レディースファームスクールによる酪農振興

―将来営農したい方、農業へ関わりの夢を抱き続けているあなたへ
レディースファームスクールは一歩踏み出すお手伝いをします。―



北海道上川郡新得町 新得町立レディースファームスクール(代表斉藤敏雄)

1 畜産を核とした地域振興活動の概要


[1]  就農を目指す独身女性のための研修施設として「レディースファームスクール」を開校。毎年酪農長期研修生等10数名を受け入れし、農家実習を中心として、講義・農畜産物の加工実習等、実用的な農業技術を学んでいる。
[2]  研修生の受け入れは、地域の酪農・畑作農家が積極的に受け入れをしており、「レディースファームスクール協議会」を設立し、受け入れ農家の調整や実習指導について協議を行いながら、実習の技術指導をしている。
 また、協議会が主体となって研修生の歓迎会、卒業お別れ会、餅つき、忘年会を開催。また、受け入れ農家では、研修休日にパークゴルフ、バーベキュー等と家族ぐるみで全国各地から訪れている研修生と交流を図り、農村・農業の持つ魅力を浸透させ、地域と深い結びつきができている。
[3]  研修生も、地域の小学校の運動会、学習発表会、盆踊り等や町の各種イベント、桜まつり、大雪まつり、綱引き大会、町民運動会、農民運動会等に参加し、町民の声援を受けるなど、町民との交流も進み、地域農村の活性化はもとより、町の活性化の起爆剤となっている。
[4]  本年度も第5期生13名(酪農9名、畑作4名)が研修を行っている。
 第4期生まで43名が研修を修了しており、うち26名が在住している。在住している多くの修了生は、若き農業の担い手として酪農従事15名、畑作2名、肉牛3名と活躍している。
 その他、道内に10名(農業関係10名)、道外7名(農業関係1名)等、農業関係従事者31名となっており、それぞれに活躍している。
 また、町内では5名が結婚しており、そのうち3名が酪農等農業後継者のパートナーとなっており、地域振興に寄与している。

2 地域の概要

 新得町は大雪山系の麓で、十勝平野の最西部に位置し、面積が約10万7千haで東京都13の1/2。町としては、全国で4番目の広さを有している。総面積の約91%の97,000haが, 森林面積で、そのうち84,000haが国有林でその2/3が大雪山国立公園である。気象は、平均気温が6.5℃で寒暖の差が激しい内陸的気象である。
 町の基幹産業は農業であり、畑作・酪農が中心となっており、農用地総面積4,656ha、農家戸数169戸(畑作84戸、酪農52戸、肉牛7戸、複合26戸)となっている。
 畑作については、小麦・馬鈴薯・甜菜・豆類を主体に人参・そば等が栽培されている。畜産は、乳牛6,169頭、肉牛14,359頭(頭数は農協調べ)が飼養されている。
 平成10年度の農業粗生産額は59億1,200万円、畑作18億1,800万円、畜産40億9,400万円と畜産部門の生産額が多くを占めている。
 新得町においても、過疎化の進行に伴い、離農による農家戸数の減少や農業世帯の高齢化や後継者不足等農業担い手不足が深刻な問題となってきている。

3 地域振興活動の内容




1) 活動の開始の目的と背景
   新得町においても農業従事者の高齢化、後継者不足、経営に対する先行不安等から、離農する農家が多くなっている傾向にあり、農村社会の崩壊につながる深刻な問題をかかえていた。
 一方、農業や北海道へのあこがれから、道外から多くの女性が酪農を中心とした農業実習に来ているが、農家での住み込みには、カルチャーショックもあり、プライバシーの問題等で途中で実家に戻るなど、課題も残っていた。
 これらのことを踏まえて女性を農業担い手として位置づけ、平成8年8月に全国で初めて就農を目指す独身女性のための研修施設として「レディースファームスクール」を開校した。
 毎年、酪農部門を主体とした研修生を10数名受け入れし、レディースファームスクールで生活をしながら、酪農家での実習を行い、週1回農業の基本的事項について、地域の農業関係機関の研究員・獣医等による講義を受けるなど、実践的な農業技術の習得が行われている。
2) 活動の位置づけ
 
(1) 農業担い手の確保
 平成8年8月から開校しており、40数名の研修生が修了しており、うち半数以上は町内に在住し、若き農業担い手として、酪農15名、肉牛3名、畑作2名が仕事に就いている。
(2) 受け入れ農家の意識改革
 受け入れ農家では、研修生が入ることにより住宅や牛舎周りの環境整備や事前に仕事の準備をするなど時間の効果的利用、また担い手が増えたことにより搾乳牛を増やすなど農家での意識改革が進んでいる。
(3) 地域の振興・活性化
 研修生は、積極的に地域の小学校の運動会、学習発表会、盆踊りをはじめ、町のイベントである桜まつり、大雪まつり、綱引き大会、町民運動会等に参加している。その中で町民との交流を深めるとともに、地域振興の起爆剤となり、地域の活性化に一役買っている。
3) 活動の実施体制
 
