経営技術セミナー

最近の食肉消費・流通をめぐる動き

鈴 木 忠 敏



 食料としての役割は、「栄養になること、体に害のないヘルシーで安全なもの、そして新鮮なものが求められており、さらに“豊かな食生活”そのために“本物のおいしさ”」が求められています。
 ここ数年、畜産業界を取り巻く環境は、狂牛病、O−157、口蹄疫と散々なことが多かった。一方、生活協同組合やスーパーマーケットの中には、日頃のクレンリネス(バックヤード、冷蔵庫、オープンケース、スライサー、チョッパー、服装、長靴、まな板などを常に清潔にしておくこと)や、仕入れ商材の鮮度・品質管理の基本を確実に実行し、消費者に対して食肉センターの安全性や産地、生産者の顔を明確にした店舗では、この事件が逆に追い風となって客数が大幅に増加したという事実もあります。
 さらに、オーガニック(有機)のマーケットも大きく広がっており、無農薬・無化学肥料で栽培した飼料や
PHF(収穫後の消毒・殺菌などをしない)飼料の使用、成長ホルモン・抗生物質フリー、家畜の動物福祉にかなった飼い方、自然環境や資源にダメージを与えない飼育法などが商品差別化のポイントとなっております。


1.消費者が小売業に求めるもの

 まず消費者が小売業全般に求めるものは、@安さへの訴求、A安全性の訴求、そしてB新鮮さの訴求の3点です。
@ 安さの訴求=消費者が安く感じる売り方、価格感度の高い商品、購買頻度の高い商品での価格訴求に心がけることになります。

A 安全性の訴求=消費者は、原料そのものの安全性を求めており、原料表示も国産牛、国産豚などの表示から、○○産牛肉、○○さんが育てた牛などと具体的な産地名、生産者名で顔を知りたがっていますから、出来るだけ商品に責任を持つ生産地、生産者名を分かりやすく表示し差別化を図っています。

B 新鮮さへの訴求=消費者は消費期限と販売期限に敏感であり、缶詰(製造後半年位からがおいしい)においても製造年月日の新しい物を求めます。一般にショーケースの手前より奥の方から商品を取り出す癖があります。
 また、需要の変化に対応したアイテム数、売れ残りが出ない仕入数量、無理のない売り上げ目標と完売適量。それが日頃の管理とあいまって新鮮さ=“おいしさ”につながりますので、消費期限の徹底チェックが求められています。


2.量販店の食肉別販売戦略

 最近の量販店を中心とした食肉別の商品構成、用途など、食肉の販売戦略についてご紹介しましょう。
(1) “牛肉の質の向上”は高級和牛の強化ではない

 O−157事件を一つのきっかけとして、国産牛肉への安心感、信頼感から、牛肉消費は安全な国産牛肉へシフトしました。販売戦略は個々の経営により和牛強化、あるいは輸入牛強化、地域においてはホルスの強化などと、各スーパーごとにグレードや品種での強化を実施しています。
 一般的な誤解ですが、牛肉においての高品質の訴求とは高級和牛の強化ではありません。牛肉の販売においても最も大切なことは、出店店舗の地域に合った牛の品種と部位の料理方法に適した販売戦略の確立といわれております。
 牛肉料理のメニューとしては、大別して@すき焼き、A焼き肉、Bステーキ、Cしゃぶしゃぶ、Dその他としてカレー、シチューなどの煮物、以上の5つが代表的なものです。それぞれの料理メニューの内容に応じて、牛肉をおいしく食べるための方法や消費者が要求する内容を事前に考えるという提案の時代になっております。
 @ すき焼き=日本が生んだ伝統的なごちそう料理であり、牛肉で野菜や豆腐に味をつける料理。従って味の良い霜降り和牛こそ、おいしいすき焼きをつくりだします。
 そして、すき焼きをおいしく食べるために、白滝やコンニャクは後から入れる注意をします。

 A 焼き肉=韓国の代表的料理で、おいしさの秘けつは安価な牛肉をたれで味漬けし、腹いっぱい食べさせることです。特に育ち盛りの子供や、若者がいる家庭の主婦にとって、限りのある家計費の予算の中で腹いっぱい焼き肉を食べさせる点で魅力的な商品です。これには、安価な輸入牛のバラ、肩バラ系のアイテムの強化で対応するものです。 これに、おいしい店独自のたれがあるとベストです。

