活動・取り組み内容の調査報告書

 

雄勝酪農農業協同組合

                  
 本事例は、「耕畜連携による地域資源を活かした循環型農業の取り組み −水田酪農地帯での稲ホールクロップサイレージの栽培と利用−」というテーマで、平成15年度畜産大賞地域振興部門に出品された事例である。
 自給飼料基盤の貧弱な水田地帯において、酪農協と総合農協が主導し、酪農家と稲作農家の連携による稲ホールクロップサイレージ(以下、「稲WCS」とする。)の栽培・利用体系を確立した取り組みである。また、ブランド米「あきたこまち」を使用するなど嗜好性を高める研究を重ね、参加農家の増加、飼料自給率の向上に貢献している。


1.取り組みの概要   1)稲WCS導入の経緯
 秋田県では平成13年に県の稲発酵粗飼料推進協議会が発足するとともに、県内で8ヵ所の地方協議会が発足している。さらにその中で4ヵ所のモデル地区が指定され、その一つに湯沢雄勝地域が選定されている。当該地域がモデル地区に選定された要因としては、昭和50年代から稲の飼料用栽培を行ってきた経緯があったからである。
 地元協議会では、当該事例(雄勝酪農協)が協定について調整し、契約もすべて担当するなど畜産サイドが主体的に動いてきたという経緯があるようだが、主として当該酪農協が畜産サイド、JAこまちが耕種サイドをカバーするという役割分担ができていることが、その後の普及拡大の一因をなしてきたことは異論のない事実である。このことは、当初、イネWCS栽培に取り組む稲作農家をどのように取りまとめるかが課題と見られており、JAこまちの耕種サイドへの働きかけが重要であったという話からもうかがうことができる。

2)供給契約のシステムとコントラクター機能の内容
 当初の協定に参加した畜産農家は12戸(参考:雄勝酪農協の組合員15戸)、耕種農家は24戸である。契約はあくまでも利用農家と供給農家の農家同士で行っている。酪農家間では飼養頭数に応じた面積割り当てを行っている。耕種農家の誰がどこの圃場でイネWCSを栽培するかについては、JAこまちがとりまとめて、市町村ごとの一覧表を作成して雄勝酪農協に提示する。それをもとに、酪農協側が栽培利用協定の契約書の作成、締結に係る事務を行っている。
 作業体系については、耕種農家が播種から落水まで栽培管理し、立毛状態で無償で販売し、収穫以降の作業を利用する酪農家が行うことになっている。しかしながら、実質的には「雄勝酪農生産組合」がコントラクターとして収穫以降の作業を請け負っている。耕種農家には産地作り交付金が7万円程度交付され、酪農家には2万円の給与実証助成が配分されている。
 「雄勝酪農生産組合」は、畜産農家5名と耕種農家を加えて7名のメンバーがオペレーターとして1日1万円の労賃で出役している。収穫以降の作業請負料金は、当初酪農家への給与実証補助金が2万円の際には徴収していなかったが、1万円に減額されて以降10a当たり5,000円を耕種農家から徴収している。すなわち、給与実証助成の減額を作業料金という形で補うというシステムに変更している。機械類は酪農協が所有しているため、組合が酪農協にリース料金を支払って、コントラクターとしての生産組合の収支ほぼ均衡する状態である。
 平成17年の栽培結果は、取り組んだ耕種農家が48戸、栽培面積15.57ha、収量317.1t(1057ロール/300kg)である。栽培農家は13年の24戸から倍増しており、利用農家は13戸でほぼ固定している(組合員外が2戸)。作付面積は15年の21haに比べて減少している。耕種栽培農家は増加傾向にあったが、ここへ来て新規に3戸の組合加入希望者(うち1戸は新規就農)がおり、180頭ほどの増頭計画がある。現時点の機械装備では20〜30haが限界であり、増頭がそのまま稲WCSの需要増大に結びつけば、不足の状況が出てくる。
 稲WCSのニーズは高いものの、今後の耕種農家の作付け拡大は、耕種農家への交付金が、今後とも現状程度確保されるかということにかかっている。


表 栽培・利用状況の推移
  13年 14年 15年 17年
栽培農家(戸)
24

 

 
48
栽培面積(ha)
14.2
18.8
21.0
15.57
収量(t)  
434
 
317.1
利用畜産農家(戸)
13
 
 
13


3)飼料イネ栽培技術の特徴
 品種はほとんどの圃場でブランド米「あきたこまち」が利用されている。飼料稲専用種では収穫期が遅れるため、当該地域では時期的に圃場の水分が多く、作業性が悪くなるというデメリットがある。また、収量が多くても水分が多いと品質が落ちるという欠点もあり、現時点であきたこまちへの執着は高いといえる。
 なお、一方でブランド「あきたこまち」を活かした販売戦略がとれるか否かも今後の品種選好の鍵を握っているといえる。
 機械の面では、当該地区に導入した専用機は、子実部と茎葉部が分離してロールされるため、水分の多い茎葉部の発酵品質が劣る傾向が見られた。従って、品質安定対策として水分管理を徹底するとともに独自に乳酸菌と糖蜜の添加調製を行ってきた。この技術は、現在の作業機械体系では、コストは高くなるものの欠くことのできない技術と評価されている。

