活動・取り組み内容の調査報告書

 

はぐくみ農業協同組合国府酪農部

                  

 本事例は、群馬県はぐぐみ農協の国府酪農部という農協部会組織を母体とする飼料の共同生産の取り組みで「地完全協業システムを取り入れた自給飼料生産と合理的分配方式 −地域に根づいた都市近郊畑作地帯の自給飼料給与型酪農の実践−」というテーマで、平成16年度全国優良畜産経営管理技術発表会で優秀賞を受賞した事例である。

 この取り組みは、作業時期による品質差の解消、婦人労働の軽減、地域の遊休地の解消、共同作業による低コスト生産等多岐にわたる成果を参加農家に対してもたらしている。

 

1.組織の概要と変遷   当該組織の特徴は、飼料生産方式として各地で展開している機械共同利用組織や飼料生産受託組織ではなく、組合員の土地を組織に集積し、飼料の共同生産方式を採用している点である。酪農経営は個別でありながら、飼料生産は1農場方式を採用している極めて珍しい事例である。

 組織は7名の酪農家から構成され、昭和51年にトラクターと作業機を購入し共同利用を実施してきた。そして、機械利用効率をあげ通年サイレージ方式を採用するという観点から昭和54年にスチールタワーサイロを導入して、飼料生産の完全共同化に踏み切っている。

 現在の組織は当初のメンバーから2人が高齢化・後継者不足から離脱し、新たに1名が加わって6名で構成されている。離脱した農家にもれず高齢化と後継者難はいずれの農家にも共通する課題である。
 

 


2.システムの特徴1)土地利用システム
 組合員の所有する畑をほぼ100%組合に出資しているが、その拠出根拠は1頭あたり2.81aの基準面積である。したがって、農家ごとの申告頭数(成牛換算した飼養頭数)に応じて拠出基準面積が決まるが、実際には基準面積との過不足が出る。そして、その過不足分を基準単価1,000円/10a(18年度から借地料と同じ5,000円/10a)を乗じて生産するシステムである。構成員が飼養頭数に応じて公平に土地を出資するという考えが打ち出されている。
 もちろん、この1頭当たり2.81aという基準面積は、自給飼料基盤としては十分ではない。これは、当初の7名の構成員の所有地を水田、畑を合計しても17.7haであり、成牛換算して6.2a/頭と零細であった実態を反映している。
 そして、そのような自給飼料基盤の脆弱性を補うのが、借地システムである。地元の兼業農家を中心に1年更新の5,000円の借地料で農地を借り入れている。農地の貸借に当たっては、地主側が安心して貸し付けることができるように農協という第三者にまず貸し付け、それを当該部会に貸し付けるというシステムをとっている。このシステムを採用することにより地主側は安心して貸し付けられ、借地は53年当初の1haから49haまで拡大し、部会組織の借地率は10.5%から77.5%まで上がっている。
 このように、農協が仲介役として間に入ることで農地が集積できている点が高く評価できる。しかし、実質的には第三者が仲介した形になっているので、地主と部会サイド双方にとってより安定的な取引形態となるように、農地保有合理化事業に乗せた形で契約を行うことが必要とも思われた。

2)労働力出役・機械利用システム
 飼料栽培とサイロ詰め労働にかかわる出役についても申告頭数に基づく公平な出役基準日数を割り出している。これは必要労働時間から逆算して割り出した日数とも言える。そして、実際の出役労働日数の過不足を1日=4時間当たり4,000円で評価して精算している。
 また、各農家が所有する機械を部会の共同生産に利用した場合、借用料として精算している。
 このような土地と労働力と機械の出資を精算した上で、個人ごとに3つの勘定を相殺しあい、トタールで精算しあうシステムとなっている。このようなシステムは部会構成員の規模に応じた平等性を保ちながら公正なシステムとして評価できる。つまり、少数の経営に依存したシステムとならないのである。

3)共同生産サイレージの実質価格
 生産されたサイレージは、申告頭数1.8頭に対して40kgをめどに分配されている。そして、先の生産要素の生産システムとは別に申告頭数1頭につき年間36,000円の負担金を徴収している。また、別途機械、施設の更新を考慮して1頭当たり年間6,000円を徴収している。つまり、年間1頭当たり42,000円で共同生産のサイレージを購入していることになる。1日1頭あたりの給与量を22kgとした場合、この負担金総額と労働費を合計した金額でサイレージの総供給量を除すと1kg当たり約6.3円サイレージを購入していることになる。これは、きわめて安い価格といえよう。
 