 B ステーキ=米国の代表的な牛肉料理で、硬くてワラジほどの大きさと表現されるものを好んで食べますが、日本では柔らかいことが第一条件であり、基本的には肩切り落とし肉を基本とします。
ジューシーさと柔らかさの点では、もちろん和牛ですが、価格的に1枚で2,000円くらいもするステーキでは、一般家庭での調理では失敗が許されませんし、この価格では恐らくめったに食べられないでしょう。
 柔らかく、しかも価格が安いものとなると、やはり輸入牛肉の強化が必須条件となります。

 C しゃぶしゃぶ=和牛、ホルス、輸入牛のどれでも。消費者の選択・好みに合った肉種の販売となります。料理方法は薄切り肉をサッと湯通しして、タレを漬けて食べますから、ホルスの赤身肉の超薄切り肉でも十分に適しています。

 逆に霜降り肉だと湯通しするとうまみのある脂肪分が熱で分解してしまいます。消費者の価格・品種選択に合わせるために、このしゃぶしゃぶ用はできるだけ商品アイテム数を多くしています。

 D カレー、シチュー=煮込み用は、調理2N時間が比較的長いので柔らかい肉よりも硬めの肉質で、味の良い部位の提供となっています。

 以上のように、量販店では料理用途によって消費者の求める牛肉の強化品種、グレードの設定をおこなっています。
 さらに、牛肉はほかの食肉と比較して、味に幅の広がりがあることに特徴があり、
AB −1〜5までランク幅があります。また、等級によって出来上がり商品の見栄え、さらに味わいに大きな差があります。
 例えば、安全性を訴求する場合の産地名、特選和牛では「前沢牛、松坂牛」など、大衆和牛では「米沢牛、信州牛」など、ホルスは「十勝牛」、輸入牛肉においても畜種や産地名などを明確に表示して他店との差別化販売を行っています。
 生産者として量販店で和牛を販売する場合の重要な点は、地域で1番の肉質の物を供給することです。そのことは、量販店としても地域の中での1番店へのランクアップに結び付き、「おいしい肉を売るあのお店」の評価となって反映し、産地も銘柄牛の供給産地としてお互いに成功することになります。
 しかし「国産牛肉への回帰」現象については、輸出国も黙っておらず、各種の対応策やマーケッティングを行い、現在以上の肉質改善や鮮度向上のための航空機の利用(ダイエーのカンザスビーフは97年11月から空輸に全面切り替え)や、和牛との交雑種牛肉の生産規模の拡大と輸入の急ピッチが一段と進むものと思われます。

(2) 豚肉の差別化は“産地・生産者名”の表示

 豚肉は品種・飼養方法ではなかなか牛と比べて肉質の味に明確な差がありません。見た目においても消費者の“おいしさ”の表現がしにく商品です。従って豚肉の品質のアピールは、生産段階においての安全性と品種差です。
 最近の人気商品としては生産段階において、特定病原菌の存在しない
SPF の安全性に最も注目が置かれています。生産段階での肉質の安全性をアピールできるSPF商品を主力品として品揃えを行い、特に安全性を強調するために、陳列棚に産地名、生産者の顔写真や農場の写真を付け、なぜ安全な商品なのかその飼育方法を詳しく説明し、安売りはしない方向です。
 全農でも2004年度までに「ハイコープ
SPF豚生産体系」を基本に、肉豚100万頭生産・販売体制の整備・再構築をする予定となっています。
 また、豚肉の場合には、差別化商品として肉質の味、本物を訴求できる肉豚品種として黒豚の販売が進んでいます。一般豚に比べて価格的にも割高感があり、量販商品とはなりにくく差別化商品としての訴求が行われています。
 スポット商品として、台湾での口蹄疫問題からアメリカ産のチルド輸入ポークなどが使用されています。もちろん、飼料・飼育方法の安全性、輸入段階からの鮮度管理の明示は必要とされています。日本ハムでは、アメリカ・テキサス州ペリントン市で母豚2万7000頭により、99年から年間54万頭を出荷する計画で、将来を見通したアメリカからの豚肉輸入体制づくりを進めています。

