HOME畜産大賞の概要平成11年度選賞事例一覧
研究開発部門最優秀賞
家畜ゲノム研究プログラムチーム
遺伝子利用技術開発グループ
毛色関連遺伝子のDNA多型を用いた

豚の品種識別技術
  
 近年、スーパーでは「黒豚」の表示を多く見かけるようになったが、消費者等から「本当の黒豚であるか疑問」「出荷量に比べて黒豚が氾濫しすぎている」また「ランドレースなどと交配すると白い豚になる。黒豚が血統に入っていても、白い豚を黒豚と表示するのはどうか」といった意見があがっていた(畜産局)。このため農水省では「黒豚」についての意見を公募し、その定義(表示)を、純粋バークシャー種同士の交配による産子、とすることとした。ここで、食肉になった段階で純粋バークシャー種であることをどのように識別するかが問題となっていた。
 ここに言う「黒豚」とは、鼻端、尾端と四肢端の計6箇所が白く「六白」といわれているバークシャー種のことである。バークシャー種の脂肪は融点が高く、肉には甘みがあり特においしいとされてきた。しかし、一腹産子数が少なく、体重の増加も遅いため飼養頭数は徐々に減少し、平成9年2月時点では全国で約12万頭(全体の約1.8%)であった。
 このことから、わが国で飼養されている豚の主要品種の食肉についてDNA情報を用いた品種識別を行うこととした。遺伝子レベルで品種識別を行うには、同一品種内でDNA配列が同じだが品種間では必ず異なる(多型)DNA配列を特定の遺伝子等から見つけだす必要がある。このことから、豚の主要品種が白、黒、茶等の異なる毛色、あるいは一枚毛、白黒斑等の異なる毛色パターンを持つことに注目し、これら毛色に関連するとされる2つの遺伝子について解析した。
 すなわち、豚の第6染色体短腕に存在し毛の色素生成に関与する「メラノサイト刺激ホルモンレセプター(MC1R)」遺伝子と第8染色体短腕に存在し白黒斑等の毛色パターン形成に関与するとされる「KIT」遺伝子に着目し、そのDNA配列の調査・解析を行い、これらの遺伝子の中に品種特有のDNA配列を見いだした。特にKIT遺伝子のイントロン部分について詳細な配列決定を行った結果以下のことが明らかとなった。
 (1)MC1Rの遺伝子型はデュロック種、梅山豚、白色品種で異なっており毛色による類型化が可能である。
 (2)しかし、白色種とバークシャー種、ハンプシャー種のMC1R遺伝子型が同一であり、MC1R遺伝子の情報だけではこれらの識別には不十分であるが、KIT遺伝子を用いることにより白色種(ランドレース種、大ヨークシャー種)と有色品種(バークシャー種、ハンプシャー種、デュロック種)を区別することができる。
 (3)さらに、KIT遺伝子イントロン部分にバークシャー種特有のDNA配列型が存在し、これによりハンプシャー種との識別が可能である。
 (4)なお、バークシャー種特有のDNA配列は東洋型、ハンプシャー種は西洋型であることを見いだした。
 上記の一連のDNA配列解析を行うことにより、遺伝情報を用いた豚の品種識別が可能となった。
 本技術は、現在問題となっている偽黒豚肉流通に対する抑止効果を持つ。同時に、流通畜産物の内容を食肉や加工肉段階で保証する技術でもあることから、生産者、流通業者、販売業者の互いの信頼関係を向上させ生産流通意欲を促進する。さらに、究極には消費者の畜産物への安心を向上させ、食肉消費の上昇をもたらすと考えられる。