HOME畜産大賞の概要平成12年度選賞事例一覧

研究開発部門・優秀賞


  フィターゼ開発グループ(代表 桜井 季)
 協和発酵工業株式会社(桜井 季 小出和之 伊奈孝二三 有馬 康 岡田 徹)
フィターゼ基礎研究グループ(代表 斎藤 守 武政正明)
 農林水産省畜産試験場(斎藤 守)現農林水産省東北農業試験場(武政正明)
フィターゼ実用化グループ(代表 高木久雄)
 社団法人日本科学飼料協会(高木久雄 米持千里 花積三千人)
飼料用フィターゼの開発と豚・家禽におけるリン排泄量の低減技術

 家畜排泄物中に含まれる窒素(N)、リン(P)などの環境負荷物質を低減するには、家畜が生命を維持し、畜産物を生産するために必要な量(養分要求量)以上に栄養素を与えないことが基本となる。しかし、トウモロコシや大豆粕などの植物性飼料原料中のPは有機のP化合物(フィチン)の形で存在していて、鶏や豚などの単胃動物ではこれを加水分解して無機のリンを遊離する酵素(フィターゼ)の活性が弱いため、その利用性はきわめて低く、鶏では10%程度、豚で20〜30%とされている。したがって、鶏や豚のP排泄量を低減するためには、消化されないまま排泄される飼料中のフィチンを分解して無機リンに変換する技術の開発が必須となる。
 そこで、協和発酵工業株式会社のグループはフィチンPを遊離のPに分解する酵素フィターゼの開発に取り組み、常法の育種改良により黒麹菌(Aspergillus niger)からフィターゼ高生産株を選抜して、高濃度のフィターゼを大量生産する製造法を開発し、飼料用フィターゼの工業化に成功して平成8年に飼料添加物に指定された。
 一方、農林水産省畜産試験場のグループは、鶏および豚におけるフィターゼ利用の基礎的研究に取り組み、武政らは、鶏用の飼料にフィターゼ850単位/飼料kgを添加するとフィチンPの利用性が改善され、鶏ヒナの発育成績を低下させることなく、P排泄量が30〜40%低減されること、添加したフィターゼの作用の中心部位はそ嚢であること、pH特性の異なるフィターゼであっても、pH 5.5における活性値を用いて同一単位を添加すれば、家禽に対してほぼ同じ効果が得られることなどを明らかにした。また、斎藤らは、肥育豚用飼料にフィターゼを添加すれば、無機Pを添加しなくとも増体量や骨の成分には悪影響を及ぼすことなく、Pの排泄量が約30%低減されること、さらに、飼料のカルシウム含量や加水処理、クエン酸の添加等がフィターゼの効果に及ぼす影響等について明らかにした。
 さらに、社団法人日本科学飼料協会のグループは、以上に述べた基礎的知見を踏まえて実用的飼料でのフィターゼの効率的な利用方法について検討し、フィターゼの添加により飼料中のフィチンPだけでなく、粗蛋白質(CP)、エネルギーおよび亜鉛、マグネシウムなどミネラルの利用性も改善されることを確認した。そこで、NとPの排泄量を同時に低減可能な飼料について検討し、低CP・低P飼料にフィターゼ500単位/飼料kgとセルラーゼ等の消化酵素および単体のアミノ酸を添加することで、ブロイラーおよび肥育豚のいずれも通常の配合飼料と同等以上の生産性を維持し、NおよびPの排泄量を30%以上低減することが可能な飼料を開発した。これらの飼料は、蛋白質飼料の節減や無機P源無添加による飼料コストの削減分でフィターゼ等の添加コストを十分賄えるものと試算されている。


フィチン分解酵素 飼料用フィターゼ製剤
 
 
低リン飼料(npp0.3%)給与雛の脛骨関節の顕微鏡写真
左:フィターゼ無添加、軟骨細胞の石灰化が遅延し、骨の変形などの可能性が示唆される。
右:フィターゼ500単位/飼料1s添加、石灰化が進行し、正常な骨の発育が認められる。
     
 
鶏におけるリン排泄量の測定
飼料摂取量とふん排泄量を測定し、両者のリン含量を分析してリン蓄積量及び排泄量を算出し、フィターゼの効果を決定した。
  豚におけるリン排泄量の測定
代謝ケージを用いて豚のふんと尿を分離して採取し、それぞれのリン含量を分析して飼料中のリンの消化・吸収量、排泄量、蓄積量等を測定し、フィターゼの効果を確認した。