4)給与の効果
 稲WCSをオーツヘイやビートパルプ等の購入粗飼料への代替飼料として位置づけ、8kg以下の給与に抑えている。ブランド米「あきたこまち」を飼料イネとして作付け、乳酸菌などの発酵促進剤や糖蜜の添加などの研究を重ねた結果、嗜好性が良く高品質の稲WCS生産が可能となり、通年給与できるようになったことが酪農家への定着要因となっている。

5)経営的成果
 管内普及センターの調査結果によると、原物1kg当たりの生産コストは43円程度と見られている。県内の流通価格10〜15円を考慮すると、1ロール3,000〜4,500円/300kgが流通価格であるべきだが、3〜4倍程度のコスト高となっている。
 耕種農家についてみると、支払い経費、労賃、地代込みで95,106円程度栽培管理コストが見込まれている。これを7万円程度の交付金を受け取ることによって無償で販売している構造である。地代を考慮しないでコストを何とか償っている状況である。現状以下に交付金が下がると、労賃部分を補償できない水準に陥ることなり、立毛状態で酪農家が不足分を買い取る必要もでてこよう。1ロール3,000円程度の流通価格(=10a当たり21,000円)を考慮すると、交付金の削減は21,000円程度までが限界といえるだろう。
 
6)こだわり牛乳のマーケティング対策
 当酪農協では、平成12年よりNon-GMOの配合飼料を利用し、低温殺菌を行った市乳を、最も販売シェアの多い市民生協をはじめ市内の学校給食用に供給している。このように、特定ルートで販売することでNon-GMO飼料単価は高いものの、高単価での販売を実現している。このようなこだわり牛乳が特定の消費者ニーズの支持を受け、牛乳が不足している状況である。全国的に生乳、牛乳需要が低迷している中で極めて特筆すべき動向である。
 ただ、県内にプラントがなく、岩手県まで輸送しての加工を行っており、輸送コストがかさんでいることが大きな課題である。
 また、今後飼料稲WCSについては当酪農協の「安全で安心な牛乳を供給する」というモットーを消費者にアピールできる材料となりえることから今後とも注目される。


2.今後の課題   当該地域の課題としては、牛乳生産という視点からはプラント設立が最大の課題である。また、稲WCSの今後の普及拡大という観点からは、助成金の維持ないし削減幅の抑制が絶対条件ともいえる。同時に、耕種農家がJA管内で分散しているため、収穫作業を行っているコントラクターにとって圃場の集団化が最大の課題である。
 次に、水田への堆肥散布については、需要はあるもののコントラクターの手が回らない状況である。他のコントラクター組織との連携、あるいは補完関係を如何にとるかが必要である。これはJAこまちの管内でコントラクターを含めた利用システムをどのように描くかという地域農業全体の問題とも関わってくる課題である。
 稲WCSの栽培・利用のシステムは円滑ではあるものの、耕種、畜産両サイドへの助成金が支えられていることは否定しがたい事実である。もちろん、その助成金の継続を要請することは必要であるが、稲WCSの導入が飼料自給率向上のみならず、堆肥還元を通して環境保全型畜産ないし農業というシステムとして位置づけられる必要がある。
 また、助成金に支えられなくても持続的な農法として如何に生産力を上げていくかという課題については短期的・中長期的な視点で多方面からの努力が必要と思われる。
 

 

3.本事例の取り組みの意義〜活動内容に学ぶ他の地域への波及の可能性〜 稲WCSの普及・定着に関しては、以下のようなことが評価できる。

(1)耕種農家が栽培管理まで行い、収穫以降の作業をコントラクターが行うという耕種農家、酪農家ともに無理のない形でのシステムを構築している。
(2)酪農家にとって高品質の餌となるように添加剤使用などの技術的工夫も取り入れられている。
(3)コントラクターの作業体系に(1)や(2)の工夫が取り入れられることは、酪農協が中心となって間接的にコントラクターを組織しているということの反映でもあり、普及センターや地元畜産行政との連携が欠かせないことを示している。
(4)稲WCSの栽培にあたっては稲作農家をどのように取りまとめるかが最大の課題となるが、当事例は耕種側の農協組織(JAこまち)が積極的に組合員サイドへ働きかけを行った。
(5)酪農協が行う「安全で安心な牛乳づくり」という販売戦略に今後、稲WCSが関連付けられ、さらなる発展が期待できる。

 

(調査・報告者:九州大学大学院農学研究院 助教授 福田 晋)