生産技術セミナー

都市近郊に飼料資源あり

高 橋  功



 酪農、肉牛、牛飼いのイメージとしては広い草原、山といったことが頭に浮かぶのは私だけでしょうか。多くの人も広い土地と牛といった絵を想い浮かべると思います。
 ところが一昔前まで他人の住居から遠く離れて経営が行われていたのが、現在は住宅に取り囲まれて混住化社会の中で酪農や肉牛の経営が行われている状況であります。
 本来、牛飼いは人間が直接食糧として利用出来ない草類をおいしい食品に変化させる発想で始まったと思います。しかし、わが国では、狭い国土の中で平坦地は食糧生産の効率の良い水田によって占められており、草地開発が強力に推し進められているとはいえ、牛の飼料生産のための十分な面積を確保することは容易ではありません。
 そこで人間の生活の中から産出される物の中で、牛の飼料として使える生粕類(滓(かす)ではない)について事例をまじえて話を進めます。
 生粕類としては、ビール粕、豆腐粕、ウィスキー粕、焼酎粕、各種のジュース粕が一般的ですが、中でも生産量が多く、どこでも手に入り易いビール粕と豆腐粕について述べてみます。
 表−1に粕を牛に給与した場合の栄養価を示しました。栄養価の特徴としては水分含量が高く、乳熟期と黄熱期のトウモロコシサイレージに似ていますが可消化粗蛋白質(DCP)の含量が高く、可消化養分総量がやや多いのが特徴といえます。

表−1 ビール粕及びトウフ粕の栄養価(牛の場合)


(注)DM=乾物        %で表示 飼料中の水分を除いた部分                
   DCP=可消化粗蛋白質  %で表示 飼料中の可消化粗蛋白のうち糞中に損失しなかった部分   
   TDN=可消化養分総量  %で表示 飼料中の可消化蛋白質、炭水化物と粗脂肪×2.25の合計 
   DE=可消化エネルギー  Mcal(メガカロリー)で表示 1Mcal=1,000キロカロリー
     飼料中の総カロリーのうち糞中へ損失しない部分

 このことは水分と栄養分が多いことから夏の高温時期は変敗しやすい欠点があります。しかし高い栄養価と嗜好性は飼料資源としてすぐれた長所でもありますので上手に貯蔵すれば良質の飼料として、さらに利用の拡大が図られる資源です。


 品質評価の方法を決める

 粕類を貯蔵した場合に品質が良く保たれているか判定する品質評価の方法を決めておかなければなりません。生の状態で何時までも貯蔵できれば良いのですが、常温ではどうしても変化するのを避けられません。
 牛の貯蔵飼料の一つにサイレージがあります。生の材料を細かく切って空気に触れない様に密封状態で保存するものですが、材料中の糖類が発酵し乳酸や酢酸、酪酸といった有機酸を生成して酸性の嫌気状態(無酸素状態)で腐敗菌等が生育できない環境をつくり品質を低下させずに保存されます。
 この時に生成される有機酸は牛乳生産と密接な関係があります。乳酸は牛の第1胃内でプロピオン酸を経て乳糖や蛋白質に合成されますし、酢酸と酪酸は乳脂肪に、プロピオン酸は乳糖や蛋白質に合成されます。
 一方、良くない発酵をすると材料に含まれる蛋白質が分解してVBN(揮発性塩基態窒素、アンモニアが代表例)が生成されることから、品質の良くない判定の基準に応用されます。
 以上の様なことからサイレージの品質判定法を生粕を貯蔵した場合に応用して飼料価値を評価してみました(表−2)。

表−2 サイレージの品質区分(高野)


(注1)サイレージに含まれる有機酸(総酸)に対する乳酸、酢酸、酪酸の比率                
(注2)サイレージに含まれる窒素量に対するVBN含量の比率                       
(注3)総酸に対する乳酸、酢酸、酪酸の含量比率により配点する評価法                   

 そこで身近にある資材を使って粕類の貯蔵法を試みましたので紹介します。


 粕類は水分が多い。水分を調整して貯蔵性を向上するか

 豆腐粕及びビール粕にイナワラを重量比で10%、20%、30%、40%を混合して、サイレージの場合に品質の安定が期待できる水分含量60〜70%に調整して密封状態とし、常温で15日間、30日間貯蔵した後に品質を調べました。その結果は表−3(1)(2)の通りです。

