これぞ地鶏!
歯ごたえと旨みに自信あり

―茨城県・奥久慈しゃも生産組合―


 畜産における企業経営といえば、まずブロイラー経営が頭に浮かぶ。大規模経営による大量生産・大量出荷。しかしこのところ、食品に対する消費者ニーズは多様化しており、安くて大衆的なブロイラー鶏肉から美味しくて、安全でヘルシーなものを求める傾向が強まっている。そしてここ数年の間に、いわゆる銘柄鶏肉の作出も相次ぎ全国各地で100銘柄を超え、出荷量は3倍に拡大する勢いで広がりつつある。

 そこで、昔から地元で珍重されてきたしゃもをベースに、県養鶏試験場とタイアップして昭和60年から地鶏の生産を開始した茨城県の奥久慈しゃも生産組合の活動を紹介する。

 JR水郡線常陸大子駅を降りると、駅舎の中にコンビニがあり、店内に名物「奥久慈しゃも弁当」の注文受付けの看板がある。注文しておくと電車の時間に合わせて届けてくれるそうで、この名物弁当は駅前の旅館で作られている。

 さて、山のとり「奥久慈しゃも」生産組合(組合長中島光一氏)のある茨城県北地方は、厳しい自然条件のため過疎化が進む中山間地。この地域の農業は非常に厳しく離農が相次ぎ、農家所得拡大と農業振興が必要だったことから、傾斜のきつい、農地面積の小さい所に向き、高齢者にもできる付加価値の高い畜産ができないものかと考えたのが組合設立の始まりだそうだ。「昭和50年代後半、当時ブロイラーの速い成育性としゃもの良質肉の両特性を併せ持つ新種鶏の生産を狙いとして交配を試みましたが、闘争性の強いしゃもにブロイラーが負け、失敗でした」「そこで、県養鶏試験場にしゃも肉の特性を持った地鶏の生産について協力を依頼し、試験場の協力と指導により奥久慈しゃもの生産が可能になったわけです」と設立の経緯を語られる中島組合長。

 久慈郡大子町と水府村、そして那珂郡山方村の15戸、17名の組合員が平成11年現在、奥久慈しゃもの飼育を行っているが、生産開始直後は「奥久慈しゃも」は全く無名で、売り先が見つからず、組合員が飛び込みで料理店や精肉店を営業して歩いたそうだ。そして、料理店以外には生産の約半分を大手商社とも取引をし、63年に大阪で開かれた「全国特殊鶏肉(地鶏)味品評会」に、商社から「山のとり・奥久慈しゃも」が出品され一位の評価を得た。しかしその後、商社との取引では、卸価格や年間取引量の規定など条件が厳しく、間もなく中止することとなり、再び個々の料理店等に営業活動を開始した。

 「店に2羽のサンプルを提供し、まず味を試してもらい、気に入ったら注文していただくことにしましたが、肉質や味の良さから各店で反応が良く、卸価格は引下げなくても多くの店で扱ってくれました」と当時の苦労を振り返る組合長。

ところで、奥久慈しゃもの生産方式。まず県養鶏試験場から生産組合が種鶏の雛の供給を受け、組合の養鶏場で飼育し、その種鶏と改良しゃもを交配し、供給モト雛用に採卵する。次に孵化は外部に委託し、孵化後に約500羽のモト雛を農家に供給している。農家はそれぞれ15坪の鶏舎を2〜7棟持ち、鶏舎のまわりに運動場を設けて自由に出入りができる飼育をしている。出荷は雄120日齢、雌150日齢とのことでかなり長い飼育期間だ。鶏群の更新は鶏舎ごとにオールイン・オールアウト方式で空舎期間に清掃・消毒を徹底している。

 さて、次に販売。食肉処理は福島県本宮町にある処理場に委託し、串焼用、骨つきブツ切り、中抜き1羽などパック詰め後急速冷凍を行い保冷車で組合冷凍庫まで輸送する。「生鶏肉を希望する店も多いので、事前に処理日をお知らせして注文を受け、処理場から直送しています」と、このサービスが最も大切だと言う。出荷実績は、10年度3万3000羽、平成11年度は3万4000羽を見込んでいる。

 茨城県養鶏試験場育種部長の御幡壽さんに「奥久慈しゃも」開発の経過をうかがった。「鶏肉と言えば、昔はブロイラーの肉でしたが、昭和50年代になると、肉は歯ごたえがなく、水っぽいとの声をよく耳にするようになりました。そこで当試験場では、一味違った特殊肉用鶏の開発に取組んだわけです」「素材鶏としては、本県で古くから各地で飼育されていたしゃもをベースに置きました。『しゃも肉は優良なること天下一品』と言われ、昔から珍重されてきましたから。交配様式は、味を失わず闘争性をなくしたしゃもを父方に、産肉性の優れた名古屋種(♂)と繁殖性に優れたロードアイランド種(♀)を母方に三元交雑種です」と、特に闘争性をなくすのには苦労された様子。そして、当試験場で特殊肉用鶏の開発途中に、県北の大子町でも地域を活かした何か新しい特産品をと考えていた。まさに双方の狙いが一致し、山間地にふさわしい「山のとり・奥久慈しゃも」が誕生した。

 生産組合の事務所は直販所を兼ねて国道118号線沿いに平成9年に完成。組合では、農家の指導・モト雛の供給・肥育鶏の集荷や鶏肉の販売業務のすべてを行っている。組合の取引先は料理店117、精肉店33、その他個人客である。特に盆・暮に向け顧客ダイレクトメールを欠かさずに送り、また宅配便の中にはレシピを同封し需要拡大の努力をしている。

 しゃも料理法の開発はそれぞれの料理店が行っており、特産「山のとり・奥久慈しゃも」のPRの役割も担っている。また、県の「うまいもんどころ」銘柄肉の鶏肉部門に指定され、広報誌「フォト・いばらき」その他新聞・雑誌に載るなどパブリシティの効果を発揮し知名度が上がりつつある。

 生産組合としては今後五万羽出荷の目標を立て、飼育羽数の拡大に取組んでいる。「課題は更なる美味しさと質の良い『奥久慈しゃも』の追求と共に、多くの方々に食べていただくことと取扱い店の開拓です」と組合長は意欲的に話された。

 山のとり「奥久慈しゃも」の生産販売方式は中山間地農業振興の一つの道と言えよう。



本記事は、畜産コンサルタント1999年11月号にも掲載されています。
※情報は掲載当時のものです。