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みどり牛乳農業協同組合(以下「みどり牛乳」)は昭和32年4月に知多牛乳生産農業協同組合としてスタートし、昭和56年1月に時代にマッチした名称へと変更したもので1市5町(半田市、東浦町、阿久比町、武豊町、美浜町、南知多町)の組合員(162名)により構成されている。「酪農業が地域の産業として持続的に発展すること」を命題として、当地域における戦前・戦後の幾多の歴史的な変遷の中から生まれた伝統を引き継ぎながら、今日まで役職員はもとより組合員の創意工夫を結集し、若者の活力を活かしてその時々に必要な数多くの課題を克服してきた。
みどり牛乳の活力は先進的組合員仲間が増えることを良しとして、新しい酪農家を比較的容易に受け入れ組合員の増加を図ったこと、及び生乳処理施設を持った組合としての有利性を活かし、牛乳販売からの利益を組合員に還元することによって、他の地域よりも「儲かる」ことを実証したことである。それゆえ、特に新しい酪農家は選択的な拡大の中で酪農を選び、飼養頭数の増頭競争が始まった。
その時、みどり牛乳は資金助成制度を設け、組合員の意欲を刺激し組合の活力を醸成した結果、その後の生乳の需要量増大を背景にした規模拡大に、新しい技術(バケットミルカー、パイプライン、バンクリーナー)への取り組みがスムーズに行われ、他の地域に先んじて専業酪農家への道を歩むことができた。その間、みどり牛乳は先行集団とそれに続く農家への情報提供等を行い、協調関係の持続を図った。
みどり牛乳の支援指導の特徴はその取り組み方にあり、先進的な問題解決にはみどり牛乳が事業主体として表に出るのではなく、その問題解決に意欲を持って賛同した組合員に任意の組合を結成させ、そこで選出された役員を中心として事業を推進したことである。
集まった集団は、独立採算を基本とした自主運営であり年齢構成も若く、何としても解決したいという情熱は強烈で、相談を受けた関係機関としてもその熱意に打たれ、関係者が一体となった取り組みへとつながり、苦難を一つ一つ乗り越えて事業化していった。
自分達のことは自分達の努力によって解決出来るという自信と課題を成し遂げた充実感は、関係した者全体の喜びであり、特に役員にとっては自分のことだけではなく組合として取り纏めて行く難しさと、他人のために働くという実体を会得する機会となり、みどり牛乳役員養成の場となった。
この方式は、一般の農協に見受けられる「困ったことは農協に依存する」という甘えの構造ではなく、積極的に自分達で解決する姿勢がいくつかの任意組合の設立へと発展した。
また、「産業として(酪農業を選択したことは)、新鮮・安全・良質な動物性食品を安定的に供給する責務がある」を絶えず念頭において事業が推進され、責務の遂行によって社会に貢献している。
その結果、みどり牛乳はその時々に酪農家が直面する課題の解決に絶えず先進的に取り組み、その成果を組合員全体に普及させることにより、組合員の資質と経営水準を飛躍的に向上させた。
また、戸数に占める40歳以下の割合は62.6%と高く、乳牛飼養頭数は平均85.4頭と北海道に次いで大規模な経営が行われている。また、66.5%の組合員で乳肉複合経営も行われ平均126.8頭の肉用牛が飼養されている。
みどり牛乳の支援指導は「競争と協調」「分業化と協業」「社会への貢献」がキーワードとなっており、その成果を以下に列挙する。
1) | 生乳の有利販売……ブランド化への推進 |
安全・安心・新鮮な乳製品を学校給食を始め、県内消費者に提供し高い評価を得るとともに、消費者との結びつきにも大いに貢献している。 | |
2) | 新春酪農放談会……自由な意見・発言の場、解決策の検討の場 |
酪農家の問題提起の場として新春酪農放談会を開催し、組合員からの要望が早期に事業化がされた。 | |
3) | 共同飼料配合所……給与飼料の平準化とコスト低減 |
安全・安心・新鮮な乳製品を学校給食を始め、県内消費者に提供し高い評価を得るとともに、消費者との結びつきにも大いに貢献している。 | |
4) | ヘルパー利用組合……ゆとりの創出 |
国庫補助事業に先駆け、昭和52年半田市酪農ヘルパー利用組合を設立し、引き続いて2組合、現在4ヘルパー組合が稼働している。 | |
5) | 乳肉複合経営……所得の拡大 |
行政の指導方針をいち早く取り入れ乳肉複合経営に取り組み、肉牛部会の設立、ブランド化により所得の増大を図ったこと、並びにみどり牛乳の出資金取り扱い方式が親子の分業につながり世代交代を推進した。 | |
6) | 生乳生産枠の流動化……後継者の育成強化 |
みどり牛乳独自で生乳生産枠の流動化事業に取り組んだことが意識を再喚起させ、後継者確保・育成に大きな役割を果たした。この制度は後に国でも事業化され、みどり牛乳の時代の先見性を示すものである。 | |
7) | たい肥化処理システムの整備……環境に優しい酪農 |
昭和61年半田市グリーンベース生産組合を皮切りに、順次管内に6組合を設立し、域外流通を含め活発な活動が行われている。 |