表−3(1) 豆腐粕のイナワラ添加による貯蔵中の品質変化

表−3(2) ビール粕のイナワラ添加による貯蔵中の品質変化

 良質なサイレージの品質指標となるpH(酸度)、乳酸の含量、VBNの発生割合を見るとイナワラを添加した豆腐粕の場合はpHがいずれも4.0以上を示し、乳酸生成量も少なく、アンモニアの発生が多く利用できない結果となりました。ビール粕の場合は、pHが30%添加では4.0以上となりましたが、30日貯蔵でも安定しておりVBN比も低い値を示しました。結論としてイナワラは水分調整をして貯蔵性を向上させる資材として豆腐粕には使えないといえます。
 次に乾燥ビートパルプを使用して同様な貯蔵法を試みました。結果は表−4
(1)(2)通りです。


表−4
(1) 豆腐粕のビートパルプ添加による貯蔵中の品質変化

表−4(2) ビール粕のビートパルプ添加による貯蔵中の品質変化

 豆腐粕にビートパルプを混合した場合は無添加の場合に比べpHの低下(酸性に傾く)がみられ、乳酸の生成も良く、30日間の貯蔵でもアンモニアの発生は増加しない良い結果となりました。一方、ビール粕の場合はpHに大きな変化がなく、混合割合が多くなるに従って乳酸の生成及びアンモニアの発生が若干増加する傾向が見られました。
 以上の結果から水分調整をして貯蔵性を向上させる資材として豆腐粕の場合はビートパルプが、ビール粕の場合はイナワラとビートパルプが効果があるといえます。


 水分調整は手間ヒマかかる。もっと簡単な貯蔵法はないか

 家庭の台所には味噌、醤油、塩、砂糖、酢と色々な調味料があります。この中から価額の安い塩と食酢を添加して豆腐粕の貯蔵に利用できないか試してみました。
 最初に豆腐粕を使い何も添加しないで密封状態と密封しない状態の2種類の条件で貯蔵して、pH、VBN、乳酸含量、酢酸含量、その他の有機酸含量(プロピオン酸、酪酸、吉草酸)を貯蔵1日目から14日目まで測定しました(表−5
(1)(2)(3)(4)(5))。

表−5(1) 豆腐粕の貯蔵中のpHの変化

表−5
(2) 豆腐粕の貯蔵中のVBN(揮発性塩基態窒素)含量の変化(mg/g)

表−5
(3) 豆腐粕の貯蔵中の乳酸含量の変化(%)

表−5
(4) 豆腐粕の貯蔵中の酢酸含量の変化(%)

表−5
(5) 豆腐粕の貯蔵中の有機酸(プロピオン酸・酪酸・吉草酸)含量の変化(%)

 pHの変化は貯蔵中は大きな変化は見られませんが、密封条件では4.54から日数が多くなるに従って高くなる傾向を示しました。非密封条件では一度低下した後、14日目に再び高くなる変化を示しました。
 次にVBNの発生についてみますと、2日から発生がみられ徐々に増加する傾向が密封条件で見られたのに対し、非密封条件では3日目に一時低下し、後、急激に増加する傾向が見られました。このことはpHの変化とも関連するものと考えられます。
 飼料価値の評価判定の大きな項目である乳酸ほか有機酸の含量の変化について見ますと、密封条件では日数が経つにつれ酢酸、その他の有機酸が少しずつ増加したのに対し、非密封条件では有機酸生成の変動が見られました。乳酸含量は非密封条件で貯蔵7日以後、急激に減少し、乳酸発酵の衰退と他の変化が推察されました。
 次に豆腐粕に食酢を添加して貯蔵した場合の品質の変化をみてみました。食酢の添加量は表−6
(1)の通り3段階を設け最も多い0.5%添加に非密封条件を加え、1日目から14日目までpH、VBN、有機酸を測定しました(表−6(1)(2)(3)(4)(5))。pHは食酢の添加量や貯蔵条件の違いによる大きな差異は見られませんでした。

表−6(1) 豆腐粕への食酢添加と貯蔵条件によるpHの変化

表−6
(2) 豆腐粕への食酢添加と貯蔵条件によるVBN含量の変化(mg/g)

