生産技術セミナー

フリーストール酪農の現場から(6)

原 田 英 雄



 銀行・証券会社の経営破綻がマスコミ等で大きく報じられています。ことの原因はバブル時代に投じた不良債権だといいます。そこには会社経営に大きな誤りを犯したトップの無能力さが指摘できます。正当な取引をしなかった無責任体制が会社に内在していたからです。そして、厳正な管理・監督ができなかった大蔵省の無能力・無責任さも挙げなければなりません。今、大蔵省の役人を「高級官僚」と呼ぶ国民は一人もいません。大方は「低級官僚」だと思っているのでしょう。また、バブル時代に「財テクをやらない者は化石人間だ」とバブル経済を煽ったエセ経済評論家たちにも重罪を求めなければなりません。ツケが、失職した銀行・証券会社の社員とその家族、公的資金援助という形で流出していく税金を負担する国民に重くのしかかっているからです。 バブル時代に株などの投機に走らなかった企業はソニーやホンダぐらいだと言われています。そのホンダの創始者、本田宗一郎さんは同族経営を排し、兄弟すらホンダに入れることを拒否しました。社長職を辞するといっさい会社経営を離れ、自分の趣味の絵を描くことに没頭し、身の引き際の鮮やかさで人を感動させました。社長時代には、作業服を着、工場現場での自動車やエンジンを前に若き社員たちとともに論議するのが宗一郎さんには何よりも楽しみだと言われています。「元からただせ」「本業を忘れるな」これが口癖でした(辻均著 「本田宗一郎、美しき晩年」産能大学出版部)。
 企業の中には会長で飽きたらず、名誉会長、顧問、名誉顧問までに留まり、会社経営に老害をたれ流すトップがいます。そういう会社の行く先は説明がいりません。宗一郎さんは社長退任後、1年半をかけて700カ所の関連の営業所や会社を行脚しました。一人一人握手をし、お礼を言うためです。ここに、今回破綻した経営のトップたちとの大きな差があります。筆者が宗一郎さんに惹かれるのはその人間観にあります。江戸城をつくったのは誰だときけば、太田道灌だと答える人は多いと思います。宗一郎さんは大工と左官だというタイプの人です。唯一の失敗は社名に「ホンダ」を付けたことだと言っていました。
 それでは、企業経営に求められている一番重要なこととは何か。ただ一言、「ディスクロージャー(情報公開)」です。いま、企業側は景気の悪さを理由に政府に経済対策を盛んに求めています。いわば、「不良少年」が「ボンクラ親父」に対して、出来の悪いのはお前の責任だ、何とかしろ、と恐喝しているようなものです。
 酪農経営にも同じことが言えます。上述したことを「対岸の火事」としてみるのではなく、「他山の石」としなければなりません。酪農経営における「ディスクロージャー」とは何か。それは「経営記帳」を実践し、「経営分析」を行う。「牛群検定」を実施し、牛群管理を行う、「飼料分析」を実施し、乳牛に応じた飼養管理を行うことです。そして、得られた科学的数値から次に何をしたらよいか、正しい判断をし、勇気をもって実行に移すことです。筆者は訪れた農家のうち、牛乳1
kgについていくらかかると聞いた時に、すぐ答えてくれる人は極めて少ないものです。答えが出るのに1昼夜かかるのは普通です。伝票を探さなければならないからです。中には飼料1kg18円(ある肉牛農家)だと答えてくれる人もいます。こういうふうにすぐ答えてくれる経営者は決まって優れた経営者です。


24.水の質は大丈夫か

 乳牛に飲水量を制限しますと、飼料摂取量は減り、乳量も減少します。したがって、いつでもどこでも水が自由に飲めるような状態にしておかなければなりません。それでは牛に必要な水の量はどれだけか。一般的には、乾物1kgについて必要な飲水量は気温が−17〜27℃の間では、3.5〜5.5kg(NRC1989)だと言われています。30kgの乳量の牛の場合には約100kg必要です。また、夏期のように気温が高くなると飲水量は増えます。水はいつでも新鮮で、清潔でなければなりません。愛知県において筆者の知る酪農家の半分は主に地下水を乳牛に与えています。水道水では料金が高くなるからです。注意しなければならないことは水質です。最近、飼料畑や野菜畑では過剰な肥料や堆肥が投入され、そのため地下水の硝酸態窒素濃度を高くしていると言われています。人間の飲料水としての安全基準は、硝酸態窒素濃度が10ppm以下です。筆者が入手したある畑作地帯の地下水の硝酸態窒素濃度の範囲は40〜80ppmでした。もちろん、ここでは酪農、肉牛、養豚も盛んなところです。粗飼料由来の牛の硝酸中毒については既に多く報告されていますが、飲料水中の硝酸態窒素濃度が乳牛に及ぼす影響については余り知られていません。今後の研究結果を待つより他ありませんが、その濃度は低いのに越したことはありません。一部、肉牛農家では肉質に影響があるのではないかと疑念を抱いている人たちもいます。