(1) 活動の実施体制
 レディースファームスクールは平成7年7月に着工し、平成8年6月に完成した。
 建物は鉄筋コンクリート2階建てとなっており、総事業費約3億5,000万円で国の山村振興等農林業特別対策事業として完成した(国費補助50%)。
 レディースファームスクールの維持管理経費は、年間1,100万円程度となっており、町で負担している。研修生からは管理経費として個室月額12,000円、団体室月額10,000円、年間研修生全員から150万円程度を町に納入してもらっており、その額は町負担の1割程度になっている。
 また研修生から教材費として、長期研修生年間50,000円、短期研修生は1ヵ月目10,000円、2ヵ月目からは5,000円を徴収して、レディースファームスクール運営委員会の経費の一部としており、研修生の調理実習や管外1泊研修の経費に充当している。
 研修生の受け入れ農家は、研修生の実習に対して手当を支給しており、酪農家は1ヵ月目1日2,000円、2ヵ月目以降1日3,000円、畑作農家は1日2,000円から4,000円となっている。研修生は1ヵ月75,000円程度の手当を受け取っている。
 レディースファームスクールの運営は、研修生の受け入れ農家の協力のもと新得町が行っている。
(2) 『レディースファームスクール運営委員会』(の運営部門)
 レディースファームスクールの運営について、町内関係機関・団体の協力のもと農家実習・講義や町民との交流など様々な行事の円滑な推進を図ることを目的として設置した。
[1] 構成
  新得町
新得町農協
北海道立畜産試験場
十勝西部地区農業改良普及センター
NOSAI(十勝農業共済組合)
各種農業団体
[2] 予算
  年間300万円程度となっており、町の補助金、担い手育成センター助成金、教材費等でまかなっている。
[3] 会議の開催
  総会、研修生の選考等年2回開催している。
(3) 『レディースファームスクール協議会』(の受け入れ部門)
 レディースファームスクール研修生の実習の充実かつ円滑な推進を図ることを目的に設置した。
[1] 構成
   レディースファームスクール研修生の受け入れ農家(酪農16戸、畑作5戸、肉牛1戸)で構成しており、この中で研修生を受け入れている。
[2] 予算
   研修生を受け入れている農家で長期受け入れの場合、1戸当たり年間10,000円、短期受け入れの場合、1戸当たり年間5,000円で自発的に運営している。
[3] 会議の開催
   研修生の受入れ等について年間4回開催している。
(4) レディースファームスクール運営体制
[1]レディースファームスクール校長……新得町長
[2]農林課農政係(4名)…………………研修全般についての連絡調整
[3]管理人の配置……………………………施設の維持管理・研修生の送迎・食事の提供
4) 具体的な活動の内容と成果
 
(1) 農家での実習
 レディースファームスクールでは、農家での実習が研修の主体となっており、実践的な農業技術を学んでいる。酪農にあたっては、3ヵ月ごとに受け入れ農家を変えており、1年間に4戸の農家で実習することにより様々な経営・農作業を学ぶことができる。研修生を受け入れる農家の確保、研修中のトラブル等の心配もあったが、受け入れ農家の協力によりスムーズに運営されている。
 受け入れ農家では、研修生が入ることにより
・事前に仕事への準備をするなど時間の効果的配分
・住宅、牛舎周りの環境整備
・搾乳牛を増頭、そして出荷乳量を増加し、規模拡大を図るなど、農家での意識改革が進んでいる。
(2) 講義・農作物の加工実習
 講義等は、毎週水曜日の午後に実施している。講師等の確保については、地元の農業関係機関の協力により、研究員・獣医等を講師として、より実用的な講義を行っている。
 また農産物の加工実習では、地元で収穫した農畜産物や研修生自らが栽培した農産物を使用し、地元のお母さん方を講師として迎え、加工技術の習得とともに地域の方々との交流を深めている。
(3) 実習農場での作物の栽培
 レディースファームスクールには、実習農場が3反あり、研修生が農作物の栽培管理を行っている。実習農場から収穫された作物は、食事・調理実習の材料としたり、研修生の実家に送ったりしている。農作物を栽培する楽しさ、農業の良さを自ら体験している。
(4) 各種イベントの参加
 地域の小学校の運動会、学習発表会、盆踊りなど、また町のイベントでもある桜まつり、大雪まつり、綱引き大会、町民運動会に積極的に参加しており、町民との交流を深めるとともに地域振興の起爆剤となっている。
(5) 農業担い手の確保
 レディースファームスクールの研修生を受け入れる農家では、毎年研修生が入ってくることにより、搾乳牛を増頭するなど規模拡大を図っている。
 また、修了生についても、毎年10数名が研修するが、その半数以上が町内に残り、酪農家の担い手として活躍している。
5)地域振興の活動の年次別推移

4 地域振興活動の波及効果の可能性

 全国ではじめての女性専用の農業体験実習施設であり、牛を見たことも触ったこともない女性がこの施設で1年間研修した後、半数以上が町内に残り、酪農などの農業担い手として活躍しており、これらの実績は全国から注目されている。
 また、マスコミ等の取材についても、開校当初から続いており年間10数件あり、レディースファームスクールのPRの一端を担っている。
 これらの取り組みについて、道内はもとより、道外からの視察も多く、近隣町村においては、新たに農業体験施設整備をするところもでてきている。