1) | 指導支援活動の対象 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
組合員は知多地域の半田市、東浦町、阿久比町、武豊町、美浜町、南知多町の1市5町で構成し、組合員数162名で、酪農家は119戸、搾乳牛の飼養頭数は10,164頭、1戸当たり飼養頭数は85.4頭と全国的に見ても有数の大規模な経営が行われている。肉用牛の飼養農家は4戸、乳肉複合経営78戸で、1戸当たり頭数は126.8頭となっている。 みどり牛乳のある知多半島は、名古屋市の南部から南に突き出した半島で伊勢湾と三河湾に囲まれており、東西4〜14km、南北45km、面積383km2である。平均気温は15〜16℃と温暖で年間降水量は約1,500oである。知多地域は、5市5町からなり人口は約57万人、北中部には名古屋南部及び衣浦西部の臨海工業地帯があり、鉄鋼業をはじめ関連企業が進出している。また、伊勢湾側には名古屋港、三河湾側には衣浦港があり、貿易の要所になっている。従前から、窯業・繊維・醸造業等が盛んであるとともに畜産においても日本で生産される配合飼料の約1割が生産されている。 南部は農業、漁業及び自然景観を利用した観光地域となっている。西部には中部新国際空港の建設が計画され、今後の開発が見込まれる地域でもある。 知多地域農業の県全体に占める割合は、農家数で約9%、耕地面積で約12%、農業粗生産額で約11%で、フキ・ミカン・タマネギ・洋ランの産地となっている。 畜産においては乳用牛、肉用牛、豚、鶏が飼養され、中でも乳用牛は全国でも有数の産地となっている。 農業粗生産額のうち畜産の占める割合は約40.2%、みどり牛乳傘下で見ると53.8%で畜産は当地域農業の主力である。 表1 知多地域の畜産粗生産額 (第46次農林統計)
表2 知多地域の乳用牛・肉用牛の飼養状況 (第46次農林統計)
表3 みどり牛乳傘下の地域別飼養状況 (みどり牛乳酪農一斉調査)
図1 みどり牛乳農業協同組合組合員数と経産牛飼養頭数の推移(平成11年8月1日現在) |
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2) | 活動開始の目的と背景 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
この地域に乳牛が導入されたのは明治17年で、半田市を中心に搾乳兼処理販売の経営形態で確立されていった。 昭和12年、牛乳営業取締法の改正によって牛乳処理施設の拡充・整備が急務となった。そこで牛乳の共同処理を目的に知多東部管内の牧場経営者29戸が知多郡牛乳小売商業組合を設立したのが、現在のみどり牛乳の前身である。 このように歴史ある産地において、支援活動の目的は何だったのか。 それは、如何にして「儲かる酪農、ゆとりある酪農を実現する。」かであり、それに対する酪農家の強い思いとみどり牛乳をはじめとする酪農に関する全ての人たちが「日本一の酪農産地を目指そう!」としたからである。当然現在も、組合員全員が思っていることであり、地域に調和した21世紀の酪農の確立に向かって取り組んでいる。 みどり牛乳の支援活動の背景は皆が自由に意見を出し合える機会を作った「新春酪農放談会」であり、ここで出された新しいアイデアが事業化されていった。 また、放談会に限らず常に酪農家同士で話し合う機会を持ち、酪農のより良い方向について議論した結果が、従来の農協事業とは異なるみどり牛乳独自の事業となり、その中で、個々の経営メリットと共同によるメリットを上手く舵とりして分業と協同、競争と強調を引き出していく積み上げ方式による支援活動を確立したことである。 |
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3) | 活動の位置づけ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
各時代ごとに、酪農経営にとってマイナス要因となる問題があり、それを克服することが大きな課題であった。そのために、みどり牛乳では各市町酪農組合レベル、更に酪農家個々のレベルの発想や知恵・創意工夫を大きな組織にうまく取り込み、産地としての方向性を定めていくことで、全体のレベル向上が図られた。 新春酪農放談会や各市町の酪農組合活動に対する支援によって、個人では対応できない事項でも共同組織によって解決していくシステムが確立された。その結果、生乳計画生産後みどり牛乳の酪農家戸数の減少率が35%以下(全国では72%の減少率)、経産牛頭数は122%、生乳生産量は170%(いずれも平成10年)と全国でもトップクラスの酪農産地として発展し続けている。 最も大きな成功要因は酪農を取り巻く課題をクリアしていくことで、後継者が酪農に対し魅力を持ち、意欲ある事業継承者となったことである。そして、後継者の事業継承によってさらなる規模拡大が図られたことで、酪農大産地としてまた地場産業として地域に貢献する源泉となっている。 |
