HOME畜産大賞の概要平成13年度選賞事例一覧

研究開発部門・優秀賞


  長期不受胎牛への集団的受胎促進研究グループ
(総括代表 金田義宏)

 受胎促進研究開発グループ(代表 金田義宏)
 受胎促進企画担当グループ(代表 木戸口勝彰)
 受胎促進実施計画グループ(代表 関 和弘)
発情・排卵同期化法を活用した長期不受胎牛への集団的受胎促進事業

 肉用牛、とりわけ黒毛和種の改良・増殖は、わが国の農業にとって重要な基幹作目となっているが、牛肉の輸入自由化や関税率引き下げに伴い、国内の産地間競争は激しくなっていて、それに打ち勝つ黒毛和種牛の改良・増産のための一層の努力が求められている。しかし、生産農家の高齢化は肉用牛の飼育や繁殖管理をますます難しくしている。また、岩手県をはじめとした農業県では、その風土である中山間地を活用した公共牧野での牛の放牧事業に陰りがみえ、新たな利活用の試みが求められている。
 一方、黒毛和種雌牛の繁殖障害の発生は、様々なホルモン剤の開発や治療方法の進展にも拘わらず、減少する兆しはなかなか見えてこない。黒毛和種牛の生産コストの低減を図るためには、長期間不受胎のまま放置されている繁殖障害雌牛の発生を防止し、一年一産の健全な繁殖経営を確実に行うこと、そのために獣医師や人工授精師が適切な飼養管理および繁殖管理の指導を行うことが肝要となっている。
 こうしたなか、日常の飼養管理失宜に起因する長期不受胎牛の受胎促進を図るための方法として、牛を広大な自然の牧野に放牧し伸び伸びとした飼養環境に返すことにより体質改善と繁殖機能を回復させるとともに、集中的な繁殖管理と不受胎牛群の中に種雄牛を導入し自然交配(まき牛交配)を行うことにより受胎させることを目的として、平成2年から岩手県安代町の兄川牧野に「リハビリ牧場」が開設された。
 開設当初2カ年の成績から、長期不受胎牛を放牧しまき牛交配を行うことは、受胎促進効果のあることが認められた。しかし、子牛の市場価格は交配する種雄牛により価格差が生じていることから、生産農家が希望する優良種雄牛の交配が可能な人工授精を組み入れた繁殖管理システムの開発が要望された。
 そこで、受胎促進研究開発グループ、受胎促進企画担当グループおよび受胎促進実施計画グループが相互に連携し、総括代表者の長年にわたる研究成果、すなわち牛群全体の繁殖管理の省力化を図るとともに繁殖効率を高めること、および不受胎の大きな原因となっている鈍性発情に効果的な処置を行うための発情・排卵の同期化技術や、適期授精のための繁殖管理に関する成果を基礎に、長期不受胎牛の受胎を促進するための効果的な方法を検討してきた。その結果、放牧馴致後におけるプロスタグランジンF2αと性腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログの併用投与による発情・排卵同期化と人工授精を組み入れたまき牛交配の繁殖管理システムにより、長期不受胎牛の受胎促進と繁殖成績の改善に良好な成果を挙げることが出来た。本法は生産農家からの人工授精の要望に対応し、種雄牛のまき牛交配による負担を軽減するうえで効果的であり、今後のわが国における牛群の繁殖管理の指針を与えるものとなっている。
 「リハビリ牧場」は、平成10年から雫石町の上野沢牧野に移り、同様な体制で現在も運営されている。

 
発情同期化の処置を施した長期空胎牛の放牧
牛体に個体識別番号を記入し、発情発見のためのスティックマーカーを背腰部と尾根部に塗布。
  長期空胎牛の臨床繁殖検査
膣・直腸検査と超音波診断装置による生殖器の検査および妊娠診断。
     
 
退牧日の牧場
トラックで牛を迎えにきた生産者の人達。
  退牧日の牛の検査
妊娠診断を待つ生産者の人達。