表−6
(3) 豆腐粕の食酢添加と貯蔵条件による乳酸含量の変化(%)

表−6
(4) 豆腐粕の食酢添加と貯蔵条件による酢酸含量の変化(%)

表−6
(5) 豆腐粕の食酢添加と貯蔵条件による有機酸(プロピオン酸・酪酸・吉草酸)含量の変化(%)

 VBN含量の変化は食酢を添加した場合、1日目は発生しませんが、日数が経つにつれ発生量が増加しました。14日目の発生量が少なかったのは0.1%添加の場合でした。
 密封しない場合は1日目から発生が見られ14日目の含量は少ないのですが、空気中への揮発により見かけ上少ない値となったと考えられます。
 有機酸の含量については、乳酸、酢酸については大きな差異は見られませんが、その他の有機酸の含量では14日目に0.1%添加が最も少なく他の条件よりも酪酸発酵等の好ましくない発酵が起こっている可能性が少ないといえます。
 さらに豆腐粕に食塩を添加して貯蔵性が向上するかどうか試してみました。
 食塩の添加量は表−7
(1)の様に3段階として、食塩0.5%添加した場合に非密封条件を加え1日目から14日目まで、pH、VBN、有機酸を測定しました(表−7(1)(2)(3)(4)(5))。

表−7(1) 豆腐粕への食塩添加と貯蔵条件によるpHの変化

表−7
(2) 豆腐粕への食塩添加と貯蔵条件によるVBN含量の変化(mg/g)

表−7
(3) 豆腐粕の食塩添加と貯蔵条件による乳酸含量の変化(%)

表−7
(4) 豆腐粕の食塩添加と貯蔵条件による酢酸含量の変化(%)

表−7
(5) 豆腐粕の食塩添加と貯蔵条件による有機酸(プロピオン酸・酪酸・吉草酸)含量の変化(%)