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4) | 活動の実施体制 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
みどり牛乳と関係する組織について、図2、3、表4にその内容を示した。みどり牛乳管内の市町ごとに単位酪農組合が組織されており、行政機関と連携を取りつつ活発に活動している。特に、半田市酪農組合では、共同飼料配合所・ヘルパー制度・ふん尿処理施設の共同整備等の事業を他酪農組合に先だって取り組み、みどり牛乳内でも先導的な役割を担っている。 図2 みどり牛乳農業協同組合組織図 図3 みどり牛乳農業協同組合関係の組織体系図 表4 みどり牛乳農協の指導・支援内容 |
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5) | 具体的な活動の内容と成果 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
みどり牛乳の支援の活動のポイントは、図3に示すように6つの地域別単位農協組合の活動を円滑に推進するため、表4のとおり直接指導と間接指導を有機的に組み合わせ、先導的な取り組みや技術は全て開示して、みどり牛乳全体のボトムアップを図ることである。
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6)活動の年次別推移 |
みどり牛乳農協の6つの地域酪農組合のうち、特に中核の半田市酪農組合はみどり牛乳とタイアップして自主的な活動によって、組合員個々がよく話し合い、共存共栄の精神で問題解決を図ってきている。組合としての決定事項については、素早く実行して時代を先取りした事業を展開する実行力をともなっている。組合員の創意と工夫で酪農経営を協同組織によって分業化に成功したこと、乳肉複合経営による所得の増大によって都市近郊・湾岸地域での「儲かる酪農」を実現した。そして、優れた取り組みは積極的に他地域への普及に努めて、みどり牛乳管内全体の向上につなげ豊かな酪農産地を形成している。
県内外から多くの視察者がみどり牛乳を訪れている。そして、組合員の豊かな酪農経営を目の当たりにして、みどり牛乳の「組合員の組合員による取り組みとみどり牛乳の支援活動」に大きな関心を寄せている。特に近年では、家畜排せつ物関連法律の施行によって、半田市酪農組合での共同によるふん尿処理施設整備が注目を集めている。
生産性の高い酪農経営の実現のため、販売・購買・指導事業によって側面支援が絶対必要である。
21世紀の酪農には、生乳生産以外に環境に対する配慮、人に対する癒し効果、情操教育に対する効果等多面的な機能が要求されてくる。これらに対応できる酪農経営の実現やグリーンツーリズム、牧場景観形成に対する研究・取り組み、インターネットを活用した情報の発信が必要であり、地域の人たちと共存していく重要な手法と思われる。
[1] | 環境に配慮した酪農経営の第一歩は、確実なふん尿処理とたい肥の生産供給である。処理施設の整備には多大な経費を要するため、共同による事業化が不可欠である。整備率の低い地域を中心に設置推進を行う。設置率の高い半田地域では、生産されたたい肥の利用・流通に関する事業化を考えていく。耕種農家との情報交換拠点とたい肥利用研究の場として、たい肥生産流通協議会の立ち上げ支援によって環境保全型農業への貢献とたい肥ビジネスへ取りかかる計画である。 |
[2] | 現在、二代目が経営の主体となっている酪農家が多い。経営環境が整った中での経営移譲は、ともすれば経営に対する姿勢が甘くなったりすることがある。そこで、酪農二代目を中心として、21世紀の酪農の将来を描いて行かねばならない。また経営パートナーである女性を広く取り入れていく経営スタイルを考える必要がある。 搾乳ロボット等の省力新技術の導入等の新たな取り組みを前向きに考え、乳牛200頭規模のロボット酪農産地を目指すくらいの勢いが大切である。若い世代に対する積極的な働きかけが、今後の産地活性をになっているので、個々の経営視点も考えた指導が求められる。 |
[3] | 都市近郊に位置するみどり牛乳でも、今後一般市民との融和を図る手段としてグリーンツーリズムに取り組んでいくことが求められるだろう。特に、牧場景観に配慮し林の中の牧場として地域に認知されることも必要であろう。現在、新規建設予定の牧場で、一般住民の参加型による牧場景観づくりの事業化を検討し、人々に開かれた牧場づくりを思考している。 |
[4] | 大阪食肉市場でのみどり牛乳の信用は高く、「知多牛」として広く定着している。しかし、枝肉相場の影響を受けやすく常に高位安定生産が課題となっている。ET和牛生産技術も含め、肉質を向上させ知多牛をブランド化し安定した乳肉複合経営を実現するため、継続的な肉牛部会、ET部会活動がますます求められる。 今後、みどり牛乳に求められる機能・役割として、トップリーダーや先駆的なグループ活動のバックアップ的な支援に加え、将来酪農に必要な10年先を見通した戦略の立案と作戦の実行が求められる。 |