生産技術セミナー

フリーストール酪農の現場から(最終回)

原 田 英 雄

 

 

 フリーストールのある酪農家が次のようなことを言っていました。「繋ぎ飼いで牛を飼っている連中は、フリーストールだと餌の無駄がないところがけなるいだよ。(愛知県三河地方の方言で、うらやましいの意)」と。この酪農家は乾乳牛も泌乳牛も同一牛房で飼育し、飼料は乾草と委託のTMRだけを与えています。飼料がなくなったところで、それぞれ追加するという方式です。乳量水準は約8,000kg、与えた飼料がすべて牛の口の中へ入り、無駄がないことで彼はとても満足しています。
 フリーストールでは飼槽壁があるので、飼料を牛の腹の下へ敷くという無駄はおきません。無駄になるものは牛による放り投げと食べ残しです。摂取した飼料は乳となるか血や肉になるかあるいは消化されずふんや尿になるかいずれかです。
 ある酪農婦人の集まりで、筆者はこう呼びかけたことがあります。「飼料を1日1,000円節約してハワイヘ行こう」と。今の時代なら36万円あれば、夫婦揃ってハワイヘ行くことができます。1日1,000円というのは乳牛1日1頭分の飼料代です。100頭規模の酪農経営ならば、フリーストールであろうとなかろうと餌の与え方によって2〜3頭分の飼料の無駄がでます。この無駄をどうなくすかは、飼料給与のポイントです。そこで、いつ訪れても残飼の無駄がなく、飼料を合理的に摂取させている酪農家をここで紹介します。乳量水準は約1万kgです。


33.1万kgの乳量水準は特殊か

 愛知県の中央部に作手村というところがあります。ここに森富雄さん夫妻が経営する有限会社大東牧場があります。経営内容については既に平成9年度全国酪農青年婦人会議酪農経営発表大会で紹介されていますので、その要点だけをフリーストール酪農という観点からみてみたいと思います。


-19 大東牧場における牛群検定成績の推移

 フリーストール・アブレストミルキングパーラー方式にしたのは1994年12月です。それ以前は、50頭のタイストール方式でした。1992年以降の乳量水準の推移は表−19のとおりです。表で見られるようにフリーストールに移行してからは、乳量が大幅に増加し、乳量水準は1万kg台になりました。この増加は、明らかにフリーストールによる飼育管理の効果と言えます。飼料については以前からTMRを利用していたので、その影響は少ないものと思われます。県内でもフリーストールに移行して乳量の大幅アップした農家はしばしばありますが、1万kgを超した酪農家は多くはありません。そこで、この牧場の成功の秘訣をみながら、実際の乳牛の飼養管理をみてみたいと思います。


34.成功のポイント

 酪農は「トータル技術」であるとよく言われます。大東牧場について言えば次の8点が指摘できます。

(1) 牛に優しい取扱い
 森さんが牛好きであることはもちろんですが、80頭近くの乳牛を家族同様に取扱い、牛が極めて人間に慣れており、ゆったりしているところは他の酪農家とまったく違うところです。アブレスト・パーラーは、搾乳作業が極めてスムーズです。鞭をもって、牛をパーラーへ追い込む酪農家とは大きく違います。

(2) 過密でない群飼育
 乳牛舎の概略図を図−17に示しました。搾乳牛群と乾乳牛群の2群管理ですが、それぞれのストール数、スタンチョン数及び乳牛頭数はほぼ一致します。すなわち、過密によるストレスがないことです。水槽の数も1群に3カ所と適切です。


-17 大東牧場の乳牛舎の概略図

(3) 牛群検定の実施
 牛群検定を活用することによって、乳量水準の持続的向上、繁殖成績すなわち分娩間隔の適正化(400日以内)や種付け回数が1.8回と好成績を得ていることです。人工授精は自ら行っています。

(4) 無駄のない飼料給与
 無駄のない飼料給与というのは少し語弊があるかもしれませんが、残飼をみながら給与量を決定しています。多くの酪農家は一度
TMRの配合割合を決定すると1年も2年も変更しません。それは、日々の作業工程が狂うからです。しかし、先ほど述べたように残飼は堆肥の量を増加させるだけ、年間の損失金額は膨大なものとなります。なかには24時間飼槽に飼料がなければ、乳牛は十分な栄養を摂取できないと言う指導者がいますが、十分牛が摂取することと残飼が有り余ることとは違います。残飼は少ないほどよいのです。

