処理・加工・販売の夢を実現
―東京都町田市・(農)東京みるく工房ピュア―


 「自分で生産した牛乳を直接消費者に販売して飲んでもらいたい。そして地域にある身近な存在の酪農を知ってもらいたい」と夢を語られる酪農家は少なくない。特に都市近郊の酪農家は周囲を住宅地に囲まれ、規模拡大もままならないなかで、悪臭や害虫の発生等の環境問題が起きないように努め、また地域住民との交流を図り、畜産への理解を深めてもらう努力が必要となる。そこで、東京都町田市の酪農家が取組む牛乳の加工販売活動とそのこだわりの加工品を紹介する。

 町田市は東京都の西南に位置し、都心までは電車でおよそ1時間、人口は約36万人の都心に勤めるサラリーマンのベッドタウンとしても知られる。そんな町田市相原町の東京家政学院大学バス停前にあるログハウスづくりの建物が「あいす工房ラッテ」と「みるく工房ピュア」だ。周囲には季節の花が植えられ、女子大生や近所の方々の憩いのスポットとなっている。

 さっそく、あいす工房ラッテとみるく工房ピュアの設立について話をうかがうと「ラッテの設立は平成6年7月で、ピュアは平成10年11月です。ピュアの本格稼動は職員の研修等もありましたから実質1年後です」と代表理事の北島一夫さん。搾りたてのおいしい牛乳を地域の消費者に飲んでもらいたい、自分たちがつくった牛乳の価値を認めてもらいたいという思いがきっかけだった。「牛乳販売事業の検討を重ねるうちに衛生管理等さまざまな規制や課題が数多く存在し、実現化することは容易ではないことがわかりました。そこで比較的取組みやすいアイスクリームの加工販売をはじめることにしました」とのことで、昔からこの地区で酪農を営む3戸が共同で、農事組合法人町田あいす工房「ラッテ」を設立し、東京都と町田市からの補助金を得て、新鮮な牛乳を使ったアイスクリームの加工販売に取組むこととなった。

 結果はオープン以来、順調な売行きで、今では町田市の地域の特産物となっている。3戸で搾った100%の生乳を原料とし、季節によって梅、桜、ヨモギ、ソバなどの変わり種があるが、一番人気は酪農家ならではの「搾りたてミルク」という。最近は口コミで遠くから食べにくるお客さんも多く、休日には約2000人が訪れる。

 そして、アイスクリームの加工販売が軌道に乗りはじめたことで、当初の夢「地元産牛乳の販売」への気運が高まった。衛生管理をはじめとするいくつかの規制が緩和されたのを機に「ラッテ」に参画する酪農家3戸に市内の酪農家2戸が加わり、平成10年6月に設立準備会を発足させ、11月に農事組合法人「東京みるく工房ピュア」が設立された。

 ミルクプラントの建設にあたっては、東京都と町田市から補助金も得て総工費約2億円を投じ、原乳処理量800L/日のHACCP対応型の最新プラントを完成させた。

 労働力は工場長を含め職員が3名とパート3名の6名体制で、牛乳とのむヨーグルトを生産している。「稼動にあたっては、工場長がプラント会社に技術研修にいきましたし、受乳検査のノウハウは、乳業メーカーのOBの方々から直接ご指導いただきました」と多くの方々のご支援に感謝される北島代表理事。

 牛乳加工は、牛乳本来の風味を生かすために弱均質化を行い、保持加熱殺菌(LTLT法)により62〜65℃で30分間殺菌を行う。大手乳業メーカーの多くが120℃以上で処理されているなか、ピュアが採用している保持加熱殺菌は、栄養価値の損失が少なく、加熱臭の発生が少ない飲みやすい牛乳だ。そしてビンのリサイクルが可能な2種類の(900mL、200mL)SET軽量ガラスビンに詰め販売している。「環境に配慮し、ガラスビンを導入しましたが、かわいいデザインのビンのためか、なかなか回収できず、いかに回収率を高めるかが今後の課題です」と思わぬ苦労の様子。

 のむヨーグルトは甘さを抑え、牛乳本来の味を生かし飲みやすく仕上げている。「善玉菌のビフィズス菌とアシドフィルス菌を含有していますから、健康志向の消費者にはもってこいの飲み物です」と自信の商品をPR。プラスチックボトル(500mL、150mL)の2種類に詰めて販売している。

 平成11年12月から、プラントの本格稼動が開始され、ラッテ店頭のほか、近郊スーパーや農協でも販売を行っている。

 そして、牧場と家庭を結ぶ定期便ともいえる念願の宅配にも取組みはじめた。宅配は、町田市内および八王子市南部、相模原市北部に限定し、4名のパートを採用し配送にあたっている。「宅配の売上は現在、全体の3分の1程度です。今後の活動の中心はいかに宅配による固定客を獲得できるかです」といわれるようにパンフレットを作成し、定期購入顧客の確保に力を入れている。

 生産者と消費者の距離が近い分だけ、何かができるチャンスがある。そんな発想のもとに、生産物を処理・加工し販売するという夢を実現させたのが「ラッテ」であり「ピュア」の設立だ。

 東京の酪農を守り育てていくために取組む東京みるく工房ピュア。活動ははじまったばかりだ。



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本記事は、畜産コンサルタント2000年5月号にも掲載されています。
※情報は掲載当時のものです。