5 今後の活動の方向・課題等

[1]  レディースファームスクール修了生の親睦を図るために組織作りを進めていきたい。
[2]  町内酪農家においてはレディースファームスクール修了生を受け入れ、経営規模の拡大を図るなど、修了生を受け入れる農家が増えつつあるが、毎年10数名の研修生が修了することで、研修生の希望に沿った町内での実習先の確保、受け皿づくりが必要。
[3]  就農にあたっては資金や制度面の問題から、女性だけでの自立は難しく、研修生が共同で経営できる畑や牧場の設置。

6 活動の評価

(レディースファ−ムスク−ル協議会会長)
 平成8年のレディースファームスクール開校当初から研修生を受け入れており、本年も第5期生を受け入れています。修了生については、平成9年度から酪農実習生として第1期生で横浜出身の神林さん、平成12年度から第4期生で東京出身の米山さんを受け入れています。研修生の時からの実習により、気心も知れ家族の一員として、搾乳やデントコーン・牧草等の収穫時には、トラクターに乗ってもらい、朝早くから、夜遅くまでがんばっています。
 生活面では、研修生のために母屋の近くに住宅を新築し、朝夕は一緒に食事をするなど楽しい生活を送っています。
 経営面においても、労働力の確保ができたことにより、搾乳牛を増やすなど規模拡大を図っており、研修生2人に搾乳を任せて夫婦で出かけることもできるようになりました。

(レディースファームスクール受け入れ農家)
 平成8年の開校の時から研修生を受け入れています。はじめは牛をおそれる人も多く当初は心配しましたが、研修生は、1ヵ月もたつと技術的にも肉体的にも見違えるほどたくましくなります。
 また、町内に残っている修了生は、休日には、遊びにそして牧草収穫の手伝いに来てくれ、とてもうれしく思っています。
 研修生を受け入れすることにより、農家自身にも良い影響を受けており、労働力の増加を機会に搾乳牛を増やし、乳量をのばしたり、住宅や牛舎の環境整備を進めています。
 また、研修生が積極的に地域の行事に参加してくれるため、地域の雰囲気が明るくなり、活性化も進んでいます。

(第1期修了生)
 レディースファームスクールの研修生は、みな、「牛の仕事がしたい」「畑で野菜を作ってみたい」「農村に住みたい」などそれぞれの想いを抱いて新得にやってきます。1年が過ぎる頃、その考えは変わっているかもしれないけれど、それでも、大方の研修生が「新得に住みたい」と思うのです。
 なぜでしょうか?景色や環境も確かにすばらしいけれど、その一番の理由は、「新得人」の人柄によるところが大きいと私は思っています。よそから来た私たちのことも仲間として受け入れ、認め、誰にでも優しく親切です。居心地が良いものですから、一度は地元へ帰った研修生も、新得が忘れられず、舞い戻ってくるのです。
 レディースファームスクールは農業体験施設ですが、農業の担い手や花嫁ではなく、実は「新得ファン」を育てているところなのです。今年の研修生も、新得という地域の魅力にとりつかれ、新得から離れられなくなることでしょう。

(第3期修了生)
 牛に全く触ったことのなかった私が、レディースファームスクールに入り、受け入れ農家の方々に親切に教えてもらい1年間楽しく過ごすことができました。都会での生活と違い、ここでの生活は四季の移り変わりを肌で感じることが出来新鮮でした。
 研修だけでなく、酪農や畑作についての講義や牧場視察、バター作り等の数々の実習も印象に残っています。
 また、1年間の間には、地域の行事(運動会・学芸会等)にも参加し、地域の人たちとも交流しました。そして、レディースファームスクールで1年間一緒に生活した仲間はみんな近くに住んでいて、貴重な友人です。
 今は、その経験を活かして、町内の(株)狩勝牧場で働いていて、主に搾乳を担当しています。自然に囲まれた新得でのんびりとした生活を満喫しています。

(第4期修了生)
 スクールを卒業して酪農ヘルパーとして仕事をしている現在、最も感じていることは研修生であった頃と比べて、牛の世話をするということと農村生活を楽しむということが一日の生活時間の中ではっきりと区別されたことと、個人の責任がはっきりしたことです。
 そのような意味では、スクールでの生活を通して、農家さんや町(役場)の方々やスクールの仲間のおかげで、まずは「牛は楽しい」「牛はかわいい」「こんな自然の中で暮らせて幸せだ」と思えることからスタートできたことは現在の自分の大きな力になっていると思います。いきなりヘルパーとして働き始めたとしたら、仕事の大変さ(心身共)にばかりにとらわれて、大変さの中に楽しさを見つけるのが難しかったと思います。
 また、仕事柄、スクール生の時に折に触れ農家さんが教えてくださったこと、自分が肌身で体験したこと、そして週一回開かれた講義によって、バランスよく牛の知識が得られたことが今役立っているのではないかと思っています。