(3) 鳥肉は“処理後の時間差”で鮮度追求

 鳥肉は他の食肉に比べて商品の鮮度保持期間が短いので、いかに新鮮な商品が供給出来るかが争われています。当日販売の“朝引きどり”が望まれますが、量販店の近隣に処理場が存在しない場合は、2日目販売が目標となります。
 最近の人気商品の傾向としては、地養素(樹液)を添加したある特定の飼料を使うことによってコレステロール、脂肪分の少ないブロイラーが生産できるということで、飼料会社の販売戦略に組み込まれたこの特定飼料を使用することによる銘柄化“地養鶏、地養豚”を差別化商品として取り扱う量販店が増加したという特徴があります。
 また、飼育期間が通常のブロイラーよりも長い百日鶏や赤鶏、地鶏などは、その特徴で味はおいしくなりますが、売価は高く、かつ肉質が硬くなるという欠点が指摘されており、この場合は、煮込み・鍋料理等への推薦商品となっています。


3.“有機”オーガニック=より安全・健康・環境にいいもの

 新たな動きとして消費者グループや自然食品店、外食産業、生協、量販店、コンビニで有機農産物を使用した食料品が目に付くようになりました。その結果、有機(オーガニック)農産物ビジネスが急速な展開をみせ生産・輸入が盛んになっております。
 食肉関係はまだ野菜、穀類に比べると数量もアイテム数も少ないものの、輸入物を中心に、牛、豚、鶏、ハム・ソーセージ等の加工品が出回っております。
 食料品の生産の場が「自然」からどんどん遠ざかっていることから、健康や安全性の面で危機感を抱く消費者が増えています。農産物の生産性や効率の追求から、自然のサイクルや動物の生理に反しない方法で作られた食品を食べようという小さな運動グループや生協から始まったものです。
 運動の主流は「有機」「自然・ナチュラル食品」供給の取り組みで、百貨店や量販店の一角に「有機食品コーナー」が設置されるなど、多くの消費者を対象とする量販店や流通業者も無視できない広がりを持ち、専門の宅配業者も現れております。
 欧米の「オーガニック」農産物の普及とそれの日本への影響もあり、92年に農水省は「有機農産物等に係わる青果物等特別表示ガイドライン」及び「同・生産管理要領」を制定し、96年に改正をしておりますが、国際的な原則となるものがまだありません。現在、国際機関の
CODEX(コーデックス)委員会(FAO/WHO合同国際食品規格委員会)食品表示部会が示した有機ガイドライン第2次案(家畜の関連規定)を、97年秋から農水省、中央畜産会による有機畜産検討委員会によって検討の段階です。
 日本でも特定の契約農家との産直ルートがありますが、牛肉の輸入ではアメリカから日商岩井、丸大食品が「アーミッシュ」と呼ばれるキリスト教プロテスタントの一宗派の人達が住む地域産のもの、また、ホルモン・フリーなどの安全性を追求した牛肉生産品をゼンチク、ニチレイを通じて京都生協で販売されています。
 また、オーストラリアからは、抗生物質、成長ホルモン剤を使わないものを伊藤ハム、日本ハムが取り扱っています。
 豚肉ではアメリカから住友商事が、カーギルグループの商品をマルハ、伊藤忠を通じてスーパー、生協に販売されています。
 ディスカウントの花正では、豪州の提携先と共同でホルモン剤不使用、動物性飼料不使用の有機栽培飼料のみで肥育した牛肉の開発に取り組み、このほど同肥育法による牛の肥育を完了、国内での販売を開始し、ファックスによる通信販売も予定にしております。


4.お わ り に

 消費者は、原料に安全性を求めており、生産者の実態を知りたがっております。小売業者も出来るだけ商品に責任を持つ生産地、生産者を厳選し差別を図り、独自の銘柄化を求める傾向にあります。
 そして、@産直を含めた独自の商品調達ルート開発による“特徴商品”、A生産地まで遡った商品調達による原価安・中間コストの削減、B新たな物流ルートによる直接自社の配送センターへのシステムづくり、C産地指定による新鮮・旬の調達、を進めようとしており、逆に生産者側も消費地(小売業者)との密接な情報交換・ネットワーク、○○さんの物と指定されるための情報発信が求められ、今後の商品供給力につながります。
 このことは、これまでのような生産者も枝肉・部分肉販売までで責任が終了する受身の時代ではなくなりつつあることを示しています。



(筆者:酪農学園大学食品流通学科助教授)

 


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