3.今後の課題  
 長らくタワーサイロを生かしたサイレージ供給システムをとっていたが、サイロから40kgのコンテナに積み替えて個々の農場へ輸送することが大きな問題となっている。これは自走式ハーベスタ導入後の共同生産システムにおいて適期播種、適期収穫が可能となり収量が増大する一方、構成員戸数が減少してタワーサイロからのサイレージの供給が重労働になってきたという背景もある。もちろん、組合員の土地を利用したバンカーサイロの設置やスタックサイロの設置によってその問題を克服しつつあるが、基本的にタワーサイロ利用体系からの転換も考慮する余地があると思われる。
 第2に、輪作体系を取り込んだ土地利用システムについても検討すべき課題である。現在の借地依存の高さは、当該組織の土地利用の貢献を端的に示している。さらに、堆肥を還元することで野菜農家との貸借もあるという。地域にとって見れば、野菜作付けと飼料作付けの輪作方式が貫徹すれば、全体の土地利用と地力増大につながるものといえる。しかしながら、現在ではそのような地域輪作システムが意識されたシステム化とは言い難い。

 一定地域内での輪作体系と堆肥、稲わら利用などの地域資源の有効利用を図るシステムとしてさらに1段階ランクアップできるか否かが問われるところである。
 第3に、今後の組織展開と法人化について言及したい。今後の当該組織の展開を展望するにあたっての最大のポイントは、構成員個々の経営が高齢化等によってどのように推移するか不明であるという点である。おそらく、このような点は、他の機械共同利用組織や飼料生産に関わる営農集団にとっても共通する問題となろう。1つの解決策は、この組織を任意組織から法人組織への転換を図ることである。

 当該組織は酪農家だけの組織であるために、酪農経営そのものがすべてリタイアすれば組織の存在すら意味がない。しかしながら、数戸でも酪農経営が展開する限り、また構成員外の酪農家がサイレージを購入するケースがある限りにおいてこの飼料生産システムを生かす意義は大きいといえる。そして、その場合、この組織の労働力として専属オペレータや臨時オペレータが配置されたり、機械の外部依存、借地の依存度がより高まる中で、従来の酪農家の共同生産組織から脱皮して飼料供給組織体へと転換が図れるのである。
 現在、当該組織で雇用しているオペレータは、すでに通年雇用の専従労働力が存在しており、組織の仕事と酪農経営の仕事に従事している。したがって、十分に法人組織体の体制をとっていると見てよいであろう。

 そして、法人化することにより土地貸借システムを合理化事業を通じた制度に乗った安定的な土地利用システムにへと転換することも可能となり、ひいては上述した輪作体系を組みやすくなるものと思われる。

 最後は、都市化地帯の酪農経営の課題である。当該地域のように混住化した市街化区域に隣接した地域において、飼料基盤に立脚した酪農経営の展開を展開することは一層困難を極めているといってよい。とりわけ、堆肥散布時の悪臭や粉塵問題などは深刻である。今後は周辺非農家との調和を図るだけでなく、酪農部門を理解してもらうという情報の公開や生産物を販売するなどして積極的な連携をとる必要があるものと思われる。
 

 

4.本事例の取り組みの意義〜活動内容に学ぶ他の地域への波及の可能性〜   当該システムは昭和22年に3名で国府酪農組合として発足して以降の部会員の長い結束力のもとに生まれたものであり、容易に実現するものとはいえないであろう。しかしながら、そこには大きな2つのポイントを見ることができる。

 1つは構成員の経営や飼養頭数にアンバランスが生じないようにとの公平、公正の配慮があるということである。しかも土地、労働力、機械の提供にあたってなるべく現金支出を伴わない形で実践されることを基本としている。そして、トータルとしての負担金という形でまさに飼料生産農場のコストを全員で負担するという形をとっていることが特徴である。

 そして、それを実現している最大のポイントは土地利用システムであり、組合員自らの農地の出資と地域内の兼業農家の農地を集積して高度利用システムを実現している点である。なかんずく組合員外の借地に当たって農協が仲介役となり集積しているシステムは、土地執着の強い都府県農業の農場制農業の実現にとってきわめて有益な事例であるといえる。

 さらに、飼料生産のシステムからいえば、個別機械利用システム、機械共同利用システム、共同生産システムと発展するに応じて、とうもろこし−エン麦、自走式ハーベスタ導入に伴うとうもろこし−イタリアン、そして共同生産システムの通年サイレージ体系と技術進歩が伺えることである。このように、より高度な飼料生産システムと飼料作体系がマッチしていることも特筆すべき点である。

 

5.写真等


タワーサイロ
 

機械庫 

  
 

  
 

圃場1
 

圃場2(榛名の山々が遠望できる) 
 

圃場3
 

地域の概況1(住宅混住地域である)
 

地域の概況2
(すぐそばを高速道路が走り、道路の向こうには新県庁も見える)


地域の概況3
(当該地域は関越道、国道、バイパスに囲まれた地域である。最近、新たなバイパスが走り、圃場が分断されてしまった)

 

 

(調査報告者:九州大学大学院農学研究院 教授 福田 晋)