 結果は実用化には難しいということです。その理由は、pHについては7日目まで大きな変動は見られませんでしたが、14日目には高くなることが認められました。
 VBNについても2日目から発生が認められ14日目には急激な増加が認められました。
 また、有機酸の含量については乳酸の生成が1日目から見られ、7日目まで安定していましたが、14日目に急激な減少が見られ、非密封条件では3日目から減少が見られました。
 酢酸及びその他の有機酸は7日目から生成量が増加し、14日目にはプロピオン酸、酪酸、吉草酸が急激に増加し、良くない発酵を起こしている結果となりました。
 以上、生粕類の貯蔵法についていくつかの試みを述べてきました。その中から実用化できるものをまとめてみましょう。
 一つは水分を調整して貯蔵する場合ですが、豆腐粕とビール粕にビートパルプが有効でした。この場合の混合割合は豆腐粕にはビートパルプを20〜40%、ビール粕には10〜30%を混合して密封貯蔵することにより30日間と比較的長い期間に亘って品質を保つことが出来ました。
 また、ビール粕にイナワラを10〜30%混合して30日間密封貯蔵した場合、pHは低く保たれ、乳酸の生成も良く、VBNの発生も少なく、有効に利用できることが確認されました。
 二つ目に身近にある安価な資材を添加して水分調整をしないで貯蔵するには、豆腐粕のみの例ですが、食酢の0.1%添加で密封貯蔵する方法が有効でした。
 食酢の0.1%添加が無添加の場合とpHとVBN及び酢酸の生成では同じ成績でしたが、14日目の乳酸とその他の有機酸で優れていました。
 食酢0.5%添加は乳酸の生成量で優れていましたが、VBN及びプロピオン酸、酪酸の生成量で0.1%添加よりも劣る結果となり、使用する資材量の違いから考えても0.1%添加が有効といえます。
 最後に生粕類を上手に貯蔵し利用している実例を紹介します。
 人口958千人の政令指定都市、仙台市のど真中で数十年間も酪農経営を続けている本間(ほんま)長(つかさ)さんです。本間さん宅は仙台市を貫流し太平洋に注ぐ七北田川の近くで、県内でも交通量の多い国道45号線から500mほど東へ入った所です。
 本間さんは古くから種雄牛等を管理している生まれながらの畜産農家で、昭和42年に乳牛40頭規模を達成、現在45頭を飼養する酪農家です。昭和40年代は、仙台市とはいえ本間さん宅の囲りはのどかな田園風景があり隣りの家までの距離も十分ありましたが、現在は都市化の真只中ですぐ隣りに仙台市宮城野区役所高砂支所あり、郵便局ありで、山村の中心部よりも賑やかな環境です。
 当然、飼料資源の確保には環境、立地を活かした工夫が必要ですが、早くから生粕類の利用に取組んできました。
 幸い仙台市には古くからキリンビールの仙台工場があり、ビール粕は飼料として利用されていましたが、貯蔵技術や給与技術が十分に普及されない時代には、利用されないまま廃棄された量も多いと聞いております。
 現在は豆腐粕とビール粕を利用しており、豆腐粕は仙台市内の食品会社に受取りに行って無料という条件で1週間で約2tを仕入れ利用しています。「貯蔵に何か工夫していますか」との質問に「特に何もしていないのっしゃ」という答えが返ってきました。
 2tの豆腐粕を1週間で使い切るとのことですが貯蔵には角型のコンクリートサイロを使い添加物は使っていないとのことです。ただ、仕入れた日に直ちにサイロに詰込むとのことで、その際には十二分に人力ですが踏圧して空気を出来るだけ排除しているとのことです。給与量は搾乳牛に1日1頭当たり10
kg(乾涸牛には給与しない)を給与していますが、乳量、乳成分に問題はなく、糞の性状も良いとのことです。むしろ乳量は増える傾向があるとのことですが、個体差があり軟便も時には見られるので、給与量を減らして様子を見るとのことです。
 豆腐粕が無い場合、配合飼料を増やすとのことで、現在、搾乳牛1頭当たり6
kgを給与していますが、生産乳量を減らさないためには10kgを給与する必要があり、4kgの給与増となります。単純に計算しても搾乳牛30頭×4kg×45円/kg=5,400円/日、1年間に197万1000円の金額となります。タダより安いものはない豆腐粕で1年間で190万円余の経費を節減していることになります。
 次にビール粕ですが、これは有料です。本間さん宅の近くに仙台港があり、隣接してキリンビール仙台工場があります。購入は1カ月2回で1回当たり約4.5
m3で価格は4.5m3当たり2万1000円(1kg当たり4円66銭)で仕入れています。
 貯蔵は豆腐粕と同じに角型コンクリートサイロを使っていて、サイロの底面に敷板を入れ排汁出来る様にしてあります(見取図)。

見取図 粕類貯蔵サイロ

 工場渡しのビール粕は水分が多く、また、高温のため仕入れた当日はサイロ詰込みをしません。1日放置して高熱と水分を下げて翌日にサイロへ詰込みます。踏圧は豆腐粕と同様に均等になる様に踏込みます。このことは厳しく守っていて何事があっても3日目までは持ち越さないとのことです。暖かい季節ですと3日目になるとハエの産卵、ウジの発生がおこり、臭気も強くなるとの話でした。
 乳牛への給与量は成牛1日1頭当たり5
kgを給与しており、特に問題は生じておりません。排汁による養分の損失は考えられますが、サイレージの場合、水分含量によって異なり、水分85%以上で損失20%、水分80%で損失10%、70%で損失0%といわれており、ビール粕の水分は74%程度ですので、損失は僅かであると考えられます。
 本間さんの生粕類の貯蔵法は、何も手を加えていない様に見えますが、新鮮なものを手に入れられる立地を活かし、自然な水分調整や詰込みのタイミング、十分な踏圧等の基本はしっかりと守っているとのことです。
 宮城県にはキリンビールの他にサッポロビールの工場もあり、また、ニッカウィスキーの工場からも麦粕が産出されます。同じ様な生粕類が産出される県及び隣接地域でも、これらの資源を活用された畜産が健全に経営されますことをご祈念申し上げ終りといたします。


写真−1 牛舎内部 対尻式2列の片側


写真−2 豆腐粕の貯蔵状態 ビニールを内側に敷いている。


写真−3 ビニール粕の貯蔵状態 底に排汁用の敷板が入っている。



(筆者:宮城県畜産会総括畜産コンサルタント)


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