《酪農家が農業体験館を開館》
いのちの感動を子供たちに
―栃木県黒磯市・体験館“TRY”TRY”TRY”―


 文部省では、2002年度から子供たちの心の荒廃を防ぐとともに生きる力を育むことをねらいとした総合学習の時間を設けるそうだ。そして、その一環として食農教育の導入に向けた検討をすすめている学校も多いという。

 そこで、既に現場段階で「農業体験を通じ、子供たちに農業の持つ魅力や感動を伝えたい」と昨年4月に体験館を開館した。館長の人見みい子さんと娘の幸枝さんの活動について紹介する。

 体験館のある栃木県黒磯市は、広大な那須野ケ原の北東部一帯に広がる県北の田園都市で、近年都市化が進むなかでも酪農と稲作が盛んに行われ、栃木県の生乳生産量を都府県一に押上げた原動力となっている。そんな立地にある体験館へのアクセスは、東北新幹線那須塩原駅から車で10分、東北自動車那須ICから15分。

 2001年8月13日、この日体験館を訪れたのは、東京近郊の小・中学生を中心に活動しているボーイスカウトのグループ「東京中央一団」の25名。

 「家畜に接する機会がない子供たちばかりです。家畜に触れたり搾乳をしたり、体験学習のできるところを探していました」と団長。この日の体験内容は、バター作りとソーセージ作り、そして搾乳体験だ。

 「来館者は原則として1日1組しか受入れません。それは子供たちと会話をするなかで私たちの思いを伝えたいためです。ですからこの牧場は、いわゆる観光牧場ではありません」と人見館長。ちなみに来館者の多くは、体験者の口コミで広がり訪れるそうだ。

 体験館を開館したきっかけは、娘の幸枝さんが後継者として就農したことにある。「搾乳牛が40頭、立地条件からみても規模拡大することは不可能でした。せっかく就農した娘にどうしたら月給を支払うことができるのか」をまず考えたという。

そして「自分も娘も楽しみながら農業を行い、子供たちにも農業の魅力や感動を伝えることができないか」との思いから、(社)国際農業者交流協会が主催する海外農業事情視察研修事業のヨーロッパ婦人コースに参加し、本場のグリーンツーリズムを体験してきた。「特に農家の女性がいきいきしていたのが印象的で、農業者としての誇りをもち、農業の魅力や感動を伝えたいという思いは更に広がりました」と強い感銘を受けたそうだ。

 「農業体験を通じ、農業に興味をもってもらえたらいいなと思います」と話されるように体験学習の中には、農業に興味を持たせる工夫が随所に配慮されている。

 例えば牧場クイズ。「体重計を使わないで牛の体重を知るためにはどうしたらいいでしょうか?」の質問には、引率の大人たちも首を傾げている。「クイズにすれば、酪農に興味をもってくれるきっかけになります」と人見館長。

 体験館を開館し、子供たちから与えられることもほんとうに多いそうだ。「養護学校の子供たちを受入れましたが、重度のハンディを持つ子供たちは私の言葉をなかなか理解できませんでした。しかし、子牛への授乳体験の時、言葉にできない喜びを体いっぱいに表現している姿に涙が止まりませんでした」この体験館を開館してほんとうに良かったと再認識したそうだ。

 開館してから1年半弱、来館者は既に延べ4000名を超え、人気はますます高まっている。

 体験を終え、帰路に着く笑顔の子供たち、きっと館長の思いが伝わったにちがいない。



本記事は、畜産コンサルタント2000年9月号にも掲載されています。
※情報は掲載当時のものです。