(5) 動物リズムを壊さない搾乳と飼料給与
 森さんは朝・夕の搾乳時刻と飼料給与時刻を特別のことがないかぎり変えません。変更することは牛の生体リズムとルーメンのリズムが狂うためです。また、自らの労働時間は8時間と決めています。8時間以内に作業が終わるように工夫し、だらだら働くことの無駄を指摘しています。

(6) 正しい技術は積極的に採り入れる
 一時、蹄病に悩まされていました。消毒薬を入れたフットバスの設置が効果があることを聞くやいなや、すぐにそれを実施しました。その後、肢蹄病は著しく減少しました。科学的に根拠のある技術は積極的に採り入れるべきだとしています。

(7) 無理のない規模(頭数)
 多くの酪農家は、フリーストール牛舎を建築すると、1年もたたないうちに頭数を10%あるいは20%と増加させます。しかし、森さんは今の頭数でいいと言っています。労力的にも時間的にも今の規模が一番合っているからだと。身の丈を考えた酪農です。

(8) 夢をもつ
 今、グリーンツーリズムに取り組んでいます。都会の人たちに酪農の生の姿を見てもらいたいからです。「ミルク工房」でのバターやチーズつくり、乳牛のオーナー制など。


35.パーラーが群を決定する

 パーラーには種々のものがあり、ヘリングボーン型とアブレスト型が県内では一般的です。70〜80頭までの規模ならば、安価な点で後者が有利です。しかし、それ以上の場合は前者の方が投資が多くても搾乳作業が効率的であるので有利です。パーラーの決定は今後どういう経営をしたいかによって決定されます。規模を100頭にしたいのか、200頭にしたいのか、それとももっと多いのか。また、労力はどうするのか、家族労力でやるのか、雇用者によるのか、これらの条件によっても決定は異なります。しかし、次のことは決定のために、極めて重要な事実です。

(1) パーラー内の作業時間は長くて2時間
 パーラー内で搾乳している人に色々と尋ねると2時間が限度だと言います。それ以上は疲れる、あきがくる、嫌になるということです。1.5時間が程良い時間です。

(2) パーラー搾乳では1回転は15分
 ヘリングボーン型では、4頭複列であろうと12頭複列であろうと1回転すなわち8頭あるいは24頭搾乳するのに必要とする搾乳時間は15分です。96頭を搾乳するのには4頭複列パーラーでは3時間、12頭複列パーラーでは1時間ということです。すなわち、次の式が成り立ちます。
 搾乳時間(分)=乳牛頭数÷ミルカー数×15

(3) ホールディングエリアの面積はミルカー #1N台数によって決定する
 乳牛をホールデイングエリアに待機させる時間は搾乳回数によって決定されます。2回搾乳ならば60分、3回搾乳ならば45分です。これ以上乳牛をコンクリートの上に立たせておくことは、乳牛に過剰なストレスをもたらします。1頭当たりの必要なホールデイングエリアは1.4m2です。4頭複列ならば45m2、12頭複列ならば135m2となります。

(4) 群の規模はミルカー台数によって決定
 一つの牛房内の乳牛を分けてホールデイングエリアに誘導することはありません。効率的でないからです。それでは何によって決定するか。それはミルカー台数です。12頭複列あれば、群は24頭の倍数となり、(3)の理由で最高96頭となります。97頭は極めて非効率的です。15分余分に搾乳時間がふえるからです。

(5) パーラー内の作業は1人が原則
 愛知県内の多くの酪農家はパーラー内で二人作業が一般的です。しかし、15頭複列までは1人で搾乳作業ができます。パーラーの入口に鞭を置き、1人がそれでもって牛の尻を叩きながら導入し、他の1人が乳房の洗浄にとりかかるのは明らかに1頭当たりの乳量を2kg減少させます。牛との良い関係ができれば、自然に牛はパーラーに入っていきます。4頭ごとに前搾り、デッピング、ミルカーの装着をリズミカルに行えば、1回転につき1人30頭まで十分に対応できます。牛自身複数の人に触れられるよりも特定のひとに触れる方がストレスが少ないことです。

(6) 群内の頭数は最大何頭か
 1群の頭数は70頭までが、最も安定すると言われます。多くても100頭程度です。70頭を超えると群は2群に分離すると言われます。そして、牛自身が他の牛の認識ができなくなるとも言われます。搾乳牛が100頭までならば1群、それを超えたら2群に分けるのが(高泌乳牛群と低泌乳牛群)実際的です。