25.タイストールでは飼料摂取と同時に水を飲む

 牛の飲水行動については、タイストールの場合とフリーストールの場合では異なります。図−15にタイストールにおける飲水量の経時的変化を示しました。これは、県内のある酪農家で調査したもので、夏期にバルククーラーで冷却した水を給与している事例です。かつて、元普及員の宮崎さんと一緒に調査したものです。牛群平均の日乳量は26kgで、この場合、飲水量は1頭当たり平均97kgでした。搾乳は8〜10時と18〜21時の2回に行われています。飼料は7時、12時30分、17時、24時の4回にわたって行われます。この図から次のことがわかります。すなわち、タイストールでは飼料給与を行うと同時に牛は一斉に水を飲むことです。そして、フリーストールで言われているように、搾乳直後に牛が水を欲しがるという現象はないことです。昼間の暑い時期には水を多く飲みます。

-15 タイストールにおける飲水量の経時的変化(宮崎、1992


26.フリーストールでは各時間帯平均して水を飲む

 一方、フリーストールの場合はどうかを、図−16に示しました。 これは、このシリーズの第3回で紹介したC牧場の8月及び9月における、飲水と飼料摂取の行動を調査したものです。搾乳はほぼ午前9時30分頃に終わり、パーラーから牛が一斉に戻ってきます。飼育密度が高いために、この牛群では11時頃まで長く飼料を摂取し続けます。しかし、両月ともに牛群の中の飲水している乳牛の割合は各時間帯ともにほぼ一定しており、8月では平均値が7.1%、9月では4.3%となっていました。飼料摂取後に多くの牛が飲水行動をとるタイストールの場合とは大きく異なります。8月の方が飲水している牛が多いのは暑さのためです。


-16 C牧場の高泌乳牛群における飲水と飼料摂取行動の経時的変化

 なお、飼料摂取について、牛群中の摂取している乳牛の割合が8月に比べて9月の方が多くなっているのは、涼しさのためと考えられます。前者では各時間帯に飼料を摂取している乳牛の牛群中の割合は平均値で15.2%、後者が28.3%となっていました。


27.水槽は長めのもので、1群に3カ所設置

 それでは、水飲み場は何カ所あればよいか。参考書には15〜20頭について1個のウォーターカップがあればおおむねよいとしています。恐らく平均して牛群の中で常時飲水している乳牛の割合が、5%だという理由からだと思われます。飲水場の設置数はウォーターカップと水槽で異なりますが、筆者は写真−9のような長細い水槽を1牛群(最高100頭まで)に対して3カ所設置することを推奨します。なぜなら、飲水については、強い牛の近くでは弱い牛が飲水できないためであり、なるべく牛にとって自由かつ便利にアクセスできる位置に飲水場が設置してあることが望まれるからです。そして、参考書によく示されているように、横断通路上に設置するのではなくて(シリーズ第1回の図−1)、ツーローの場合あるいはドライブスルーのフォーローの場合には、飼槽の反対の通路外側に水槽を設置する(シリーズ第1回の図−2)ことを推奨します。北海道のように冬、水槽が凍結するようなことろでは、水槽は牛舎内がよいかもしれませんが、本県のような西南暖地では牛舎の外に設置すべきです。通路に水がこぼれ、濡れないためであり、牛の移動が妨げられないためです。

写真-9 長い型の水槽。清潔で1牛群に3カ所設置してある。

 表−14には県内の水槽あるいはウォーターカップの1基当たり乳牛頭数が示してあります。両者はほぼ同数存在します。水槽1基に乳牛51頭、ウォーターカップ1個に19頭というのは多すぎます。水槽であれば、1基について30頭以下、ウォーターカップであれば1基につき10頭以下を目処とすべきです。

