、消費者の商品への信用が確立しない、d.この結果で収益性が不安定になるという事項である。組合の基本的な考え方としては安い小売価格で安定的に売って欲しいという小売への希望があるものの、販売側の姿勢が強く、ままならない状況であるという。
2)組合員の減少
・平成13年当時33戸であった構成員が、平成18年3月現在17戸にまで減少した。
・原因は主に高齢化による飼養中止である。もともと都市近郊の小規模飼養経営による構成であったため、とくに高齢者かつ零細規模の飼養者において後継者の確保が困難であった。
・現在の組合員の飼養規模は、大きな経営で3万羽程度、小さい経営では2千羽程度である。
・このままでは、組合の存続自体の危機感を持っており、対応策として、現在の定款条項の「町内在住の組合員」という記述を変更し、町外の養鶏経営の取り込みも検討している。ただし、この策にも課題があり、対象となる中・大規模の経営を組合員とした場合、その飼養費サイトの保証をどうするかという大きな課題が残る。実質的に当組合では大規模経営の長期のサイトを保証できる状態にはなく、具体的には、加入養鶏経営者の選定が必要になる。
3)食鳥処理施設
・処理施設は現在なくし、廃鶏の実質的な処理は民間処理業者に依存している。
・原因は処理量の減少に伴うコスト負担の増加組合サイドとしても、業務量的に食鳥処理が負担になってきていたとのこと。
4)その他
・受賞時検討していたヘルパー制度の導入は進んでいない
・消費者ニーズの把握には現在でも努力している
図 表 吉浜養鶏が現在生産している卵の種類(4種類)
種類 |
飼養方式 |
生産羽数 |
ハーブのささやき |
ハーブ給与 |
4千5百 |
よっちゃん卵 |
従来型(赤玉) |
4万3千 |
レギュラー卵 |
従来型(白玉) |
10万 |
名古屋コーチン |
|
1千 |
3.今後の課題と方向性 これまでの活動は成果をあげ組合員に貢献してきた。しかし、一方で一定の役割を終えたという見方もできる。今後、定款変更や販売手法の改善等を行い課題の解決を行っていく予定であるが、もう少し広い視野での都市近郊養鶏としての生き残り対策を地域の中で検討することも必要かと思われる。
具体的には他の都市近郊養鶏の取り組み事例等を参考に、販売手法等も含めた生き残り対策(とくに都市近郊養鶏の有利性を生かした付加価値販売)の模索が必要である。このことは受賞当時にも、今後の活動の方向・課題として直営店開設による産地直売をかかげていたことから、その検討がひとつの道であると考えられる。
(調査・報告者:日本大学生物資源科学部助教授 早川治)
|