三人姉妹が手作り乳製品をお届けします
―埼玉県日高市・(有)加藤牧場―


 消費者が求める食品の安全性と美味しさに応えるように、畜産物を自分で加工し販売を行う牧場が、このところ各地に生まれている。

 手作り販売の良さは、大手メーカーの量販品では真似のできない工夫を凝らし、時間をかけ、自分が納得できる商品を消費者に提供できるところにある。しかし、自信の商品はできたが、なかなかPRがうまくできず消費者に受け入れられないといった経営も多いようだ。

 また、なかには販売が盛況で雇用を入れて販売部門を拡大したが、生産がおろそかになり品質が落ちて、売れ行きが急激に落ち込んだといった声も耳にする。

 そこで、生乳生産を基盤に据え、家族労働力を主体に「自分で行動し努力すること」をモットーに新鮮な乳製品を消費者に提供する酪農経営を紹介する。

 埼玉県を東西に走るJR川越線の最終駅で、南北に走るJR八高線に接続する高麗川駅。駅から車でおよそ10分のところに今回紹介する級チ藤牧場がある。昭和44年に宅地化が進む所沢市から、現在地である埼玉県日高市に移転されたそうだが、武蔵野の面影を残す丘陵地帯で自然に恵まれ、牧場の近隣には茶畑が延々と続く。

 さて、級チ藤牧場の経営の概要は、平成4年に繋ぎ飼いからフリーストール・ミルキングパーラー方式に変更し、県下でも最大規模の経産牛頭数120頭に規模拡大をはかるとともに有限会社への法人化をはかった。「ずっと酪農を続けてきましたが、自分で搾ったほんとうに美味しい牛乳を消費者に提供したい。つまり自分の手で直接販売したいと考えていました。そのためにはお客さんにもみていただく牧場ということで、繋ぎではどうしても汚れがちですからフリーストールを導入したわけです」と牧場主で代表の加藤忠司さん。ちなみに加藤牧場は日高市の認定農業者第1号。

 平成7年7月に販売の夢は実現し、所沢市に自家製アイスクリームの直売店「バフィー」をオープンした。そしてこのオープンに先がけ、さすがにこだわりと行動の忠司さん、アメリカから10頭のブラウンスイスの導入をはかった。「独自のアイスクリームやドリンクヨーグルトを作るには乳質の優れたものをと思ったわけです。おかげで今ではホルスタインでも乳脂率4.0%以上、無脂固形分率8.88%以上の牛群を揃えることができています。ブラウンスイスは今では牧場のイメージアップといったところです」と話されるように家畜改良の点でも全国でトップクラスの成績をおさめている。

 ところでこの店名のバフィーとはイタリア語でヒゲを表し、忠司さんのトレードマークのひげにちなんで命名されている。「直売店バフィーも当初は私と妻の2人でやる予定でしたが、長女が手伝ってくれるということで店長をまかせました」と忠司さんの顔もほころぶ。法人化の際に長女の恵美子さんが出資者の1人となったが、これで名実ともに事業に参画してくれたわけである。奥さんと恵美子さんは商売はもちろん初めてで、安全でおいしいアイスクリームやヨーグルトを作るため、神戸の先進牧場に足を運び、製造技術や販売のノウハウを研修されたそうだ。

 そして平成9年、国庫補助と県の事業により、牧場敷地内に新たに牛乳・乳製品製造工場、直売所「フォルザ」をオープンした。現在、工場長を務めるのはOLから転身された次女の真弓さん。「会社では決められた仕事をこなせば良かったのですが、ここでは何でも自分が先頭にたって考えてやらなければいけません。力仕事も多いので大変です。でも、お客様の声が直接聞けますし、生き甲斐を持ち楽しく仕事ができます。もちろん結婚してもこの仕事を続けたいです」とアイスクリーム、ヨーグルトそして最近は独自のチーズ作りにも取組み、新しい味の開発に余念のない真弓さん。

 現在、直売所で販売されている商品のメニューは、ノンホモ牛乳にドリンクヨーグルト(900mL瓶詰め)、アイスクリームは人気のミルクにゴマ、この地域の特産品の抹茶等季節に応じて常時20種類程を用意している。

 工場名のフォルザは、力を意味するイタリア語で、牧場で働くみんなの力を結集して運営しようという考えからつけられたそうだが、昨年の4月からは3女のこづえさんも法人の経理と直売店での販売を担当するようになり、まさに加工・販売は三姉妹が中心となって運営している。

 ところで、法人の労働力は社員が9名、パートが11名の合計20名で全部門を賄うが、このうち基本となる酪農部門は、忠司さんと奥さん、そして農業大学校を卒業後アメリカで牧場研修を終え、現在は取締役でもある甥の寺田さん(牧場管理責任者)、そしてもう一人の社員の4名が担当している。

 つまり、4名の労働力と経産牛120頭が生み出す生乳を元にして、加工へは年間生産量のおよそ10%が向けられるそうだが、これが16名の新しい仕事を生みだし、更なる付加価値が加えられるわけである。

 あくまでも生産を基礎として、加工・販売を行う畜産経営、忠司さんが最後に語られた言葉がとても頼もしく感じられた。「農業は付加価値を限りなく拡大できる産業です」



本記事は、畜産コンサルタント1999年6月号にも掲載されています。
※情報は掲載当時のものです。