-14 水槽及びウォーターカップと1基当たりの飼育頭数

 なお、写真−10のようにウォーターカップをオガコなどで汚したりするのは、その利用頻度を減らし、乳量を低下させるだけです。定期的に掃除をしなければなりません。

写真-10 ウォーターカップが1カ所に3個あるが、1個はオガコが
   入り利用できない。この農家では乳量が抑制されている。


28.通路の表面には滑り止めが絶対必要

 牛舎内の通路は、牛の移動がスムーズであること、滑りを防止できること、事故がないことが重要です。多くの場合、通路表面に滑り止めを行います。愛知県内の38戸について調査した結果は表−15に示したとおりですが、84%の農家が通路の表面上に滑り止めをしています。滑り止めの種類は2種類あり、一つはダイヤ型に溝をつくるもの(ダイヤメッヂ)で、他は縦縞に溝を作るものです。県内では比較的ダイヤメッヂが多く、5割がこの型としています。滑り止めがあっても牛は転倒することがありますが、表に見られるように滑り止めがないと、転倒回数が多い少ないは別にしても100%転倒現象が見られます。したがって、通路表面上は滑り止めを必ず行わなければなりません。縦縞の溝きりはほうきなどで溝を切ります。しかし、いずれの場合にも通路上での転倒もあります。また、通路上の事故も5割程度起きています。それでは、通路上での溝きりはどちらがよいかということですが、いまのところよい結論は出ていません。注意すべき点は、溝を切ったあとは、必ずコンクリートの尖ったところを切り取っておくことです。


-15 通路の滑り止め、牛の転倒回数、通路城の事故

 牛の行動上、通路が滑りやすいと、牛は歩くのに極めて慎重になります。通路上にある棒きれ、水たまり、窪み、ホースやほうき等があると牛はこれらを避けて通ります。一度、滑ったような経験あるいは事故などを起こすと、二度目にはそれを避けて通るような行動をとります。したがって、このために通路が滑りやすいと発情時の乗駕行動も示さなくなります。発情時の乗駕行動を発見しやすくするためには、フリーストール牛舎の外にパドックなどを設置することをすすめる人もいます。パドックなどに2〜3時間も解放されると、牛は砂地の上では安心して、自然な行動ができ、乗駕行動もしやすくなるからです。


29.通路と肢蹄の問題

 酪農家の大きな関心の一つに肢蹄の問題があります。筆者の調査の中でも、足の爪が悪くなることを指摘する農家が47%います。そのために廃用する牛が増えたと言います。肢蹄の問題では、整理して考える必要があります。肢蹄が悪いところの原因が果たしてフリーストール式牛舎の構造そのものに由来するものなのか、飼料給与や衛生管理上の問題によるものなのかということです。
 タイストールの場合には後者の要因によるものが多いのが実状です。また、少しばかり、肢蹄が悪くても、搾乳や給飼のために経営者には特別不都合が感じられないことも事実です。牛は移動する必要がないからです。ただ、生産性が落ちることを覚悟するだけです。また、たとえ足の爪が悪くても、牛は移動しないので、みかけ上全くわからないということもあります。しかし、フリーストールの場合には牛は移動するので、一目瞭然、肢蹄の悪さがわかります。そのために、タイストールよりも足の悪い牛が目立つことになります。
 フリーストール式牛舎では、牛の肢蹄の悪いことの要因は以前にも述べましたが、フリーストールベッドの不適切な構造、上述のような飼料・衛生上の問題そして通路の構造上の問題があります。
 通路の構造上での問題の一つに、通路がコンクリートで造られており、それが堅固にできていることが挙げられます。また、酪農家の多くが語っているように牛舎が造られて、1から2・3年までは足の爪に気を付けなくてはならないということがあり、それがコンクリートの成分が原因しているのではないかということ、この2つは何か関係があるようです。一説にはコンクリートの酸が溶けて、足の爪を侵食しているのではないかと言うことです。しかし、このことについてははっきりした因果関係はわかっていません。
 また、よく指摘されていることの一つに通路表面の水分があります。乳牛が移動する度に、爪を湿らすことになり、そのために、爪が柔らかくなり、傷が付き、細菌に侵されやすくなることです。通路を常時、乾燥させる工夫によって、これを緩和することも可能です。バーンスクレーパーの場合には回数多く作動させることによって、通路を乾燥保持できます。同時に除糞作業もできます。ショベルローダー等の処理では1日に処理できる回数は限られています。少なくとも朝夕の2回の搾乳時には、除糞しなければなりません。また、尿の排出を促進するためには1%程度の傾斜を通路に設けることも大切です。とにかく、いかに通路を乾燥させるかがポイントとなります。そして、その上を牛が快適に移動できることです。
 爪の保護のために一般的に行われているのは、牛が搾乳後、パーラーからの帰りの通路に消毒液入り(ホルマリンなど)のフットバスを設置し、そこへ牛が足を踏み入れて消毒する方法です。