36.「あるべき乳量水準」を知る

 飼料内容を現実に生産されている乳量に基づいて設計するのは誤りです。その牛群の中には病気のために乳量の少ないものもいれば、分娩直後のために乳量の少ないものもいるからです。本来の健康な牛群構成では必ず生産されていてもよいという「あるべき乳量」というものがあります。それは、産次、生産月、泌乳期を区分した健康な乳牛から生産される乳量の標準値によって求めることができます。健康な牛では乳量は産次の増加に伴い上昇し、季節や泌乳期によって一定の規則で変化します。そのような変化を、それぞれの条件によって区分した乳量を標準値として、表−20に示しました。これは大東牧場における最近2年間の健康な牛の乳量を牛群検定成績を基に作成したものです。したがって、これは同牧場に固有なものです。実際に応用してみます。現在を3月とします。すなわち、生産月が3月ということです。初産牛で分娩後7ヵ月の牛は事故なく、健康であれば27.5kgです。同様に5産の牛で分娩後1ヵ月の牛は39.9kgです。このようにして個々の乳量を合計すれば、その牛群の「あるべき乳量」が求められます。また、このようにして、翌月、翌々月の出荷乳量をも推定できます。このような基準値をそれぞれの農家で作成することを推奨します。


-20 産次、生産月、泌乳月を区分した乳量の標準値(kg/日)

 


37.給与飼料の実際

 表−21に大東牧場のある月における実際の飼料内容と上述の「あるべき乳量」を基に栄養計算を行った数値を載せました。「あるべき乳量」は表−20を用いると約33kgとなりますが、実際には30kgでした。やはり牛群の中には健康でないもの(ケトージスや乳房炎などの病気から元に回復できなかったもの)が入っていたためです。


-21 泌乳牛群の1頭当たりのTMR内容(乳量33.0kg、乳脂率4.1%、体重650kg

(1) 栄養診断の前に
 表−23にはネブラスカ大学の栄養ガイドラインを示しましたが、これを参考に診断したいと思います。まず、頭をきちんと整理しておかなければならないことがあります。それは、大東牧場のように乳量水準1万kgの乳牛のための最適な飼料がないことです。1万kgの乳牛を想定すると、最高泌乳量は50kg/日となりますが(最高乳量の200倍が1乳期の乳量)、乳牛がその栄養要求を満たすことはできません。特に乾物が摂取できないためです栄養濃度を高くすれば、障害が出ます。例え牛が栄養要求を満たさなくても神経質になる必要はありません。

(2) 粗飼料分析は必ず行うこと
 出荷乳量が1,000kgを超すような酪農家は、粗飼料の良し悪しによって、バルククーラー内の乳量が大きく変動します。特に粗飼料の品が変わった時に。濃厚飼料では栄養成分の変動は少ないのですが、粗飼料では品による変動が大きいので、その影響を直接受けることになります。必ず分析を行わなければなりません。特に繊維
(ADFNDF)、粗蛋白質は必要です。飼料の中の50%は粗飼料が占めているからです。
 高泌乳牛群では
TMR中のエネルギー濃度が高くなければならないので、それと反比例する繊維の含量はより高い精度が求められます。
 なお、表−21の栄養計算は飼料成分表に基づいたものであることを断っておきます。ここでは、この数値が正しいものとして見ていきます。

(3) 泌乳牛は栄養濃度からチェック
 1頭当たりの平均乳量が30kgを超えるものであれば、エネルギーとして少なくとも
TDN含量が72%を超える必要があります。
 
CP(粗蛋白質)は17%が妥当です。そして、その中にはルーメン内で分解されないCPが35%程度必要です。CPが16%を下回ると飼料摂取や乳量が低下し、18%を超えると飼料摂取量と乳量は増加しますが、繁殖成績が低下します。
 繊維としての指標
ADF は19%以上、NDFは粕類が少なければ28%以上は必要です。それぞれこの水準を下回ると乳脂率の低下やルーメンアシドーシス等を乳牛にもたらします。
 表−21の数値はいずれも決して悪い数値ではありません。なぜなら、この配合割合で2年間乳量の確実な増加、良好な繁殖成績を維持してきたからです。もし、悪ければこうした成績は得られなかったはずです。しかし、人によっては、表の値が日本飼養標準(1994年)や
NRC(1989年)の基準値から外れており、おかしいと疑うかもしれません。しかし、それは基準値そのものが目安であることを忘れているからです。今の状態ならば、表−21の配合割合が最適であるかもしれません。ただし、配合割合を変更して、さらに良い成績を得ることができるかもしれません。それは、経営者みずから判断し、実験を試みるより他ありません。
 