30.通路への敷料投入は絶対さけること

 愛知県では、通路へ敷料を投入している農家がしばしば見られます。これは、糞尿の水分調整を行うためです。糞尿の混合物は取り扱いが難しいからです。しかし、写真−11に見られるように、敷料を通路へ投入すると、牛は通路で横たわることになります。表−16を見ていただきたいと思います。牛群検定を実施している農家の産乳成績を、通路に敷料を投入している農家とそうでない農家に区分して比較検討したものです。敷料がない農家では平均して5%の牛が通路で横たわり、敷料を投入している農家では約20%の牛が通路で横臥しています。その結果、乳量、乳成分には両農家群には差は見られませんでしたが、敷料を投入した方では体細胞数が28%ほど多くなっていました。これは年間の牛群検定成績を比較したものですが、特に夏に限れば、これまでの調査で明らかなように通路で横臥する牛はずうっと多くなり、体細胞数もまた増加します。牛は通路に横臥することによって乳房を汚し、環境性乳房炎を増やし、その結果、体細胞数が増加することになるからです。

写真-11 通路に敷料を投入するので、牛は通路で横たわり牛体を汚す。


-16 通路上の敷料投入の有無と通路上での乳牛の横臥割合及び産乳性との関係

**:1%水準で有意差あり
NS:有意差なし


31.糞尿処理

 牛舎内の通路を乾燥させる上でも、また、換気をよくする上においても糞尿処理を頻繁に行うことは極めて重要です。表−17には県内の糞尿除去方法と1日当たりのその回数を示しました。ショベルローダー等(トラクター、フォークリフト)の方法が主体をなしており、20%がバーンスクレーパーを利用しています。一気に糞尿が除去できる点、経費が安価で、故障の少ない点などを鑑みると、写真−12でも見られるようにショベルローダー等の方が有利です。ただし、牛の移動が必要なのが欠点です。その点、バーンスクレーパーはいつでも自由に糞尿除去ができ、通路の乾燥が容易なこと、スクレーパーが通路での横臥を邪魔するために牛が通路で横たわるのを防ぐ点で効果的です。特に尿の多い夏期には通路で横臥する牛が多いので、都合が良いことです。しかし、機械の故障が起きると糞尿除去ができないという欠点が絶えずつきまといます。自分で修繕できる人には極めて便利です。なお、1日の糞尿除去回数は2回というものが一番多く、50%を占めていました。

-17 糞尿除去方法と1日当たりのその回数


写真-12 通路はダイヤメッジで滑り止めがしてある。除糞はショベルローダーで一気に行う。
ベッドの手入れを行い、敷料も十分に入れる。              

 フリーストール式牛舎による最も大きな問題は糞尿処理です。特に頭数増加による糞尿量がこれまで以上に多く発生するからです。タイストールでも規模拡大すれば同じことですが。
 そこで、糞尿処理方を表−18に示しました。

-18 糞尿処理方法

 最もポピュラーなものは堆積発酵で、次に多いのはハウス乾燥によるものです。液肥処理は極めて少なく、都市近郊酪農の宿命といえます。今後は、規模の拡大が一層進むことが予想されることから、共同堆肥処理がますます重要になってきます。また、悪臭に対する苦情は現在のところ、さほど多くはないけれども、今後、その対策が強く求められる分野です。特にハウス式乾燥施設では臭いが強い傾向にあります。水洗式処理法も近年愛知県で取り入れられようとしていますが、汚水処理をどう対処するかが一番技術として求められるところです。糞の方は既に良質の堆肥ができることが多くのところで実証済みですから。



フリーストール酪農の現場から(最終回)へつづく

(筆者:愛知県農業総合試験場企画情報部主任研究員)


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