NRCなどの指標値に合わせようと濃厚飼料の配合割合を高めれば、確実にエネルギー濃度が高まり、TDN濃度は75%以上になります。その場合、一時的には乳量が高まるかもしれませんが、やがては繊維が少なくなり、乳脂率の低下、ルーメンアシドーシスが起こり、乳量の低下や繁殖成績の低下を引き起こすかもしれません。
 大切なことは、自分で最高だと判断できる配合割合に挑戦し、試行錯誤するより他ありません。そして、変更したときの記録を整理しておくべきです。1万kg水準の給与方法がないからです。

(4) 乾乳牛の飼料給与
 大東牧場の乾乳牛の飼料内容を表−22に示しました。


-22 乾乳牛群の1頭当たりの飼料内容

 表−23は最近アメリカで実践されている乾乳牛の新しい飼料給与法です。乾乳期を前期(分娩前8〜4週まで)と後期(クローズアップ期とも言い、分娩前3週〜分娩日)に分ける方法です。特に重要なのは後期にエネルギーと蛋白質の質と量を高める点です。なぜなら、分娩前3週間は牛の体内の胎児は急激に発育するからです。それに応じた栄養を与えないと、母体の栄養を胎児が吸収し、分娩後の母体に悪影響を及ぼすからです。従来はこの必要はないとされていました。また、イオンバランス(飼料中の陰イオンと陽イオン)を考慮しないと、分娩後に乳熱等の障害をもたらすとされます。すなわち、分娩前にイオンバランスが負になければならないことです。我が国ではこの研究は行われていませんが、今後の大きな研究課題です。


-23 ネブラスカ大学の乾乳牛のための栄養ガイドライン

 大東牧場では表−22に見られるように乾乳牛用の飼料を用いていますが、乾乳期を2期には分けていません。この方法が分娩後にどういう影響をおよぼすか、今のところわかりません。ちなみに、愛知県では乾乳期を2期に分けて管理している酪農家は極めて少ないのが実情です。

(5) 利益をチェックすべきだ
 飼料給与の配慮も重要ですが、利益についても同時に配慮しなければなりません。少なくとも乾物1kgの単価が現在いくらであるか、周囲よりも高いのかどうか、また、以前に比べてどうなのかチェックしていなければなりません。高ければ、安価な飼料に置き換える必要があり、安価に入手する工夫が必要です。酪農の収益は乳代から飼料代を差し引いたものです。1頭当たりの利益は毎日知っておく必要があります。この意識が確実に、次に何をしたらよいか、目標につながるからです。


お わ り に

 7回にわたって筆者がこれまで見てきて、考えてきたフリーストール酪農を述べさせていただきました。この中には誤っていることも数多くあるかもしれません。また、書き足りなかった点も多くあります。それは、別の機会に譲りたいと思います。
 エピソードをところどころに取り入れるようにしました。それはリラックスして読んでもらいたかったからです。また、この中には筆者がいつも気にかけていること、それは農民だけでなく、多くの技術者や研究者にも当てはまることですが、日本人の「自立性」のなさです。
 酪農は「フリーストール」だけではないと思います。技術はアメリカのものだけではないと思います。それぞれの経営に見合ったやり方があります。高度経済成長は日本農業に近代化をもたらしました。しかし、それは下半身だけです。上半身は依然として、前近代的だと思います。酪農は3頭でも成り立ちます。100頭でも倒産しました。身の丈に合ったやりかたというものがあります。最近、読んだ本で、内橋克人さんの書かれた「共生の大地  新しい経済が始まる」(岩波新書)というものがあります。先行きの暗い時代ですが、元気が出ててくる本です。農業に第3の道があるかということです。
 この執筆にあたって、北大での「フリーストールにおける乳牛の行動に関する研修」で
数々のご指導をいただいた同大学農学部近藤誠司先生に厚くお礼申し上げます。また、多くの知見をいただいたペンシルベニア大学の
McFarland博士とパージュエ大学のA1bright博士に感謝いたします。



(著者:愛知県農業総合試験場企画情報部主任研究員)


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